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23. 神との会話
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フィーンドとの一件の次の日の朝、リリアナは祈りの間に来ていた。
昨日は、行方がわからなくなった神官の姿が、いつになっても見つからなかった事と、アッシュの両親との初顔合わせもあった為、祈りの間に行かなければいけないと思った時には、すでに夜も遅かった。
夜遅い時間には失礼かもしれないと思い、リリアナは1人で早朝に祈りの間に来る事にしたのだ。
フィーンドと一緒に消えた、リリアナに冷たい態度を取った神官は、結局は見つからなかった。
彼女がどこに消えたのか知りたかったという事もあり、リリアナは聖女像の前で膝をついた。
(お礼が遅くなり申し訳ございませんでした。オーブリー達の目を覚まさせていただき、ありがとうございます)
口には出さずに、頭の中でそう思うと、答えが返ってくる。
『お疲れさまでした。あなたを試すような事をしてしまい、申し訳ない事をしたと思っています』
(試す?)
『ええ。あの独房に入れる事により、あなたが本当に聖女にふさわしいのか確認をしたのです』
(そ、そうだったんですか。でも、聖女様の日記を読んだから何とかなりましたし、良しという事で…)
そこから、リリアナは神官の行方の事を尋ねると、神は悲しげな声で告げた。
『彼女は邪神の使いになりました。フィーンドに唆されたのです』
(そんな…!)
『いつかまた、あなたの前に現れる事があるかもしれません。その時には…』
(大丈夫です。邪神の使いなんかに騙されたりしません)
『ありがとう、リリアナ。あなたにはたくさん謝らないといけない事があります』
(神様が謝られる事なんてありません…!)
『いいえ。アッシュの事では特に謝らないといけません』
(アッシュの事ですか? もしかして、アッシュが3の数字を持つ聖騎士様なのに教えてくれないって事ですか?)
姿は見えないが、リリアナからの問いかけに、神は一瞬、驚いた様に間をおいてから呟く様に言う。
『気付いていたのですね…』
(気付かないわけないですよね。アッシュは色々と知りすぎてました。何度聞いても答えてくれなかったので、何か理由があるのかなって。それに、正直、素直に言われても困っていたのもあると思います)
『……どうしてです?』
(だって、アッシュって王太子じゃないですか。そんな人に気軽に話しかけられないです。それに、3の数字を持つ聖騎士様だからって私と結婚しないといけないって決められてるのは可哀想じゃないですか)
『あのね、リリアナ、アッシュはあなたの事を…』
そこまで言った所で、リリアナの頭の中で、耳に心地よい低い声が聞こえた。
『やめておけ。そこまで干渉してはいけない』
『ですが、このままではリリアナは勘違いしたままなのでは…?』
『そこはアッシュに任せよう。我らが首を突っ込んでよいものではない』
『そ、そうね。だけど、隠せと言ったのはあなたよ。最初から伝えるようにさせておけば…』
神様同士が会話しているのを聞いて、リリアナは呑気な事を考える。
(神様って1人かと思っていたけれど、そうじゃないのね)
そんなリリアナの考えが聞こえてしまったのか、珍しく慌てた女神の声が返ってきた。
『ごめんなさいね、リリアナ』
(いいえ。あの、お願いがあるんですが、アッシュには私に正体を明かす事を急かさないで下さい)
『…わかったわ。あなたもまだ、彼の口から聞きたくみたいだから』
(だって、3の数字を持つ聖騎士様と結婚するとかいう話をしていたんですから、何だか恥ずかしいじゃないですか。アッシュの事だから本当に私を嫁にしようとするかもしれませんし、アッシュなら私よりも良い人が絶対に見つかりますから、その人と幸せになってもらわないと)
『何だか、アッシュに申し訳なくなってきたわ』
『リリアナの事はアッシュに任せればいい。下手に我らが口出しすればするほど、リリアナに逃げ場がなくなる。彼女にだって選ぶ権利があるのだから』
『そうね、わかったわ…』
『それよりもリリアナ、今回の事はご苦労だった。これからも邪神の使いは聖女や聖騎士達だけでなく、善良な民を闇に落とし、我らの力を削ごうとするだろう。苦労をかけるが、これからも他の聖女達と力を合わせて、罪なき人達が平和に暮らせる様に尽力してほしい』
神からの願いに、リリアナは閉じていた目を開けて、聖女像と聖騎士像を見上げて声に出して応えた。
「出来る範囲になりますが、頑張らせていただきます!」
結局、オーブリーやカトリーヌは聖女の力は使えるものの以前の様には使えなくなった。
