16 / 46
三女サーシャ
⑥
しおりを挟む
お兄さんたちと合流したボクは、依頼を受けて森へ向かった。
二日目となると要領もわかってくる。
順調に依頼内容をクリアしていって、予定時刻よりも早く全て達成した。
すると、リーダーのお兄さんがボクに言う。
「早く終わったし、せっかくだから少し奥までいかないかい?」
「奥ですか?」
「ああ。追加報酬目的で、魔物を何体か狩りに行こう」
「我々は穴場をしっているんですよ」
「そうなんですか?」
時間はちょうど正午が過ぎた所。
今から戻っても、丸まる午後が暇になってしまう。
魔物を倒して結晶を納品すれば、追加報酬をもらえるのは聞いていた。
これから冒険者として働く上でも、穴場があるなら教えてほしい。
親切に教えてくれるなら、もちろん行くと答える。
「わかりました!」
そう。
親切だと思っていた。
お兄さんたちは優しく微笑み、森の奥へ進んでいく。
比較的明るい森も、深く進めば徐々に暗くなる。
不気味さを増していく森の中を、ボクたちはまっすぐに歩いて行った。
そうしてたどり着いたのは、ぽっかりと開いた自然の洞窟だった。
「ここですか?」
お兄さんたちは頷き、先頭に立って洞窟内へ入っていく。
ボクも遅れないように後ろへ続いた。
中は明かりもなくて、薄暗くて肌寒い。
「そういえば、修道前にあの人と話してたよね?」
「え、あっはい」
「何を話していたのかな?」
「大した話はしてませんよ。おじさんが誰なのかとか聞いたんですけど、全然答えてくれなかったんです」
「なるほど」
「でもでも! 気を付けてねって言ってくれたんです! 戻ったら名前を聞かなくちゃ」
「そうか……残念だけど、戻ることはないよ?」
「えっ――」
チクっと何かが首に刺さる。
次の瞬間、全身の力が抜けて、ボクは地面に倒れ込んでいた。
身体がしびれて動かない。
見上げて見えるのは、お兄さんたちの笑顔。
今まで見せていた優しい笑顔ではなく、いやらしくねっとりとした気持ちの悪い笑顔だった。
「サーシャちゃん、忠告は聞いた方がいいぞ? ギルドにも言われたんじゃないのか? 変な人たちには気を付けろってなぁ」
「……何で?」
お兄さんはニヤリと笑う。
すると、彼の後ろから新しく二つの足音が聞こえてきた。
姿を現したのは、冒険者らしくない格好をした男性二人。
二人は明かりを持っていて、それでボクを照らす。
「っ……」
「ほほう! これはなかなかの上物ですな~」
「だろ? 最初見た時からピンと来たんだよね。こいつは高く売れるって」
「う……る?」
「そうだぜ! おめでとうサーシャちゃん、君も今日から奴隷の一員だ」
奴隷?
