落ちこぼれ令嬢ですが新天地で幸せに暮らします!

風見ゆうみ

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2   落ちこぼれ令嬢に味方はいない?

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 叩かれた衝撃で一瞬、頭が真っ白になった私だったけれど、我に返って言い返す。

「わ、私のせいってどういうこと? 私が落ちこぼれだからポメラが浮気したとでも言うつもり!?」

 叩かれた頬を押さえて睨みつける。ゼッシュに叩かれたことなんて今までに一度もなかった。それだけポメラが浮気していたことがショックだということはわかる。だからって、私の頬を叩く理由がわからないわ! 浮気したほうが良くないでしょう! そんなことは考えなくてもわかるはずなのに、ここまで冷静な判断ができなくなっているゼッシュを見るのは初めてだ。

 混乱している私にゼッシュが唾をまき散らしながら答える。

「そうだよ! ずっとずっと思ってた! お前がもっとしっかりしてくれていれば、僕は苦労せずに済んだのにって!」
「苦労ですって? 私のせいであなたがどんな苦労をしたって言うの!?」
「落ちこぼれのお前と優等生の僕。僕は優れた力を持っているが上に色々と求められた。良い顔をするのはもううんざりだったんだ! お前はポメラと仲が良かったから使い道があると思って仲良くしてやっていたのに!」
「意味がわからないわ。私だって一生懸命やって来たつもりよ! それにあなたはそんな理由で私に優しくしてくれていたの!?」
「一生懸命やって来ただって? その結果がこれかよ!」

 ゼッシュは我を忘れてしまっているらしく、勢いよく近づいてきたかと思うと、私の顔を何度も拳で殴ってくる。

「やめて! やめてよっ!」
「くそっ、くそっ、くそっ! 僕はまだポメラと手を握るしかしていなかったのにっ! お前のせいで、お前のせいで!」

 私が自分の顔を腕で防御すると、子供が駄々をこねているかのようにゼッシュは乱暴に腕を振り回す。

「や、やめろ! 怪我をしていると分かれば問題になるぞ!」

 慌ててシドロフェス殿下が止めに入ったけれど、ゼッシュはその手を振り払う。

「僕を誰だと思っているんですか。傷なんて死ななければ治せますよ」
「そ……そういう問題じゃないだろう」

 ゼッシュがシドロフェス殿下に気を取られている内に、私は鼻から垂れてきた血を止めようと、自分の鼻に触れた。癒しの力を使うには触れる必要があるからだ。

 鼻に少し触れただけでも痛みが走る。腕で防御していたし、ゼッシュの力がそう強くなかったからか、鼻の骨が折れるまではいっていないようだ。私の力でも癒やせるような怪我だったので痛みはすぐに消えた。

 生ぬるい感触があり、鼻と口の間を白いハンカチで拭くと、血がべったりと付いた。ドレスに滴り落ちた血はどうしようもない。でも、ゼッシュを庇う必要もないので、ハンカチとドレスの血のシミや顔についている血を証拠に暴力をふるわれたとパーティー会場で叫んでやろうかと思った。

「わあ……、痛そう。ほんと、なんか、可哀想。アビー、ポメラのせいでごめんね?」

 ポメラは両手を合わせて首を横に傾けた。私には謝っているようにはまったく思えないのだけれど、この仕草に男性たちは骨抜きになってしまう。

「アビーだなんて愛称でもう二度と私のことを呼ばないで」
「アビ―! 冷たいことを言わないでよ。シドロフェス殿下がポメラを好きになったのは、ポメラのせいじゃないわ」
「そうだ! ポメラのせいじゃない!」

 ゼッシュが声を荒らげて、また私に殴りかかってきた時だった。

「一体何をしているのだ!」
「ゼッシュ! どうしたの、何があったの!?」

 付き添いとして一緒にやって来ていた両親が騒ぎを聞きつけたのかやって来た。

「父様、母様聞いてください! ポメラとシドロフェス殿下が僕を裏切ったんです! しかも、アビゲイルはシドロフェス殿下に婚約破棄されたんです!」

 ゼッシュは泣きながら両親に訴え続ける。

「アビゲイルが悪いんです! アビゲイルが一人前の働きをしてくれていたら、こんなことにならなかったのに!」

 泣きじゃくるゼッシュをお母様がなだめている間に、シドロフェス殿下とポメラがお父様に状況を説明した。すると案の定、お父様は私が悪いと言い始める。

「アビゲイルが無能なために、シドロフェス殿下に不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。全てアビゲイルの責任でございます」

 ここに私の味方はいない。これからどうなるのか、いやどうしようか考えていると、ポメラが話しかけてきた。

「本当にごめんねぇ。でも、アビーは強い人だもの。みんなに嫌われても強く生きていけるわよね?」
「強くは生きていくわよ」

 冷たく答えると、シドロフェス殿下がポメラを抱きしめる。

「ポメラが謝る必要はない。私が勝手に君を愛してしまっただけだ。国に帰ったら父上に報告して、私たちの仲を認めてもらおう」
「僕はどうなるんですか!」

 お母様になぐさめてもらっていたゼッシュが叫ぶと、シドロフェス殿下はうーんと唸ったあとに答える。

「そうだな、こうしようじゃないか。ポメラのみ二重結婚ができるように君が父上に頼んでくれ。君の言うことなら父上も聞き入れてくれるだろう」

 シドロフェス殿下は気の毒に思えるくらいに頭が悪い。そんな提案を陛下が了承するとは思えない。

「それは名案ですぅ! ポメラは二人とも大好きですからっ! 仲良く三人で結婚しましょっ!」

 自分の顎に両拳を当ててぶりっ子ポーズを取るポメラに苛つきを覚えたのは私だけだった。前々からこの口調で女子に嫌われていたポメラを助けてから、彼女は私になついてきた。彼女と友達になりたくがないという理由で、私の周りには女性が集まらなくなり、友達と呼べるのはポメラしかいなかった。
 でもそれは、友達がいない自分が恥ずかしいと思っていたから、ポメラを親友だと思い込んでいただけで、心の中ではきっと、彼女と遠ざかりたいと思っていた。

 こんなことになったのは、私のせいでもあるのでしょうけれど、それってシドロフェス殿下たちが浮気をしても良い理由にはならないのよね。

 お母様がゼッシュを抱きしめながら私に言う。

「ゼッシュに悪影響を与えるあなたには家から出ていってもらうわ。二度と会うことのないように僻地に行ってもらいましょう。自給自足でもして暮らしなさい!」
「王家に連絡もせずに私を追い出して良いんですか」

 強い口調で問いかけると、お父様が答える。

「ゼッシュがいればお前など必要ない。ゼッシュを苦しめたショックで家出をしたとでも言っておいてやる」

 どう考えても普通の人なら私を手放すことは考えないと思う。この人たちと話をしても無駄ね。……僻地か。人が住んでいない地域ということはわかるけれど、せめて暮らす家くらいは用意してくれるのかしら。

 ため息を吐いた時、背後から声がかかる。

「面白い話をしているな。僕も混ぜてくれ」

 この場にいた全員がその声に驚き、一斉に声のした方向に振り返った。
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