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2.ダンジョンの最下層
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「なぁ、このダンジョンで一儲けしたらさ。俺らもギルド立ち上げよーぜ」
「おっ、ついにか?」
「良いと思うわ。実績はそれなりに積んでたし」
「決まりだな。名前はどうしようか」
ワイワイガヤガヤ。
危険なダンジョン内だというのに緊張感はまるでない。
ここを酒場か何かだと勘違いしているみたいに、彼らは楽しそうに話しながら歩いていた。
僕はそんな彼らの後ろに続き、周囲に注意をはらう。
今いるのはダンジョンの第三層。
もう少し行くと、次の層へ続く階段があるという話だ。
「しっかし暇だな~ モンスターの一体もいやしねぇ」
「他の冒険者も探索しているからな。低い階層のモンスターは狩りつくしているんだろ」
「安全なのは良いことだわ」
「よくねーだろ。レアなモンスターがいたらどうするんだ? せっかくのチャンスを無駄にするぞ」
「ダンジョンでレアって……ダンジョンゴーレムとか?」
「ああ。あの核は高く売れる」
「だけど結構重いぞあれ」
「心配いらないだろ。持ち運ぶのは俺たちじゃない」
そう言って、三人が僕のほうをチラッと見る。
ニヤニヤしながら振り向く。
別に言われなくても、僕が運ぶことになるだろう。
今までも、重たい荷物や素材をたくさん運んできたから、ゴーレムの核くらい何とも思わない。
ただ……良い気分ではないけど。
そうして四層へ進み、特に何事もなく五層へと入った。
目的の階層にたどり着いた僕たちだったけど、モンスターの姿はなく、宝らしきものも見当たらない。
複数の人が出入りし、漁った形跡が残されていた。
「ここも探索済みかよ」
「思った以上に他の冒険者は下へ進んでいるようだな」
「どうするの? このまま六層へ進む?」
「いや、一応この階層も見て周ろうぜ。部屋も多いし、もしかすると探索漏れがあるかもしれないからな」
ドーガの指示で、僕たちは手分けして五層の部屋を探索することになった。
扉がある部屋と、風化して開いている部屋がある。
ほとんど調べつくされていて、棚は倒され壺は割られていた。
死んだ後まであら捜しされて、大切な物を隠した場所が踏みつけにされる。
自分のことを棚に上げて、冒険者は礼儀知らずな職業だなと思った。
いつか罰が当たるような気がするよ。
「ここが最後の部屋か」
六層へ続く階段は見つけた。
僕が入った部屋は、階段とは真逆にある部屋だ。
他の部屋と違い、何もない部屋。
物を収納できそうな棚や箱などはなく、殺風景で広々とした部屋だった。
ぱっと見で何もないから、先に来た冒険者たちも大して調べていない様子だ。
意外とこういう場所に、隠された何かが眠っているような気がして、僕は部屋の壁をぐるっと一周触れて周った。
「ん?」
ちょうど入り口の向かい側にある壁だ。
ここだけ冷たい。
というより、冷たい空気が流れ込んでくる。
「もしかして……」
確証はないし、もし彼らを呼んで違ったら怒られる。
僕は背負った大きなカバンから、片手で使えるハンマーを取り出した。
そのままハンマーで、違和感のある壁を叩く。
すると――
「やっぱり!」
ドンピシャだった。
砕けた壁の一部から、奥に階段があるのが見える。
空気が抜けているから、空洞があると思ったけど、どうやら正しかったようだ。
「あ、あの! 皆さんこちらへ来てもらえませんか?」
「は? 何だ?」
「こっちに階段を見つけました」
「階段?」
三人は互いに顔を見合わせてから、小走りで僕のほうへ近づいた。
そうして視界に壁の穴が入った途端に走り出し、僕を押しのけて中を確認する。
「本当だ。奥に階段があるぞ!」
「これって隠し階段よね? まだ誰も見つけてない部屋に続いてるんじゃない!」
「やるじゃねーかよウェズ。お前も偶には役に立つな」
興奮している三人。
偶にはという部分はひっかかるけど、この人たちが僕を褒めるなんて珍しい。
褒められるのは久しぶりだから、僕も素直に嬉しかった。
見つけた階段を降りていく。
螺旋階段になっていて、明らかに六層以下まで続いていた。
螺旋の真ん中は空洞になっていて、高さを測るために小石を落とす。
カランと音がなったのは約三秒後のことだった。
「五十メートルくらいあるみたいです」
「結構な高さだな。もしかすると、最下層に続いてるんじゃないか?」
「かもしれません」
期待が高まる。
最下層ともなれば、お宝もたくさんあるだろう。
隠し階段を見つけたのは僕らだけみたいだし、まだ誰も到達していない可能性が高い。
そうして僕たちは階段を下りた。
一歩降るたびに、まだ見ぬお宝への期待が膨らむ。
階段の終わりには、大きな鉄の扉があった。
「最下層……ホントにそうかも」
「鍵は?」
「かかってないみたいだな。開けるぞ」
ギギギィときしむ音と共に、鉄の扉が開く。
白く綺麗な石レンガで造られた壁と天井に、黒い扉がいくつも連なっている。
一目見て、そこが宝物庫であるとわかった。
他の階層とは明らかに作りが違う。
「やったぞ! 俺たちが一番乗りだ!」
ドーガが興奮気味に言う。
他の冒険者が訪れた痕跡はない。
試しに一部屋を覗いてみたら、そこには大量の金塊が保管されていた。
「すげぇ……一部屋でこれだけあるのかよ」
「これ……下手したら一生遊んで暮らせるわよ」
「違いないな。俺たちは勝ち組だ! おいウェズ! さっさと運ぶ準備だ!」
「は、はい!」
いつもの命令口調も、今はあまり嫌じゃない。
目の前にある宝の山が、僕の感覚を麻痺させていた。
だからこそ忘れていたんだ。
ダンジョンという場所の危険性を。
「おっ、ついにか?」
「良いと思うわ。実績はそれなりに積んでたし」
「決まりだな。名前はどうしようか」
ワイワイガヤガヤ。
危険なダンジョン内だというのに緊張感はまるでない。
ここを酒場か何かだと勘違いしているみたいに、彼らは楽しそうに話しながら歩いていた。
僕はそんな彼らの後ろに続き、周囲に注意をはらう。
今いるのはダンジョンの第三層。
もう少し行くと、次の層へ続く階段があるという話だ。
「しっかし暇だな~ モンスターの一体もいやしねぇ」
「他の冒険者も探索しているからな。低い階層のモンスターは狩りつくしているんだろ」
「安全なのは良いことだわ」
「よくねーだろ。レアなモンスターがいたらどうするんだ? せっかくのチャンスを無駄にするぞ」
「ダンジョンでレアって……ダンジョンゴーレムとか?」
「ああ。あの核は高く売れる」
「だけど結構重いぞあれ」
「心配いらないだろ。持ち運ぶのは俺たちじゃない」
そう言って、三人が僕のほうをチラッと見る。
ニヤニヤしながら振り向く。
別に言われなくても、僕が運ぶことになるだろう。
今までも、重たい荷物や素材をたくさん運んできたから、ゴーレムの核くらい何とも思わない。
ただ……良い気分ではないけど。
そうして四層へ進み、特に何事もなく五層へと入った。
目的の階層にたどり着いた僕たちだったけど、モンスターの姿はなく、宝らしきものも見当たらない。
複数の人が出入りし、漁った形跡が残されていた。
「ここも探索済みかよ」
「思った以上に他の冒険者は下へ進んでいるようだな」
「どうするの? このまま六層へ進む?」
「いや、一応この階層も見て周ろうぜ。部屋も多いし、もしかすると探索漏れがあるかもしれないからな」
ドーガの指示で、僕たちは手分けして五層の部屋を探索することになった。
扉がある部屋と、風化して開いている部屋がある。
ほとんど調べつくされていて、棚は倒され壺は割られていた。
死んだ後まであら捜しされて、大切な物を隠した場所が踏みつけにされる。
自分のことを棚に上げて、冒険者は礼儀知らずな職業だなと思った。
いつか罰が当たるような気がするよ。
「ここが最後の部屋か」
六層へ続く階段は見つけた。
僕が入った部屋は、階段とは真逆にある部屋だ。
他の部屋と違い、何もない部屋。
物を収納できそうな棚や箱などはなく、殺風景で広々とした部屋だった。
ぱっと見で何もないから、先に来た冒険者たちも大して調べていない様子だ。
意外とこういう場所に、隠された何かが眠っているような気がして、僕は部屋の壁をぐるっと一周触れて周った。
「ん?」
ちょうど入り口の向かい側にある壁だ。
ここだけ冷たい。
というより、冷たい空気が流れ込んでくる。
「もしかして……」
確証はないし、もし彼らを呼んで違ったら怒られる。
僕は背負った大きなカバンから、片手で使えるハンマーを取り出した。
そのままハンマーで、違和感のある壁を叩く。
すると――
「やっぱり!」
ドンピシャだった。
砕けた壁の一部から、奥に階段があるのが見える。
空気が抜けているから、空洞があると思ったけど、どうやら正しかったようだ。
「あ、あの! 皆さんこちらへ来てもらえませんか?」
「は? 何だ?」
「こっちに階段を見つけました」
「階段?」
三人は互いに顔を見合わせてから、小走りで僕のほうへ近づいた。
そうして視界に壁の穴が入った途端に走り出し、僕を押しのけて中を確認する。
「本当だ。奥に階段があるぞ!」
「これって隠し階段よね? まだ誰も見つけてない部屋に続いてるんじゃない!」
「やるじゃねーかよウェズ。お前も偶には役に立つな」
興奮している三人。
偶にはという部分はひっかかるけど、この人たちが僕を褒めるなんて珍しい。
褒められるのは久しぶりだから、僕も素直に嬉しかった。
見つけた階段を降りていく。
螺旋階段になっていて、明らかに六層以下まで続いていた。
螺旋の真ん中は空洞になっていて、高さを測るために小石を落とす。
カランと音がなったのは約三秒後のことだった。
「五十メートルくらいあるみたいです」
「結構な高さだな。もしかすると、最下層に続いてるんじゃないか?」
「かもしれません」
期待が高まる。
最下層ともなれば、お宝もたくさんあるだろう。
隠し階段を見つけたのは僕らだけみたいだし、まだ誰も到達していない可能性が高い。
そうして僕たちは階段を下りた。
一歩降るたびに、まだ見ぬお宝への期待が膨らむ。
階段の終わりには、大きな鉄の扉があった。
「最下層……ホントにそうかも」
「鍵は?」
「かかってないみたいだな。開けるぞ」
ギギギィときしむ音と共に、鉄の扉が開く。
白く綺麗な石レンガで造られた壁と天井に、黒い扉がいくつも連なっている。
一目見て、そこが宝物庫であるとわかった。
他の階層とは明らかに作りが違う。
「やったぞ! 俺たちが一番乗りだ!」
ドーガが興奮気味に言う。
他の冒険者が訪れた痕跡はない。
試しに一部屋を覗いてみたら、そこには大量の金塊が保管されていた。
「すげぇ……一部屋でこれだけあるのかよ」
「これ……下手したら一生遊んで暮らせるわよ」
「違いないな。俺たちは勝ち組だ! おいウェズ! さっさと運ぶ準備だ!」
「は、はい!」
いつもの命令口調も、今はあまり嫌じゃない。
目の前にある宝の山が、僕の感覚を麻痺させていた。
だからこそ忘れていたんだ。
ダンジョンという場所の危険性を。
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