18 / 26
第一章
18.二人だけのひと時
しおりを挟む
押し寄せる女子たちの声掛けは、授業の合間に続いた。
「エミリアさん! 彼ってどんな子がタイプ?」
「ユート様の素敵だったわ~ 戦ってるときはちょっと怖かったけど、余裕のある男性って格好良くて良いわよね」
「そ、そうね」
様って言ったわね。
ついにそこまできてしまったのね……
私の及び知らぬところでも、ユートに近づこうとする生徒たちを多く見かけた。
釈然としないまま、お昼休みの時間になる。
当然ここでも、彼女たちは止まらない。
「ちょっと落ち着いて! さっきも言いましたけど、昨日のことでユートも疲れてますから、せめて紹介するのも明日以降にさせてください」
そう言って何とか私は教室を出ることが出来た。
私は急いで彼が待つ場所は走る。
少し遅れてしまったし、きっとユートも待っているはず。
学園中が賑やかだけど、あの場所だけはいつもと変わらない。
ユートなら普段通り、本を片手に佇んで――
「お待たせしました!」
「はぁ……」
そうでもなかった。
「ユート!?」
「エミリアか」
「ど、どうしたんですか?」
見るからに疲れている。
というよりやつれているようにさえ見える。
「別に……ただちょっと疲れてるだけだ」
「それはちょっととは言いませんよ」
明らかにブロア様と戦った日の何十倍は疲れている。
戦うより疲れる日常って何なのかしら。
それ以前にユートがこんなにもやられている姿なんて初めて見たわ。
「何があったんですか?」
「……今朝、教室に行ったら――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガラガラと教室の扉を開ける。
目立たない俺は、誰からも挨拶されない。
いつもひっそりと隅っこに歩いて席につく。
昨日の決闘で目立ったとはいえ、あれだけ怖がられていれば、誰も近寄らないだろう。
普段通り過ごせばいい。
そう思っていた。
だけど……
「ユート様!」
「え? 様?」
「昨日の決闘見ました! 凄く格好良かったです」
あれ?
予想と全く違う反応に戸惑った俺に、次々とクラスメイトが声をかけてきた。
声を掛けられるなら罵声。
小声でささやかれるならば陰口。
そう思っていた俺にとって、しばらくの間は理解も追いつかなかった。
波は直に収まるどころか強くなる一方で、授業の合間は本当に忙しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようやく昼休みになって逃げきれたんだよ」
「そ、そうだったのですね……」
まさかのまさか。
システィーが言っていたことが三組でも起こっていたなんて……
これは本当にピンチかもしれません。
「ち、ちなみに迫ってきたのは男性でしたか? それとも女性でしたか?」
「え、ああ……ほとんど女だったな。何でか知らないけど」
アウト!
完全にもうアウトよ!
間違いなくユートのことを狙っているじゃないですか!
「さっきまで追いかけられて……本当に疲れた。休み時間くらい静かにしてほしいよ」
「私もそう思います。あ、でも待ってください!」
「どうした?」
「追われてたならここも危ないのではないですか?」
せっかく二人きりの場所なのに。
他の女に入り込まれたら最悪よもう!
「今からでも場所を移動したほうが」
「その心配はない」
「え……まさかユートも……他の女の子に囲まれた方が良いと」
「何でそうなるんだよ。違う、ここには誰も来れないっていう意味だ」
「へっ……そうなのですか?」
ユートはこくりと頷き説明する。
「この周辺には元々、近づいてきた者を惑わす結界が張られてるんだよ。特に、ここへ来たいという者は、絶対にたどり着けないようになってる」
「そんな結界が……でも何で私は?」
「たぶんだけど、最初はここへ来るつもりじゃなかったんじゃないか?」
確かに言われてみればそうですね。
最初からユートに会いに来たわけじゃなくて、あの時の私はただ……
「迷っていたらここに」
「だから偶然だよ。君が最初、ここへたどり着けたのは」
「そうだったのですね」
偶然……か。
そう考えると、私は本当に運が良い。
ん?
ちょっと待ってください。
ここへ来ようとする者は結界に阻まれて立ち入れない。
つまり、二回目以降は私も例外ではなかったはず。
それなのに二回目も、今も来れているということはユートが――
「ユート」
「何――だ!?」
「やっぱりユートは最高です!」
「ちょっ、何だよいきなり引っ付いて!」
彼の優しさにまた触れて、思わず私は抱きついていた。
「ユート大好きです!」
「わ、わかったから離れてくれ」
「照れなくてもいいのに。でもそうですね、お弁当もまだですから」
今日もユートのために一生懸命作ってきた。
彼に喜んでもらえるように。
「相変わらず美味いな」
「ありがとうございます」
私が聞くより先に言ってくれる。
これもユートだからだと思う。
お弁当を食べた後は、他愛もない話をして時間を過ごす。
あれだけ騒がしかったのに、今は私とユートの声しか聞こえない。
さっきの話を聞いて、私は密かに安堵する。
この安らぐひと時だけは、私たちだけのものだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
17話が抜けておりましたので追加してあります。
「エミリアさん! 彼ってどんな子がタイプ?」
「ユート様の素敵だったわ~ 戦ってるときはちょっと怖かったけど、余裕のある男性って格好良くて良いわよね」
「そ、そうね」
様って言ったわね。
ついにそこまできてしまったのね……
私の及び知らぬところでも、ユートに近づこうとする生徒たちを多く見かけた。
釈然としないまま、お昼休みの時間になる。
当然ここでも、彼女たちは止まらない。
「ちょっと落ち着いて! さっきも言いましたけど、昨日のことでユートも疲れてますから、せめて紹介するのも明日以降にさせてください」
そう言って何とか私は教室を出ることが出来た。
私は急いで彼が待つ場所は走る。
少し遅れてしまったし、きっとユートも待っているはず。
学園中が賑やかだけど、あの場所だけはいつもと変わらない。
ユートなら普段通り、本を片手に佇んで――
「お待たせしました!」
「はぁ……」
そうでもなかった。
「ユート!?」
「エミリアか」
「ど、どうしたんですか?」
見るからに疲れている。
というよりやつれているようにさえ見える。
「別に……ただちょっと疲れてるだけだ」
「それはちょっととは言いませんよ」
明らかにブロア様と戦った日の何十倍は疲れている。
戦うより疲れる日常って何なのかしら。
それ以前にユートがこんなにもやられている姿なんて初めて見たわ。
「何があったんですか?」
「……今朝、教室に行ったら――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ガラガラと教室の扉を開ける。
目立たない俺は、誰からも挨拶されない。
いつもひっそりと隅っこに歩いて席につく。
昨日の決闘で目立ったとはいえ、あれだけ怖がられていれば、誰も近寄らないだろう。
普段通り過ごせばいい。
そう思っていた。
だけど……
「ユート様!」
「え? 様?」
「昨日の決闘見ました! 凄く格好良かったです」
あれ?
予想と全く違う反応に戸惑った俺に、次々とクラスメイトが声をかけてきた。
声を掛けられるなら罵声。
小声でささやかれるならば陰口。
そう思っていた俺にとって、しばらくの間は理解も追いつかなかった。
波は直に収まるどころか強くなる一方で、授業の合間は本当に忙しかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようやく昼休みになって逃げきれたんだよ」
「そ、そうだったのですね……」
まさかのまさか。
システィーが言っていたことが三組でも起こっていたなんて……
これは本当にピンチかもしれません。
「ち、ちなみに迫ってきたのは男性でしたか? それとも女性でしたか?」
「え、ああ……ほとんど女だったな。何でか知らないけど」
アウト!
完全にもうアウトよ!
間違いなくユートのことを狙っているじゃないですか!
「さっきまで追いかけられて……本当に疲れた。休み時間くらい静かにしてほしいよ」
「私もそう思います。あ、でも待ってください!」
「どうした?」
「追われてたならここも危ないのではないですか?」
せっかく二人きりの場所なのに。
他の女に入り込まれたら最悪よもう!
「今からでも場所を移動したほうが」
「その心配はない」
「え……まさかユートも……他の女の子に囲まれた方が良いと」
「何でそうなるんだよ。違う、ここには誰も来れないっていう意味だ」
「へっ……そうなのですか?」
ユートはこくりと頷き説明する。
「この周辺には元々、近づいてきた者を惑わす結界が張られてるんだよ。特に、ここへ来たいという者は、絶対にたどり着けないようになってる」
「そんな結界が……でも何で私は?」
「たぶんだけど、最初はここへ来るつもりじゃなかったんじゃないか?」
確かに言われてみればそうですね。
最初からユートに会いに来たわけじゃなくて、あの時の私はただ……
「迷っていたらここに」
「だから偶然だよ。君が最初、ここへたどり着けたのは」
「そうだったのですね」
偶然……か。
そう考えると、私は本当に運が良い。
ん?
ちょっと待ってください。
ここへ来ようとする者は結界に阻まれて立ち入れない。
つまり、二回目以降は私も例外ではなかったはず。
それなのに二回目も、今も来れているということはユートが――
「ユート」
「何――だ!?」
「やっぱりユートは最高です!」
「ちょっ、何だよいきなり引っ付いて!」
彼の優しさにまた触れて、思わず私は抱きついていた。
「ユート大好きです!」
「わ、わかったから離れてくれ」
「照れなくてもいいのに。でもそうですね、お弁当もまだですから」
今日もユートのために一生懸命作ってきた。
彼に喜んでもらえるように。
「相変わらず美味いな」
「ありがとうございます」
私が聞くより先に言ってくれる。
これもユートだからだと思う。
お弁当を食べた後は、他愛もない話をして時間を過ごす。
あれだけ騒がしかったのに、今は私とユートの声しか聞こえない。
さっきの話を聞いて、私は密かに安堵する。
この安らぐひと時だけは、私たちだけのものだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
17話が抜けておりましたので追加してあります。
3
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる