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第二章
26.二十一の魔術
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街中の地面から出現したアンデッドの大群。
数は目視で確認できる程度じゃない。
おそらくアンデッド化したこの街の住民だろう。
今まで地中で隠れていたのか。
それとも……。
いや、思考を巡らせるのは一旦やめだ。
今やるべきことは一つ。
この場を乗り切ることだけ。
「マスター! この数は……明らかに異常だぜ」
「わかってる! 全員戦闘準備! エリーシュ様は俺の後ろに」
「私への気遣いは無用よ」
「エリーシュ様?」
彼女は胸に手を当て、何かまさぐっている。
取り出したのは銀色の十字架のペンダントだった。
「十字架?」
「私が何の備えもなく同行したと思ってるの? ちゃんと自衛の手段は持っているわ」
十字架のペンダントを正面にかざす。
まばゆい光が放たれ、周囲にいたアンデッドたちがひるむ。
光を嫌がり腐って見えないはずの目を手で隠す。
「アンデッド除けの聖なる十字架よ。これを身に着けてる限り、彼らは私には近づけない。でも、近づけないだけで倒すことは難しい。だからそこは任せるわ」
エリーシュはニコリと微笑む。
護衛の必要はない。
彼女の十字架のおかげで、近くに出現したアンデッドの動きが鈍くなった。
「助かります」
これなら俺たちも立ち回りやすい。
数は異常だが、近寄れないなら一方的に殲滅もできる。
「んじゃ先行くぜ!」
最初に突っ込んだのはデルタだった。
彼女はすでに能力を発動。
右手にはアンデッドを滅する聖の能力を付与した魔剣を握っている。
彼女の能力は制限を設けることで様々な効果を付与できる。
聖なる剣で斬り裂かれたアンデッドは、苦しそうな声をあげて消滅していく。
「くっそ数が多いな! マスターたちも手伝ってくれ!」
「わかってる」
彼女と同様に俺も聖なる剣を生成。
これで俺も戦える。
あとは――
「アルファ!」
「はい!」
物理的な手段しかもたない彼女に、聖なる効果を付与したガントレットを生成して渡す。
ガントレットを装着したアルファは嬉しそうな顔をして、俺より早く前へ出る。
「はー!」
彼女のこぶしがアンデッドを吹き飛ばす。
さすがの威力。
効果さえ付与してしまえば、彼女の動きにアンデッドはついていけない。
「俺も負けてられないな」
アンデッドの動きは緩慢だ。
腐った肉体では華麗な動きなどできない。
聖なる武器があれば不死性も怖くはない。
怖いのは、この数だ。
「斬っても斬ってもキリがないな」
「おいマスター……なんか増えてるぞ」
人以外のアンデット。
人間の三倍はある巨人が現れる。
おそらくはトロールかオーガがアンデット化したものだ。
人だけでも面倒なのに、魔物タイプのアンデッドも加わると厄介だな。
「シータ!」
「うん。みんな避けてね」
こういう時、彼女の存在は大きい。
エリーシュの隣で待機していたシータが右手を前へあげる。
人差し指をたて、アンデッドの群れに照準を合わせた。
「――極光」
指先から放たれるこう圧縮した光のエネルギー。
特筆すべきは破壊力ではなく跳弾。
発射されたエネルギーは無機物には効かず、衝突すると反射する。
反射回数はシータが術式を解除しない限り無限。
極光は街の建物や床をつかって乱反射し、次々とアンデッドと消滅させていく。
「残り、お願い」
「ああ」
「サンキュー、シータ!」
「あとは私たちが!」
残りはシータが俺たちに被弾しないよう調整して無事だったアンデッドだ。
数は両手の指で足りるところまで減っている。
十秒もかかわずに、俺たちは残ったアンデッドを駆逐した。
「今ので全部ですね」
「うへ~ こういう強くないけど面倒な相手って疲れるなぁ~」
「シータ、ありがとう」
「苦しゅうなーい」
シータの頭を撫でてあげると、彼女は変なセリフを口にしながら気持ちよさそうに目を細める。
飼い主に頭を撫でられている猫みたいだな。
「今のもオリジナル術式の一つ?」
「そうだよー」
「すごいよな。一つ一つも強力なのに、まだ二十個もあるなんて」
