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私は事情を説明した。
吸い込まれるように、全てを隠さず伝えた。
見方によっては言い訳だ。
悪いのは私だと、糾弾されることだってあるかもしれない。
それなのに私は、思ったことを正直に、感情を込めて話してしまった。
「なるほど……それでクビに……」
領主様は難しい表情をする。
ひどい言い訳に聞こえたのだろうか。
私は非難されることを覚悟する。
「そうだったのか」
「……」
「大変だったな。一人でよく頑張ったよ」
だけど、彼はただ労ってくれた。
「聖剣の管理なんて責任重大だ。それを一人で、他の仕事もしながら熟してきたのはすごいことだよ。もっと評価されるべきだ」
私の話を聞いて、信じてくれている。
疑いもせずに。
「勇者のことは……正直ガッカリだな。男として多少の憧れはあったんだけど……そんな男に守られていたなんて」
到底信じがたい話だったはずだ。
私の作り話。
クビにされた腹いせに、適当に嘘をついている。
そう思われても仕方がない。
なのに彼は……。
「本当によく頑張った。今まで、この国を守ってくれてありがとう」
笑顔で、褒めてくれた。
途端、何かが頬を伝って落ちる。
「あれ……?」
あたしは泣いていた。
初めて会う人の前なのに、涙があふれ出ていた。
辛くても泣かなかった私が、どうして今さら泣いているのだろう。
自分でもわからない。
悲しいと感じている?
ううん、そうじゃなくて……嬉しいんだ。
褒められたことが、認められたことが。
初めてだったから。
「ぅ……う……」
涙を流す私を、領主様は黙って見守ってくれていた。
潤んだ瞳に映る彼は、とても暖かな表情を見せる。
何も言わず、しばらく待って私は涙を拭う。
「これからどうするのか、決まっているのか?」
「えっと、まだです。仕事はしなきゃと思っているけど……」
「この街にも鍛冶場はあるよ。武器屋とかもね」
「見ました。でも……」
やっぱり不安だ。
同じ結果にたどり着く気がして。
かといって、私にできることは鍛冶だけだから。
他の選択肢はない。
「だったら、自分の店を出せばいいんじゃないか?」
「え……」
思わぬ提案にキョトンとする。
そんなあたしを見て、領主様は首を傾げる。
「あれ、変なこと言ったか?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
驚いたのは、領主様から提案してもらえたこと。
私の頭にもその発想はあった。
誰かの下で働くのが怖いなら、自分で鍛冶場を、お店を開けばいい。
幸いなことに貯金はある。
場所と道具さえ用意できれば、お店を始めることはできる。
そう思っていたんだ。
「もしよければ、いい場所を紹介しようか? ちょうど使ってない物件を知ってる」
「い、いいんですか?」
「ああ、これも縁だ」
吸い込まれるように、全てを隠さず伝えた。
見方によっては言い訳だ。
悪いのは私だと、糾弾されることだってあるかもしれない。
それなのに私は、思ったことを正直に、感情を込めて話してしまった。
「なるほど……それでクビに……」
領主様は難しい表情をする。
ひどい言い訳に聞こえたのだろうか。
私は非難されることを覚悟する。
「そうだったのか」
「……」
「大変だったな。一人でよく頑張ったよ」
だけど、彼はただ労ってくれた。
「聖剣の管理なんて責任重大だ。それを一人で、他の仕事もしながら熟してきたのはすごいことだよ。もっと評価されるべきだ」
私の話を聞いて、信じてくれている。
疑いもせずに。
「勇者のことは……正直ガッカリだな。男として多少の憧れはあったんだけど……そんな男に守られていたなんて」
到底信じがたい話だったはずだ。
私の作り話。
クビにされた腹いせに、適当に嘘をついている。
そう思われても仕方がない。
なのに彼は……。
「本当によく頑張った。今まで、この国を守ってくれてありがとう」
笑顔で、褒めてくれた。
途端、何かが頬を伝って落ちる。
「あれ……?」
あたしは泣いていた。
初めて会う人の前なのに、涙があふれ出ていた。
辛くても泣かなかった私が、どうして今さら泣いているのだろう。
自分でもわからない。
悲しいと感じている?
ううん、そうじゃなくて……嬉しいんだ。
褒められたことが、認められたことが。
初めてだったから。
「ぅ……う……」
涙を流す私を、領主様は黙って見守ってくれていた。
潤んだ瞳に映る彼は、とても暖かな表情を見せる。
何も言わず、しばらく待って私は涙を拭う。
「これからどうするのか、決まっているのか?」
「えっと、まだです。仕事はしなきゃと思っているけど……」
「この街にも鍛冶場はあるよ。武器屋とかもね」
「見ました。でも……」
やっぱり不安だ。
同じ結果にたどり着く気がして。
かといって、私にできることは鍛冶だけだから。
他の選択肢はない。
「だったら、自分の店を出せばいいんじゃないか?」
「え……」
思わぬ提案にキョトンとする。
そんなあたしを見て、領主様は首を傾げる。
「あれ、変なこと言ったか?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
驚いたのは、領主様から提案してもらえたこと。
私の頭にもその発想はあった。
誰かの下で働くのが怖いなら、自分で鍛冶場を、お店を開けばいい。
幸いなことに貯金はある。
場所と道具さえ用意できれば、お店を始めることはできる。
そう思っていたんだ。
「もしよければ、いい場所を紹介しようか? ちょうど使ってない物件を知ってる」
「い、いいんですか?」
「ああ、これも縁だ」
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