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35 助けが必要ないと言ってもらえて良かったわ
ワミーからの手紙は、ルズマ公爵家に頻繁に出入りするようになったアンジェリカをやっかむ内容だった。
アンジェリカの悪口がひたすら書かれてあり、ルズマ公爵から離れろという言葉が何度も繰り返されていた。
自分のせいで怪我を負ってしまったメイドには詫びを入れ、またアンジェリカ宛の匿名の手紙が届いても開けなくていいと念押しした。リーアムにもメイドの件で謝罪をすると、該当の人物には手当を出すことや、今後の対策を練ることなどをアンジェリカに話した。
「本人も匿名という怪しい手紙にも拘わらず、何の警戒も無しに開けてしまったことを後悔していた。君が思い悩む必要はない」
「ありがとうございます。それから、ワミーと決着をつけようと思いますので、二日ほどお休みをいただいても良いでしょうか」
「かまわない。というか、仕事をしすぎなんだよ。二日と言わずにもっと休めばいい」
(リーアム様に言われたくないわ。私はちゃんと睡眠の時間を取っているけれど、彼はほとんど寝ていないもの)
アンジェリカは心の中でそう思った後に一礼して答える。
「お気遣いに感謝いたします。ですが、仕事をしていないと落ち着かないのです」
「俺も人のことは言えないが、君のほうが仕事中毒のようだな」
「申し訳ございません」
「謝るくらいなら自分の体を大事にしてくれ」
「では、今度のお休みは一日だけ多く取らせていただきますね」
「戻る前に渡しておきたいものがある」
「何でしょうか」
アンジェリカが不思議そうにすると、リーアムは机の端に置いてあった呼び鈴を鳴らす。メイドが部屋に入って来ると「あれを持ってきてくれ」と指示をした。
(あれって何かしら)
アンジェリカには理解ができなかったが、メイドは聞き返すこともなくうなずくと部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。
「こちらでよろしいでしょうか」
「そうだ、ありがとう。アンジェリカに渡してくれ」
「承知いたしました」
メイドは笑顔でうなずくと、手にしている物をアンジェリカに手渡す。
「こ、これって……」
アンジェリカに手渡されたのは、リーアムに預けていたシルバートレイだった。
******
それから二日後、約束の時間である昼過ぎにワミーがデイル男爵家にやってきた。応接室に通されたワミーは、ライキ伯爵家よりも質素に見える部屋を見渡し、鼻で笑う。
「アンジェリカ様はこんな家に住まないといけなくなるくらい落ちぶれちゃったのね」
「ここはライキ伯爵家なんかよりもとても住みやすい場所よ。あなたもここに住んでみればわかるわ」
ワミーに話しかけたのは、アンジェリカと共に部屋に入ったルマだった。
「お母様! どうして私を置いて逃げたんですか!? お兄様はとても怒っていて、お母様とアンジェリカ様をライキ伯爵家に戻らせるという条件で外へ出してくれたんです。一緒に帰りましょう!」
ワミーが立ち上がって訴えると、ルマは眉尻を下げて首を横に振る。
「私はもうあの家には戻らないわ。ワミー、もういい加減に馬鹿なことをするのはやめてちょうだい。あなたを助けることができなくなってしまう」
「馬鹿なことなんてしていないわ。だから、助けてもらう必要はありません」
ワミーが素敵な笑みを浮かべると、ルマはそれ以上は何も言わなかった。
「助けが必要ないと言ってもらえて良かったわ。確認するけれど、この手紙を送ってきたのはあなたでしょう?」
アンジェリカが匿名で届いた封筒を見せながら問いかけると、ワミーは一瞬動揺したが、何事もなかったかのように微笑む。
「それって何の手紙? 私は別にアンジェリカ様にそんな手紙を送った覚えはないわ」
「別に私宛とは言っていないけど、どうしてそう思ったの?」
「そ、それは……」
「まあいいわ。先にこの件で話したいことがあるの」
アンジェリカがティアトレイを見せると、ワミーの表情が豹変した。
「それは私のものよ!」