「そういうタイプだからねー」
こんな風にのほほんとダルそうにしているシータだが、彼女の火力は三姉妹ダントツだ。
アルファやデルタと異なる中遠距離型のドールで魔術タイプ。
彼女には二十一のオリジナル術式が備わっていて、どれも桁違いの威力と汎用性をもっている。
前衛で戦う二人をサポートし、対軍戦闘にて力を発揮する。
「まぁ、シータが気にせず魔術を使えるのはー、お兄ちゃんのおかげだけどね~」
「シータの攻撃って強いけどものすごい魔力食うもんな。マスターじゃなかったらとっくにぶっ倒れてるぜ?」
「私たちへの魔力供給と並行しているわけですから、やっぱりすごいです。ラスト様は」
「ありがとう。けど、みんなが一緒だから俺も戦えているんだ。だからお互い様だね」
俺がそういうと、三人とも嬉しそうにほほ笑んだ。
お世辞ではなく、事実その通りだ。
彼女たちは俺の魔力で動き、俺は彼女たちの力を借りることで強くなった。
お互いに支え合い、助け合う。
それが俺たちの関係だろう。
「素敵なことだわ。仲間よりもずっと深い絆で結ばれているのね、あなたたちは……羨ましいわ」
「エリーシュ様?」
「なんでもないわ。お見事だったわよ」
「ありがとうございます。けど、いきなりだったな」
なんの前触れもない襲撃。
三姉妹で一番気配探知に長けているシータが、かろうじて出現と同タイミングで気づいていた。
アルファが言う。
「ギリギリまで気づきませんでした。土に隠れている程度なら、私たちの感知に引っかかるはずなんですが……」
「急だったよなー」
「……たぶん、あれは魔術」
「魔術?」
俺はシータに聞き返す。
シータがうなずいて答える。
「召喚されてた。だから気づくの遅れた」
「つまり最初からいたわけじゃないと……だとしても異常だ。誰かが召喚したとして、みんなの感知にひっかからない距離から魔術を使ったってことになる。そんなこと人間には……」
いや、そうじゃない。
人間でない存在であれば可能だ。
たとえば、そう。
アンデッドたちを操り、生に対して絶対的な死を強要する存在。
「リッチー……?」
アンデッドの王。
死をつかさどる存在を予感する。
数は目視で確認できる程度じゃない。
おそらくアンデッド化したこの街の住民だろう。
今まで地中で隠れていたのか。
それとも……。
いや、思考を巡らせるのは一旦やめだ。
今やるべきことは一つ。
この場を乗り切ることだけ。
「マスター! この数は……明らかに異常だぜ」
「わかってる! 全員戦闘準備! エリーシュ様は俺の後ろに」
「私への気遣いは無用よ」
「エリーシュ様?」
彼女は胸に手を当て、何かまさぐっている。
取り出したのは銀色の十字架のペンダントだった。
「十字架?」
「私が何の備えもなく同行したと思ってるの? ちゃんと自衛の手段は持っているわ」
十字架のペンダントを正面にかざす。
まばゆい光が放たれ、周囲にいたアンデッドたちがひるむ。
光を嫌がり腐って見えないはずの目を手で隠す。
「アンデッド除けの聖なる十字架よ。これを身に着けてる限り、彼らは私には近づけない。でも、近づけないだけで倒すことは難しい。だからそこは任せるわ」
エリーシュはニコリと微笑む。
護衛の必要はない。
彼女の十字架のおかげで、近くに出現したアンデッドの動きが鈍くなった。
「助かります」
これなら俺たちも立ち回りやすい。
数は異常だが、近寄れないなら一方的に殲滅もできる。
「んじゃ先行くぜ!」
最初に突っ込んだのはデルタだった。
彼女はすでに能力を発動。
右手にはアンデッドを滅する聖の能力を付与した魔剣を握っている。
彼女の能力は制限を設けることで様々な効果を付与できる。
聖なる剣で斬り裂かれたアンデッドは、苦しそうな声をあげて消滅していく。
「くっそ数が多いな! マスターたちも手伝ってくれ!」
「わかってる」
彼女と同様に俺も聖なる剣を生成。
これで俺も戦える。
あとは――
「アルファ!」
「はい!」
物理的な手段しかもたない彼女に、聖なる効果を付与したガントレットを生成して渡す。
ガントレットを装着したアルファは嬉しそうな顔をして、俺より早く前へ出る。
「はー!」
