婚約破棄されたイライラを魔法で発散していたら、隣国の騎士様にべた惚れされました

日之影ソラ

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「嫌い? どういうことだい?」
「……」
「……その感じは、何か事情があるんだね。本宅から離れて暮らしていることも」

 今ので彼も察したようだ。
 表情が暗くなる。

「よければ話してくれないかな?」
「……どうしてですか? 聞いてもいいことなんてありませんよ」
「だとしても知りたいよ。好きな人のことだからね」
「……そうですか」

 他人に話すことじゃないけど、今回は特別に話してもいいと思った。
 私のことを好きだと言ってくれた人だから。
 その気持ちが本物なら、隠しておくのは失礼だろう。
 どちらにしろ、いずれわかることだ。
 だったら今教えて、熱も冷めたらそれまでだ。

 私は彼を屋敷の中に招き入れ、リビングで語った。
 私がどういう人間なのかを。
 周りからどう思われ、何を経験してきたのか。
 最初から最後まで暗い話を、彼は静かに聞いていた。
 そして、話し終わった最後に彼が口にしたのは――

「腹立たしいな」

 苛立ちの感情だった。

「君は何も悪くないじゃないか。それどころか国のため、家のために努力して結果も出している。それを認めず突き放すなんて……親以前に人間と思えないな。どちらが悪魔だ」
「そう……ですね。そう思ってくれるんですね。貴方は」
「今の話を聞いて、同じように思わない男もいないだろう」
「そうでしょうか。少なくとも私が知っている人たちは、同情はしても怒ったりしないでしょう」

 他人事だから仕方がない。
 いいや、家族でさえ私のために怒るなんてこと……。

「だから貴方も気を付けてくださいね」

 私に関わると、貴方も変な目で見られることになる。
 
「そうだな。気を付けないといけない」
「……」
「君がこれ以上、悲しまなくて済むように俺も気を配るよ」
「へ……?」
「ん? 何を驚いているんだ?」
「だって、今の話を聞いてどうしてそんなことを思うんですか?」

 普通ここは、もう関わらないほうがいいとか。
 変な目で見られないように気をつけなきゃ、じゃないの?
 そういう意味で言った私が呆気に取られている。

「どうもこうも、それ以外に何がある?」
「……」
「君は何か勘違いしているな。今の話を聞いて、俺が思ったことは二つだ」
「二つ?」

 彼はこくりと頷く。

「一つは苛立ち。君を正当に評価しない周囲への。もう一つは、やっぱり君は素敵な女性だということだ」
「す、素敵……え?」
「自覚がないのかな? 君は素敵な人だ。魔法使いとしてはもちろん、一人の人間としても。そんな環境に置かれながら直向きに努力してきた君の魂は、どんな宝石よりも綺麗で輝いている。俺はそう思う」
「――!」

 またこの人は、恥ずかしいセリフを簡単に口にする。
 あの時と同じだ。
 告白してくれた時のように、私の瞳をじっと見つめる。
 彼の言葉が、声が、私の心を高ぶらせる。

「……もの好きですね」
「そうでもないだろう? むしろ、君の魅力に気づけない人たちがどうかしてる」
「……ふふっ」
「あ、いいね。初めて笑ってくれた」

 不意に笑顔がこぼれた。
 半分は呆れから出たものだけど、嬉しかった。

「エレメス嬢、君の気持ちを聞かせてもらえないかな?」

 彼は真剣な表情を私に向ける。

「俺は君に一目ぼれした。願わくばそういう関係になりたいと思っている」
「私は……」

 そういう関係。
 恋人、婚約者……。
 少し前まで、私にも相手がいた。
 壊れてしまったもつい最近の話だ。
 正直、怖いと思う。
 彼の言葉に嘘は感じないし、本気で私を見てくれているのもわかる。
 それでもまた……壊れてしまうんじゃないかと。
 ただそれ以上に――
 
「い、今すぐは難しいです。ので、友人として……からでもよければ」
「ああ、それでいい。嬉しいよ」

 この笑顔を見ていると、まだ少しだけ期待してみたいと思ってしまう。
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みんなの感想(4件)

alex
2024.04.12 alex

私も続きが気になります!!!
性格は謙虚で破天荒な魔法使い。
もっともっとも~っと続きを書いて欲しいです。

それに…ものすごく面白くて話のテンポが小気味よいのが大好きです(*'ω'*)

解除
tomo
2023.05.02 tomo

不完全燃焼です(泣)
ざまぁが見たいです!
主人公がかわいい女性へと印象が変わる様をみたいです!
面白く読みやすく…だから余計に…
もう一度いいます!不完全燃焼です(泣)

解除
SATORIN
2022.09.27 SATORIN

これで終わりは足りないです(;O;)
妹や元婚約者 父達へのざまぁが!

何よりヒロインの幸せになる姿見たいです。
周りの見る目も 悪魔や怪物から変わる所も読みたいです!!

解除

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