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私が神様です(聖女視点)④
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「思い出せたのか?」
「まったくでござるよ」
「そうか……思い出せるといいな」
「そうでござるな」
記憶の欠如。
自分が何者かもわからないのは寂しい。
魂で繋がっているからこそ、小次郎の孤独感や寂しさが理解できる。
「ソウジ殿も、早く見つかるとよいでござるな」
「ん? 俺は記憶喪失じゃないぞ」
「違うでござるよ。ソウジ殿の願い……心から信じられる相手に、巡り合えることでござるよ」
「――!」
俺は素振りを止める。
「……なんだよ、それ」
「ソウジ殿に拙者の気持ちがわかるように、拙者にもソウジ殿の気持ちがわかるでござるよ」
「……」
「辛い過去でござるな」
静寂が包む。
まったく、つくづく腹立たしい。
過去までしっかり覗かれて、プライバシーも何もない。
「さっさと記憶取り戻せ! 俺だけ見られるなんて不公平だろ!」
「そうなればよいのでござるが、きっかけもなく」
「くそっ……あーもう、回数忘れたし」
「七十五回目よ」
「――!」
回数を教えてくれた声に振り向く。
後ろにいたのはエリカだった。
「エリカ」
「ふんふんうるさくて目が覚めたわ」
「うっ、すまん」
「冗談よ。普通に目が覚めただけ」
エリカが俺の隣まで歩み寄ってくる。
「素振りなんてして、真面目アピールかしら?」
「誰に対してだよ。ただ暇だったからしてるだけだ」
「そう? いい心がけだわ。私のためにも、もっと強くなってもわらないと困るもの」
「はいはい」
俺は素振りを再開する。
エリカは素振りをしている俺の横で、ちょこんと座った。
「さっきはありがとな」
「何のこと?」
「セミレナのことだよ。上手く説得してくれた」
「見ているほうが窮屈だっただけよ」
「それはすみませんでした。けど、本当に助かった。あのまま神様扱い続けてたら息苦しかった」
「大変ね~ 勇者のフリだけじゃなくて、神様のフリもしないといけないなんて」
クスクスとエリカは笑っている。
相変わらず性格は悪い。
「お前、楽しんでるだろ?」
「助けてあげたのよ? 感謝したらどう?」
「だからお礼を言っただろ? お前こそ、悪夢から救った俺を神様として崇めてもいいんだぞ?」
「絶対に嫌よ」
そうでしょうね。
エリカが俺を崇拝するとか、天地がひっくり返ってもない。
想像もできないしな。
「感謝はしているわ」
「え?」
「助けてもらったことよ。本当に悪夢だったから」
「……」
「何よ?」
「いや、お前が素直に感謝するなんて珍しいなと。熱でもあるのか?」
「殴るわよ」
「暴力は勘弁してくれ」
素振り百回目が終わる。
一旦休憩だ。
俺はエリカの隣に座った。
「みんな凄いよな。自分のことだって大変なのに、勇者パーティーに入ってさ? 他人のために命がけで戦うなんて」
「そうね。私たちとは大違いだわ」
「そうですね……って、自分もかよ」
「私は自分のために旅に出たのよ? 魔王を倒すのも、私が運命の相手に出会うための過程に過ぎないわ」
彼女の目的は、運命の相手に出会うこと。
魔王を倒せば勇者と結婚しなければならないが、俺が偽者であることを利用し、それを回避しようとしている。
この旅は彼女にとって、結婚相手を探すものでもあった。
「国民が聞いたら絶句しそうなセリフだな」
「勝手にすればいいのよ。王族だから国民のために身を削る……それは当然のことだけど、だからって自分の幸せを求めちゃいけないとは思わないわ」
「それはそうだ。大切なのは自分だよな」
「よくわかってるじゃない」
「似たようなものだからな」
俺も、自分が生き残るために勇者のフリをする道を選んだ。
信じてくれている国民に誇れるような立場じゃない。
