【完結】私はあなたの操り人形ではありません

風見ゆうみ

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7  子供は正直

 カマダオ公爵邸に来て、ミレイラのこと以外でフェルリアが強く感じたことは、使用人の表情が暗いことだった。
 初日に話したメイドもそうだが、多くの使用人はミレイラのことで心を痛めている。主人を止めることもできず、ただ、傷ついたミレイラを慰めるだけ。
 そんな日々にいつしか心が疲弊してしまっていたのだ。

 使用人たちの労働環境を改善するためには、ジェラスやミサファーたちのミレイラへの対応をどうにかしなければならない。

 そのことをジェラスに話した結果、彼は迷うことなくこう言った。

「ミサファーは優しい女性だし、ゼッシュも私に似てしっかりしている。何もしていないのに、ミレイラを責めたりしないはずだ。だから、悪いことをしたのはミレイラに間違いない」
「ちゃんとミレイラ様からも話を聞いたのですか?」
「聞かなくてもわかる。言っただろう。悪いのはミレイラだ」

 となんの根拠もないのに、ミレイラが悪いのだと決めつけるだけだった。

 メイドが助けを求めてやって来た時、フェルリアは考えた。

 信じてもらえないのなら、現実を見てもらうしかない。フェルリアは、ミレイラの部屋に向かう前にジェラスに声をかけて彼を連れてきていた。

 ジェラスには話は聞こえるが、ミサファーたちからは見えない廊下に立っていてもらい、ミレイラの部屋の扉を開けた。

 ミレイラからぬいぐるみを奪おうとしていたゼッシュは慌てて手を離し、ミサファーは焦った顔になった。

「どうしてミサファー様たちがこちらにいらっしゃるんです?」

 問いかけると、ミサファーは微笑んで答える。

「ゼッシュがミレイラさんに会いたいと言い出したので連れてきたんです」
「そうだよ! すこし、あわなかったら、ミレイラがすごくかわいくなってた! フェルリアがやったの?」

 ゼッシュはミレイラから離れると、フェルリアの前に立って尋ねた。

「私ではありませんわ。元々、ミレイラ様は可愛らしいお方です。それに、髪を整えているのは使用人ですわ」
「ふぅん。もっと、かわいくしてくれてたら、いじめなかったのに」

 フェルリアは膝をカーペットにつけ、震えながら立ち尽くしているミレイラを抱きしめた。

「ゼッシュ様にとって可愛くなかったとしても、いじめをしていいわけではありません。そうですよね、ミサファー様」

 ミサファーは一瞬動揺した様子だったが、口元に笑みを浮かべてうなずく。

「おっしゃる通りだと思います」
「ではなぜ、ミレイラ様をいじめるゼッシュ様を叱らないのですか?」
「二人きりになったらちゃんと叱っています」
「二人きりでなければならない理由はなんでしょうか」
「はい?」
「叱るのならその場で叱るべきです。なぜ、二人きりにならないと叱ることができないのですか?」

 叱っていると言っているが、実際は違うであろうことはわかっていた。使用人たちから聞いた話では、ミサファーはゼッシュのミレイラに対する嫌がらせを、叱るどころか煽っている。

「わかりました。叱ればいいのでしょう? ゼッシュ、ミレイラさんに意地悪をしちゃ駄目よ。謝りなさい」
「いやだ! どうして、ぼくがあやまらないといけないんですか?」
「ミレイラさんが嫌がるようなことをしたからよ」

 ミサファーは、ゼッシュを謝らせたあと、すぐにこの部屋を出るつもりでいた。
 だが、子供は良くも悪くも正直だった。

「どうしてですか? いつも、よくやったってほめてくれるじゃないですか!」
「ゼ、ゼッシュ、馬鹿なことを言わないで。ミレイラさんと仲良くしなさいと、いつも教えているでしょう?」
「ミレイラのもってるぬいぐるみを、ぐちゃぐちゃにするのは、なかよくすることなの?」
「そんなわけがないじゃないの! ゼッシュ、とにかく謝りなさい!」

 これ以上、フェルリアの前で真実を話されては困る。焦ったミサファーがゼッシュの手を取って急かすと、フェルリアがゼッシュに尋ねた。

「ゼッシュ様、あなたはお母様からミレイラ様のぬいぐるみをぐちゃぐちゃにするように言われたのですか?」
「そうだよ! だけど、わるいのはミレイラだ! ぬいぐるみのせいで、ははうえはいやなおもいをしてるんだって! ぬいぐるみをぐちゃぐちゃにすれば、ははうえはしあわせになるっていうから、ぼくはがんばった!」
「ゼッシュ! やめなさい!」

 ミサファーは慌ててゼッシュの口を押さえようとしたが、突然、後ろから腕を掴まれた。

「何をするのよ!」

 怒りに任せて、ミサファーは手を振り払ったが、自分の腕をつかんでいた人物が誰かわかると、顔を真っ青にした。
 ジェラスは憤怒の形相でミサファーに問いかける。

「一体、どういうことなんだ? お前は私の最愛の妻の形見を傷つけるように、ゼッシュに指示をしたのか?」
「あ……あ」

 なんと言い訳をしようか。ミサファーが視線を彷徨わせていると、不意にフェルリアと目が合った。
 フェルリアは、あきれたような顔をして、ミサファーに話しかけた。

「このぬいぐるみの耳がちぎれてしまっていたのは、ゼッシュ様が無理矢理引っ張ったからだとミレイラ様から聞いています。まさか、あなたが遠回しに指示をしていたなんて思いも寄りませんでした」
「ち、ちが」
「おい! どういうことなんだ! ちゃんと説明しろ!」

 ジェラスはミサファーの両腕をつかみ、激しく揺さぶった。
 
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