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4 落ちこぼれ令嬢は嬉し涙を笑って誤魔化す
その日の夜は、家族との別れなど気にならないくらいに慌ただしく時間が過ぎていった。
まずは医務室に連れて行かれて怪我の有無を確認後は、用意してもらったドレスに着替えて、オブラン王国の両陛下の元へと向かった。その頃にはサーキス殿下の誕生日パーティーも終了していて、サーキス殿下とは謁見の間の前で落ち合った。
両陛下は私がオブラン王国に住むという話を聞いて、かなり驚いた様子だった。サーキス殿下も簡単な経緯を話してくれたけれど、私からも今までの話をかいつまんで伝えたところ「我が国に来てくれてありがとう」とお礼を言われた。
オブラン王国内では癒しの力を持つ人は今までに一度も生まれたことがなかったので、私はとても貴重な人物らしい。
「ブツノ王国の王家が何か言ってくるかとは思いますが、第二王子がその場にいて何も言わなかったことや、アビゲイル嬢の兄であるゼッシュ殿は王家に発言する権力があるようです。その彼に認められたのですから、アビゲイル嬢を返せと言われても、アビゲイル嬢が国に帰ることを望まない限りは拒否することはできると思います」
サーキス殿下が言うと、オブラン王国の国王陛下は頷く。
「アビゲイルが望まない限り、返せと言われても返すつもりはない。アビゲイル、もし帰りたくなったなら言いたまえ」
「ありがとうございます」
帰りたいと思うことなんて、一生ないと思います!
笑顔でお礼を言うと、黙って話を聞いていた王妃陛下が柔らかな笑みを浮かべて私を見つめていることに気がついた。慈愛に満ちた眼差しで、こんなに温かな目を向けられたのは初めてのような気がした。
謁見を終えたあとは夜も遅くなっていたため、客室に案内してもらうことになった。自分の部屋に帰るまでの通り道だと言うサーキス殿下と話をしながら、メイドの後ろを付いて歩く。
「驚いた顔をしているね」
とても嬉しそうな顔で話しかけてきたサーキス殿下に頷く。
「ブツノ王国では喜んでもらえることなんてあまりなかったんです。弟のゼッシュのように力が使えないからか怪我を治しても、この程度かと言われたこともありました」
「世の中には色々な人間がいるから、そんな馬鹿なことを言う人もいるんだろうね。癒しの力がまったく使えない人間がよくそんなことを言えたもんだよ」
「自分で言うのも何なのですが、力が使えないより少しでも力が使えるほうが良いと思うんです。でも、期待値よりも低い結果だと認めてもらえないようです」
「そう思ったのだとしても失礼過ぎる。もし、オブラン王国内でそんなことを言う人間がいたら、すぐに教えてほしい」
「……ありがとうございます」
今までに一度も癒しの力を使っているところを見たことがないと言うサーキス殿下の手に切り傷ができていた。だから、デモンストレーション代わりに怪我を治したら興奮した様子だった。
子供の頃は怪我を治すだけでも喜んでもらえていたことを、サーキス殿下の表情を見て思い出した。いつから、大きな傷が癒せないことを馬鹿にされるようになったんだろう。
私はゼッシュのように、多くの人に喜んでほしいのに、どうして駄目なの?
「サーキス殿下、私は誰かに喜んでもらえるような人になれるでしょうか」
「どうしてそんなことを聞くの?」
不思議そうな顔で尋ねられて、変なことを聞いてしまったのかと思って焦る。
「ブツノ王国では癒しの力を使おうとしても、ゼッシュのほうが良いと言って拒否されることが多かったんです」
「こんなことを言いたくはないけれど、ブツノ王国の国民は変わった人が多いな」
サーキス殿下は苦笑して自分を指さす。
「少なくとも、今目の前にいる僕は君と出会えたことを喜んでいるよ。今まで生きてきた中で一番素敵な誕生日プレゼントをもらった気分になっている」
「ありがとうございます。……あの、サーキス殿下が私をこの国にほしいと思った、一番の理由は何なのですか?」
失礼かと思ったが、確かめておきたいことでもあったので尋ねてみた。
「ありきたりな答えで申し訳ないけれど、怪我を治せる人が僻地に追いやられると聞いて、あ、そうですかって終わることはないと思うんだ」
「まあ、それはそうですね」
「癒しの力を使える人は、この世界には数えるほどしかいないんだよ。ブツノ王国には二人もいるなんて羨ましいと思っていた。そうしたら、癒やしの力を使えても一人前じゃない妹はいらないみたいなことを言っているところを聞いてしまったら、ならうちの国にほしいって思うのは普通だと思うんだけどどうかな」
「あ、あの、では、どれくらいの頻度で力を使えば良いのでしょうか」
「僕の判断でどうこうできるものじゃないけれど、君の気が向いたらで良いんじゃないかな」
「はい?」
予想外の答えに驚いて聞き返すと、サーキス殿下は笑う。
「だって、君の力だろう。君が使いたいと思う時に使えばいい」
「で、でもそれじゃあ、私をこの国に置く理由がありません!」
「だから言っているだろ? 癒しの力を使える人はこの国にはいないんだよ」
「でも、私が癒しの力を使わなかったら、ただの置物じゃないですか!」
「置物という言い方もどうかと思うけど、それって君が力を使いたいと思わなかったことだろ? なら、使うべき相手じゃないってことじゃないかな」
サーキス殿下はけろっとした顔でそう答えた。
そんな考え方を今までしたことがなかった。……ということは、私は自分の力を使う必要のないものに使っていたということ?