お兄さんは何を言っているのだろう。
混乱していたボクは、すぐに理解が追いつかなかった。
そんなボクに、お兄さんは言う。
「良い髪色だよな~ それにまだ若い。買い手は山ほど多いだろうぜ~」
「間違いありませんな。これくらいでどうでしょう?」
「おっ、こんなにくれるのか? いいねさっすがだぜ」
「お得意様ですから。それにこのレベルの娘は中々お目にかかれない。まず間違いなく最高のコレクションとして高値がつきましょう」
「だとよ。よかったなーサーシャちゃん」
いよいよ状況が理解出来てきた。
全然良くない。
この人たちは奴隷を売り買いする人だ。
お兄さんたちは、ボクを奴隷として売り飛ばそうとしている。
良い人なんて思ったけど、すっごく悪い人だったんだ。
そうだとわかった途端、ボクの瞳からはたくさんの涙が溢れ出ていた。
「ぅ……お姉ちゃん」
「あんな所に一人で来るのが悪いんだぞ? 簡単に他人を信じるから、こういうことになるんだ」
「――まったくその通りだな」
その時、違う声が聞こえてきた。
この場にいる誰の声でもない。
だけど、ボクはその声の主を知っている。
だって、ついさっき初めて聞いた声だから、忘れるはずもない。
「だから言っただろ~ 気を付けろよってな」
「おじさん?」
「おじさんじゃねぇよ」
洞窟の入り口側から現れたのは、ギルドで一人ぼっちだったおじさんだ。
刃の太い剣を腰に装備して、気だるそうに歩み寄ってくる。
「だ、誰だアンタ!」
「通りすがりの冒険者だ。っていえば良いか?」
「お前……」
お兄さんたちも、あのおじさんだと気づいた様子。
「どうしてここに?」
「何、ちょっとギルドから依頼されてたもんでな」
「依頼……だと?」
「ああ。近頃、新米の女冒険者が次々に消息を絶つ事件が増えてる。人為的な犯行の可能性が高いから、それを探ってくれってな」
「ギルドが……あんたに?」
「まぁな。他にも依頼かけてたみたいだけど、オレがドンピシャだったわけだ」
そう言って、おじさんは無造作に近づく。
お兄さんは大きな舌打ちをしてから、腰から剣を抜いた。
他の二人も武器をとり、戦闘態勢に入っている。
「おっ、何だやる気か?」
「はっ! かっこよく出てきたのは良いけどなー! あんたは所詮一人、しかも片腕だろ?」
「そうだな」
分が悪いのはお前だと言っている。
それでもおじさんは歩みを止めない。
余裕の笑みを浮かべ、まだ剣すら抜こうとしない。
その太々しさに違和感を覚え、お兄さんたちは尻込む。
「旦那……逃げましょう」
「はぁ? 急に何を言って――」
お兄さんは気付く。
奴隷商人の一人が怯え震えていることに。
「あ、あの人は駄目だ。絶対に勝てない」
「何だよそれ、何を知ってるんだ?」
「あの人は……十年前、王国最強と呼ばれた遍歴騎士――タチカゼ・カタキだ!」
ボクは思わぬタイミングで、おじさんの名前を知ることになった。
二日目となると要領もわかってくる。
順調に依頼内容をクリアしていって、予定時刻よりも早く全て達成した。
すると、リーダーのお兄さんがボクに言う。
「早く終わったし、せっかくだから少し奥までいかないかい?」
「奥ですか?」
「ああ。追加報酬目的で、魔物を何体か狩りに行こう」
「我々は穴場をしっているんですよ」
「そうなんですか?」
時間はちょうど正午が過ぎた所。
今から戻っても、丸まる午後が暇になってしまう。
魔物を倒して結晶を納品すれば、追加報酬をもらえるのは聞いていた。
これから冒険者として働く上でも、穴場があるなら教えてほしい。
親切に教えてくれるなら、もちろん行くと答える。
「わかりました!」
そう。
親切だと思っていた。
お兄さんたちは優しく微笑み、森の奥へ進んでいく。
比較的明るい森も、深く進めば徐々に暗くなる。
不気味さを増していく森の中を、ボクたちはまっすぐに歩いて行った。
そうしてたどり着いたのは、ぽっかりと開いた自然の洞窟だった。
「ここですか?」
お兄さんたちは頷き、先頭に立って洞窟内へ入っていく。
ボクも遅れないように後ろへ続いた。
中は明かりもなくて、薄暗くて肌寒い。
「そういえば、修道前にあの人と話してたよね?」
「え、あっはい」
「何を話していたのかな?」
「大した話はしてませんよ。おじさんが誰なのかとか聞いたんですけど、全然答えてくれなかったんです」
「なるほど」
「でもでも! 気を付けてねって言ってくれたんです! 戻ったら名前を聞かなくちゃ」
「そうか……残念だけど、戻ることはないよ?」
「えっ――」
チクっと何かが首に刺さる。
次の瞬間、全身の力が抜けて、ボクは地面に倒れ込んでいた。
身体がしびれて動かない。
見上げて見えるのは、お兄さんたちの笑顔。
今まで見せていた優しい笑顔ではなく、いやらしくねっとりとした気持ちの悪い笑顔だった。
「サーシャちゃん、忠告は聞いた方がいいぞ? ギルドにも言われたんじゃないのか? 変な人たちには気を付けろってなぁ」
「……何で?」
お兄さんはニヤリと笑う。
すると、彼の後ろから新しく二つの足音が聞こえてきた。
姿を現したのは、冒険者らしくない格好をした男性二人。
二人は明かりを持っていて、それでボクを照らす。
「っ……」
「ほほう! これはなかなかの上物ですな~」
「だろ? 最初見た時からピンと来たんだよね。こいつは高く売れるって」
「う……る?」
「そうだぜ! おめでとうサーシャちゃん、君も今日から奴隷の一員だ」
奴隷?
