辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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強欲の章

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 バタンと、道場の扉が開く。
 現れたのは美しい黄色い髪と青い瞳が特徴的な女の子だった。
 彼女は俺を見つけると、花が咲いたように笑う。

「おはようございます! アンセル先生!」
「おはよう。リーナ。今朝も早起きで感心するよ」
「そんな。先生のほうがずっと早起きじゃないですか」
「俺は日課だからね。小さい頃から師匠に教えられて、身体にしみついたんだよ。太陽が昇る前に目が覚める」
「過酷な修行を乗り越えた成果ですね! さすがです、先生!」

 この元気で健康的な女の子は、リーナという俺の弟子の一人だ。
 年齢は今年で十七歳。
 歳の割には礼儀正しくて落ち着いているし、性格も明るくて真面目。
 料理が苦手な俺の代わりに、食事は彼女が用意してくれる。
 そして他にも……。

「二人は?」
「はい。もう起きています。スピカは一緒に――」
「せんせー!」
「おっと!」

 リーナの隣からもの凄い勢いで何かが飛び出し、座っていた俺に飛び掛かってくる。
 勢いは凄いが敵意はない。
 むしろ好意的に、俺の身体に抱き着いたのは、猫の尻尾と耳が特徴的な赤い髪の女の子だ。

「はぁ、せんせーの匂い……落ち着く」
「こらスピカ! いきなり飛びつくなんて先生に失礼でしょ!」
「だって我慢できなかったんだもーん」

 そう言いながらスピカは俺の胸に顔をスリスリする。
 獣人である彼女は、動物の特徴を兼ね備えた種族だ。
 それ故に嗅覚が優れている。
 
「スピカ、リーナの言う通りだよ。いきなり飛びつくのは危ないからやめなさい」
「うぅ……ごめんなさい、せんせー」
「よし、反省できるいい子だ」
「羨ましい……」

 俺はスピカの頭を優しく撫でてあげた。
 かつて師匠がしてくれたように。 
 スピカは気持ちよさそうな顔でご満悦、それを見ていたリーナは羨ましそうだった。
 朝からとても賑やかだ。
 こんなにのんびりしていると、もう一人が心配してやってくるだろう。
 ほら、足音が響いている。

「ちょっと二人とも! 何やってるのよ」
「シアンも来た」
「はぁ、またなの? もう!」

 彼女はそそくさと俺とスピカに歩み寄り、スピカの首根っこを掴んで俺から引きはがす。

「うえ!」
「いい加減にしなさいよ。毎朝ひっつかないと死ぬ病気なわけ?」
「うぅ、近いものがある」
「師匠も! スピカに甘すぎよ!」
「すまないね、シアン。いつも心配をかけて」
「べ、別に心配とかしてないから!」

 ふんっと、プンプン怒りながら顔を逸らした女の子。
 彼女はシアン。
 とんがった耳と透き通るように綺麗な白い肌でわかる通り、彼女はエルフ族だ。
 見た目こそ二人に近いけど、実年齢は俺よりも上で、七十歳くらいらしい。
 女性に年齢を尋ねるのはマナー違反と言われたから、詳しくは聞いていない。
 長命なエリフにとっては、七十歳は人間の十代後半と変わらない感覚だそうだ。
 三人の中で一番しっかり者の性格で、日常生活でも修行でも、二人を引っ張ってくれている。
 身長ならリーナのほうが上だけど、彼女たちを三姉妹で例えるなら、シアンが長女で間違いない。

「ほら! 朝食が冷めちゃうから行くわよ、師匠!」
「そうだね。朝食にしようか」
「はい!」
「わーい! せんせーとご飯だー」

 この三人と一緒に、俺は優れた魔術師として深淵へたどり着くため修行を続けている。
 いなくなってしまった師匠の代わりに。
 煩悩を捨てる。
 欲を抱かず、制御して生きる。
 魔術師として完成するために。
 大賢者の名に恥じない魔術師となるために。

 煩悩を捨てる……。

「いただきます! 先生、いっぱい食べてくださいね!」
「スピカも食べるー! せんせー食べさせてぇ」
「ちょっとスピカ! 食事の場所でくっつかないの! 師匠もちゃんと注意して!」
「……」

 煩悩……煩悩……。

 ――いや、無理だろ。

 目の前に可愛い女の子たち。
 それぞれに個性があり、可愛さのベクトルが異なる彼女たちが、俺に懐いている彼女たちが……ここにいる。
 男としてこの状況、何も思わないはずがない!

 煩悩を捨てる?
 簡単に言ってくれるなよ!

 まずリーナ!
 なんだそのだらしない胸は!
 十七歳とは思えないほどたわわに実った確実を見せつけてくるんじゃない!
 嫌でもおっぱいに目が行くじゃないか!

 スピカも毎日抱き着いてくるを止めてくれ!
 リーナに隠れてわかりにくいが、スピカも小柄な体格に似合わない大きな胸をしている。
 しかも動物が飼い主にじゃれつくように、無自覚に押し付けてくるんだぞ?
 男の身にもなってくれ!

 シアン、確かに君が一番真面目だし、二人に対しても厳しい。
 だけど気づいていないのか?
 エルフだから仕方がないとかいう理由で、布面積が極端に少ない服を着るのはやめてもらいたい!
 なんだその局部を隠しているだけみたいな服は!
 もはや服じゃなくて布と紐じゃないか。
 二人に比べてスレンダーな体系も、そのきわどい服装がよりエロさを増している。
 
 そう、三人とも気づいていない。
 態度が、言葉が、服装が、常に俺を誘惑し続けているということに!

「ふぅ……」

 深淵への道のりは険しい。
 わかっていたことだけど、ここ最近特にそう感じている。
 師匠、あなたの教えの通り、俺は頑張っていますよ。
 
 まぁ、あんたは女と遊んで借金こさえて、挙句の果てに弟子の俺に全て押し付けて逃げやがったけどな!
 悟りを開いてこれを許せって?
 ふざけんなよ!
 あれだけ煩悩を捨て悟りを開き、共に頑張ろう敵なこと言ってたくせに! 
 実は裏で遊びまくってたってぇ?
 やっぱり男じゃないか!
 俺は絶対に、師匠のように欲に負けたりはしない!
 せっかく一〇八の煩悩を全て抑え込み、大賢者と呼ばれた英雄の術式を継承したというのに、ここまできて全てを失うものか!

「どうかしましたか? 先生」
「具合悪いの? せんせー」
「ちょっと、しっかりしなさいよ。私たちの師匠でしょ」
「……ああ、わかっているよ」

 絶対に耐えてみせるぞ!
 この天然お色気地獄を耐え抜いてみせる!
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