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第一章 転生したけど死にそう

転生したら人生オワタ④

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 いきなり天使が駆け寄ってきて、俺の胸倉をつかんできた。
 突然のことで驚く俺の首を勢いよく絞める。

「く、苦しい……」
「最悪中の最悪ですよ! これじゃ私の計画が! 女神への道が遠のくどころじゃないですよ!」
「な、何言って……」

 本気で苦しい。
 女なのに俺より腕力はあるんじゃないのか?
 胸倉をつかまれ呼吸困難になる俺の声は、彼女には届いていなかった。
 取り乱した天使は涙目で叫ぶ。

「嫌ですよ私! こんな童貞と運命を共にするなんて! 無効! こんなの無効ですから!」
「い……いい加減にしろおおおおおおおおお!」
「ぶへっ!」

 我慢と呼吸の限界に達した俺は、思いっきり女神の腹に前蹴りを食らわせた。
 狙ったわけじゃないけど鳩尾に入ったらしい。
 女神は後ろに吹き飛んで、苦しそうにお腹を押さえる。

「ぐ、ぐ……天使のお腹に……蹴りを入れるなんて……」
「ごほっ、ごほっ! 関係あるか! こっちは殺されかけてるんだよ!」

 ようやく首絞めから解放されて、新鮮な空気を目いっぱいに吸い込む。
 また首を絞められないように距離をとり、身構えながら乱暴天使に質問する。

「さっきの装置なら正常に作動したんじゃないのか? 俺はなんともないぞ!」
「それが困るんですよ! いっそ不具合でも起きればよかったのにぃ……うぅ……」
「えぇ……」

 今度は泣きだしたんだが……。
 なんだこいつ?
 情緒不安定すぎるだろ。
 天使ってみんなこんな感じなのか?
 俺の中のイメージが崩れ去る。

「なんでそんなに悲しんでるんだよ。何か問題あったのか?」
「大ありですよ! なんですかあの目標は!」
「え、いや、この世界での目標だろ? お前が書けっていたんじゃないか」
「問題は内容ですよ! あんな目標無理に決まってるじゃないですか!」

 俺はムカッとした。
 確かに俺自身、かなりハードルが高い目標だとは思っている。
 無茶な目標だ。
 ただ、それを他人から無理だと断言されるのは腹が立つ。
 
「そんなの、やってみないとわからないだろ?」
「わかりますよ! 二十年以上童貞だった人が一か月で卒業できるわけないじゃないですか!」
「ぬっ! う、うるさいな! お前には関係ないだろ!」
「関係大ありですよ! あなたが目標達成できないと、一緒にペナルティーを受けるんですから!」

 天使の口から聞き慣れない言葉が飛び出した。

「ぺ、ペナルティ?」
「そうですよ!」
「え? 目標達成できないとペナルティーがあるの?」
「あるに決まってるじゃないですか!」
「聞いてねーぞ! そういうのはちゃんと説明しろよ!」
「忘れてたんですよぉ!」

 忘れてんじゃねーよ馬鹿野郎!
 ペナルティー?
 罰があるっていうのか?
 いや待て!
 問題はペナルティーその者じゃなく、その内容だ。

「ペナルティーの内容はどこでわかるんだ?」
「そこに書いてありますよ!」

 怒れる天使が指をさしたのは、彼女がいじっていた操作盤だった。
 勝手に見ろと言い放つ天使に苛立ちながらも、俺は操作盤を覗き込む。
 無茶な目標とはいえ、大それたことはしていない。
 しかも俺は善行の末に転生させてもらったんだ。
 ペナルティーとか言っても、腹筋百回とかそのくらいだろ。

 短期目標:童貞卒業。
      未達成のペナルティー【一生独身】
 中期目標:嫁を100人作る!
      未達成のペナルティー【死亡】
 長期目標:自分の国を作る。
      未達成のペナルティー【世界の裏側で強制労働(永遠)】

「おいクソ天使! なんだこのペナルティー!」
「私に言わないでくださいよ! 目標を設定したのは自分じゃないですか!」
「俺だってこんなペナルティーがあるならもっと軽めにしたわ!」

 なんだよこのふざけたペナルティーは!
 一か月童貞だっただけで一生独身?
 しかもその時点で嫁はできないから、一年後に死亡確定じゃねーか!

「こんなの無効だ! ただちにやり直しを要求する!」
「それができたらとっくにやってますよ! できないから嘆いてるんじゃないですか! このクソ童貞の夢見がち引きニート!」
「こっ! 引きこもりは事実だがニートじゃない! ちゃんと株で稼いでたから!」
「関係ありませんよ! こんなクソショボ童貞のせいで、私の人生も終わりですぅ……」

 クソ天使は本気で泣き始めた。
 泣きたいのはこっちだ。
 一か月以内に童貞卒業しないと死ぬんだぞこっちは!

「ん? てかなんでお前まで嘆いてんだよ。お前には関係ないだろ?」
「あるから困ってるんですよ!」
「は?」
「あのですね? 私たち天使はただの案内役でここにいるわけじゃないんです! 中期目標の達成までサポートするのが天使としての私の役目で、もし失敗すると同じペナルティーを私も受けるんです!」
「え? じゃあつまり……」
「そうですよ! あなたが童貞のままだと私も死ぬんです!」

 ま、マジか……。
 俺の童貞卒業に、天使の命までかかってるってこと?
 責任重大過ぎるだろ。

「だったら尚更しっかり説明しろよ! なんてことしてくれてんだ!」
「こっちのセリフですよ!」

 天使と俺でいがみ合っていると、俺たちがいた部屋から鐘の音が鳴り響く。
 その音に天使がハッと気づく。

「も、もう出発の時間ですか!」
「出発? ここはもう異世界じゃないのか?」
「ここは天界の孤島です! やることが終わったら、それぞれの目標の難易度にあった場所に強制転移されるんですよ!」
「おい、お前今なんて言った?」

 それぞれの目標の難易度にあった場所……だとぉ!?
 もうすでに落ちが見える。
 達成できなきゃ死ぬレベルの目標だぞ。
 難易度は劇高だ。

「一応聞くが、難易度が高い目標を掲げた場合、どこに飛ぶんだ?」
「ランダムだから私にもわかりませんよ! ただ間違いなく……安全な場所じゃないですね」
「……終わった」
「終わりました」

 怒りを通り越して嘆き、互いに諦めモードのまま強制転移が発動した。
 光に包まれてどこかへ飛ぶ。
 次に視界が開けた時、目の前に広がっていたのは……。

「どこだよここぉ!」
 
 俺と天使は森の中にいた。
 しかも見るからに危険そうな、元の世界じゃ見たことのない植物だらけだ。

「ちょっ、何叫んでるんですか!」 
「うるせぇ! こんなもん叫ばずにいられるか!」
「ダメですよ! どう見てもここモンスターの生息地ですよ!」
「え、モンスター……?」

 俺の叫び声に反応して、がさがさと周囲から音が近づく。
 忘れていた。
 考えていなかった。
 ここはすでに異世界、俺が知らない世界だということに。

「に、逃げろおおおおおおおおおおおおおお!」
「ひぃい! なんで私までぇ!」
「お前天使だろ! 飛べないのかよ!」
「無理ですよ! 下界に降りるときに力は大幅に制限されるんですから!」
「つかえねええええええええええええええ!」
 
 こうして、俺の新しい人生は最悪なスタートを迎えた。
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