【完結】皆さまにお尋ねしたいことがございます

風見ゆうみ

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36 なんてことを言うのよ

「リーアム様が調べてくれたけれど、この所有者はあなただっだみたいね」
「そうよ! だから返してください!」

 ティアトレイで叩かれた手の甲をさすりながら、ワミーはアンジェリカを睨んだ。

「これ、どうやって手に入れたの?」
「それは……」

 ティアトレイの話をすることになると思っていなかったワミーは、この質問に対する都合の良い答えを用意できていなかった。
 言葉を詰まらせたが、咄嗟に頭の中に浮かんだ作り話を始める。

「プレゼントにもらったんです。アンジェリカ様は知らないでしょうけれど、私は結構モテるんですよ」
「あなたが男性に人気があるということはわかっているわ。ヒウロだってあなたに夢中になっていたしね」
「なら納得できたでしょう? それは私に思いを寄せる誰かがくれたものです。アンジェリカ様が持っていていいものではないわ」

 ワミーが勝ち誇った笑みを浮かべた時、談話室に新たな人物が入ってきた。

「製造番号からそのティアトレイについて調べましたが、誰かがあなたに贈ったものではありません。あなた自身が購入したことになっています」

 現れたのはデイル姿のリーアムだった。彼がここに来ると聞いていなかった、アンジェリカは驚いた顔をして彼を見つめた。そんなアンジェリカを見たデイルは口元に笑みを浮かべる。

「あなたのことですから大丈夫だとわかっていましたが、ジッとしていられなかったんです。あとでちゃんと謝りますから、今は僕が話をしてもいいですか」
「かまいません。それから、謝っていただかなくても結構ですよ」
「ありがとうございます」

 デイルは軽く一礼した後、訝しげな顔で彼に視線を送るワミーに問いかける。

「ティアトレイの購入するには身元確認などが必要です。そのことをお忘れですか?」
「……知っているわ」

 目の前に立っている冴えない男がリーアムだと気づいていないワミーは本性を見せる。

「リーアム様の側近だからって男爵のくせに偉そうに言わないでよ! あなたの調査が間違っているだけなんじゃないの!?」
「いいえ。間違ってなどいません」
「信じられないわ。絶対に嘘よ! あなたがアンジェリカ様と手を組んで、私を陥れようとしているってリーアム様に話してやるんだから!」

 デイル姿のリーアムを指差して叫ぶワミーを見て、アンジェリカは憐れみの目を向けた。ため息を吐いたリーアムは、ルマに話しかける。

「三人で話をしたいので退出願えますか」
「わかりました」

 ルマは扉に向かって歩き出したが、足を止めて振り返った。

「ワミー、正直なことを話してちょうだい。リーアム様はデイル様を信用している。そんな人を嘘つき呼ばわりなんてしたら、リーアム様に嫌われてしまうわよ。それから、悪いことをしたんだから、ちゃんと罪は償うべきよ」
「お母様までがアンジェリカ様の味方に付くなんて思ってもいませんでした。冷たい母親ですね!」
「なんてことを言うのよ。ルマ様はあなたのことを思って言っているんじゃないの!」

 ルマの代わりにアンジェリカが言い返したが、反応はせずにワミーはルマに手を振る。

「もうお母様に用はありません。さようなら」
「……さようなら、私の娘」

 ルマは目に涙をためてそう応えると、談話室を出ていった。

(自分が嘘をついていることをわかっているはずなのに、よくもルマ様にあんな酷いことを言えるものだわ)

 アンジェリカがティアトレイを握りしめて怒りを抑えていると、リーアムが話しかけてきた。

「アンジェリカさん。彼女はまったく悪いことをしたという気はないようです。それに、ワミー嬢はあなたを攻撃しようとしました。最悪な人間性の彼女を野放しにするわけにはいきません。このまま騎士隊に捕まえてもらいましょう」
「素直に言うことを聞くでしょうか」
「ですから、僕の本当の姿を見せたいと思います。男爵だから聞いてもらえないようですしね」
「承知いたしました」

 アンジェリカはうなずき、またワミーに視線を戻した。

「本当の姿ですって? どうせ……っ」

 口だけだと思って茶化そうとしたワミーだったが、口をパクパクと動かすだけで、言葉を発することができなかった。

 髪をかき上げて、はっきりと顔を見せたデイルを見て、さすがのワミーも彼がリーアムであることに気がついたからだった。

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