しかし、チャンスが与えられていて、禊を済ませれば、少しずつだが力が戻っていくとの事だった。
オーブリーは元夫に謝りに行き、子供達とは月に1回会う事が可能になった。
しかし、また同じ様に道を踏み外す事があれば、今度こそ、二度と子供達に会えなくなる事に決まった。
オーブリーは不倫はしてしまったが、神からの警告もあり、弱まっていた聖女の力が少しずつ戻っていく事により、邪神に対して抵抗する力もついた為、子供が自分にとって一番大事である事、そして今まで支えてくれた夫に対しての申し訳無さが芽生えていったようだった。
カトリーヌとトールは2人共単純な為、神様に叱責され素直に反省し、学園から帰ると教会内の掃除をしている。
リリアナにとって一番面倒だったのはフェナンだった。
フェナンはリリアナと、再度婚約したいと迫ってきたのだ。
もちろん、そんな事を言われたリリアナは腹を立てて、近付いてきたフェナンに平手打ちをして断った。
フェナンはショックを受けて崩れ落ちたし、リリアナも暴力をふるったことに対しては謝ったが、それくらい嫌なのだという事をフェナンに伝えたところ、彼も諦めたようで、オーブリーの元夫や子供達に謝罪をし、公爵令嬢との婚約を進める事に決めた。
そして、リリアナとアッシュの関係は、30日以上経っても相変わらずだった。
アッシュはリリアナと2人になるタイミングがあれば、自分が聖騎士である話をしようとするのだが、なぜかタイミング悪く話をしようとしたところで誰かが来たり、魔物が侵入してきたという連絡が入ったりで伝える事が出来なかったのだ。
「何でだ。まさか、神様のせいか…?」
「どうかしたの?」
もう何度目かになるかわからないチャンスを潰されたアッシュがリリアナを連れて、結界が破られたという場所に転移してから呟いたので、リリアナが尋ねると、アッシュは真剣な表情で口を開く。
「あのさ、リリアナ」
「おい、お前ら何してんだ! 早く来てくれ!」
トールの呼び声にリリアナが振り返って返事をする。
「ちょっと待って! ごめん、アッシュ! 急ぎの用事?」
「結界を張る方が急ぎだから、今はいい」
アッシュは苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った後、リリアナを促す。
「行くぞ!」
「うん!」
走り出したアッシュの後を追って、リリアナも駆け出した。
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お読みいただき、本当にありがとうございました!
エールも励みになりました。ありがとうございました!
リリアナとアッシュの恋の行方を番外編として、のんびり書いていこうかと思っておりますので、番外編開始までは完結表示とさせていただきます。
本日から新作「私にだって幸せになる権利はあるはずです!」を投稿開始いたしました。
ご興味ありましたら、読んでいただけますと幸せです。
昨日は、行方がわからなくなった神官の姿が、いつになっても見つからなかった事と、アッシュの両親との初顔合わせもあった為、祈りの間に行かなければいけないと思った時には、すでに夜も遅かった。
夜遅い時間には失礼かもしれないと思い、リリアナは1人で早朝に祈りの間に来る事にしたのだ。
フィーンドと一緒に消えた、リリアナに冷たい態度を取った神官は、結局は見つからなかった。
彼女がどこに消えたのか知りたかったという事もあり、リリアナは聖女像の前で膝をついた。
(お礼が遅くなり申し訳ございませんでした。オーブリー達の目を覚まさせていただき、ありがとうございます)
口には出さずに、頭の中でそう思うと、答えが返ってくる。
『お疲れさまでした。あなたを試すような事をしてしまい、申し訳ない事をしたと思っています』
(試す?)
『ええ。あの独房に入れる事により、あなたが本当に聖女にふさわしいのか確認をしたのです』
(そ、そうだったんですか。でも、聖女様の日記を読んだから何とかなりましたし、良しという事で…)
そこから、リリアナは神官の行方の事を尋ねると、神は悲しげな声で告げた。
『彼女は邪神の使いになりました。フィーンドに唆されたのです』
(そんな…!)
『いつかまた、あなたの前に現れる事があるかもしれません。その時には…』
(大丈夫です。邪神の使いなんかに騙されたりしません)
『ありがとう、リリアナ。あなたにはたくさん謝らないといけない事があります』
(神様が謝られる事なんてありません…!)
『いいえ。アッシュの事では特に謝らないといけません』
(アッシュの事ですか? もしかして、アッシュが3の数字を持つ聖騎士様なのに教えてくれないって事ですか?)
