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とりあえず一段落です

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 突然の茶番劇に、ユウヤくんとユウマくんも含め、一同は呆気にとられていたけど、アザレア様が我に返って叫ぶ。

「そ、それこそ誤解! いいえ! 言いがかりですわ!」
「そうだ! 俺は何もしてねぇ! 大体、あんたらがアザレア達以外の女を選ぶから駄目なんだろうが! 王城にも候補者がまだいっぱいいるんだろ! 平民くらい、こっちにくれてもいい」

 アザレア様の反論のあとのバイドルの言葉は圧力によって、次の言葉を紡げなくなった。

 ん?

 なんか、さっき、気になるワードがあった気がしたんだけど、でも、今はそれどころではなさそう。

 ビリビリと空気が痛い。

 顔を上げると、ユウヤくんとユウマくんの表情が今までに見たことがないくらい恐ろしかった。

「…あ、あ、助けて」

 2人の殺気にあてられたのか、バイドルはへなへなと崩れ落ちる。

 正直、ざまあみろ、と言いたいとこだけど、今はそんな事を言える状況ではない。

「平民だからくれ、だと?」

 そう言ったユウヤくんの目が据わっていて、あたしも恐怖でぞわりと身の毛がよだった。

 でも、駄目だ。

 良いことにユウヤくんは彼女と婚約する気持ちはないようだから、うまく、向こうから身を引いてもらうようにすればいい。
 という事は、こちらは被害者であり、加害者になってはいけない。
 今、止めなかったら、こっちがぎゃふんと言わなければならない事態になりかねない!

「ユウヤくん!」

 あたしは2人の殺気で震える足をなんとか動かすと、ユウヤくんの前に立ち、背伸びして両頬を手でおおい、視線をあたしに向けさせると、まっすぐ瞳を見つめ、小さな声で言った。

「駄目だよ。ここはおさえなきゃ。いくら平民っていっても、あたしはユウヤくんの関係者だし、その相手をお姫様が兄に乱暴させようとした事がわかれば、婚約破棄に持っていくのに有利になる」
「・・・・・ん」

 しゅぽん、と音が聞こえてきそうなくらいで、ユウヤくんから殺気が消えて、両頬をつかんでいた、あたしの手をはなさせたと思ったら、あたしの頭に顎をのせてきた。

 あたしの頭は顎おきではないんだけど。
 まあ、殺気を放つというのも、わりかと体力いるんだろうな。
 しょうがないか。
 頭を動かせないから、リアの方は見れないけど、たぶん、いや絶対にニヤニヤしてるんだろうな。

 とまあ、ユウヤくんは無事におさえられたけど、ユウマくんはまだ怒り継続中。
 さて、リアがどう出るか。

「ユウマ様、落ち着いて下さい」

 いつもとは違うリアの声色に、ユウヤくんが驚いたのか、顎を上げてくれたので、リアの方を見ると、

「イザベラ様がそう言ってらっしゃいますし、バイドル様の件はイザベラ様達の関与については、誤解だったのでしょう。そう言われてみればアザレア様は、この中のどなたかを選ぶように促されていらっしゃいましたわ」

 そう言って、ユウマくんにしなだれかかった。
 そういえば、来た時に言われてた気がする。
 これは、リアはとことんやる気だな。

「ごめんなさい、イザベラ様。せっかく素敵な男性を用意して、私を歓迎してくださったのでしょうけど、ユウマ様より素敵な方はいらっしゃらなくて」

 ユウマくんの胸に手をおき、リアは頭を預ける。
 ユウマくんは、と、見てみると、殺気など消え失せ、口を手でおさえて、後ろを向いていた。

 これ、ニヤけるの我慢してるな。

 よし、こうなったら、あたしは女子に好かれない女子を演じてみるかな。

「ユウヤ様! 誤解しないで下さいね! わたし、ユウヤ様しか見てませんから!」
「ぐっ」

 効果音がつくなら、キュピーン、だろうか?
 ユウヤくんの胸にしがみつき、上目遣いで言ってみた。

 が、気持ち悪かったのだろうか?

 ユウヤくんは変な声を上げて、あたしを凝視する。

 向こうがヒロインなら、あたしは悪役令嬢で結構!
 このまま勝つぞ!

