落ちこぼれ令嬢ですが新天地で幸せに暮らします!

風見ゆうみ

文字の大きさ
7 / 38

5   落ちこぼれ令嬢、自分の力を知る ①

しおりを挟む
 サーキス殿下には年子の妹がいて、名をジルラナと言う。ジルラナ殿下の体形が私と変わらないため、寝間着や普段着のドレスなどは全て新品のものを用意してもらえた。ジルラナ殿下が何らかの理由でドレスなどを汚すことがあっても、すぐに着替えができるように予備が用意されているらしい。
 普通の貴族もそんなものかもしれないけれど、私の場合はそこまで買い与えてもらえなかったから、人のものをもらうことは申し訳なく感じた。しかも、オブラン王国に迎えられて初めての夜なのだから、興奮してしまい、ほとんど眠ることはできなかった。

「おはよう、アビゲイル!」

 次の日の朝、メイドに手伝ってもらいながら身支度を整えていると、ジルラナ殿下が部屋にやって来た。

「ジルラナ殿下、おはようございます」

 カーテシーをすると、ジルラナ殿下は不満そうな顔をする。

「顔色が良くないわ。あまりよく眠れていないようですわね。ベッドをもっと良いものに変更してもらいましょう!」
「い、いえ! 心地良いベッドでしたので変更してもらわなくても結構です! お気持ちだけいただいておきます」
「遠慮しなくても良いんですのよ?」
「眠れなかったのは、オブラン王国の方に受け入れてもらえたことが嬉しかったからです。ジルラナ殿下にも本当に感謝しています」
「そうなの? それなら良いのですけれど、もし、あなたに嫌なことを言ってくる人がいたら、いつでも言ってくださいね!」

 ジルラナ殿下は十七歳の私よりも一つ年上なのだが、童顔で声も可愛らしく十五歳くらいにしか見えない。ダークブラウンの長くてゆるやかなウェーブのかかった髪に透き通るような白い肌。ダークパープルの瞳の大きな目。ポメラと同じく男性の庇護欲をかき立てるような見た目だけれど、ポメラに感じるような嫌悪感はまったくない。

「ありがとうございます。あまりにも酷い場合は相談させていただきます」
「遠慮なく言ってくださいませね」

 私にそう念押しすると、ジルラナ殿下は話題を変える。

「一緒に朝食をとりましょう! それから」

 そこまで言い終えたところで、ジルラナ殿下が突然咳き込み始めた。

「ど、どうかされましたか!?」
「ご……っ、げほっ……、ごめ……」

 咳が止まらないようで、ジルラナ殿下はその場に座り込んでしまう。むせただけなのか病気なのかは分からない。病弱だという話も聞いたことがないので焦ってしまう。

「ジルラナ殿下! 興奮なさるからです!」
「ご、ごめ……っ」

 ゲホゲホと咳き込むジルラナ殿下を侍女らしき女性が介抱しはじめた。咳は中々おさまらず、結局、朝食を一緒にとることはできなくなり、ジルラナ殿下は部屋に帰っていった。

 朝食が部屋に運ばれたところで、昨日から私に付いてくれているメイドのティーシャに話しかける。

「ジルラナ殿下は大丈夫かしら。どこかお体が悪いの?」
「薬を飲めば咳は止まるのですが、ここ最近、城の庭で飼育している薬草の育ちが悪くて薬が手に入らないのです」
「そうだったのね。その薬草や薬を他国から輸入することはできないの?」
「オブラン王国のみでしか栽培されていないのです。挿し木をしたり、種を他の国に販売したり譲渡することは禁止されておりまして、薬草や種の転売が見つかった場合、悪質な場合は処刑されます」

