33 / 46
次女カリナ
十一
しおりを挟む
我に返ったのは、口を開いた二秒後だった。
二人の視線がこちらに集まっている。
驚く二人とは別の意味で、わたしの頭の中は驚きのパニック状態だった。
な、なな……何を口走ってたの!
わたしぃ!
心の中で叫ぶ。
恥ずかしさで顔が強張って動かない。
逆にそれで目を逸らすことが出来ず、わたしは二人のキョトンとした表情を見つめる。
そして……
館長がニヤリと笑った。
「ふぅーん、なるほどね~」
「な、何でもないです!」
と、後から否定しても手遅れだろう。
博士は驚いている様子だけど、それ以上は感じていないようだ。
良くも悪くも鈍感な人だから、博士一人なら誤魔化せたかもしれない。
でも、館長の表情から何を考えているのか察しが付く。
「カリナ、貴女って何才だったかしら?」
「えっ、えっと……十六歳……です」
消え入りそうな小さな声で答えると、館長はふむふむと頷き考えている。
一応あと一か月後には十七歳になる。
「そうか。まぁギリギリだけど有りね」
「あの……」
「ナベリス! 悪いけどさっきのお見合いの話はなしにしましょう!」
「は? 何なんだ急に。そっちから持ち込んだ話だろう?」
鈍感な博士は、まだ館長の思惑に気付いていない。
普通に苛立っているのがわかる。
そんな博士を見て、館長は笑いながら言う。
「ふふふっ、そう言わないで。それよりもっと良い相手を見つけたのよ」
「良い……相手?」
さすがの博士も、この時点で察したようだ。
館長が口にするより、僅かに早く博士の視線がわたしに向く。
そう、館長の言うもっと良い相手とは――
「ここにいるじゃない! 貴方にとって最高のパートナー!」
「え、えぇ!」
「カリナ……」
わたしが口を滑らせた時点で、こうなる未来は予想できていた。
ただ、実際にその場面に直面すると、わかっていても動揺を隠せない。
さっき口にしていたギリギリというのは、年齢差の話だろう。
この国での成人年齢は十五歳。
成人していなければ婚約は出来ない決まりとなっている。
そこはクリアしているのだが、年齢が離れすぎている相手との婚約は、周囲から白い目で見られることが多い。
気にしない者もいるが、色々と面倒なので互いに気を遣う事柄だ。
博士は今年で二十五、わたしは十六歳。
今年で十七になるから、年の差は八歳だ。
慌てるわたしの肩を、館長がトンと叩いて言う。
「どうかしら?」
「ふむ……」
「ちょ、ちょっと待ってください! わたしはその……」
「あら? 嫌だったかしら?」
「え、いえ別に嫌では……」
「じゃあカリナにその気はあるってことね」
館長はニコリと笑う。
あまりに強引な解釈と会話の流れで、わたしは置いてけぼりをくらっていた。
続けて館長は博士にも問いかける。
「貴方はどう? この子より貴方のことをわかっている人なんていないと思うけど?」
「うん、それは一理あるな」
博士は研究中と変わらない態度で考えている。
冷静かつ慎重に、私を下から上に見渡して言う。
「確かに、どこのだれかわからん見合い相手よりも、君のことはよく知っている。僕のことも……まぁ知っている方だろう。それに……」
と言いながら、博士はわたしをじっと見つめる。
その時の博士の表情は、懐かしさを感じているように思えた。
「良いだろう。それで見合いを受ける必要もなくなる。僕としてもありがたい話だ」
「じゃあ決まりね」
「ああ」
淡々と話が進んでいく。
当人であるわたしは会話に入り込めず、オドオドしながら二人を行動に見る。
え、えぇ!?
これって本当に婚約する流れなの?
わたしと博士が……婚約!
想像したのは、夢で見た光景だった。
さらにその先の未来を連想して、勝手に恥ずかしくなって顔を赤くする。
そんなわたしとは対照的に、博士は落ち着いていた。
館長が博士に言う。
「こういうのは男からよ」
「はぁ……仕方ない。僕だってそれくらいの知識はあるさ」
「そう? じゃあ任せるわ」
そう言って、館長がわたしから離れる。
代わりに博士がわたしに歩み寄ってきた。
そして――
「カリナ」
「……は、はい」
臆面なく、普段通りの表情で博士はわたしに――
「僕と婚約してくれ」
プロポーズをした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新作投稿しました。
そちらも良ければどうぞ。
二人の視線がこちらに集まっている。
驚く二人とは別の意味で、わたしの頭の中は驚きのパニック状態だった。
な、なな……何を口走ってたの!