 アザレア様達はきっと、あたし達が男性陣に興味を示したなら、その事をネタにし、それが駄目なら、バイドルを使って、あたし達に傷をつけようとしたに違いない。

 でも、そうはさせません!
 ここは、王子様を一途に愛する悪役になりきりましょう!

「アザレア様、わたしもリア様と同じ意見ですわ。こちらにいらっしゃる方達もアザレア様にとっては、とても魅力的な男性でしょう。けれど、ご厚意にそえず申し訳ありません。わたしにはユウヤ様以上の方はいらっしゃいませんの」
「同じ殿方をお慕いしているイザベラ様なら、この気持ち、わかってくださいますよね?!」

 あたしとリアは、それぞれの相手に身を寄せたまま、アザレア様とイザベラ様に微笑む。

 ドヤ顔しそうになるけれど、そこは我慢。

「な、そんなっ」
「私達が平民に負けるなんて…」

 アザレア様とイザベラ様の顔が歪んだかと思った瞬間。

「「こんなの認めませんわ~!!」」

 2人して子供みたいに泣き始めたのだった。

 その後、硬直していたギャラリーを全て帰し、泣きやんだ2人のお姫様達とバイドルは、王様に報告してからの処分決定となるため、しばらくは領主の家で軟禁状態にする事となった。







「うわあ、ほんと疲れた!」 

 後始末を終えて、屋敷から馬車のある門への道の途中で、ぐうーっと伸びをすると、

「その手、どうした?」

 そう問われて、あたしは手を大きく広げ、ユウヤくんの顔の前まで持っていく。

「セバスさん?」
「うん。手に書いておいたの」

 頷いてから言葉を続ける。

「セバスさん、自分も忙しいはずなのに、あたし達の為にいっぱい時間を割いてくれてた。だから、挑発されてボロを出さないように、おまじないみたいに書いておいたんだあ」
「あたしも」

 リアが笑ってユウヤくんに掌を広げて見せた。
 イラッとなった時、リアが見せてくれて本当に助かった。

「そういえば、リア、オマエ、さっきのは」
「ん?」
「さっき、イザベラ嬢に言ってたアレって」

 ユウマくんが真剣な眼差しでリアに言う。
 それを聞いて、さっきの演技の事を思い出す。

 それ、今、言うべき話ではないのでは??

「あ、あれ! 何も言わないでくれてありがと! おかげで助かった!」
「・・・・・は?」
「いや、中々、上手かったんじゃないかなぁ。安心してね、あれは演技だから」

 ユウマくんに向かって、リアがにっこり笑う。
 ユウマくんの表情が一瞬にして重くなったのに、リアは気づいておらず、無事に乗り切れたことに上機嫌だ。

 ユウマくん、気の毒に。
 というか、なんであたし達がいる時に聞くの?!
 恥ずかしがって本音なんて言うわけないし! 
 となると、あたしも言わないといけないの?


「あの、ユウヤくん、さっきのは」
「聞きたくねぇから言わなくていい」
「うん。ん?」

 ユウヤくんがなぜか無言で恨めしそうな視線を送ってくる。

 な、なんで?

 とりあえず、あたしは続きの言葉を全て飲み込んだ。

「話があるから、ユーニちゃんはユウヤと乗ってくれる?」

 迎えの馬車が2台用意されていて、リアの後に乗り込もうとしたあたしにユウマくんがお願いしてきたので、あたしは快く頷いたのだが。

「手ぇ貸せ」
「ありがとう」

 ユウヤくんの差し出してくれた手を借りて、馬車に乗り込もうとした、その時だった。

「いだだだっ! 痛いってば! 骨おれる! 背骨おれるから! ごめん! なんか、わからないけど、ごめんなさいぃぃぃ!」

 リアの悲鳴が聞こえてきた。

 あ、どうやら、ユウマくんリアに仕返ししたんですね?

「背骨? 背骨折れるって事は、リアったら抱きしめられてるの?!」
「ほら、早く乗れ。ニヤニヤするな、友達の心配しろ」
「え! でも!」
「いいから乗れ!」

 ユウヤくんに促されて馬車に乗り込む。
 さあ、帰ったら、馬車の中で何があったか、リアに話を聞かなくっちゃ。
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