 詳しい話を聞いてみると、その薬草の名前はリブランと言い、薬になっているものは国外に出しても良いけれど、そうでないものは持ち出し厳禁なのだそうだ。

 リブランは咳止め薬になるらしく、気管支炎などの時に飲むと驚くくらいにぴたりと咳が止まるらしい。リブランは王家が管理していて、国民には無償で譲るため転売も多く見られるそうだが、他国の国民から得る利益で国内が潤うのは悪いことでもないとして、そこまで厳しく取り締まっていないらしい。

 ちなみに、リブランで作られた咳止め薬以外の転売は国内外でも禁止されている。

「もしよろしれば、お食事後に見に行ってみますか?」
「私が見に行っても良いの?」
「もちろんでございます。プライベートなお部屋でない限り、アビゲイル様は城内を自由に出入りできることになっています」

 ティーシャに促され、私は朝食後にリブランという薬草を見に行くことになった。リブランは複数のビニールハウスの中で栽培されており、関係者以外が入れないように鍵がかけられていた。

「水やりの管理だけすれば育ちやすい植物なのですが、虫がついてしまったせいで育ちにくくなってしまったんです」

 リブランは二十センチくらいの高さの枝がある草で、黄色の5枚の花弁を持つ花が咲いてはいるけれど、どこか元気がなく、葉はぐったりとしているように見える。
 担当者に確認を取ってから触らせてもらうと、葉の裏に白くて小さなものがびっしりと付いているのがわかった。ダンゴムシをかなり小さくした見た目で、動いている様子はない。

「……これはカイガラムシ?」
「ご存じなのですね! そうなんです。気がついた時には大量発生していまして、駆除剤をまいたりこそぎ落としたりしてはいるのですが、いたちごっこなんです。そうしている内に栄養を奪われてしまったようで……」
「虫も生きるために必死なんでしょうけれど、これは困りますね」

 私が言うと、担当者の人は暗い表情で頷いた。

 カイガラムシは名前の通り、カイガラの様に硬い殻で覆われていて駆除剤が効きにくい上に、カイガラムシに合う駆除剤が必要だ。

「アビゲイル様は植物にお詳しいのですか?」
「詳しいというか、乳母から教えてもらったの」

 もう亡くなってしまったけれど、乳母は園芸が好きな人で私に色々と教えてくれたのだ。

 すでに虫を駆除済みのリブランを見せてもらうと、栄養剤をあげても無駄のようで葉が茶色くなっている。枯れているとはいかないまでも、明らかに病気にかかって弱っていることがわかった。

「可哀想に」

 身を屈めて茶色くなってしまった葉先に触れると、突然、垂れていた花が顔を上げ、茶色くなっていた葉は緑に変わり、まるで背筋を伸ばしたかのようにしゃっきりした。

「ど、どういうこと?」

 振り返って担当者に尋ねると、目を輝かせて叫ぶ。

「す、すすす、すす、すごいです! リ、リブ、リブ、リブランが元気になっています!」

 興奮して飛び跳ねる担当者に呆気に取られていると、ティーシャが真剣な表情で言う。

「アビゲイル様、よろしければ、他の植物にも触れていただけませんか」

 促されるまま隣に植えられていたリブランに触れると、同じように元気を取り戻したのだった。

 



リブランという植物は想像のものです。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?

水月 潮
恋愛
ルシア・ローレル伯爵令嬢はある日、婚約者であるイアン・バルデ伯爵令息から婚約破棄を突きつけられる。 正直に言うとローレル伯爵家にとっては特に旨みのない婚約で、ルシアは父親からも嫌になったら婚約は解消しても良いと言われていた為、それをあっさり承諾する。 その1ヶ月後。 ルシアの母の実家のシャンタル公爵家にて次期公爵家当主就任のお披露目パーティーが主催される。 ルシアは家族と共に出席したが、ルシアが夢にも思わなかったとんでもない出来事が起きる。 ※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います *HOTランキング10位(2021.5.29) 読んで下さった読者の皆様に感謝*.* HOTランキング1位(2021.5.31)

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です

青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。 目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。 私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。 ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。 あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。 (お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)  途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。 ※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...