姿は見えないが、リリアナからの問いかけに、神は一瞬、驚いた様に間をおいてから呟く様に言う。
『気付いていたのですね…』
(気付かないわけないですよね。アッシュは色々と知りすぎてました。何度聞いても答えてくれなかったので、何か理由があるのかなって。それに、正直、素直に言われても困っていたのもあると思います)
『……どうしてです?』
(だって、アッシュって王太子じゃないですか。そんな人に気軽に話しかけられないです。それに、3の数字を持つ聖騎士様だからって私と結婚しないといけないって決められてるのは可哀想じゃないですか)
『あのね、リリアナ、アッシュはあなたの事を…』
そこまで言った所で、リリアナの頭の中で、耳に心地よい低い声が聞こえた。
『やめておけ。そこまで干渉してはいけない』
『ですが、このままではリリアナは勘違いしたままなのでは…?』
『そこはアッシュに任せよう。我らが首を突っ込んでよいものではない』
『そ、そうね。だけど、隠せと言ったのはあなたよ。最初から伝えるようにさせておけば…』
神様同士が会話しているのを聞いて、リリアナは呑気な事を考える。
(神様って1人かと思っていたけれど、そうじゃないのね)
そんなリリアナの考えが聞こえてしまったのか、珍しく慌てた女神の声が返ってきた。
『ごめんなさいね、リリアナ』
(いいえ。あの、お願いがあるんですが、アッシュには私に正体を明かす事を急かさないで下さい)
『…わかったわ。あなたもまだ、彼の口から聞きたくみたいだから』
(だって、3の数字を持つ聖騎士様と結婚するとかいう話をしていたんですから、何だか恥ずかしいじゃないですか。アッシュの事だから本当に私を嫁にしようとするかもしれませんし、アッシュなら私よりも良い人が絶対に見つかりますから、その人と幸せになってもらわないと)
『何だか、アッシュに申し訳なくなってきたわ』
『リリアナの事はアッシュに任せればいい。下手に我らが口出しすればするほど、リリアナに逃げ場がなくなる。彼女にだって選ぶ権利があるのだから』
『そうね、わかったわ…』
『それよりもリリアナ、今回の事はご苦労だった。これからも邪神の使いは聖女や聖騎士達だけでなく、善良な民を闇に落とし、我らの力を削ごうとするだろう。苦労をかけるが、これからも他の聖女達と力を合わせて、罪なき人達が平和に暮らせる様に尽力してほしい』
神からの願いに、リリアナは閉じていた目を開けて、聖女像と聖騎士像を見上げて声に出して応えた。
「出来る範囲になりますが、頑張らせていただきます!」
結局、オーブリーやカトリーヌは聖女の力は使えるものの以前の様には使えなくなった。
しかし、チャンスが与えられていて、禊を済ませれば、少しずつだが力が戻っていくとの事だった。
オーブリーは元夫に謝りに行き、子供達とは月に1回会う事が可能になった。
しかし、また同じ様に道を踏み外す事があれば、今度こそ、二度と子供達に会えなくなる事に決まった。
オーブリーは不倫はしてしまったが、神からの警告もあり、弱まっていた聖女の力が少しずつ戻っていく事により、邪神に対して抵抗する力もついた為、子供が自分にとって一番大事である事、そして今まで支えてくれた夫に対しての申し訳無さが芽生えていったようだった。
カトリーヌとトールは2人共単純な為、神様に叱責され素直に反省し、学園から帰ると教会内の掃除をしている。
リリアナにとって一番面倒だったのはフェナンだった。
フェナンはリリアナと、再度婚約したいと迫ってきたのだ。
もちろん、そんな事を言われたリリアナは腹を立てて、近付いてきたフェナンに平手打ちをして断った。
フェナンはショックを受けて崩れ落ちたし、リリアナも暴力をふるったことに対しては謝ったが、それくらい嫌なのだという事をフェナンに伝えたところ、彼も諦めたようで、オーブリーの元夫や子供達に謝罪をし、公爵令嬢との婚約を進める事に決めた。
そして、リリアナとアッシュの関係は、30日以上経っても相変わらずだった。
アッシュはリリアナと2人になるタイミングがあれば、自分が聖騎士である話をしようとするのだが、なぜかタイミング悪く話をしようとしたところで誰かが来たり、魔物が侵入してきたという連絡が入ったりで伝える事が出来なかったのだ。
「何でだ。まさか、神様のせいか…?」
「どうかしたの?」
もう何度目かになるかわからないチャンスを潰されたアッシュがリリアナを連れて、結界が破られたという場所に転移してから呟いたので、リリアナが尋ねると、アッシュは真剣な表情で口を開く。
「あのさ、リリアナ」
「おい、お前ら何してんだ! 早く来てくれ!」
トールの呼び声にリリアナが振り返って返事をする。
「ちょっと待って! ごめん、アッシュ! 急ぎの用事?」
「結界を張る方が急ぎだから、今はいい」
アッシュは苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った後、リリアナを促す。
「行くぞ!」
「うん!」
走り出したアッシュの後を追って、リリアナも駆け出した。
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お読みいただき、本当にありがとうございました!
エールも励みになりました。ありがとうございました!
リリアナとアッシュの恋の行方を番外編として、のんびり書いていこうかと思っておりますので、番外編開始までは完結表示とさせていただきます。
本日から新作「私にだって幸せになる権利はあるはずです!」を投稿開始いたしました。
ご興味ありましたら、読んでいただけますと幸せです。
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