「すぐには無理だとは思うけど、しばらくはこの城で暮らしていくことに慣れることだけを考えてほしい。それから一緒に考えよう」
「……ありがとうございます」
不覚にも涙が出そうになったので、必死に笑顔を作って誤魔化した。
まずは医務室に連れて行かれて怪我の有無を確認後は、用意してもらったドレスに着替えて、オブラン王国の両陛下の元へと向かった。その頃にはサーキス殿下の誕生日パーティーも終了していて、サーキス殿下とは謁見の間の前で落ち合った。
両陛下は私がオブラン王国に住むという話を聞いて、かなり驚いた様子だった。サーキス殿下も簡単な経緯を話してくれたけれど、私からも今までの話をかいつまんで伝えたところ「我が国に来てくれてありがとう」とお礼を言われた。
オブラン王国内では癒しの力を持つ人は今までに一度も生まれたことがなかったので、私はとても貴重な人物らしい。
「ブツノ王国の王家が何か言ってくるかとは思いますが、第二王子がその場にいて何も言わなかったことや、アビゲイル嬢の兄であるゼッシュ殿は王家に発言する権力があるようです。その彼に認められたのですから、アビゲイル嬢を返せと言われても、アビゲイル嬢が国に帰ることを望まない限りは拒否することはできると思います」
サーキス殿下が言うと、オブラン王国の国王陛下は頷く。
「アビゲイルが望まない限り、返せと言われても返すつもりはない。アビゲイル、もし帰りたくなったなら言いたまえ」
「ありがとうございます」
帰りたいと思うことなんて、一生ないと思います!
笑顔でお礼を言うと、黙って話を聞いていた王妃陛下が柔らかな笑みを浮かべて私を見つめていることに気がついた。慈愛に満ちた眼差しで、こんなに温かな目を向けられたのは初めてのような気がした。
謁見を終えたあとは夜も遅くなっていたため、客室に案内してもらうことになった。自分の部屋に帰るまでの通り道だと言うサーキス殿下と話をしながら、メイドの後ろを付いて歩く。
「驚いた顔をしているね」
とても嬉しそうな顔で話しかけてきたサーキス殿下に頷く。
「ブツノ王国では喜んでもらえることなんてあまりなかったんです。弟のゼッシュのように力が使えないからか怪我を治しても、この程度かと言われたこともありました」
「世の中には色々な人間がいるから、そんな馬鹿なことを言う人もいるんだろうね。癒しの力がまったく使えない人間がよくそんなことを言えたもんだよ」
「自分で言うのも何なのですが、力が使えないより少しでも力が使えるほうが良いと思うんです。でも、期待値よりも低い結果だと認めてもらえないようです」
「そう思ったのだとしても失礼過ぎる。もし、オブラン王国内でそんなことを言う人間がいたら、すぐに教えてほしい」
「……ありがとうございます」
今までに一度も癒しの力を使っているところを見たことがないと言うサーキス殿下の手に切り傷ができていた。だから、デモンストレーション代わりに怪我を治したら興奮した様子だった。
子供の頃は怪我を治すだけでも喜んでもらえていたことを、サーキス殿下の表情を見て思い出した。いつから、大きな傷が癒せないことを馬鹿にされるようになったんだろう。
私はゼッシュのように、多くの人に喜んでほしいのに、どうして駄目なの?
「サーキス殿下、私は誰かに喜んでもらえるような人になれるでしょうか」
「どうしてそんなことを聞くの?」
不思議そうな顔で尋ねられて、変なことを聞いてしまったのかと思って焦る。
「ブツノ王国では癒しの力を使おうとしても、ゼッシュのほうが良いと言って拒否されることが多かったんです」
「こんなことを言いたくはないけれど、ブツノ王国の国民は変わった人が多いな」
サーキス殿下は苦笑して自分を指さす。
「少なくとも、今目の前にいる僕は君と出会えたことを喜んでいるよ。今まで生きてきた中で一番素敵な誕生日プレゼントをもらった気分になっている」
「ありがとうございます。……あの、サーキス殿下が私をこの国にほしいと思った、一番の理由は何なのですか?」
失礼かと思ったが、確かめておきたいことでもあったので尋ねてみた。
「ありきたりな答えで申し訳ないけれど、怪我を治せる人が僻地に追いやられると聞いて、あ、そうですかって終わることはないと思うんだ」
「まあ、それはそうですね」
「癒しの力を使える人は、この世界には数えるほどしかいないんだよ。ブツノ王国には二人もいるなんて羨ましいと思っていた。そうしたら、癒やしの力を使えても一人前じゃない妹はいらないみたいなことを言っているところを聞いてしまったら、ならうちの国にほしいって思うのは普通だと思うんだけどどうかな」
「あ、あの、では、どれくらいの頻度で力を使えば良いのでしょうか」
「僕の判断でどうこうできるものじゃないけれど、君の気が向いたらで良いんじゃないかな」
「はい?」
予想外の答えに驚いて聞き返すと、サーキス殿下は笑う。
「だって、君の力だろう。君が使いたいと思う時に使えばいい」
「で、でもそれじゃあ、私をこの国に置く理由がありません!」
「だから言っているだろ? 癒しの力を使える人はこの国にはいないんだよ」
「でも、私が癒しの力を使わなかったら、ただの置物じゃないですか!」
「置物という言い方もどうかと思うけど、それって君が力を使いたいと思わなかったことだろ? なら、使うべき相手じゃないってことじゃないかな」
サーキス殿下はけろっとした顔でそう答えた。
そんな考え方を今までしたことがなかった。……ということは、私は自分の力を使う必要のないものに使っていたということ?
「すぐには無理だとは思うけど、しばらくはこの城で暮らしていくことに慣れることだけを考えてほしい。それから一緒に考えよう」
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不覚にも涙が出そうになったので、必死に笑顔を作って誤魔化した。
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