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56 元婚約者の末路 ⑥
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「あ、兄上!? 助けに来てくれたんですか!?」
先ほどの言葉が聞こえていなかったのか、もしくは聞こえないふりでもしているのか、ロガンはすがるようにオウガ侯爵代理――ザタラス様に駆け寄った。
金色の長い髪を一つにまとめたザタラス様は、手を前に出してロガンを制止する。
「近寄るな。お前はもう私の弟じゃない」
「あ、兄上、何をおっしゃっているんですか。僕はロガンです。あなたの弟ですよ!」
「馬鹿にするな。お前がロガンであることくらいわかっている。わからないようだから、言葉を変えて言う。ロガンはもう私の弟ではない。私には弟などいない」
「な、何を言っているんですか!」
ロガンはザタラス様の両腕を掴もうとしたが、ひらりと避けられた。
私はザタラス様がここにいらっしゃることを知らなかった。
イライアス様が驚いているようには見えないから、彼がザタラス様に声をかけてくれていたのかもしれない。
「散々人に迷惑をかけておいて、まだ私と兄弟でいられると思うなんてありえない」
「兄上、聞いてください! 僕は被害者なんです!」
「お前の話など聞くつもりはない。いいか。二度とオウガ侯爵家の人間だと口にするな」
「口にしたらどうなるんですか」
ロガンの顔は真っ青で、体も小刻みに震えている。今になってやっと、自分がオウガ侯爵家から切り捨てられることに気がついたようだった。
「どうなるか? 身分詐称で捕まえてやる。平民が貴族の名を騙る罪は重い。労役だけで済むといいな」
「そんな! 僕に平民になれって言うんですか!?」
「お前の名前はオウガ侯爵家の家系図から消されるのだから、そういうことだ。安心しろ。両親も一緒だ」
「実の親まで切り捨てるつもりですか!」
ロガンは大粒の涙を流しながら、ザタラス様を見つめた。
「ここまで育ててもらった恩義はある。住む所くらいは用意する。お前も一緒にそこで暮らすんだな」
ザタラス様は言い終えると、イライアス様と私に頭を下げた。
「乱入してしまい申し訳ございませんでした。そして、ロガンに別れの挨拶をする機会をいただけたことに感謝いたします」
「私は何もしていません」
「僕も大したことはしていないよ」
「いえ。お二人のおかげで、自分の両親や弟がオウガ侯爵家の名を名乗る者たちではないと確信を持つことができました」
頭を上げたザタラス様は、どこか清々しい顔をしていた。
迷いを吹っ切ることができたのなら、良かったと思う。
ザタラス様に無言でうなずいた後、私は黙り込んでいるロガンに話しかける。
「ロガン、私とあなたの縁も、今日で終わり。大好きな両親と幸せに暮らしてね」
「い、嫌だ! ソラリア、助けてくれ! 平民になんてなりたくない!」
「気に入らない返答をしたら、暴力を振るおうとしたわよね? あなたには散々嫌な思いをさせられたのに、どうして助けなくちゃいけないの?」
「だって、君が僕の気持ちをわかってくれないから! 愛してるんだよ、ソラリア!」
「いい加減にしろと言ってるだろう」
手を伸ばしてきたロガンの手をつかみ、イライアス様は続けた。
「レイハート公爵夫人にしつこく付きまとっただけでなく、暴力を振るおうとした。公爵夫人を害しようとする危険人物として、君を騎士隊に渡す」
「そんな! やめてください!」
ロガンはイライアス様の手を振り払うと、叫びながら店内に向かって走り出す。
「嫌だ! 僕は悪いことなんてしていない! 捕まりたくない!」
逃げようとしたロガンだったが、近くで待機していた私の護衛たちに取り押さえられ、騎士隊に引き渡されることになった。
「ソラリア、助けて! 僕は何も悪くない」
「悪くないですって? ロガン、あなたは反省するということを覚えたほうがいいわ」
必死に訴えてくるロガンにそう告げて、イライアス様と共にレストランを後にした。
先ほどの言葉が聞こえていなかったのか、もしくは聞こえないふりでもしているのか、ロガンはすがるようにオウガ侯爵代理――ザタラス様に駆け寄った。
金色の長い髪を一つにまとめたザタラス様は、手を前に出してロガンを制止する。
「近寄るな。お前はもう私の弟じゃない」
「あ、兄上、何をおっしゃっているんですか。僕はロガンです。あなたの弟ですよ!」
「馬鹿にするな。お前がロガンであることくらいわかっている。わからないようだから、言葉を変えて言う。ロガンはもう私の弟ではない。私には弟などいない」
「な、何を言っているんですか!」
ロガンはザタラス様の両腕を掴もうとしたが、ひらりと避けられた。
私はザタラス様がここにいらっしゃることを知らなかった。
イライアス様が驚いているようには見えないから、彼がザタラス様に声をかけてくれていたのかもしれない。
「散々人に迷惑をかけておいて、まだ私と兄弟でいられると思うなんてありえない」
「兄上、聞いてください! 僕は被害者なんです!」
「お前の話など聞くつもりはない。いいか。二度とオウガ侯爵家の人間だと口にするな」
「口にしたらどうなるんですか」
ロガンの顔は真っ青で、体も小刻みに震えている。今になってやっと、自分がオウガ侯爵家から切り捨てられることに気がついたようだった。
「どうなるか? 身分詐称で捕まえてやる。平民が貴族の名を騙る罪は重い。労役だけで済むといいな」
「そんな! 僕に平民になれって言うんですか!?」
「お前の名前はオウガ侯爵家の家系図から消されるのだから、そういうことだ。安心しろ。両親も一緒だ」
「実の親まで切り捨てるつもりですか!」
ロガンは大粒の涙を流しながら、ザタラス様を見つめた。
「ここまで育ててもらった恩義はある。住む所くらいは用意する。お前も一緒にそこで暮らすんだな」
ザタラス様は言い終えると、イライアス様と私に頭を下げた。
「乱入してしまい申し訳ございませんでした。そして、ロガンに別れの挨拶をする機会をいただけたことに感謝いたします」
「私は何もしていません」
「僕も大したことはしていないよ」
「いえ。お二人のおかげで、自分の両親や弟がオウガ侯爵家の名を名乗る者たちではないと確信を持つことができました」
頭を上げたザタラス様は、どこか清々しい顔をしていた。
迷いを吹っ切ることができたのなら、良かったと思う。
ザタラス様に無言でうなずいた後、私は黙り込んでいるロガンに話しかける。
「ロガン、私とあなたの縁も、今日で終わり。大好きな両親と幸せに暮らしてね」
「い、嫌だ! ソラリア、助けてくれ! 平民になんてなりたくない!」
「気に入らない返答をしたら、暴力を振るおうとしたわよね? あなたには散々嫌な思いをさせられたのに、どうして助けなくちゃいけないの?」
「だって、君が僕の気持ちをわかってくれないから! 愛してるんだよ、ソラリア!」
「いい加減にしろと言ってるだろう」
手を伸ばしてきたロガンの手をつかみ、イライアス様は続けた。
「レイハート公爵夫人にしつこく付きまとっただけでなく、暴力を振るおうとした。公爵夫人を害しようとする危険人物として、君を騎士隊に渡す」
「そんな! やめてください!」
ロガンはイライアス様の手を振り払うと、叫びながら店内に向かって走り出す。
「嫌だ! 僕は悪いことなんてしていない! 捕まりたくない!」
逃げようとしたロガンだったが、近くで待機していた私の護衛たちに取り押さえられ、騎士隊に引き渡されることになった。
「ソラリア、助けて! 僕は何も悪くない」
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