お兄さんは何を言っているのだろう。
混乱していたボクは、すぐに理解が追いつかなかった。
そんなボクに、お兄さんは言う。
「良い髪色だよな~ それにまだ若い。買い手は山ほど多いだろうぜ~」
「間違いありませんな。これくらいでどうでしょう?」
「おっ、こんなにくれるのか? いいねさっすがだぜ」
「お得意様ですから。それにこのレベルの娘は中々お目にかかれない。まず間違いなく最高のコレクションとして高値がつきましょう」
「だとよ。よかったなーサーシャちゃん」
いよいよ状況が理解出来てきた。
全然良くない。
この人たちは奴隷を売り買いする人だ。
お兄さんたちは、ボクを奴隷として売り飛ばそうとしている。
良い人なんて思ったけど、すっごく悪い人だったんだ。
そうだとわかった途端、ボクの瞳からはたくさんの涙が溢れ出ていた。
「ぅ……お姉ちゃん」
「あんな所に一人で来るのが悪いんだぞ? 簡単に他人を信じるから、こういうことになるんだ」
「――まったくその通りだな」
その時、違う声が聞こえてきた。
この場にいる誰の声でもない。
だけど、ボクはその声の主を知っている。
だって、ついさっき初めて聞いた声だから、忘れるはずもない。
「だから言っただろ~ 気を付けろよってな」
「おじさん?」
「おじさんじゃねぇよ」
洞窟の入り口側から現れたのは、ギルドで一人ぼっちだったおじさんだ。
刃の太い剣を腰に装備して、気だるそうに歩み寄ってくる。
「だ、誰だアンタ!」
「通りすがりの冒険者だ。っていえば良いか?」
「お前……」
お兄さんたちも、あのおじさんだと気づいた様子。
「どうしてここに?」
「何、ちょっとギルドから依頼されてたもんでな」
「依頼……だと?」
「ああ。近頃、新米の女冒険者が次々に消息を絶つ事件が増えてる。人為的な犯行の可能性が高いから、それを探ってくれってな」
「ギルドが……あんたに?」
「まぁな。他にも依頼かけてたみたいだけど、オレがドンピシャだったわけだ」
そう言って、おじさんは無造作に近づく。
お兄さんは大きな舌打ちをしてから、腰から剣を抜いた。
他の二人も武器をとり、戦闘態勢に入っている。
「おっ、何だやる気か?」
「はっ! かっこよく出てきたのは良いけどなー! あんたは所詮一人、しかも片腕だろ?」
「そうだな」
分が悪いのはお前だと言っている。
それでもおじさんは歩みを止めない。
余裕の笑みを浮かべ、まだ剣すら抜こうとしない。
その太々しさに違和感を覚え、お兄さんたちは尻込む。
「旦那……逃げましょう」
「はぁ? 急に何を言って――」
お兄さんは気付く。
奴隷商人の一人が怯え震えていることに。
「あ、あの人は駄目だ。絶対に勝てない」
「何だよそれ、何を知ってるんだ?」
「あの人は……十年前、王国最強と呼ばれた遍歴騎士――タチカゼ・カタキだ!」
ボクは思わぬタイミングで、おじさんの名前を知ることになった。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる