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第二部第二章 砂漠の街

砂漠の洗礼

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「強いな、お前は」
「ガルドさんのほうも、面白い戦い方でした」

 俺も悪くないと思えた。
 少なくとも、自信満々で瞬殺された悪魔よりずっと強かった。
 素直に感心する。
 人間で、俺のように偉大な王たちと契約したわけでもないのに、ここまで強くなれるのかと。

「二人ともすごーい!」

 戦闘が終わった気配を感じ取ったのか、いち早く近づいてきたのはアリアだった。
 彼女は無邪気に跳びはねている。

「ガルドさんの本気久しぶりに見た! アスク君すごいね! 魔法も使えたんだ!」
「まぁ一応、人並みには」
「今のを人並みとか言うんじゃねーよ。こっちが凹むから」
「すみません。得意ですよ、今は」

 俺の力ではなく、俺の中にいる偉大な王様たちの力だけど。
 この様子ならうまく魔法だと思ってくれたようだ。
 と、ホッとしていたらアリアの顔が近い。
 アリアが俺の顔をジーっと見ている。 

「うーん……でもなーんか魔法とは違うようなぁ」
「……気のせいだろ」
「そうかな? 気のせいか! じゃあいいや!」
「……」

 こいつもしかして、ただの馬鹿なんじゃないだろうか……。
 素直すぎる。
 おかげで助かったけど。

「じゃあ次私! 私の番だから!」
「おいアリア、アスクは戦ったばかりなんだ。ちょっと休ませてやれ」
「えぇー! あんなすごい戦い見たあとなのにお預けなんて無理だよー。戦いたい戦いたい、戦いたーい!」
「子供かお前は」

 アリアは子供みたいに腕をバタバタ振って駄々をこねる。
 呆れるガルドさんと、セシリーがため息をこぼしながら近づいていた。
 セシリーがアリアの頭をポカっと叩く。

「我がまま言っちゃダメでしょ」
「ぅうー、だってさー」
「俺は別にいいですよ。連戦でも」
「本当!?」

 俺がそう言うと、しょぼくれていたアリアが目を輝かせる。
 またしても顔が近い。

「あ、ああ。俺はいいよ」
「ねね! アスク君もそう言ってるよ!」
「……はぁ、彼がいいなら」
「やったー! アスク君ありがとう!」

 嬉しさを全身で表すように跳びはね、そのまま思いっきり抱き着いてくる。
 これには俺もビックリして身をよじる。
 ふいにルリアの視線が気になった。
 目を合わせると、いつも通りに見えてムスッとした顔をしていた。

「わ、悪いけど離れてくれ」
「え? あーごめんね。つい嬉しくって。嫌だったかな」
「そういわけじゃないんだが……後が怖いんだ」
「ん? よくわからないけどいいや! さっそく始めようよ!」
 
 戦いたくてウズウズしているアリアが距離をとる。
 切り替えが早いというか、気分の浮き沈みが激しすぎるというか。
 どことなくバーチェにも似ている気がした。
 少しだけ大人になったバーチェをイメージしたら、あんな感じなのだろうと。

「な、なんだよ」
「いや」

 やっぱりバーチェとも違うな。
 見ていて退屈しないのは一緒だけど。

「はやくはやく!」
「わかってる」

 お互いに距離をとり、構える。
 彼女は腰の剣を抜いた。
 綺麗な剣だ。
 見惚れるほど美しい純白の刃……だけじゃない。
 この感覚はまるで……。

 サラマンダー先生が助言する。

「気を付けろ、アスク。あれはただの剣ではない。聖剣と呼ばれる類のものだ」
「聖剣? あれが……」

 悪魔に対抗する人類の最高兵器。
 あらゆる障害、悪を斬り裂く勇者の剣……聖剣。
 王国が管理しているという噂だったが、外にも所有者はいたのか。
 つまり彼女は……。

「勇者か」
「それじゃいっくよー!」

 気を引き締める。
 ガルドさん以上に手ごわい相手だと認識した俺は、腰の剣を抜こうとした。
 瞬間、異様な音が響き渡る。

「二人とも中止だ! 今すぐコロシアムから離れるぞ!」
「ガルドさん?」
「えぇーなんでぇー!」
「この音は砂嵐だ。しかもかなりでかい。ここは天井が開いてる。下手すると砂で埋まるぞ」

 音はどんどん大きくなる。
 俺の中でシルも慌て始める。

「凄い突風が来るヨ!」
「これは本気で逃げたほうがよさそうだな」
「せっかく戦えるのにー」
「また今度だ。今は逃げるぞ」

 駄々をこねるアリアの手を握り、俺は強引に引っ張る。
 そのまま全力で外に出て、宿屋へ直行した。
 背中には特大の砂嵐が迫っている。
 街の外に人影はなく、すでに建物内へ避難しているのがわかった。

「そら逃げろ! 生き埋めになるぞー」

 ガルドさんの声が響く。
 こうして俺たちはいきなり、砂漠の街の洗礼を受けた。
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