落ちこぼれ令嬢ですが新天地で幸せに暮らします!

風見ゆうみ

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7   落ちこぼれ令嬢は再婚約を望まれる

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 私の力はサーキス殿下が予想した通り、植物を癒す力だった。観察していってわかったことは、引きちぎられたりしても自分で新たな茎などを伸ばすことができるような場合には、私の力はあまり役に立たない。そのかわり病気にかかってしまい、このままでは枯れてしまうような状態になった場合には、とても効果を発揮することがわかった。

「まるで植物のお医者さんですわね」
「専門知識がほとんどないので、今の状態では力を使ってみないと分からない状態ですから、植物についてもっと勉強していこうと思います」

 すっかり元気になったジルラナ殿下とビニールハウスの中を散歩していると、リブランを育てている担当者の一人が笑顔で話しかけてくる。

「よろしければ植物について詳しく書かれている本を持ってきましょうか」
「良いんですか?」
「もちろんです。皆で回し読みをして読んでいるものなので、あまり綺麗なものではありませんが、私たちの間では必ず読むように言われている本なんです」
「初心者向けの本なら私にも読めそうですね」

 チームリーダーに本を借りても良いか確認を取ってからになると付け加えてきたけれど、その場でジルラナ殿下が許可を出してくれたので、本は私の部屋に届けてもらえることになった。
 そのことについてお礼を言うと、ジルラナ殿下は微笑む。
 
「アビゲイルには本当に感謝しているんですの。オブラン王国の平地では植物は育ちにくい環境ですから枯れないように必死でしたわ。リブランにも虫がつかないようにビニールハウスで栽培していたのに、虫が付いてしまったから本当にどうしようかと思っていましたの」
「そうだったのですね。私に植物を癒せる力があって本当に良かったです」
「今までそのことに気づく気配はなかったんですの?」
「はい。人のケガを治すほうが大事なことだと思われていたんです」

 ゼッシュたちのことだもの。私の力のことを知ってもバカにするだけなんでしょうね。

「あなたの兄も力が使えなくなったら、力の有り難さに気づくのかしら」
「ゼッシュの力がなくなるとは思えません。彼の力がなくなって困るのは彼だけではありませんから……」
「そうね。助けられる命が助けられなくなるんですものね」

   ジルラナ殿下は何度も頷いて肯定してくれた。その後は他愛のない話をしているとすぐに時間が過ぎた。ポメラといる時は中々時間が過ぎなくて愛想笑いにも疲れていたのに、ジルラナ殿下にはそんな気持ちにはならない。やっぱり、ポメラと私は親友どころか友人でもなかったのかもしれない。

 別れ際、ジルラナ殿下にお願いされる。

「わたくしのことはジルと呼んでちょうだい」
「そんな恐れ多いことです!」
「あなたのことをアビーと呼びたいの。駄目かしら?」
「呼んでいただくのはかまわないのですが、私がジルラナ殿下のことを愛称でお呼びすることはできません」
「それって、わたくしと仲良くなりたくないからですの?」
「決してそんな理由ではありません!」

 ショックを受けたような顔をするジルラナ殿下と話し合った結果、ジルラナ殿下ではなく、ジル様と呼ぶということで決着がついたのだった。


******

 部屋に戻った頃には夕食の時間になっていて、本もすでに届けられていた。夕食後に借りた本を読んでいると、サーキス殿下が訪ねてきた。

「夜分にごめんね。明日の朝までに確認を取ってほしいと父上から言われたことがあったんだ」
「お気になさらないでくださいませ。ところで、確認を取りたいことというのはどのようなことでしょう」

 部屋の中に招き入れて尋ねると、サーキス殿下は眉尻を下げる。

「君の力を公にしても良いかってことなんだ」
「公というのは、他国にも知らせると言うことですわね?」
「そうなんだ」
「ちなみに私がこの国に住むことについて、ブツノ王国からは何か言ってきましたか?」
「言ってきたけれど、今更どうこう言われても困ると断った」
「そんなに簡単に納得するような方だとは思えないのですが……」

 いくらゼッシュが認めたと言っても契約書を取り交わしたわけではない。だから、無効だと言ってきそうなものだと思ったので尋ねてみた。

「大丈夫だよ。君が医務室に行ったあとにゼッシュ氏には一筆書いてもらっていたんだ。ブツノ王国の国王陛下から抗議が来た時にその分の控えを送ると黙ってくれたよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」

 あの時はそこまで頭がまわっていなかったから、最近になってあのようなやり方で大丈夫なのか気になっていた。私が気づかない内に手を打ってくれていたおかげで特に問題がないと分かって安堵する。そして、サーキス殿下の質問に答える。

「公にしてもらってもかまいませんが、オブラン王国を優先に動くということも伝えていただけますか。それから、ブツノ王国にはゼッシュがいますので、どんなに急ぎの件であっても他国を優先します」
「わかった。気を遣わせてごめんね」
「とんでもないことでございます。気を遣わせてしまっているのはこちらですから、それくらいさせてくださいませ」
「ありがとう。では、そういうことにさせてもらうね」

 サーキス殿下は微笑んで頷くと、部屋から出ていった。

 次の日には早速、私の力が世界的に発表されることになり、多くの国から私と連絡を取りたいという手紙が届いた。そして、その中には驚くことにシドロフェス殿下からの手紙も入っていた。彼の場合は他の用件と違っており、オブラン王国とブツノ王国の架け橋のような存在になるために、私と再婚約したいと書かれていた。

 
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