パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ

文字の大きさ
6 / 30
第一章

6.失ったもの【追放側視点】

しおりを挟む
「がっはははははははっ! 今日は最高の日だぜ!」
「ちょっとドイル、飲み過ぎじゃない?」
「いいじゃねーか今日くらいよぉ~ なんたってパーティーのお荷物をようやく追い出せた記念日なんだからなぁ」
「そうだぜサレナ。今日はとことんのもうや」

 ドイルとリーグが酒を飲み交わし、べろべろに酔っ払っている。
 お酒が得意じゃないサレナは彼らを見ながら呆れるが、本心では同じ気持ちでいた。

「アスタル。あなたはほどほどにしておきなさいよ。私と同じでお酒に弱……」
「すぅー」
「寝てるのね。まぁいいわ」

 四人とも今日を精一杯に満喫していた。
 彼らはずっと前から、ラストの存在を疎ましく思っていたのだ。
 特に魔術師であるサレナが強く思っている。

「何が自分がいないとダメよ……逆に決まってるわ」

 ラストの言い分は、自分が魔力供給をしているから、みんなが満足に戦えているというものだった。
 それを聞いた彼らは呆れ、軽く怒った。
 役立たずの癖に、一丁前に役に立っているアピールをされたから。
 今までの成果が、彼のおかげだと言われている気がしたから。

「ふふっ、後悔するのはやっぱりあいつのほうね」

 魔力タンクと言っても所詮は一人の人間。
 彼がいなくてもこれまで通りのパフォーマンスはできる。
 むしろ、彼を守らなくていい分、みんなの動きがよくなると考えていた。
 余った枠にもう一人前衛職を入れたら、さらに戦闘が安定するだろうと。

 だが、彼らは痛感することになる。
 彼がパーティーにもたらしていた影響力を。

  ◇◇◇

「ふぁー……頭いてぇ……」
「だから言ったでしょ? 飲み過ぎなのよ」

 翌日。
 彼らはいつも通りに冒険者ギルドへ足を運んだ。
 早朝から出発するクエストを受けるためだ。
 彼らがギルドに到着すると、ちょうどギルドの扉がオープンになる。
 中に入ってすぐ、受付嬢が彼らに気付いて笑顔を見せた。

「いらっしゃいませ。あら、今日はお一人足りないようですが……」
「ああ、あいつはクビにしたんだよ。戦闘でも大して役に立たないからなぁ」
「そうだったのですか。では新しいメンバーの募集をされるのですか?」
「そのつもりでいる。適当に募集をかけといてもらっていいか?」
「かしこまりました」

 ギルドの彼らへの信頼は厚い。
 故に待遇もよく、様々な面で優先される。
 そしてこの会話を聞いていた別の冒険者が、他の仲間たちへ噂を広めた。
 彼らは有名人だから、噂が広まるのも早い。
 魔導パーティーから追放者がでた。
 枠が一つ空いたぞ、と。

「昨日言ってたクエストあるよな?」
「はい。ワイバーンの討伐、および卵の回収ですね」

 ドイルは提示されたクエストを確認する。
 間違いないと頷いて、彼らは冒険者ギルドを出発した。
 ギルドを出てすぐ、リーグが気付く。

「そういやいなかったな。あいつ」
「ラストか? もうやめちまったんじゃねーか。あいつの力じゃ冒険者は無理だろ。どこも拾ってくれねーだろうしな」
「賢明だな。どっか別のとこで迷惑かけてると思うと、こっちが悪い気分になるぜ」
「だな」

 男二人でラストのことを笑う。
 当然だが、彼らは友人でもなければ仲間ですらなかった。
 対等だと思っていなかった以上、こうなる未来は必然だったのだろう。

 そして――

  ◇◇◇

「それじゃとっとと片付けるぜ」
「おう!」
「ええ」
「了解」

 彼らはワイバーンとの戦闘を開始する。
 場所は街から離れた渓谷。
 ワイバーンが巣を作り、大量に繁殖してしまった。
 成長したワイバーンは餌を求めて各地を飛ぶ。
 放置すればいずれ街が危険にさらされるからと、ギルドに討伐の依頼がでた。
 卵の回収がセットなのは、ふ化させ飼いならすことができるからだ。
 どちらも高難易度のクエスト。
 並のパーティーでは空を飛び交う奴らに太刀打ちできない。

