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21 明るい兆し
ミサファーたちが出ていった日の夜。ダイニングルームで食事をしていたフェルリアとミレイラのもとにジェラスがやってきた。
ダイニングルームには三十人が一度に会食できる大きな長テーブルがある。テーブルには白いテーブルクロスがかけられており、ちょうど真ん中に当たる場所には花が生けられた花瓶が鎮座している。
扉から向かって一番奥の席がジェラスの席と決まっており、フェルリアたちは扉から一番近い席に並んで座っていた。
そのため、ジェラスがノックもなしに入ってきた時点で、逃げ場が塞がれた形になった。
(奥まで入ってくれれば出られるのに)
部屋で食べれば良かったと後悔したが、ミレイラの希望だったため文句も言えない。
今度は何を言ってくるのだろうとフェルリアは警戒した。しかし、ジェラスが話しかけた相手はミレイラだった。
「ミレイラ、私と一緒に出かけないか」
「……おでかけ、ですか」
「ああ、そうだ」
ミレイラは、大人用の椅子の座面にクッションをたくさん敷いて、その上に座っている。いつもよりも近くに見える父に怯えながら見つめ返した。
(一体、何を考えているの?)
「ジェラス様、ミレイラ様をどこへ連れて行くおつもりですか?」
「安心しろ。王女殿下の所だ」
「王女殿下の所に行ってどうするのですか」
「それは知らない。王女殿下が希望しているから私は指示通りに動くだけだ」
ジェラスはフェルリアにそう答えたが、真相は違った。王女に相談した際、ミレイラをどこかに預ければいいと言われ、ある場所を紹介されたのだ。
「どうして王女殿下が急にミレイラ様に会いたいとおっしゃるのです?」
「私も詳しくは知らないんだ。ミレイラ、明日の朝、王城に出かけるから準備をしてもらいなさい」
「……わかりました」
ミレイラはうなずくしかない。一気に食欲がなくなり、カトラリーをテーブルの上に置いた。
「私も一緒に行ってもよろしいでしょうか」
「駄目だ。王女殿下は私一人で連れてこいとおっしゃっていた」
「では、せめて王城の近くまではご一緒させてください」
頭を下げたフェルリアを見たジェラスは、満面の笑みを浮かべてうなずく。
「フェルリアにお願いされたなら仕方がない。連れて行ってやろう」
「ありがとうございます」
(嫌な予感しかしないはずなのに、どうしてなの。いいことが起こるような、そんな予感がする)
フェルリアは自分の胸を手で押さえながら眉をひそめた。
◇◆◇◆◇◆
(???Side)
石造りの寒々とした廊下を、早足で歩く若い女がいた。その女が突き当たりの木の扉の前で足を止めると、扉を守っていた兵士が頑丈な木の扉を開けた。
すると鍵のかかった鉄格子の扉が現れ、その向こうにある部屋の中が見えるようになった。
半地下の薄暗い部屋。
ランタンにぼんやりと照らされた人物に、女は話しかける。
「私のものになる覚悟はできた?」
「……いいえ」
「もうここに来て2年以上経つのよ? あなたの婚約者は他の男性と結婚したわ! もう諦めなさいよ!」
「その話は聞きました。彼女はもう俺を選ばない。それなら、俺をここから出していただけませんか」
鉄格子の扉の向こうにあるソファに座っていた男は、ため息をついて言った。
暗くて顔は見えない。一見しただけでは長身痩躯だが、よく見れば筋肉のついた引き締まった体つきだ。
「私の婿になると言うのなら出してあげると言っているでしょう」
「お断りしますと何度もお伝えしたはずです」
「どうして私じゃ駄目なのよ!?」
「好きな男が自分のものにならないからと、同僚を人質に取って脅し、俺を拉致して痛めつけ動けなくしてから監禁。しかも、約束を破って同僚まで殺した。そんなことをする人を誰が好きになると言うんです?」
憎しみを込めた目で男は女を睨みつけた。
ダイニングルームには三十人が一度に会食できる大きな長テーブルがある。テーブルには白いテーブルクロスがかけられており、ちょうど真ん中に当たる場所には花が生けられた花瓶が鎮座している。
扉から向かって一番奥の席がジェラスの席と決まっており、フェルリアたちは扉から一番近い席に並んで座っていた。
そのため、ジェラスがノックもなしに入ってきた時点で、逃げ場が塞がれた形になった。
(奥まで入ってくれれば出られるのに)
部屋で食べれば良かったと後悔したが、ミレイラの希望だったため文句も言えない。
今度は何を言ってくるのだろうとフェルリアは警戒した。しかし、ジェラスが話しかけた相手はミレイラだった。
「ミレイラ、私と一緒に出かけないか」
「……おでかけ、ですか」
「ああ、そうだ」
ミレイラは、大人用の椅子の座面にクッションをたくさん敷いて、その上に座っている。いつもよりも近くに見える父に怯えながら見つめ返した。
(一体、何を考えているの?)
「ジェラス様、ミレイラ様をどこへ連れて行くおつもりですか?」
「安心しろ。王女殿下の所だ」
「王女殿下の所に行ってどうするのですか」
「それは知らない。王女殿下が希望しているから私は指示通りに動くだけだ」
ジェラスはフェルリアにそう答えたが、真相は違った。王女に相談した際、ミレイラをどこかに預ければいいと言われ、ある場所を紹介されたのだ。
「どうして王女殿下が急にミレイラ様に会いたいとおっしゃるのです?」
「私も詳しくは知らないんだ。ミレイラ、明日の朝、王城に出かけるから準備をしてもらいなさい」
「……わかりました」
ミレイラはうなずくしかない。一気に食欲がなくなり、カトラリーをテーブルの上に置いた。
「私も一緒に行ってもよろしいでしょうか」
「駄目だ。王女殿下は私一人で連れてこいとおっしゃっていた」
「では、せめて王城の近くまではご一緒させてください」
頭を下げたフェルリアを見たジェラスは、満面の笑みを浮かべてうなずく。
「フェルリアにお願いされたなら仕方がない。連れて行ってやろう」
「ありがとうございます」
(嫌な予感しかしないはずなのに、どうしてなの。いいことが起こるような、そんな予感がする)
フェルリアは自分の胸を手で押さえながら眉をひそめた。
◇◆◇◆◇◆
(???Side)
石造りの寒々とした廊下を、早足で歩く若い女がいた。その女が突き当たりの木の扉の前で足を止めると、扉を守っていた兵士が頑丈な木の扉を開けた。
すると鍵のかかった鉄格子の扉が現れ、その向こうにある部屋の中が見えるようになった。
半地下の薄暗い部屋。
ランタンにぼんやりと照らされた人物に、女は話しかける。
「私のものになる覚悟はできた?」
「……いいえ」
「もうここに来て2年以上経つのよ? あなたの婚約者は他の男性と結婚したわ! もう諦めなさいよ!」
「その話は聞きました。彼女はもう俺を選ばない。それなら、俺をここから出していただけませんか」
鉄格子の扉の向こうにあるソファに座っていた男は、ため息をついて言った。
暗くて顔は見えない。一見しただけでは長身痩躯だが、よく見れば筋肉のついた引き締まった体つきだ。
「私の婿になると言うのなら出してあげると言っているでしょう」
「お断りしますと何度もお伝えしたはずです」
「どうして私じゃ駄目なのよ!?」
「好きな男が自分のものにならないからと、同僚を人質に取って脅し、俺を拉致して痛めつけ動けなくしてから監禁。しかも、約束を破って同僚まで殺した。そんなことをする人を誰が好きになると言うんです?」
憎しみを込めた目で男は女を睨みつけた。
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