彼女のこぶしがアンデッドを吹き飛ばす。
さすがの威力。
効果さえ付与してしまえば、彼女の動きにアンデッドはついていけない。
「俺も負けてられないな」
アンデッドの動きは緩慢だ。
腐った肉体では華麗な動きなどできない。
聖なる武器があれば不死性も怖くはない。
怖いのは、この数だ。
「斬っても斬ってもキリがないな」
「おいマスター……なんか増えてるぞ」
人以外のアンデット。
人間の三倍はある巨人が現れる。
おそらくはトロールかオーガがアンデット化したものだ。
人だけでも面倒なのに、魔物タイプのアンデッドも加わると厄介だな。
「シータ!」
「うん。みんな避けてね」
こういう時、彼女の存在は大きい。
エリーシュの隣で待機していたシータが右手を前へあげる。
人差し指をたて、アンデッドの群れに照準を合わせた。
「――極光」
指先から放たれるこう圧縮した光のエネルギー。
特筆すべきは破壊力ではなく跳弾。
発射されたエネルギーは無機物には効かず、衝突すると反射する。
反射回数はシータが術式を解除しない限り無限。
極光は街の建物や床をつかって乱反射し、次々とアンデッドと消滅させていく。
「残り、お願い」
「ああ」
「サンキュー、シータ!」
「あとは私たちが!」
残りはシータが俺たちに被弾しないよう調整して無事だったアンデッドだ。
数は両手の指で足りるところまで減っている。
十秒もかかわずに、俺たちは残ったアンデッドを駆逐した。
「今ので全部ですね」
「うへ~ こういう強くないけど面倒な相手って疲れるなぁ~」
「シータ、ありがとう」
「苦しゅうなーい」
シータの頭を撫でてあげると、彼女は変なセリフを口にしながら気持ちよさそうに目を細める。
飼い主に頭を撫でられている猫みたいだな。
「今のもオリジナル術式の一つ?」
「そうだよー」
「すごいよな。一つ一つも強力なのに、まだ二十個もあるなんて」
「そういうタイプだからねー」
こんな風にのほほんとダルそうにしているシータだが、彼女の火力は三姉妹ダントツだ。
アルファやデルタと異なる中遠距離型のドールで魔術タイプ。
彼女には二十一のオリジナル術式が備わっていて、どれも桁違いの威力と汎用性をもっている。
前衛で戦う二人をサポートし、対軍戦闘にて力を発揮する。
「まぁ、シータが気にせず魔術を使えるのはー、お兄ちゃんのおかげだけどね~」
「シータの攻撃って強いけどものすごい魔力食うもんな。マスターじゃなかったらとっくにぶっ倒れてるぜ?」
「私たちへの魔力供給と並行しているわけですから、やっぱりすごいです。ラスト様は」
「ありがとう。けど、みんなが一緒だから俺も戦えているんだ。だからお互い様だね」
俺がそういうと、三人とも嬉しそうにほほ笑んだ。
お世辞ではなく、事実その通りだ。
彼女たちは俺の魔力で動き、俺は彼女たちの力を借りることで強くなった。
お互いに支え合い、助け合う。
それが俺たちの関係だろう。
「素敵なことだわ。仲間よりもずっと深い絆で結ばれているのね、あなたたちは……羨ましいわ」
「エリーシュ様?」
「なんでもないわ。お見事だったわよ」
「ありがとうございます。けど、いきなりだったな」
なんの前触れもない襲撃。
三姉妹で一番気配探知に長けているシータが、かろうじて出現と同タイミングで気づいていた。
アルファが言う。
「ギリギリまで気づきませんでした。土に隠れている程度なら、私たちの感知に引っかかるはずなんですが……」
「急だったよなー」
「……たぶん、あれは魔術」
「魔術?」
俺はシータに聞き返す。
シータがうなずいて答える。
「召喚されてた。だから気づくの遅れた」
「つまり最初からいたわけじゃないと……だとしても異常だ。誰かが召喚したとして、みんなの感知にひっかからない距離から魔術を使ったってことになる。そんなこと人間には……」
いや、そうじゃない。
人間でない存在であれば可能だ。
たとえば、そう。
アンデッドたちを操り、生に対して絶対的な死を強要する存在。
「リッチー……?」
アンデッドの王。
死をつかさどる存在を予感する。
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