婚約破棄されたイライラを魔法で発散していたら、隣国の騎士様にべた惚れされました

日之影ソラ

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 隣国との国境で起きた戦いから二日後。
 突如として出現したドラゴンを討伐したことは、一瞬にして王国中に広まった。
 
 やっぱり人間じゃない。
 怪物だからドラゴンにも勝てたんだろう。

 そういう心ない声が私の耳にも入る。
 だけど今は、そんな言葉に苛立つ余裕もなかった。

「……はぁ」

 休日の朝から誰もいない屋敷でため息をこぼす。
 あの日以来、まともに睡眠もとれていない。
 理由は明白だ。

「一目惚れ……一目惚れ?」

 隣国最強の騎士からの告白。
 ドラゴンを倒した私を見て、魔法を使う姿が綺麗だと彼は言った。
 怖がるのでもなく、ドン引きするわけでもなく。
 初めて好意的に見てくれた。
 そのことは素直に嬉しい。
 嬉しいのだけど……。

「ま、まさか告白されるなんて……」

 予想外過ぎて整理が追いつかない。
 頭の中であの時のセリフが何度も再生されて、夜もまともに眠れない。
 ずっと彼のことばかり考えている。

「アレン……グラートン」

 そういえば、彼は去り際言っていた。
 
 近いうちに必ず会いに行く。
 また会おう。
 
 あれは本気で言っていたのだろうか?
 だとしても、会いには来ない気がする。
 あの場では気分が高揚していた彼も、冷静になれば気付くはずだ。
 私の異常さに怯えるはずだ。
 わざわざ国境を越えて会いに来るなんて――

 カンカンカン。

「え?」

 今の音は、来客を知らせる扉の音。
 私の元に来客が来ることなんてほとんどない。
 唯一だったシーベルトもいなくなった。
 私の脳裏には一人の男性が過る。
 すぐにでも確認したくて、私は急いで玄関に駆けた。
 少しだけ期待してしまう。
 
「こんにちは。エレメス嬢」
「アレン・グラートン……」

 期待に応えるように、扉を開けた先で彼は微笑む。
 本当に来てくれた。
 嘘じゃなくて、わざわざ国境を越えて。

「すまないね。本当はあの後すぐに会いたかったんだが、色々と処理することが多くて」
「……ああ、その関係でこちらに来ていたのですね」
「ん? いいや違うよ? 会いに行くと言ったじゃないか。今日は君に会うために来たんだよ」

 未だに信じられずにいる。
 彼は私に会うために、国境を越えてきたという。
 隣国とはいえ、移動には丸一日かけても足りない。
 手続きだって面倒だ。
 その行程を、私に会うためだけにしてきたというの?

「どうしてそこまでするんですか?」
「忘れたのか? あの時、俺は君に一目ぼれしたんだ。好きな人に会いに行くんだから、国境くらい超えて当然じゃないか」

 彼は恥ずかしいセリフを躊躇なく、笑顔で私に向けて言う。
 淀みない瞳と声からは、彼の真っすぐさが感じられて。
 彼を見ていると心臓の鼓動が速くなる。
 
 告白されたから?
 私も……ドキドキしてる。

「しかし探すのに時間がかかったよ。本宅で暮らしているわけではないんだね」
「え、ああ……ええ」
「先に本宅に行ったらここだと言われたよ。教えてくださったのは君のお父様だと思うのだけど、少し様子が変だったな」
「それは……当然でしょう。あの人は私のことが嫌いですから」

 無意識だった。
 彼のことで頭がいっぱいだったせいもある。
 言うつもりはなかったのに、つい本音が漏れてしまった。
 あとから気付いて口を閉じたけど、もう遅い。

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