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 十八年前。
 私はフォートレア家の長女として生を受けた。
 名のある貴族の娘。
 普通なら贔屓され、期待される立場にあった。
 だけどそうはならなかった。
 私の母親が、私を生んだ直後に亡くなってしまったからだ。
 母は身体が弱かった。
 それでも家のために跡取りを残さなければならない。
 無理をしながらも私を出産し、限界を迎えてしまった。
 自らの命と引き換えに、私を生んでくれたことには感謝している。
 ただ、そのことを快く思わない人物がいた。

 私の父、現在の当主。
 父は私のせいで母が死んでしまったと思っている。
 事実その通りだから反論もできないけど、父が怒っているのは母への愛からではなかった。
 父は母の容姿を、身体を気に入っていた。
 そこに愛はなく、欲があるだけ。
 父にとっては母は、自らの欲を満たす道具でしかなかった。
 所有物を壊されて怒っていただけなんだ。
 その証拠に、母が死んで間もなくして、母の妹と再婚している。
 容姿が似ているから、代わりになると思ったに違いない。
 そうして、シリカが生まれた。
 シリカは私よりも、私の母に似ているらしい。
 だから父もシリカを溺愛している。

「……ムカつく」

 生まれた時から冷遇されていた。
 まだ甘く純粋だった私は、いい子にしていれば環境も変わると思っていた。
 私には魔法の才能があったから、必死に努力してその才能を磨いた。
 魔法使いは国にとっても貴重な存在で、その最高機関である魔法騎士団への入隊は、貴族にとっても大きな栄誉となる。
 特に女性は先天的な魔力が少ないから、魔法使いには不向きとされていた。
 そんな中で女性の私が魔法使いとして大成すれば、きっと父も認めてくれる。
 
 結果はもう出ている。
 当然のようになにも変わらなかった。
 私がどれだけ評価されても、父は私に見向きもしない。
 シリカばかりが可愛い可愛いともてはやされ、優遇される様子を見せつけられた。

 悔しかった。

「なんで私ばっかり」

 こんな目に遭うの?
 生まれてきたことが間違っているみたいな扱いを受けるの?
 今さら優遇してほしいなんて思っていない。
 ただ私は、少しでも見てほしい。
 私のことを、ちゃんと意識してほしい。
 シーベルトは違うと思っていたのに……。

「結局……結局可愛いほうがいいのね!」

 怒りが頂点に達する。
 それと同時に、目の前に現れた大量の魔物たち。
 一斉に、私に目掛けて襲い掛かってくる。

「可愛くて、甘い声出して!」

 迫る魔物が爆炎に包まれる。

「ベタベタ身体をくっつけて!」

 突風が吹き荒れ、地面ごと魔物の群れを抉る。

「女の子らしい見た目をしてたから好きになっただけでしょ!」

 残った魔物が逃げ出そうとした。
 背を向ける魔物たちに向けて、落雷を落とす。
 的確に、一匹も残さず黒焦げにする。
 僅か十秒。
 魔物の群れ約七十匹を撃破した。
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