捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ

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4  後悔する日がくるかもしれないと思いますか?

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 フラワが話し疲れ、リミアリアが荷物を詰め終えた頃、エマオと彼の側近たちが彼女たちの所にやってきた。
 疲れ切った様子で廊下に立っているフラワを見たエマオは、眉尻を下げて彼女に駆け寄る。

「どうしたんだ」
「エマオ様! リミアリアが追い出されることになったのは私のせいだって言うんです!」

 先程までは自分のせいだと言っていたくせに、エマオの前では自分が被害者のふりをする。
 
 息をするように嘘をつくフラワに、リミアリアやメイドたちはため息を吐いた。

「おい、リミアリア! この書類にサインをしろ! そして、お前の顔など見たくないからすぐに出ていけ!」
「承知いたしました」

 ベッドに座っていたリミアリアが立ち上がると、メイドたちは鍵を開けて部屋を出ていく。

「おい、お前らも今日限りで解雇だ! 二度とメイドとして働けると思うなよ!」「「「ありがとうございます。今まで大変お世話になりました」」」 

 多くのメイドたちは、エマオが帰ってきて、リミアリアがいなくなるのなら辞めるつもりでいた。
 すでにリミアリアの指示でメイド長が推薦状を書いているため、働けなくなるという心配もない。

 荷造りを手伝っていた若いメイドたちは、エマオに声を揃えてお礼を言うと、足早にその場を去っていった。

 お礼を言われたことに、戸惑ったエマオだったが、騒ぎを聞きつけた年配のメイド長や執事も集まったため、話を進めることにした。

「リミアリア、お前に金などないだろうから、慰謝料は取らない。俺から捨てたことにしてやる」
「ありがとうございます」

 目を通した離婚協議書にはエマオの非は一切書かれていない。離婚理由は、リミアリアの浮気になっている。
 慰謝料や財産の件については、リミアリアの浮気を問わない代わりに、無一文で出ていくように書かれていた。

「私は浮気をしていませんので、離婚理由はエマオ様の浮気に変更をお願いいたします」
「何だと? そんな理由にしたら、俺が悪者になるだろう!」
「自分自身の行動に責任を取ってくださいませ」

 リミアリアはぴしゃりと言うと、ペンの先にインクをつけて、エマオに手渡す。

「エマオ様、訂正してください。そうすればすぐに離婚できます」
「……くそっ!」

 エマオは奪い取るようにリミアリアから、離婚協議書とペンを受け取った。壁を下敷き代わりにして、離婚理由を書き換える。
 訂正印としてナイフで自分の親指に傷をつけ、血判を押してリミアリアに差し出した。

「これで満足か?」
「ええ。ありがとうございます」

 離婚協議書の内容を再度確認し、リミアリアはエマオに話しかける。

「では、離婚が成立しましたので出ていこうと思います。今までありがとうございました」

 言い終えると、深々と頭を下げた。

「本当に……よろしいのですか」

 イランデス伯爵邸に勤めて二十年になる執事が、眉尻を下げてエマオに問いかけた。

「かまわん。リミアリアとの離婚について異論があるものは皆、出ていけ」

 エマオにとっては脅しのつもりだった。だが、これが失言だったと、後で気づくことになる。

 リミアリアがフットマンに荷物の運び出しを頼むと、フラワがにやりと笑った。

(勝ったと思っているんでしょうけど、残念ながら違いますからね)

 フラワにすっかり騙されているエマオに、リミアリアは最後にチャンスを与えようと思った。

「エマオ様、最後に一つだけお聞きしたいことがあります」
「何だ」
「あなたは私と離婚したことを後悔する日がくるかもしれないと思いますか?」

 エマオは鼻で笑うと、フラワを抱き寄せて答える。

「そんなわけがないだろう。俺にはフラワがいる。お前のような欠陥品に用はない。いいか。自分が俺を捨てたと勘違いされても困るから言っておく。俺がお前を捨てるんだ。捨てたものに用などない。だから、後悔など絶対にしない」
「承知いたしました」

 離婚を望んでいたことを、フラワに知られてはならない。
 知られてしまえば、離婚を止めるに決まっている。面倒なことにはしたくない。
 リミアリアは零れ落ちそうになる笑みをこらえ、悲しげな表情を作って部屋を出た。
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