そもそも偽者だしな。
「似た者同士、なのかもな」
「偽物の嘘つきと一緒にしないでもらえるかしら?」
「くっ、そこは少しでいいから同調しろよ」
「ふふっ、嫌よ? 私が気持ちを重ねるのは、運命の相手だけだもの」
「そうですか」
相変わらず可愛げのない。
それをエリカらしいと思うほどには、この関係にも慣れてきた。
「見つかるといいな。運命の相手」
「あなたも手伝うのよ」
「なんで俺が……」
「当然でしょ? 私に逆らえない立場なんだから」
それはそう。
彼女に弱みを握られている身として、命令には逆らえない。
首輪を繋がれているような状態だ。
「魔王を倒して、あたなが偽者だと明かしても、私にそういう相手がいないと強引に結婚させられるかもしれないわ。だから相手探しは必須なのよ」
「強引って、嫌なのに無理やり?」
「そういうものよ。王族に……自由なんてないわ」
エリカは立ち上がる。
「王族に生まれた以上、使命や立場に縛られることから逃れられない。ならせめて、添い遂げる相手食らい選びたいの」
「……」
その言葉から、彼女の悲痛な叫びが聞こえる気がした。
俺たち一般人にはわからない苦労が、彼女にはあるのだろう。
「運命の相手を見つけるためなら、私はなんだってするわ。協力してもらうわよ」
「俺にできる範囲でおねがいします」
「逃がさないわよ?」
「逃げないって。そっちこそ、運命の相手が途中で見つかったらどうするんだ?」
「その時はそうね。魔王はあなたに任せるわ」
うわっ……ひどいな。
国民や国王が聞いたら泣くぞ。
「冗談よ」
「ギリギリまで見つかりませんように祈ろう」
「勝手に祈らないでくれる? 殴るわよ」
「すぐ暴力振るおうとするのはよくないと思う!」
「あなたは特別よ」
「嬉しくない特別だな!」
そう言いながら、この世界で唯一俺の素性を知っているエリカとの会話は、変に気を使わなくていいから楽だと思った。
息がつまる旅路の中で、彼女と二人だけの時間は、ある意味で特別だった。
きっと、彼女も……。
「まったくでござるよ」
「そうか……思い出せるといいな」
「そうでござるな」
記憶の欠如。
自分が何者かもわからないのは寂しい。
魂で繋がっているからこそ、小次郎の孤独感や寂しさが理解できる。
「ソウジ殿も、早く見つかるとよいでござるな」
「ん? 俺は記憶喪失じゃないぞ」
「違うでござるよ。ソウジ殿の願い……心から信じられる相手に、巡り合えることでござるよ」
「――!」
俺は素振りを止める。
「……なんだよ、それ」
「ソウジ殿に拙者の気持ちがわかるように、拙者にもソウジ殿の気持ちがわかるでござるよ」
「……」
「辛い過去でござるな」
静寂が包む。
まったく、つくづく腹立たしい。
過去までしっかり覗かれて、プライバシーも何もない。
「さっさと記憶取り戻せ! 俺だけ見られるなんて不公平だろ!」
「そうなればよいのでござるが、きっかけもなく」
「くそっ……あーもう、回数忘れたし」
「七十五回目よ」
「――!」
回数を教えてくれた声に振り向く。
後ろにいたのはエリカだった。
「エリカ」
「ふんふんうるさくて目が覚めたわ」
「うっ、すまん」
「冗談よ。普通に目が覚めただけ」
エリカが俺の隣まで歩み寄ってくる。
「素振りなんてして、真面目アピールかしら?」
「誰に対してだよ。ただ暇だったからしてるだけだ」
「そう? いい心がけだわ。私のためにも、もっと強くなってもわらないと困るもの」
「はいはい」
俺は素振りを再開する。
エリカは素振りをしている俺の横で、ちょこんと座った。
「さっきはありがとな」
「何のこと?」
「セミレナのことだよ。上手く説得してくれた」
「見ているほうが窮屈だっただけよ」
「それはすみませんでした。けど、本当に助かった。あのまま神様扱い続けてたら息苦しかった」
「大変ね~ 勇者のフリだけじゃなくて、神様のフリもしないといけないなんて」
