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13 子爵令息の秘密 (セオドアSide)
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「セオドア、王太子殿下の話は聞いているの?」
宿屋の一室で夜中まで仕事を続けていた僕の所に、おばあさまがやって来て心配そうな顔で僕を見つめた。
おばあさまは母方の祖母で、悪いことをしない限り、いつも僕の味方をしてくれる優しい人だ。
「実際に会って確認したわけではありませんが、兄上の体調は思った以上に芳しくありません」
「そうみたいね。新聞では不治の病だと書かれていたけれど、そんなに重い症状なの?」
そう言って、おばあさまが手渡してきたのは、今日の新聞だった。一面の裏には隣国、ガナヤナ王国の王太子のことが書かれている。
「治るものではないそうですが、病気の進行は今までは緩やかだったんです。それが、最近になって一気に悪化したようです」
「……彼は助かりそうにないの?」
「医者は覚悟をしておくようにと言っていたそうです。だから、国王陛下は僕に帰ってこいと言っています」
「……そうなの」
兄上は僕のことを嫌っている。幼い頃には散々嫌がらせをされて、熱湯をかけられそうになったこともある。
彼は僕を殺そうとしていた。そんな奴のことを好きになれるわけがない。
僕が子爵令息という身分を作り、隣国で暮らすことになったのも、きっかけは兄のせいだ。だから、お互いに死に目に会いたいとは思わない。
僕たちは本当は従兄弟同士で、現国王が僕の母上を無理やり妻にしなければ、兄弟にはならなかった。
元々、祖父が健在の時に僕の父が亡くなったため、当時、第二王子だった叔父が王太子になり、現在は国王になっている。
兄が国王になり、子供が生まれてくれれば、僕が呼び戻されることはない。だが、今のままではそういうわけにもいかないようだ。
「国王陛下はなんと言ってらっしゃるの?」
「僕が王太子になる可能性があるから、早く国に戻ってこいと言っています」
「まあ、なんてこと! あなたが目障りだからと他国に追いやったのは、あの方と王太子殿下じゃないの!」
「おばあさま、あまり大きな声を出すと、シドを起こしてしまいます。それに、ノボウ伯爵夫人には僕の正体を知られないほうが良いでしょう」
「……そうね。あの子たちを巻き込むわけにはいかないもの」
おばあさまはため息を吐いたあと、すぐに眉根を寄せる。
「ノボウ伯爵たちにはあなたの身分を明かすのでしょう? それなら、ルファラさんには話をしておいたほうが良いと思うわ。彼女だってあなたのことを怪しんでいるし、先に聞いておきたいはずよ」
「……そうですね。こんなことになったのは、僕の都合でもありますし、巻き込んだ以上は、責任を持たなければなりませんしね」
「二人を助けたことは悪くはないわ。けれど、話し合いの場に同席させるなら、伝えておいたほうが良いでしょう」
「わかりました」
おばあさまはシドたちのことをとても気に入ったらしく、甲斐甲斐しく世話を焼いているのだとメイドたちから聞いている。今だって、エプロンドレス姿なのだから困ったものだ。
「おばあさまは、いつ自分の正体を明かすおつもりですか?」
「もう少し、仲良くなってからにしてちょうだい。私がガナヤナ王国の王妃の母だなんて知ったら、ルファラさんは真っ青になって私に土下座しそうだもの」
ふふふと笑ったあと、すぐにおばあさまは表情を引き締める。
「王太子殿下に何かあったら、あなたの正体は他の人にバレてしまうでしょう。そうなったら本音を聞き出せなくなるわ。シドを母親の元に帰すべきなのか、そして、ノボウ伯爵はシドの父にふさわしいのか見極めてきなさい」
「承知いたしました」
「それから、伯爵という身分で偉そうにしているノボウ伯爵の鼻っ柱を折ってくるんですよ!」
「物理的にですか?」
尋ねると、おばあさまは意味がわかっていないのか、きょとんとした顔をしたので、僕は話題を変えた。
明日の朝、話し合いに行く前に僕の正体を伝えるつもりだけど、ノボウ伯爵夫人はどんな反応をするだろうか。
宿屋の一室で夜中まで仕事を続けていた僕の所に、おばあさまがやって来て心配そうな顔で僕を見つめた。
おばあさまは母方の祖母で、悪いことをしない限り、いつも僕の味方をしてくれる優しい人だ。
「実際に会って確認したわけではありませんが、兄上の体調は思った以上に芳しくありません」
「そうみたいね。新聞では不治の病だと書かれていたけれど、そんなに重い症状なの?」
そう言って、おばあさまが手渡してきたのは、今日の新聞だった。一面の裏には隣国、ガナヤナ王国の王太子のことが書かれている。
「治るものではないそうですが、病気の進行は今までは緩やかだったんです。それが、最近になって一気に悪化したようです」
「……彼は助かりそうにないの?」
「医者は覚悟をしておくようにと言っていたそうです。だから、国王陛下は僕に帰ってこいと言っています」
「……そうなの」
兄上は僕のことを嫌っている。幼い頃には散々嫌がらせをされて、熱湯をかけられそうになったこともある。
彼は僕を殺そうとしていた。そんな奴のことを好きになれるわけがない。
僕が子爵令息という身分を作り、隣国で暮らすことになったのも、きっかけは兄のせいだ。だから、お互いに死に目に会いたいとは思わない。
僕たちは本当は従兄弟同士で、現国王が僕の母上を無理やり妻にしなければ、兄弟にはならなかった。
元々、祖父が健在の時に僕の父が亡くなったため、当時、第二王子だった叔父が王太子になり、現在は国王になっている。
兄が国王になり、子供が生まれてくれれば、僕が呼び戻されることはない。だが、今のままではそういうわけにもいかないようだ。
「国王陛下はなんと言ってらっしゃるの?」
「僕が王太子になる可能性があるから、早く国に戻ってこいと言っています」
「まあ、なんてこと! あなたが目障りだからと他国に追いやったのは、あの方と王太子殿下じゃないの!」
「おばあさま、あまり大きな声を出すと、シドを起こしてしまいます。それに、ノボウ伯爵夫人には僕の正体を知られないほうが良いでしょう」
「……そうね。あの子たちを巻き込むわけにはいかないもの」
おばあさまはため息を吐いたあと、すぐに眉根を寄せる。
「ノボウ伯爵たちにはあなたの身分を明かすのでしょう? それなら、ルファラさんには話をしておいたほうが良いと思うわ。彼女だってあなたのことを怪しんでいるし、先に聞いておきたいはずよ」
「……そうですね。こんなことになったのは、僕の都合でもありますし、巻き込んだ以上は、責任を持たなければなりませんしね」
「二人を助けたことは悪くはないわ。けれど、話し合いの場に同席させるなら、伝えておいたほうが良いでしょう」
「わかりました」
おばあさまはシドたちのことをとても気に入ったらしく、甲斐甲斐しく世話を焼いているのだとメイドたちから聞いている。今だって、エプロンドレス姿なのだから困ったものだ。
「おばあさまは、いつ自分の正体を明かすおつもりですか?」
「もう少し、仲良くなってからにしてちょうだい。私がガナヤナ王国の王妃の母だなんて知ったら、ルファラさんは真っ青になって私に土下座しそうだもの」
ふふふと笑ったあと、すぐにおばあさまは表情を引き締める。
「王太子殿下に何かあったら、あなたの正体は他の人にバレてしまうでしょう。そうなったら本音を聞き出せなくなるわ。シドを母親の元に帰すべきなのか、そして、ノボウ伯爵はシドの父にふさわしいのか見極めてきなさい」
「承知いたしました」
「それから、伯爵という身分で偉そうにしているノボウ伯爵の鼻っ柱を折ってくるんですよ!」
「物理的にですか?」
尋ねると、おばあさまは意味がわかっていないのか、きょとんとした顔をしたので、僕は話題を変えた。
明日の朝、話し合いに行く前に僕の正体を伝えるつもりだけど、ノボウ伯爵夫人はどんな反応をするだろうか。
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