落ちこぼれ令嬢ですが新天地で幸せに暮らします!

風見ゆうみ

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6.5  自分のことしか考えていない令嬢の胸の内

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 アビーと別れてから十日後、ポメラたちはブツノ王国に戻った。そのまま家に帰って眠ろうと思ったのに、国王陛下にアビーのことを説明しなければならないと言われて、ゼッシュ様たちと一緒に王城に行くことになった。

 別にポメラが説明をしに行かなくても良いと思うのよね。だって、ゼッシュとシドロフェス殿下がアビゲイルを追い出しちゃったんでしょう? それに、国王陛下がポメラのことをを見て好きになっちゃったら大変よ! ポメラはみんなに好かれちゃう人物だから、国王陛下がポメラを好きになっても責められない。私はおじさんは好きじゃないから好きだと言われてもお断りするけどね。

 謁見の間に案内されると、壇上の上にはしかめっ面の国王陛下がいた。ポメラと目が合うと睨んできたので、シドロフェス殿下の腕を掴む。

「シドロフェス殿下、陛下が怖いですぅ」
「大丈夫だよ、ポメラ。ゼッシュに説明してもらって私たちの仲を認めてもらおう」 
「はい! ではゼッシュ様! よろしくお願いいたしますね!」
「ポメラのためになることをするよ」

 シドロフェス殿下から離れ、両手を合わせてお願いすると、ゼッシュ様は優しく微笑んでくれた。

 ポメラは本当に人生の勝ち組だわ! 可愛いだけじゃなくて世渡りもうまい。アビーみたいに特殊な力を持っていなくてもちやほやされるの。このまま第二王子殿下と癒しの力を使えるゼッシュ様をポメラのものにできれば、多くの女性に羨ましがられるんでしょうね!

 ウキウキしていると、ゼッシュ様は国王陛下に訴える。

「アビゲイルの件はお聞きになっているかと思いますが、全部シドロフェス殿下が悪いんです! アビゲイルという婚約者がいながら、ここにいる美しい女性、ポメラのことを好きになったと言うんです! アビゲイルはそれを聞いてショックを受けていました。ブツノ王国にいるということは、ポメラとシドロフェス殿下が仲良くしている場面を見ることになる。僕はそんなアビゲイルが可哀想に思えて、オブラン王国に残れるようにしてあげたんです。オブラン王国に残りたがったのはアビゲイルです! そして、アビゲイルをそんな気持ちにさせたのは、シドロフェス殿下です!」

 ゼッシュ様はそう叫んで、シドロフェス殿下を指さした。

 ゼッシュ様ったら何を言ってるのよ!? そんな話をしたら、国王陛下はシドロフェス殿下を怒るんじゃない?

「な、なんてことを言うんだ! 別にアビゲイルはショックを受けてなんていなかったぞ! 私が婚約破棄すると言っても何も言っていなかったし!」
「……シドロフェス」

 シドロフェス殿下がゼッシュ様に詰め寄ろうとした瞬間、黙って話を聞いていた国王陛下が口を開いた。

「父上、聞いてください! 私は正直な気持ちを伝えたまでです! アビゲイルは何ともないような顔をしていました! アビゲイルをオブラン王国に差し出したのはゼッシュです!」
「黙れ!」

 国王陛下の怒声が謁見の間に響き渡った。あまりにも大きな声でよく響いたから、ポメラは驚いてゼッシュ様にしがみつく。

「オブラン王国から連絡が入っている! ゼッシュがアビゲイルをオブラン王国に渡すと言ったことも問題だが、そんなことになるきっかけを作ったのはシドロフェス、お前だ!」
「で、ですが父上、私とポメラは愛し合って」
「お前は第二王子でアビゲイルは国の宝の一人なんだぞ! 好きな人ができたからといって婚約を破棄できるものではない! 大体、お前に婚約を破棄する権利などないんだ!」

 国王陛下は顔を真っ赤にして立ち上がると、ポメラたちの近くにいた兵士に叫ぶ。

「シドロフェスを地下牢に連れていけ!」
「ま、待ってください! 父上! 私がアビゲイルと婚約しなおせば許してもらえるんですか!?」
「ああ、できるものならな」

 国王陛下はシドロフェス殿下を睨みつけて言ったあと、ゼッシュ様に視線を移す。

「ゼッシュ、本当ならばお前にも罰を与えてやりたいところだが、お前の力は我が国にとって大切なものである。今回は大目に見るが、アビゲイルがいてくれればと思うような時が来た時には、いくらお前であっても処罰を考える」
「承知いたしました」

 ゼッシュ様は笑顔で頷き、深々と頭を下げた。国王陛下が壇上から去っていくのを確認したあと、ポメラはゼッシュ様に尋ねる。

「あの、ゼッシュ様、シドロフェス殿下はどうなっちゃうんですか?」
「ポメラは優しいんだな。あんな人のことは考えなくていいんだよ」
「でもぉ」

 せっかく、皆にちやほやされると思っていたのに、ゼッシュ様一人じゃ半減しちゃうじゃない。

「ポメラ、君は何も心配しなくていいんだ。君は僕と結婚する未来のことだけ考えてくれればいい。僕がいる限り、アビゲイルを必要とする未来なんて来るはずがない。だから、僕が処罰される日なんてくるはずないんだよ。それに、シドロフェス殿下と浮気をしたからと言って、僕が君を見捨てるわけがない。国王陛下に何か言われたら、すぐに僕に相談するんだよ?」
「……はぁい」

 ゼッシュ様はポメラの考えていることをまったくわかっていないみたい。ああ、どうしてこんなことになっちゃったのかしら。でも、仕方がないわね。今は、ゼッシュ様だけで満足しておきましょうか。

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