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13 中途半端な知名度でお願いしたかった

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 旦那様とのプチピクニックを終えた後は、別荘に戻り、夕食の時間までは、各々が好きな様に過ごしました。

 旦那様は別荘にも仕事を持ってきている様ですが、食事の時間が取れない程でもない様で、夕食の時間にダイニングルームにいらっしゃたかと思うと、一緒に夕食を食べると仰られたのです。
 
 どういう心境の変化なのでしょう?

 夕食が運ばれてくるのを待っている間に話をします。

「明日はお出かけしたかったんですが…」
「どうかしたのか?」
「旦那様が珍しい事を仰られましたので、明日は雨になるのかと…。そうなりますと、お屋敷の中にいた方が良いですよね」
「君の方が余計な言葉を言っている率が高いと思うぞ」
「では、明日は晴れますか?」
「それは知らん。君の日頃の行いによるんじゃないか?」
「毎日、楽しく過ごしていますよ!」
「良い行いをしているかどうかだ」

 旦那様にきっぱりと言われ、言葉に詰まってしまいます。

 良い行いをしているかと聞かれて、自分でしています!
 なんて、答えて良いものなんでしょうか?

 かといって、特別、良い事をしている訳でもありません。

「良い事をしているつもりですが、絶対とは言い切れません」
「それなら明日には、答えが出るんじゃないか?」
「何がですか?」
「明日、晴れれば、君が良い事をしているという事にすればいい」
「雨だった場合はどうなるんですか?」
「これから良い事をしようと心がけたら良いんじゃないか?」

 そう旦那様に答えられ、納得できるような、そうでない様な複雑な気分になっていると、夕食が運ばれてきたので、私も旦那様も大人しく、食事に集中する事にしたのでした。

 その後はテーブルをはさみ、向かい合った状態ではありましたが、特に何か話すわけではなく、食事を終えました。

 私と旦那様の関係はなんなのでしょう?
 夫婦という事は確かな様ですが、仮面夫婦というやつでしょうか?
 仲は悪くないと思うのですが、良くもないというか…。

 その日はダイニングルームで旦那様と別れてからは、次の日の朝まで顔を合わす事はありませんでした。

 そして、次の日の朝、談話室で窓の外をぼんやりと眺めていると、旦那様がいらっしゃいました。

「雨だな」
「言われなくても知ってます」
「今日はどうするつもりだ?」
「どうするも何もやる事がありませんので、ゆっくりしようかと思っていますが…」

 風はなさそうですが、雨は、しとしとと降っているので、惰眠を貪ろうかと思っていると、旦那様が聞いてこられます。

「今日はどうしようと思っていたんだ?」
「少し足をのばして、買い物に出かけようと思っていたんです。でも、この雨ではゆっくりと買い物できませんね」
「とりあえず出かけてみるか?」
「…旦那様もお出かけですか?」
「君の買い物に付き合いたいと思っているんだが…」
「やっぱり、今日の雨は旦那様のせいな様な気がしてきました」
「おい」

 旦那様が呆れた顔で続けます。

「別に俺は君に優しくしないとは言ってないだろう? 君と仲良くなろうとする努力くらいはする」
「そうかもしれませんが、最初から優しくして下さるつもりだったんですか?」
「……これは優しさではなく、普通の話だと思うんだが?」
「普通の話?」
「わざわざ、人の嫌がる事をしようと思う事が間違っているのと同じで、人に喜んでもらえる事をしようと思う事はおかしくないだろう。できれば、君に不快な気持ちになってもらわない様に配慮したつもりだったんだ」
「では、あんな事を言うタイミングや言葉のチョイスを間違えておられますよね。旦那様、女性にモテないのでは? 私も人の事は言えませんけど」
「うるさいな。だから、君と結婚したんだろう」

 旦那様は胸の前で腕を組み、不機嫌そうな顔をして言いました。
 
 政略結婚ではありますが、幼い頃からの許嫁ではありませんので、お互いに余ってしまったもの同士なのは間違いありません。

「旦那様は売れ残る程、悪い人ではございませんのにね」
「君にお買い上げいただいたから、売れ残りではなくなった」
「返品をご希望で?」
「それはローラだろう。君が邪魔なのもあるだろうが、俺がふられるのを見たいのだろうな」
「そんな事を聞いてしまいますと、ローラ様の前では特に仲良くしたくなりますね!」

 にっこり笑顔を浮かべてから、旦那様に尋ねます。

「少し足をのばして、繁華街に行きましたら、天気はマシでしょうか」
「わからん。天気の予想は俺には無理だ」

 旦那様が真面目な顔で答えてくださいました。
 このまま、話をしていても、ただ、無駄に時間がすぎるだけのような気がしましたので、雨も酷くはありませんし、旦那様と一緒にお出かけする事にしたのでした。

  有り難い事に馬車に乗っている間に雨はあがり、着いた時には空には晴れ間が見えていました。

「旦那様、侮れませんね」
「君の行いが良かったんだろう」

 元々、そう強く降っていなかったからか、石で舗装された道も、少しずつではありますが乾いてきています。
 かといって、靴を汚したい訳でもありませんので、馬車を降りてすぐに、お店の中に入る事にしました。

 お茶の葉が売っているお店で、試飲なども出来る様でした。
 旦那様とお茶について他愛のない話をしながら、買う茶葉を選んでいると、背後からひそひそと話す声が聞こえました。

「もしかして、クロフォード公爵?」
「かしら? 少し離れた場所に別荘があると聞いてるわ」

 広い店内には、他に貴族らしいグループが何人かいて、その内の女性グループが、こそこそと話されています。

「あの容姿だし、とても目立つわね」
「毎日、あのお顔が拝見できるなんて、奥様が羨ましいわ」

 旦那様はやはり、お顔は素敵なのですね。
 
 改めて、旦那様の顔を見てみると、私も納得いたしました。
 やはり、整った顔立ちをしておられます。

「どうした?」
「いえ。なんといいますか、旦那様には、中途半端な知名度でお願いしたかったな…と」
「中途半端な知名度ってどんなものだ」
「あの人、見た事あるけど、誰だったっけ、みたいなやつです」
「公爵がそれでいいのか…」
「社交場でバレる分には良いんですよ!」

 我ながら無茶な事を言っているなあ、と思っていますと、旦那様が小さく息を吐いてから言います。

「茶を試飲してみるか。2階は軽食も取れる様だぞ」
「甘いお菓子はありますでしょうか」
「あるんじゃないか?」

 2人で店内にある2階へ続く階段の方に向かっていると、旦那様にではなく、私に声を掛けてくる人物がいました。

「エレノア! 久しぶり!」

 振り返って顔を確認した途端、嫌な気分になりました。

 なぜなら、声を掛けてきた男性は、いわゆる元彼という人だったからです。
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