【完結】愛しているなら忘れてください

風見ゆうみ

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4   残念ながらいました

「一体何があったんだ」

 口々に「彼女を助けてあげてくれ」と言われ、リヴェンは困惑した様子だった。

 黒の貴族服姿のリヴェン・ヨテルカは長身痩躯で、顔立ちの整った青年である。
 眉間に皺が深く刻まれているが、怒っているわけではない。
 いつも仏頂面をしているため、初対面の人は彼と距離をとろうとする。しかし、話をしてみると優しい人だとわかり、貴族以外からも慕われていた。

 他国の貴族のため、レナリナは彼のことをよく知らない。
 最初は警戒していたが、周りがあまりにも彼に相談するように勧めてくるので、駄目元で相談することにした。
 その時、ふと不安な気持ちがよぎった。

(集団で私を騙すつもりではないわよね)

 ムーディもシーノも見事だと皮肉を言いたくなるくらいの裏切り方をしてきた。そのせいで、今の彼女は人を信じようとする気持ちが薄れている。

 本当はこの選択が間違っていないか予知したかったが、大勢の前で力を使うわけにはいかない。
 話を聞いてもらうと決めたのに、やはりどうしようかと唸っているレナリナを見たリヴェンは、見知らぬ人間に対して威嚇する子猫みたいだなと考えていた。

 しかし、そんな彼の考えは、レナリナには伝わらない。

(……睨まれている)

 そう思いはしたものの敵意は感じないし、相手は侯爵である。
 馬鹿なことはしないだろうと信じることにした。

「悪いが俺は用事ができた。続きの見回りはお前たちだけで頼む」
「承知いたしました!」

 リヴェンの背後に控えていた兵士たちが声を揃えて返事をした。

「歩けるか? 歩くのがつらいなら抱き上げるが」
「はい?」

(どうしてそんなことを?)

 疑問が浮かんだが、その答えはすぐに思いついた。

 レナリナの服に砂がたくさん付いているため、リヴェンは彼女が砂浜で転んだのだと勘違いしたようだ。

「お気遣いいただきありがとうございます。足を挫いたわけではありませんので大丈夫です」
「それなら良かった。場所を移動して話そうと思うが、今日の宿はどのエリアに予約しているんだ?」

 宿屋街にも東西南北にエリアが分かれている。本当ならば南のエリアに泊まるつもりだったが、今のレナリナにはそんなお金はない。
 胸元に隠していた紙幣が数枚あるが、宿屋の1泊分の代金にも及ばなかった。

「南のエリアの予定でしたが、お金がなくて泊まれそうにないんです」
「……悪かった。とりあえず先に話を聞こう」

 レナリナの事情を詳しく聞いてもいないのに、余計な質問をしたことを、リヴェンは詫びた。

「謝らないでくださいませ。相談に乗っていただけるだけで大変ありがたいです」

 レナリナの歩幅に合わせて、ゆっくり歩くリヴェンに感謝しながら、彼女は先程起こった出来事を簡潔に話した。

 話を聞き終えたリヴェンは、眉間の皺を深くした。

「そんなに酷い人間がこの世に存在するのか」
「残念ながらいました」
「類は友を呼ぶというが、最低な人間の周りに最低な人間が集まったんだろう」
「……うう。そうかもしれません」

 自分も暗に最低な人間だと言われている気がしてダメージを受けるレナリナに、リヴェンは苦笑する。

「君はそうじゃなかったから縁が切れたんだろう。ところで、君は行く当てがないんだな?」
「はい。できれば宿に泊まれるようにお金を稼ぎたいので、露店をする許可をいただきたいのですが、どこで申請すればいいのでしょうか」

 今まで予言者は謎の人物だった。

 それは家族に知られたくなかったからだ。しかし、今はもうそんな心配はいらない。
 予言することで、お金を稼ぎ、新たな人生を歩んでいこうと決めた。
 
「申請所は王城の敷地内にある。今から一緒に行こう。それから、金が貯まるまではヨテルカ邸に住めばいい。ちょうど母が話し相手がほしいと言っていたんだ」 
「お言葉に甘えてもいいのですか?」
「もちろんだ」
 
 リヴェンはうなずき、改めて自己紹介する。

「俺の名はリヴェン。ヨテルカ侯爵家の当主だ。困っている人を助けることが趣味だという変わった男だ」

 自分を嘲笑するリヴェンに、レナリナは首を横に振って答える。

「いいえ。変わってなんていません。私はとても素敵な考えだと思います」
「……そうか。ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいが、君はもう少し危機感を持つべきだな」
「それはわかっていますが……では、今回はどうすれば……」

(旅行が吉というのは、ヨテルカ侯爵に出会うことになるからだと思ったんだけど違うの!?)

「言い方が悪かった。今回はいいとして、これから気をつけたほうがいいという意味だ」
「……気をつけます」

 レナリナは自分の甘さを反省した。
 そして、これからはこんなことがないようにと、スカートのポケットに入っている、不思議な種の入った袋を握りしめて気合いを入れた。
 すると突然、ポケットの中から、ひょこりとピンク色の大きな花が顔を出したのだった。
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