わたしぃ!
心の中で叫ぶ。
恥ずかしさで顔が強張って動かない。
逆にそれで目を逸らすことが出来ず、わたしは二人のキョトンとした表情を見つめる。
そして……
館長がニヤリと笑った。
「ふぅーん、なるほどね~」
「な、何でもないです!」
と、後から否定しても手遅れだろう。
博士は驚いている様子だけど、それ以上は感じていないようだ。
良くも悪くも鈍感な人だから、博士一人なら誤魔化せたかもしれない。
でも、館長の表情から何を考えているのか察しが付く。
「カリナ、貴女って何才だったかしら?」
「えっ、えっと……十六歳……です」
消え入りそうな小さな声で答えると、館長はふむふむと頷き考えている。
一応あと一か月後には十七歳になる。
「そうか。まぁギリギリだけど有りね」
「あの……」
「ナベリス! 悪いけどさっきのお見合いの話はなしにしましょう!」
「は? 何なんだ急に。そっちから持ち込んだ話だろう?」
鈍感な博士は、まだ館長の思惑に気付いていない。
普通に苛立っているのがわかる。
そんな博士を見て、館長は笑いながら言う。
「ふふふっ、そう言わないで。それよりもっと良い相手を見つけたのよ」
「良い……相手?」
さすがの博士も、この時点で察したようだ。
館長が口にするより、僅かに早く博士の視線がわたしに向く。
そう、館長の言うもっと良い相手とは――
「ここにいるじゃない! 貴方にとって最高のパートナー!」
「え、えぇ!」
「カリナ……」
わたしが口を滑らせた時点で、こうなる未来は予想できていた。
ただ、実際にその場面に直面すると、わかっていても動揺を隠せない。
さっき口にしていたギリギリというのは、年齢差の話だろう。
この国での成人年齢は十五歳。
成人していなければ婚約は出来ない決まりとなっている。
そこはクリアしているのだが、年齢が離れすぎている相手との婚約は、周囲から白い目で見られることが多い。
気にしない者もいるが、色々と面倒なので互いに気を遣う事柄だ。
博士は今年で二十五、わたしは十六歳。
今年で十七になるから、年の差は八歳だ。
慌てるわたしの肩を、館長がトンと叩いて言う。
「どうかしら?」
「ふむ……」
「ちょ、ちょっと待ってください! わたしはその……」
「あら? 嫌だったかしら?」
「え、いえ別に嫌では……」
「じゃあカリナにその気はあるってことね」
館長はニコリと笑う。
あまりに強引な解釈と会話の流れで、わたしは置いてけぼりをくらっていた。
続けて館長は博士にも問いかける。
「貴方はどう? この子より貴方のことをわかっている人なんていないと思うけど?」
「うん、それは一理あるな」
博士は研究中と変わらない態度で考えている。
冷静かつ慎重に、私を下から上に見渡して言う。
「確かに、どこのだれかわからん見合い相手よりも、君のことはよく知っている。僕のことも……まぁ知っている方だろう。それに……」
と言いながら、博士はわたしをじっと見つめる。
その時の博士の表情は、懐かしさを感じているように思えた。
「良いだろう。それで見合いを受ける必要もなくなる。僕としてもありがたい話だ」
「じゃあ決まりね」
「ああ」
淡々と話が進んでいく。
当人であるわたしは会話に入り込めず、オドオドしながら二人を行動に見る。
え、えぇ!?
これって本当に婚約する流れなの?
わたしと博士が……婚約!
想像したのは、夢で見た光景だった。
さらにその先の未来を連想して、勝手に恥ずかしくなって顔を赤くする。
そんなわたしとは対照的に、博士は落ち着いていた。
館長が博士に言う。
「こういうのは男からよ」
「はぁ……仕方ない。僕だってそれくらいの知識はあるさ」
「そう? じゃあ任せるわ」
そう言って、館長がわたしから離れる。
代わりに博士がわたしに歩み寄ってきた。
そして――
「カリナ」
「……は、はい」
臆面なく、普段通りの表情で博士はわたしに――
「僕と婚約してくれ」
プロポーズをした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新作投稿しました。
そちらも良ければどうぞ。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる