落ちこぼれ令嬢ですが新天地で幸せに暮らします!

風見ゆうみ

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13  落ちこぼれ令嬢、ひとまず問題を解決する

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 話を聞いた五日後、私とサーキス殿下はポメラの父の領地であるブライトン子爵領にやって来ていた。ブライトン子爵領は領地はそう広くないが、領民の日々の食べ物や他国に輸出できる量の農作物が収穫できており、良い生活ができていたらしい。
 今回の蝗害によって領民の生活が脅かされているとのことなのでかなり深刻な問題ではある。
 現在、虫は移動していて、ブライトン領にはいない。食い荒らされはしたものの、かろうじて生きているものたちに癒やしの力を使うと、一瞬にして葉は青々と生い茂り、収穫時期だった農作物には、たくさんの実がなった。
 私が植物を癒やすには今までは触れなければ駄目だった。最近は力を使いこなせてきたからか念じるだけで広範囲を癒やせるから、効率も良くなったし、私の疲れも軽減された。

「アビーの力はすごいね」

 移動している4日間の間、サーキス殿下とは馬車の中で一緒だったため、色々な話をした。そうしている内に愛称呼びの話になり、サーキス殿下は私のことをアビーと呼んでくれることになった。
 婚約者だったシドロフェス殿下にも呼ばれたことはなく、男性に愛称呼びされるのは初めてで最初は照れてしまった。

「ありがとうございます。うまくいって良かったです」

 さすがに二日目になると、照れはまだあるものの落ち着いてきた。呑気にそんなことを考えているわけにもいかず、頭を切り替える。
 食い荒らされたばかりの農作物は何とか助けることができたけれど、手遅れの所が多かった。そこでは土に手を触れると、次々に芽が出始めたので、収穫時期までには成長しているかもしれないが、そうでなかった場合は国に援助を申し出てもらうしかないでしょう。

「あとは虫をどうにかしないと意味がないけど、薬の散布はそれを食べる人間にも良くないと言われているし困ったものだよ」
「害のあるものだから、虫を殺せるのでしょうし難しいところですね」

 目の前には草原のように青々とした葉が揺れる光景が広がっている。また虫に襲われないように殺虫剤がまかれることは仕方のないことなのかもしれないけれど、健康被害が気になることは確かだ。

「虫だって精一杯生きているんだろうけど、人間も生きていこうとする気持ちは一緒だからね」
「人間の立場からすればバッタたちは害虫になりますけど、向こうから見た私たち人間も同じようなものなのかもしれません。向こうも生き延びようと必死になるでしょう」

 どうすることが正しいのかはわからない。ただ、私たちはお互いに生きていくためにできることをやるだけだ。

 ブライトン領での仕事は一段落ついたので、明日から移動するための話し合いをしようと宿屋に戻ると、ブライトン子爵が待ち構えていた。

「サーキス殿下、アビゲイル様、本当にありがとうございました。お二方のおかげでわたくし共は生きていくことができます」
「僕は何もしていない。アビーが頑張ってくれたんだ」
  
 私を見つめるサーキス殿下に苦笑する。

「私はやらなければならないことをしただけですから」
「君は普通の人ではできないことをしたんだよ」
「……ありがとうございます」

 あまり謙遜しすぎても失礼かと思って、ここは素直に礼を言った。すると、ブライトン子爵がサーキス殿下に近寄っていく。

「ささやかにはなりますがお礼をしたいのです。サーキス殿下は女性の接待はご希望でしょうか」
「接待は必要ない」

 ブライトン子爵は小声で話しかけたけれど、しっかり私の耳に届いていた。サーキス殿下は迷うことなく断ると、笑顔で続ける。

「領民が言ってくれているのなら、気持ちはありがたいけど辞退させてもらう。あなたの娘のポメラ嬢が接待したいと言っているのなら、僕にとっては迷惑だからお断りする」
「そ……、そうでしたか。申し訳ございません」

 ブライトン子爵はがっくりと肩を落とすと、一礼して去っていった。

 ポメラはサーキス殿下を狙おうとしているのかしら。サーキス殿下はポメラの本性を知っているから、何をしても無駄なのにね。
 ブライトン子爵から話を聞いて、顔を真っ赤にして怒り出すポメラの姿が目に浮かぶわ。

「サーキス殿下、ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことはしてないけど?」
「私にとってはお礼を言いたくなることをしてくださいました」

 不思議そうな顔をするサーキス殿下に、私はにっこり笑って見せた。
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