10 / 26
第一章
10.もう遅いです!
しおりを挟む
最悪な気分だわ。
せっかくユートと一緒に下校できて楽しい気持ちでいっぱいだったのに……
どうして今一番見たくない人の顔が、目の前にあるのかしら?
「お久しぶりですね。ブロア様」
「そんな他人行儀な態度をとらないでくれ。君と僕との仲だろう?」
「……」
はい?
この人は一体……何を言っているのだろう。
というか、どの口が言っているのだろう。
私と貴方の仲はもう終わっている。
終わらせたのはあなたの方でしょ?
そう言いたい気持ちをぐっと堪え、私は平常心で尋ねる。
「お話というのは?」
「おっと、そうだった! 僕としたことが大切なことを忘れるところだったよ」
わざとらしい演技を止めてほしい。
おかしいわね。
前々から演技口調だったけど、こんなに鬱陶しかったかな?
そして、私は思いもよらなかった。
そんな疑問を吹き飛ばすような発言が、ブロア様から飛び出すなんて――
「エミリア、僕ともう一度婚約してほしい」
「……はい?」
さすがの私も、これには思わず声が漏れてしまった。
「あの……どういうことでしょう?」
「目が覚めたんだよ。やはり僕の婚約者は君しかいない」
本当に何を言っているのでしょうか。
私は驚きすぎて、というか呆れて言葉も出ない。
彼は続けて言う。
「辛い思いをさせてすまなかったね」
辛い思い?
本気でそう思っているの?
「君と離れたこの数日で思い知らされたよ。僕には君が必要なんだ」
込み上げてくる思い出が、全て腹立たしく思えるのは気のせいだろうか。
彼の言葉の軽さがスパイスのように合わさって、余計に苛立つ。
「またこれから、僕らで本物の恋をしよう」
そう言って、彼は私の手を握った。
この瞬間私の胸の奥から、火山が噴火するくらい大きなエネルギーが湧き上がって――
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけないでくださいっ!」
言葉となって爆発した。
「なっ……」
握った手を振りほどき、怒りに満ちた瞳で彼を見つめる。
ブロア様は困惑しているようだが、感情が高ぶっている今の私には関係ない。
「え、エミリア?」
「何が本物の恋ですか! あなたが言ったんですよ! 私との恋は偽物で、本物の恋を見つけたからもういらないって!」
「そ、それは間違――」
「でもお陰で私も気づけました! 確かに貴方との恋は偽物でした。だって私、今あなたに尽くしていた昔の自分が馬鹿だと思ってますから」
「なっ……何を言って……」
困惑するブロア様。
それを追い打ちをかけるように私は続ける。
「いつも態度がでかくて口を開けば自慢ばかり! 話していてもちっとも楽しくない。何を作っても美味しいとさえ言わないのも腹が立つし、作ってきて当たり前みたいな態度はもっと嫌でした!」
「ぅ……」
「そもそもあなたが勝手に他の女性に手を出したのでしょう? それを今さらやり直そうなんて虫が良いにも程があります! というか彼女はどうしたんですか? 今日は一緒ではないようですね」
「そ、それは……」
ブロア様は言葉を詰まらせる。
何か事情がある様子だが、そんなことどうでも良かった。
「まぁいいですけどね、私には関係ありません。さっき自分には私が必要とかおっしゃってましたけど、私にはもうあなたは必要ありません」
「……」
「そういうわけなのでどうぞお引き取りください。婚約者ごっこがしたいのでしたら、他を当たったほうが賢明です」
「貴様……」
ここで私は冷静になる。
私が今、怒らせてしまった相手が誰で、どれだけ恐ろしい人なのか。
「よく言ったなぁ……エミリア」
「これはその……」
「謝っても遅いぞ? もうお前は許さない」
ジリジリと滲みよってくる。
表情は鬼のように強張り、全身から魔力が流れ出ている。
この学園に入るための条件は筆記以外にもう一つ、魔術師としての素質が必要になる。
貴族の家系は代々優秀な魔術師を輩出しており、彼のロストロール家はその中でも別格だった。
父親も、祖父も国家魔術師であり、彼自身も貴族として最たる才能を持って生まれた天才。
その実力は、教員でも太刀打ちできない程と言われている。
「公衆の面前で僕をコケにしたんだ。ただで済むと思わでくれよ」
どうしよう、どうしようどうしよう。
焦っても手遅れだ。
すでに彼は、足元に術式の方陣を展開している。
あれは風属性の魔術……それも相手を吹き飛ばす強力なもの。
吹き荒れる風が彼を包み暴れる。
「ぅ……」
「吹き飛ばしてや――」
「散れ」
次の瞬間、彼が展開していた術式がはじけ飛ぶ。
集まっていた風は四方へ流れ、荒ぶる竜巻が静まっていく。
「なっ……」
「今の声」
聞こえたのは後ろからだった。
優しくて、愛おしくて、私が一番聞きたい声。
私は振り返り、彼の名前を口にする。
「ユート」
「まったく世話がやける」
せっかくユートと一緒に下校できて楽しい気持ちでいっぱいだったのに……
どうして今一番見たくない人の顔が、目の前にあるのかしら?