「サレナ」
「ええ」

 魔術師の彼女が飛行能力付与の術式を展開。
 自分を含む四人に付与し、大空を翔る。

「燃えやがれ」
 
 あいさつ代わりにドイルが炎の魔剣で奇襲する。
 強靭な鱗に守られている身体も、彼の魔剣の前では無意味だった。
 そして彼の隣を、稲妻の一撃がかける。

「っと、おい! あぶねーぞ!」
「心配するなって! 当てんのはワイバーンだけだ!」

 雷の魔槍を振り回すリーグ。
 稲妻を纏ったその鉾は、鋼鉄をも軽々と貫く。
 余裕を見せる二人。
 そこへワイバーンが四方から迫るが、無数の矢がことごとくを撃ち落とす。

「二人とも、油断しないで」
「ありがとな、アスタル」
「油断はしてねーよ。けど助かったぜ」

 弓使いアスタル。
 彼女が操る水の魔弓は、高圧縮した水を矢として放つ。
 大気中の水分を利用しているため、魔力効率がよく連続攻撃が可能。
 威力もワイバーンを貫く程度造作もない。

「お、数が増えやがったな」
「何匹いたって関係ねーだろ!」
「早く終わらせよう」

 いつも通り、順調だった。
 が、攻勢もここまで。

「はっ! ん?」
「おらっ! な、なんだ?」
「威力が落ちている?」

 三人はほぼ同時に違和感を覚えた。
 自身の攻撃がワイバーンに通じなくなっている。
 炎は小さくなり、雷は弱まり、水が集まりにくくなっている。
 と同時に、身体を襲う疲労感。

「ワイバーンの攻撃か? いったんさがるぞ! サレナ!」
「まかせて!」

 こういう時に魔術師である彼女が輝く。
 飛行魔術の維持に努めていた彼女だったが、仲間のピンチに攻撃へ転じる。
 前方に展開された術式は、炎と風を合わせた複合魔術。

「燃えて消えなさい! フレアトルネード!」

 業炎の竜巻がワイバーンを襲う。
 まとまっていた奴らが散り散りとなり、攻撃の手が止む。

「ふふっ、やっぱりこれくらい――え?」
「なんだ? どうしたサレナ!」
「高度が落ちてるぞ!」

 四人は飛行能力を失い、急速に地面に落下してしまう。
 訳が分からないという表情のサレナ。
 だが、直後に気付く。
 身体の中に湧き出るはずの魔力が、ほとんど感じない。

「まさか……魔力切れ?」

 ぼそりと口にした一言を全員が聞いた。
 なぞの疲労感、突然威力が弱まった攻撃、それらの答えはシンプルだった。

「嘘だろ?」

 彼らは気づいていなかった。
 魔剣や高火力の魔術が、どれほど魔力を消費していたか。
 魔力管理がどれほど大変かを。

 そして……。

 ラストの無尽蔵な魔力に頼り切っていたことを。

 彼らはようやく知ったのである。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔
ファンタジー
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」  ある日、サポーターのケンシンは勇者のキースにそう言われて勇者パーティーをクビになってしまう。  そんなケンシンをクビにした理由は魔力が0の魔抜けだったことと、パーティーに何の恩恵も与えない意味不明なスキル持ちだったこと。  そしてケンシンが戦闘をしない空手家で無能だったからという理由だった。  ケンシンは理不尽だと思いながらも、勇者パーティーになってから人格が変わってしまったメンバーのことを哀れに思い、余計な言い訳をせずに大人しく追放された。  しかし、勇者であるキースたちは知らなかった。  自分たちがSランクの冒険者となり、国王から勇者パーティーとして認定された裏には、人知れずメンバーたちのために尽力していたケンシンの努力があったことに。  それだけではなく、実は縁の下の力持ち的存在だったケンシンを強引に追放したことで、キースたち勇者パーティーはこれまで味わったことのない屈辱と挫折、そして没落どころか究極の破滅にいたる。  一方のケンシンは勇者パーティーから追放されたことで自由の身になり、国の歴史を変えるほどの戦いで真の実力を発揮することにより英雄として成り上がっていく。

処理中です...