パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ

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第二章

25.死んだ街

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 今よりひと月と三日前。
 帝都あら東に位置する街、ノーランドの住民が一夜にして失踪した。
 異変に気付いて駆けつけた時にはすでに、街はもぬけの殻だった。
 一部争った形跡はあるものの、複数の足跡が街の外へ向かっていることを確認する。
 現場に残った痕跡を調査した結果、街の住人はアンデッド化したものと思われる。

 それより一週間後。
 近隣の村々から忽然と人が消える。
 さらにもう一つの大きな街アドリアでも同様の事象が発生する。
 帝国は騎士団を派遣し調査を試みたが、隊員はアンデッドと交戦し死亡したとみられる。
 調査は中断され、以降四週間騎士の派遣はされていない。

 そして現在――

 エリーシュ皇女の要請により、俺とドール三姉妹が派遣されることになった。
 俺たちは馬車に揺られる。
 操縦はデルタが担当していた。

「で、どこまで操縦すればいいんだ?」
「最初に被害にあった街よ。現場を見てもらったほうが今後がイメージしやすいでしょ?」
「んじゃノーランド行きだな」

 しゅっぱーつと元気な声をあげて馬車が加速する。
 俺とアルファとシータ、エリーシュが馬車の室内で向かい合って座る。

「本当についてきたんですね……」
「あら? そういったはずよ」
「聞いてましたけど……危険な場所へ行くんですよ? なのに護衛もなしに……」
「護衛ならあなたがいるじゃない。頼りにしてるわ」

 エリーシュは軽い口調で俺にそう言って微笑む。
 頼られるのは嫌じゃないが、この場合は相手が皇女様っていうのが正直重い。
 何かあったら全部俺の責任になるよな。

「もちろんよ」
「……今からでも帰りませんか?」
「嫌よ。私、結構頑固なの。一度行くと決めたら曲げたりしないわ」
「姉上と一緒だなぁ」

 デルタからぼそっと声が聞こえた。
 アルファも同じタイプなのか。 
 確かにそんな気はしてる。

「私は意思が固いんです」
「それを頑固という。すぅー」
「ね、寝言?」
「ふふっ、面白い子たちね」

 彼女は柔らかな笑顔を見せながら、アルファやシータを見つめる。

「やっぱり全然見えないわね。人形には」

 ぼそりとつぶやき、俺に同意を求めるような視線を向ける。
 俺はうなずいてから答える。

「彼女たちは人間と変わらないですよ。俺たちと同じ感情がある。自分の考えを口にすることができるわけですからね」
「そうみたいね。それにとっても素直だわ。あなたにだけ、かもしれないけど」
「私たちはラスト様のものですから」
「素晴らしいわね。その言葉をなんのよどみもなく言える。まさに心からの信頼関係だわ」

 当然ですと言いたげなどや顔を見せるアルファ。
 確か彼女たちの心は読めなかったはずだが。

「読まなくてもわかるわよ。長くこんな力を持っているとね? 力を使わなくてもわかるようになるわ。目とか、声のトーン、表情でね」
「そういう。大変、だったんですよね?」
「想像にお任せするわ。たぶんあなたが想像するよりずっとよ」

 他人の心を見透かす目。
 その力だけでも特異、異質な存在だ。
 加えて彼女は皇女という立場でもある。
 これまで一体、どれだけの視線を受け、心に充てられてきたのだろうか。
 人間は本心を隠す生き物だ。
 俺がドイルたちか追放されるまで、その感情に気づけなかったように。
 普通、気づかなくていいこともある。
 それが通じない彼女は、人間の表も裏も知ってしまう。
 その苦労は、他人の俺には到底理解できないだろう。

  ◇◇◇

 デルタが操縦する馬車は東へ。
 次第に雲行きが怪しくなってきた。
 雲が集まり、一雨降りそうな天気だ。
 天気のせいだろうか?
 気持ちもどんよりして、どこか薄気味悪さを感じる。

「天気のせいだけじゃないわ。近づいているからよ」

 と、エリーシュが俺に言った。
 近づいている。
 事件が起こった街に。
 人々が一夜にして消え、アンデッドになった場所へ。

 風が吹く。
 その風に乗って、嫌な香りが漂う。

「っ、これ……腐敗臭?」
「見えてきたわ。あそこが……ノーランドよ」

 ぞっとした。
 目の前には街がある。
 綺麗な街だった。
 建物は新しく、人がいた痕跡もまだ新しいほうだ。
 だが、誰もいない。
 人の気配だけがしない街というのが、どれほど不気味か知った。

 俺たちは馬車を停め、街の中を散策する。

「なんにもねーな」
「当然よ。ここにはもう何もない。何もなくなってしまったの」

 街の規模から考えて、人口もそれなりに多かったはずだ。
 少なくとも俺たちが住む街と同じくらいはいただろう。
 それだけの人間が、一夜にしてアンデッドになった。
 アンデッドに殺された人間はアンデッド化する。
 そうして数を増やしていくのが特徴だ。
 
「ラスト様、外から入ってきている足跡が少ないですね」
「ああ。これだけの人数をアンデッド化するなら、相当な数がいたはずなんだが……」

 アンデッドは単体ではそこまで強力な存在ではない。
 動きが遅く、対処法も確立されている。
 聖水さえあれば子供でも退治できる。
 面倒なのは不死性と増殖能力だ。
 その二点さえなければ、一介の魔物より弱い。
 
「アンデッド化には何か秘密がありそうですね。少なくとも、ただ襲われただけじゃなさそうだ」
「なぁマスター、ここでアンデッドになった人たちって別の街に行ったんだろ? にしては外に出てく足跡もすくなくねーか?」

 デルタが気づく。
 確かに言われてみれば。
 入ってきた数もそうだが、出ていく数も明らかに少ない。

「街の人は本当に外に出たのか?」

 その疑問の答えかもしれない。
 あたりの気温が急激に下がり、寒気がする。

「――お兄ちゃん、足元気を付けて」
「え?」

 地中から手が伸びる。
 忠告のおかげで早く気づけて、さっと飛びよけた。
 気が付くと無数の手が地面から伸びていた。

「まさか……」

 一瞬にして囲まれる。
 静かだった街に、アンデッドたちが押し寄せる。
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