「お久しぶりですね。ブロア様」
「そんな他人行儀な態度をとらないでくれ。君と僕との仲だろう?」
「……」
はい?
この人は一体……何を言っているのだろう。
というか、どの口が言っているのだろう。
私と貴方の仲はもう終わっている。
終わらせたのはあなたの方でしょ?
そう言いたい気持ちをぐっと堪え、私は平常心で尋ねる。
「お話というのは?」
「おっと、そうだった! 僕としたことが大切なことを忘れるところだったよ」
わざとらしい演技を止めてほしい。
おかしいわね。
前々から演技口調だったけど、こんなに鬱陶しかったかな?
そして、私は思いもよらなかった。
そんな疑問を吹き飛ばすような発言が、ブロア様から飛び出すなんて――
「エミリア、僕ともう一度婚約してほしい」
「……はい?」
さすがの私も、これには思わず声が漏れてしまった。
「あの……どういうことでしょう?」
「目が覚めたんだよ。やはり僕の婚約者は君しかいない」
本当に何を言っているのでしょうか。
私は驚きすぎて、というか呆れて言葉も出ない。
彼は続けて言う。
「辛い思いをさせてすまなかったね」
辛い思い?
本気でそう思っているの?
「君と離れたこの数日で思い知らされたよ。僕には君が必要なんだ」
込み上げてくる思い出が、全て腹立たしく思えるのは気のせいだろうか。
彼の言葉の軽さがスパイスのように合わさって、余計に苛立つ。
「またこれから、僕らで本物の恋をしよう」
そう言って、彼は私の手を握った。
この瞬間私の胸の奥から、火山が噴火するくらい大きなエネルギーが湧き上がって――
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけないでくださいっ!」
言葉となって爆発した。
「なっ……」
握った手を振りほどき、怒りに満ちた瞳で彼を見つめる。
ブロア様は困惑しているようだが、感情が高ぶっている今の私には関係ない。
「え、エミリア?」
「何が本物の恋ですか! あなたが言ったんですよ! 私との恋は偽物で、本物の恋を見つけたからもういらないって!」
「そ、それは間違――」
「でもお陰で私も気づけました! 確かに貴方との恋は偽物でした。だって私、今あなたに尽くしていた昔の自分が馬鹿だと思ってますから」
「なっ……何を言って……」
困惑するブロア様。
それを追い打ちをかけるように私は続ける。
「いつも態度がでかくて口を開けば自慢ばかり! 話していてもちっとも楽しくない。何を作っても美味しいとさえ言わないのも腹が立つし、作ってきて当たり前みたいな態度はもっと嫌でした!」
「ぅ……」
「そもそもあなたが勝手に他の女性に手を出したのでしょう? それを今さらやり直そうなんて虫が良いにも程があります! というか彼女はどうしたんですか? 今日は一緒ではないようですね」
「そ、それは……」
ブロア様は言葉を詰まらせる。
何か事情がある様子だが、そんなことどうでも良かった。
「まぁいいですけどね、私には関係ありません。さっき自分には私が必要とかおっしゃってましたけど、私にはもうあなたは必要ありません」
「……」
「そういうわけなのでどうぞお引き取りください。婚約者ごっこがしたいのでしたら、他を当たったほうが賢明です」
「貴様……」
ここで私は冷静になる。
私が今、怒らせてしまった相手が誰で、どれだけ恐ろしい人なのか。
「よく言ったなぁ……エミリア」
「これはその……」
「謝っても遅いぞ? もうお前は許さない」
ジリジリと滲みよってくる。
表情は鬼のように強張り、全身から魔力が流れ出ている。
この学園に入るための条件は筆記以外にもう一つ、魔術師としての素質が必要になる。
貴族の家系は代々優秀な魔術師を輩出しており、彼のロストロール家はその中でも別格だった。
父親も、祖父も国家魔術師であり、彼自身も貴族として最たる才能を持って生まれた天才。
その実力は、教員でも太刀打ちできない程と言われている。
「公衆の面前で僕をコケにしたんだ。ただで済むと思わでくれよ」
どうしよう、どうしようどうしよう。
焦っても手遅れだ。
すでに彼は、足元に術式の方陣を展開している。
あれは風属性の魔術……それも相手を吹き飛ばす強力なもの。
吹き荒れる風が彼を包み暴れる。
「ぅ……」
「吹き飛ばしてや――」
「散れ」
次の瞬間、彼が展開していた術式がはじけ飛ぶ。
集まっていた風は四方へ流れ、荒ぶる竜巻が静まっていく。
「なっ……」
「今の声」
聞こえたのは後ろからだった。
優しくて、愛おしくて、私が一番聞きたい声。
私は振り返り、彼の名前を口にする。
「ユート」
「まったく世話がやける」
3
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる