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移動先は、学園裏庭。
木陰に力をつないで、影の中から顔を出す。
「ふぅ……」
まさか初日から秘密をさらけ出すことになるなんて。
でも、スッキリしたわ。
これで付きまとわられる心配もない。
「今日は目立ち過ぎたわね。このまま帰ってしまたほうが――」
「なんだ? お前もサボりか?」
「――!?」
背後から声がして、咄嗟に振り向く。
まったく気が付かなかった。
気配も何もない。
声を下方向に振り向くと、木の上に赤い髪の青年が座っている。
初めて顔を合わせる人だ。
ただ、どこかで見たことがあるような気も……。
「……誰かしら?」
「他人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るもんだろ?」
「……リリス・クローリー。名乗ったわよ」
「クローリー……ああ、白紙の運命書」
私はびくりと身体を震わせる。
その秘密を知っているのは、クローリー家の人間だけだった。
話したのはついさっきだ。
噂が広まったとは思えない。
他に知っている人なんて……。
「どうしてそれを?」
「知ってるさ。この国にいる貴族の情報なら基本全部な。別に知りたくて知ったわけじゃないぞ」
「……答えになって、そのペンダント」
彼の首からかけられたペンダントは、王族だけが身に着けることを許されたもの。
つまり彼は――
「王族なの?」
「ああ。ベルガス・フォートネリアだ。よろしくな、リリス」
ベルガス……第三王子。
彼の噂を耳にしたことがある。
確か彼は――
「運命書を燃やしたっていうのは本当なの?」
「ん? ああ」
「どうして? あなたも白紙だったのかしら?」
「知らないぞ? 中身は見てもいないからな」
見てもいない……ですって。
驚きで両目がぱっちりと開く。
「だってそうだろ? 俺は運命なんて信じちゃいない。見る必要もない」
「……どうして? 王族は運命書が正義だと、長年示してきたはずよ。だから今も」
「ああ、それが間違いだと思ってる。少なくとも俺はな」
「……だったら、あなたは何に従うの?」
私の質問にニヤリと笑みを浮かべる。
木から飛び降り、私の前に立つ。
「決まってる。俺がどうしたいか、だよ」
「――!」
それはまさに、私が最後にたどり着いた結論だった。
「これは俺の人生だ。だったら未来は俺が決める。神様の決めた運命なんてまっぴらだ! 何が正しくて幸せかなんて、人それぞれだろ?」
「……そうね」
まるで、私の選択を肯定してくれているような気がした。
ちょっとだけ、心が軽くなる。
こんなことをしても未来は変わらない。
決断しても、少しの迷いはあったから。
「噂通りの変わり者ね」
「別にいいさ。他人に何を思われても関係ない。俺は俺だからな」
「ええ、その通りだわ。私も……もうどうでもいい」
今ならもっと、強く思える。
私の選択は間違いじゃないと。
胸を張って言い切れる。
「私に定められた運命なんてなかった。だから、私の運命は私が決めるわ」
「いいなそれ。初対面だけど、なんだかお前とは気が合いそうだ」
「ええ、私も同じことを思ったわ」
理解し合えるはずはないと。
誰にもわかってもらえないと思っていた。
けど、世界にはいるんだ。
こういう、普通じゃないおかしな人が。
私の選択を、笑って肯定してくれそうな人が。
「運命大嫌いな者同士、これから仲良くやろうぜ。リリス」
「こちらこそ、ベルガス殿下とお近づきになれて嬉しいわ」
「ベルでいい。俺は王族っていう立場も、そんなに好きじゃないんだ。学園の中じゃ地位も立場も関係ない。ただの一生徒だ」
「そうね……ベル」
この時の私は知る由もない。
彼との出会いこそが、私の未来を決定づけるものだったことを。
私が何者で、何のために生まれたのか。
彼が背負うべき運命が何だったのか。
これから世界は変わっていく。
これは神様に嫌われた私が、主役になるまでの物語。
運命に抗い、自らの手で幸せな未来を掴む……物語だ。
木陰に力をつないで、影の中から顔を出す。
「ふぅ……」
まさか初日から秘密をさらけ出すことになるなんて。
でも、スッキリしたわ。