クスクスとエリカは笑っている。
相変わらず性格は悪い。
「お前、楽しんでるだろ?」
「助けてあげたのよ? 感謝したらどう?」
「だからお礼を言っただろ? お前こそ、悪夢から救った俺を神様として崇めてもいいんだぞ?」
「絶対に嫌よ」
そうでしょうね。
エリカが俺を崇拝するとか、天地がひっくり返ってもない。
想像もできないしな。
「感謝はしているわ」
「え?」
「助けてもらったことよ。本当に悪夢だったから」
「……」
「何よ?」
「いや、お前が素直に感謝するなんて珍しいなと。熱でもあるのか?」
「殴るわよ」
「暴力は勘弁してくれ」
素振り百回目が終わる。
一旦休憩だ。
俺はエリカの隣に座った。
「みんな凄いよな。自分のことだって大変なのに、勇者パーティーに入ってさ? 他人のために命がけで戦うなんて」
「そうね。私たちとは大違いだわ」
「そうですね……って、自分もかよ」
「私は自分のために旅に出たのよ? 魔王を倒すのも、私が運命の相手に出会うための過程に過ぎないわ」
彼女の目的は、運命の相手に出会うこと。
魔王を倒せば勇者と結婚しなければならないが、俺が偽者であることを利用し、それを回避しようとしている。
この旅は彼女にとって、結婚相手を探すものでもあった。
「国民が聞いたら絶句しそうなセリフだな」
「勝手にすればいいのよ。王族だから国民のために身を削る……それは当然のことだけど、だからって自分の幸せを求めちゃいけないとは思わないわ」
「それはそうだ。大切なのは自分だよな」
「よくわかってるじゃない」
「似たようなものだからな」
俺も、自分が生き残るために勇者のフリをする道を選んだ。
信じてくれている国民に誇れるような立場じゃない。
そもそも偽者だしな。
「似た者同士、なのかもな」
「偽物の嘘つきと一緒にしないでもらえるかしら?」
「くっ、そこは少しでいいから同調しろよ」
「ふふっ、嫌よ? 私が気持ちを重ねるのは、運命の相手だけだもの」
「そうですか」
相変わらず可愛げのない。
それをエリカらしいと思うほどには、この関係にも慣れてきた。
「見つかるといいな。運命の相手」
「あなたも手伝うのよ」
「なんで俺が……」
「当然でしょ? 私に逆らえない立場なんだから」
それはそう。
彼女に弱みを握られている身として、命令には逆らえない。
首輪を繋がれているような状態だ。
「魔王を倒して、あたなが偽者だと明かしても、私にそういう相手がいないと強引に結婚させられるかもしれないわ。だから相手探しは必須なのよ」
「強引って、嫌なのに無理やり?」
「そういうものよ。王族に……自由なんてないわ」
エリカは立ち上がる。
「王族に生まれた以上、使命や立場に縛られることから逃れられない。ならせめて、添い遂げる相手食らい選びたいの」
「……」
その言葉から、彼女の悲痛な叫びが聞こえる気がした。
俺たち一般人にはわからない苦労が、彼女にはあるのだろう。
「運命の相手を見つけるためなら、私はなんだってするわ。協力してもらうわよ」
「俺にできる範囲でおねがいします」
「逃がさないわよ?」
「逃げないって。そっちこそ、運命の相手が途中で見つかったらどうするんだ?」
「その時はそうね。魔王はあなたに任せるわ」
うわっ……ひどいな。
国民や国王が聞いたら泣くぞ。
「冗談よ」
「ギリギリまで見つかりませんように祈ろう」
「勝手に祈らないでくれる? 殴るわよ」
「すぐ暴力振るおうとするのはよくないと思う!」
「あなたは特別よ」
「嬉しくない特別だな!」
そう言いながら、この世界で唯一俺の素性を知っているエリカとの会話は、変に気を使わなくていいから楽だと思った。
息がつまる旅路の中で、彼女と二人だけの時間は、ある意味で特別だった。
きっと、彼女も……。
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