奪い取ろうと伸ばしてきたワミーの手を、アンジェリカはシルバートレイで叩いて答えた。
アンジェリカの悪口がひたすら書かれてあり、ルズマ公爵から離れろという言葉が何度も繰り返されていた。
自分のせいで怪我を負ってしまったメイドには詫びを入れ、またアンジェリカ宛の匿名の手紙が届いても開けなくていいと念押しした。リーアムにもメイドの件で謝罪をすると、該当の人物には手当を出すことや、今後の対策を練ることなどをアンジェリカに話した。
「本人も匿名という怪しい手紙にも拘わらず、何の警戒も無しに開けてしまったことを後悔していた。君が思い悩む必要はない」
「ありがとうございます。それから、ワミーと決着をつけようと思いますので、二日ほどお休みをいただいても良いでしょうか」
「かまわない。というか、仕事をしすぎなんだよ。二日と言わずにもっと休めばいい」
(リーアム様に言われたくないわ。私はちゃんと睡眠の時間を取っているけれど、彼はほとんど寝ていないもの)
アンジェリカは心の中でそう思った後に一礼して答える。
「お気遣いに感謝いたします。ですが、仕事をしていないと落ち着かないのです」
「俺も人のことは言えないが、君のほうが仕事中毒のようだな」
「申し訳ございません」
「謝るくらいなら自分の体を大事にしてくれ」
「では、今度のお休みは一日だけ多く取らせていただきますね」
「戻る前に渡しておきたいものがある」
「何でしょうか」
アンジェリカが不思議そうにすると、リーアムは机の端に置いてあった呼び鈴を鳴らす。メイドが部屋に入って来ると「あれを持ってきてくれ」と指示をした。
(あれって何かしら)
アンジェリカには理解ができなかったが、メイドは聞き返すこともなくうなずくと部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。
「こちらでよろしいでしょうか」
「そうだ、ありがとう。アンジェリカに渡してくれ」
「承知いたしました」
メイドは笑顔でうなずくと、手にしている物をアンジェリカに手渡す。
「こ、これって……」
アンジェリカに手渡されたのは、リーアムに預けていたシルバートレイだった。
******
それから二日後、約束の時間である昼過ぎにワミーがデイル男爵家にやってきた。応接室に通されたワミーは、ライキ伯爵家よりも質素に見える部屋を見渡し、鼻で笑う。
「アンジェリカ様はこんな家に住まないといけなくなるくらい落ちぶれちゃったのね」
「ここはライキ伯爵家なんかよりもとても住みやすい場所よ。あなたもここに住んでみればわかるわ」
ワミーに話しかけたのは、アンジェリカと共に部屋に入ったルマだった。
「お母様! どうして私を置いて逃げたんですか!? お兄様はとても怒っていて、お母様とアンジェリカ様をライキ伯爵家に戻らせるという条件で外へ出してくれたんです。一緒に帰りましょう!」
ワミーが立ち上がって訴えると、ルマは眉尻を下げて首を横に振る。
「私はもうあの家には戻らないわ。ワミー、もういい加減に馬鹿なことをするのはやめてちょうだい。あなたを助けることができなくなってしまう」
「馬鹿なことなんてしていないわ。だから、助けてもらう必要はありません」
ワミーが素敵な笑みを浮かべると、ルマはそれ以上は何も言わなかった。
「助けが必要ないと言ってもらえて良かったわ。確認するけれど、この手紙を送ってきたのはあなたでしょう?」
アンジェリカが匿名で届いた封筒を見せながら問いかけると、ワミーは一瞬動揺したが、何事もなかったかのように微笑む。
「それって何の手紙? 私は別にアンジェリカ様にそんな手紙を送った覚えはないわ」
「別に私宛とは言っていないけど、どうしてそう思ったの?」
「そ、それは……」
「まあいいわ。先にこの件で話したいことがあるの」
アンジェリカがティアトレイを見せると、ワミーの表情が豹変した。
「それは私のものよ!」
奪い取ろうと伸ばしてきたワミーの手を、アンジェリカはシルバートレイで叩いて答えた。
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