これで付きまとわられる心配もない。
「今日は目立ち過ぎたわね。このまま帰ってしまたほうが――」
「なんだ? お前もサボりか?」
「――!?」
背後から声がして、咄嗟に振り向く。
まったく気が付かなかった。
気配も何もない。
声を下方向に振り向くと、木の上に赤い髪の青年が座っている。
初めて顔を合わせる人だ。
ただ、どこかで見たことがあるような気も……。
「……誰かしら?」
「他人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るもんだろ?」
「……リリス・クローリー。名乗ったわよ」
「クローリー……ああ、白紙の運命書」
私はびくりと身体を震わせる。
その秘密を知っているのは、クローリー家の人間だけだった。
話したのはついさっきだ。
噂が広まったとは思えない。
他に知っている人なんて……。
「どうしてそれを?」
「知ってるさ。この国にいる貴族の情報なら基本全部な。別に知りたくて知ったわけじゃないぞ」
「……答えになって、そのペンダント」
彼の首からかけられたペンダントは、王族だけが身に着けることを許されたもの。
つまり彼は――
「王族なの?」
「ああ。ベルガス・フォートネリアだ。よろしくな、リリス」
ベルガス……第三王子。
彼の噂を耳にしたことがある。
確か彼は――
「運命書を燃やしたっていうのは本当なの?」
「ん? ああ」
「どうして? あなたも白紙だったのかしら?」
「知らないぞ? 中身は見てもいないからな」
見てもいない……ですって。
驚きで両目がぱっちりと開く。
「だってそうだろ? 俺は運命なんて信じちゃいない。見る必要もない」
「……どうして? 王族は運命書が正義だと、長年示してきたはずよ。だから今も」
「ああ、それが間違いだと思ってる。少なくとも俺はな」
「……だったら、あなたは何に従うの?」
私の質問にニヤリと笑みを浮かべる。
木から飛び降り、私の前に立つ。
「決まってる。俺がどうしたいか、だよ」
「――!」
それはまさに、私が最後にたどり着いた結論だった。
「これは俺の人生だ。だったら未来は俺が決める。神様の決めた運命なんてまっぴらだ! 何が正しくて幸せかなんて、人それぞれだろ?」
「……そうね」
まるで、私の選択を肯定してくれているような気がした。
ちょっとだけ、心が軽くなる。
こんなことをしても未来は変わらない。
決断しても、少しの迷いはあったから。
「噂通りの変わり者ね」
「別にいいさ。他人に何を思われても関係ない。俺は俺だからな」
「ええ、その通りだわ。私も……もうどうでもいい」
今ならもっと、強く思える。
私の選択は間違いじゃないと。
胸を張って言い切れる。
「私に定められた運命なんてなかった。だから、私の運命は私が決めるわ」
「いいなそれ。初対面だけど、なんだかお前とは気が合いそうだ」
「ええ、私も同じことを思ったわ」
理解し合えるはずはないと。
誰にもわかってもらえないと思っていた。
けど、世界にはいるんだ。
こういう、普通じゃないおかしな人が。
私の選択を、笑って肯定してくれそうな人が。
「運命大嫌いな者同士、これから仲良くやろうぜ。リリス」
「こちらこそ、ベルガス殿下とお近づきになれて嬉しいわ」
「ベルでいい。俺は王族っていう立場も、そんなに好きじゃないんだ。学園の中じゃ地位も立場も関係ない。ただの一生徒だ」
「そうね……ベル」
この時の私は知る由もない。
彼との出会いこそが、私の未来を決定づけるものだったことを。
私が何者で、何のために生まれたのか。
彼が背負うべき運命が何だったのか。
これから世界は変わっていく。
これは神様に嫌われた私が、主役になるまでの物語。
運命に抗い、自らの手で幸せな未来を掴む……物語だ。
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これは先が気になる終り方ですね。
運命なんて確約されない物語に
何処まで抗えるのか。
本来 人生自体あらすじのない
自分の選択や行動で
始まったり分岐するもの・・・
おもしろい所に目をつけて
物語を綴ってますね。
他の作品も面白そうなので
読ませていただきます。