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クズーズざまぁ編+番外編

第53話 夜遅くの訪問者

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 エイナの行方がわからなくなってから、10日以上過ぎた。

 生きているのかいないのか、それさえもわからない。

 でも、双子だからかどうなのかはわからないけれど、まだ、エイナは生きているという気がしていた。

 会いたいかどうかは別として、どこかで生きてくれていれば良いと思う。
 もちろん、誰かに迷惑をかける事なく、真っ当な人物になって生きていてほしい。

 クズーズ殿下は除籍とまではいかなかったけれど、城の敷地内にある別邸で大人しく与えられた仕事をしていて、私に接触してくる事もなかった。

 もちろん、私に接触できないようにアレク殿下が色々と手配をしてくれているのかもしれない。

 現在の両陛下は、アレク殿下が公務に慣れてきたら、早いうちに退位され、クズーズ殿下を連れて辺境の地にある王族が所有している屋敷に身を移されるとの事だった。

 といっても、私もアレク殿下も覚えないといけない事がいっぱいで、まだお2人に頑張ってもらわないと辛い状況ではあるから、近い未来というわけでもなさそうだった。

 王太子妃って、王妃になるよりはマシかと思っていたら、そうでもなかった。
 王妃陛下1人では公務が多すぎて対処できない為、当たり前だけれど、王太子妃の私が代わりに式典に出席したりしなければならなかった。

 もちろん、それは近場ばかりではなく、泊まりがけで出かけないと行けない場所だったりして、アレク殿下との新婚生活がゆっくり楽しめたのは最初の5日間くらいだった。

 特にここ最近は、お互いが遠出する事が多く、すれ違いの生活になってきていた。

 エイナの行方を調べて下さるようになってからは、仕事を増やしてしまったのか、余計に顔を合わせる機会が少なくなった。

 かといって、それを寂しいと思える時間もないほど、私も忙しかった。

 ここ最近は大きなベッドで1人で眠ることが普通になっていたのもあり、アレク殿下の予定の事など忘れて、先に眠ってしまっていると、部屋の外が急に騒がしくなった。

 アレク殿下が入ってきたのかしら…?

 そう思い、ゆっくりと目を開けて身を起こそうとしたけれど、騎士の叫ぶ声が聞こえた。

「クズーズ殿下! 城内に入る事は許されておられるかもしれませんが、ここはアレク殿下とエリナ様の寝室です! お2人の許可なく入る事は許されません!」
「うるさい! エリナと少しだけ話をしたいんだ!」
「でしたら、日を改めていただけませんか!」

 クズーズ殿下が来ているの!?

 アレク殿下が後から入って来られると思って鍵を締めていなかった事を思い出して焦る。

「わかっているのか!? 僕は王子なんだぞ!?」
「例え殿下であっても、王太子夫妻の寝室に勝手に入る事は許されません!」

 その声を聞いて、慌ててベッドから下りて部屋の明かりをつけて扉に駆け寄り、部屋の鍵を締めてから言う。

「クズーズ殿下、本日はお引き取り下さい。いくら義理の兄とはいえ、この時間に来られるのは非常識ではありませんか!?」
「エリナ! 僕の話を聞いてほしい!」
「約束もせずに、しかもこんな非常識な時間にやって来られる方とお話する事なんてありませんわ! お帰り下さい!」
「嫌だ! 僕は帰らないぞ! 今はアレクはいないんだろう!? アレク抜きで話をしたいんだ! 僕が来た事をどうせアレクに話すんだろう? そうしたら、君と2人で話をするチャンスはなくなってしまう!」
「2人で話をする必要はありませんわ! 私に何か用事があるのでしたら、アレク殿下にお伝え下さいませ!」
「……エリナ」

 クズーズ殿下の声のトーンが変わった気がして、なぜだか背筋に悪寒が走った。

「もしかして、アレクと上手くいっていないんじゃないか?」
「……何を言っておられるのですか?」
「結婚したっていうのに、まだアレクの事をアレク殿下と呼んでいるんだろう? 他人行儀じゃないか!」
「今まで長くアレク殿下とお呼びしていたんです。少しずつアレク様とお呼びするようになっていますので、私とアレクでん…、アレク様の事はご心配なさらないで下さい!」
「エリナ! 頼むよ! 正直に話をしてくれ!」
「正直に話をさせていただいております!」
「エリナ…! アレクにそう言うように言われているのか?」

 本当に困ったわ。
 全く話が通じない。
 それにしても、一体、どうやってここまで来たのかしら。
 城内には両陛下に会いたいと言って入る事は出来たかもしれないけれど、こんな所までクズーズ殿下を入らせてしまうなんて、警備に穴がありすぎだわ!
 
 私が黙ったからか、黙っていた騎士がクズーズ殿下に話しかける。

「クズーズ殿下、エリナ様はあなたにお会いになる気はないのです。もうお戻り下さい!」
「うるさい! 殺されたくなかったら大人しくしてろ!」

 物騒な事をクズーズ殿下が叫んだ時だった。

「兄上、いいかげんにして下さい。除籍されないとわかっていただけないんですか」

 アレク様の声が聞こえ、それと同時に、クズーズ殿下の震える声も耳に届く。

「アレク…! ど、どうして、こんなに早く…?」
「帰りの道中にやたらと通行止めになっている場所が多いと思ったら、そういう事でしたか」
「いや、その、ただ、今日は帰りが遅いと聞いていたから」
「誰にです? いや、もう、そんな事はどうでもいい。そこにいる2人、ここはいいから、兄上を城内から追い出してくれ」
「かしこまりました!」

 騎士の声が聞こえ、すぐにクズーズ殿下の叫び声が聞こえる。

「エリナ、聞いてくれ! 君の為に僕は危険を犯してエイナの事を調べたんだ! 知りたいだろう!? 君に許してもらいたいがためなんだよ!」

 クズーズ殿下は他にも色々と叫んでいたけれど、騎士が連れて行ってくれたのか、しばらくすると静かになり、コンコンと扉がノックされた。

「エリナ、俺だ」
「アレク様」

 鍵を開けると、私が開ける前に扉が開いて、アレク様の顔が見えた。
 ホッと胸をなでおろすと同時に、アレク様に腕を引かれて抱きしめられた。

「大丈夫だったか?」
「だ、大丈夫です。ただ、クズーズ殿下がここまで来れた事に、色々と疑問は残りますが…」

 アレク様の胸元に頬を寄せて息を吐きながら言うと、私の頭を撫でながら言う。

「帰ってきてすぐに、兄上が城内に来ていると聞いたから着替えも何もしていないんだ。すぐに戻ってくるから待っていてくれるか? その事についても話すようにする」
「わかりました」

 顔を上げて頷くと、アレク様は私の額に軽くキスをしてから体を離すと、慌ててやって来た騎士に寝室の警備を任せ、自室へと戻っていかれたのだった。

 
 
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