婚約破棄されたイライラを魔法で発散していたら、隣国の騎士様にべた惚れされました

日之影ソラ

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「はぁ……はぁ……」
「お、おい、なんか荒れてねーか?」
「やっぱあれじゃないか? 婚約者に捨てられたって話」
「あれマジなのか? 妹に寝取られたって」

 ヒソヒソ声に反応して、私は団員たちをギロっと睨む。
 睨んだ瞬間に背筋を伸ばし、知らないふりをしてそっぽを向く。
 ハッキリと聞こえていた。
 私は寝取られたとか、捨てられたとか。
 文句を言ってやりたいけど、今は任務中だから我慢する。

「それにしても多いわね」

 今日は王国の境にある大森林で魔物討伐の依頼に参加している。
 近年稀に見る魔物の大量発生によって、今まで使用していた街道が使えなくなってしまった。
 国境付近ということもあって、隣国と共同で対象に当たっている。
 シーベルトの件があったのはつい昨日のことだ。
 ショックも大きかったし、未だに苛立ちは治まっていない。
 できれば休みたかったけど、仕事にプライベートな事情は持ち込めないから、せめて魔物でストレスと発散しようと思う。

「さぁどんどん来なさい。私が一匹残らず吹き飛ばしてあげるから」

 そこから一時間。
 私はひたすら現れた魔物を倒しまくった。
 思いっきり魔法を使えるのはやっぱり気分がいい。
 魔物が吹き飛んでいく様を見ていると、少しずつ苛立ちも治まってきた。

「つ、次が来るぞ!」
「くっそまたか! どれだけ数がいるんだよ!」

 仲間たちはすでにヘトヘトな様子。
 連戦だから当然とはいえ、ほとんど倒しているのは私だし、魔力消費だって桁違いだ。
 この程度でへばってしまうなんて男の癖に情けない。
 そう思ってしまう程には、私は男性を嫌いになりかけていた。

「私が――」
「下がっていてくれ!」

 そんな時、私よりも先に駆け出した騎士がいた。
 私とは違う制服を身に纏い、白銀の剣を振り抜ける。
 一瞬にして十を超える魔物を斬り伏せ、剣を腰の鞘に納めた。

「すごい……」

 私でも完全には見えなかった。
 恐ろしく速くて正確な動き。
 あれほどの剣士を見たことがない。
 
「おお、凄まじいな。あれが隣国最強の騎士アレン・グラートンか」
「アレン・グラートン」
 
 聞いたことがある。
 隣国に優れた剣士がいるという噂を。
 魔法を一切使わず、生身の剣一本で数多の魔物と渡り合える騎士。
 半信半疑だったけど、今の動きを見て確信した。
 確かに最強の騎士と言われるだけの実力がある。

 男にもまともな人がいるのね。
 まぁ、私には関係ないことだけど。

「ん?」

 彼をじっと見ていたら、その視線に気づかれたみたいだ。
 振り返った彼と視線が合う。

「どうかしたかな?」
「……いえ、素晴らしい剣技ですね」
「ありがとう。だけど君も大したものだよ。エレメス・フォートレアさん」
「どうして私の名前を?」
「君の噂はこっちの国にも流れているんだよ。さっき魔物を一人で圧倒していただろう? あれを見て君がそうだと確信したんだ」

 自分の噂が隣国にまで流れているなんて知らなかった。
 でもどうせ、怪物とか悪魔だって言われているんでしょうけど。
 この国で呼ばれているみたいに。
 自分で考えて虚しくなって、私は小さくため息をこぼす。

「はぁ……今ので最後ですね。これで依頼も終わりです」
「そのようだね。しかし相当な数だった。これだけの数がどうして一斉に――!?」
「この気配は!」

 私たちは同時に感じ取った。
 禍々しく強大な力を。
 現在の時刻は午後二時、太陽が最も高い位置にある。
 木々が生い茂る森の中でも、燦燦と照らされる太陽の光で明るさが保たれていた。
 それが一瞬にして暗闇に変化する。
 理由は私たちの目の前に、空を飛んでいた。

「ド、ドラゴンだと!」
「嘘だろ! しかもこの大きさは異常だぞ!」

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