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7  ここ見て!

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 やってしまった…。
 気付いた時には遅かった。

 私の食べている姿をアンナがとても喜んでくれて、たくさん頼んでくれたから、調子にのって、ここが高級レストランである事を忘れて食べてしまった。

 食べ終わってから冷静になって、おいくらかかったのか、ヒヤヒヤしていたけれど、アンナが出してくれると言ってくれたのと、何と、支配人さんや、スタッフさんが私の事を知っていて、かなり割り引いてくださった。

「ミーファ様は無料で治療して下さいましたが、他の聖女様達には、お金を支払わなければいけませんでした。本来なら支払わなければならないものを、ミーファ様は無料にしてくださったのだと知って、その御礼です」
「お金を支払う事になったとは知らずに、無料で回復魔法をかけていただいてしまいました。ミーファ様、お城に帰って、何か言われたりしませんでしたでしょうか?」

 支配人さんとスタッフの人に言われて、なんて答えたら良いのか、すごく迷った。

 いや、違うんです。
 無料が普通なんです。

 私以外の他四人がふざけた事をしていただけなんですよ!!

 言いたい!
 だけど、彼らは聖女の事をかなり美化してくれている。
 本当の聖女が色ボケの守銭奴だなんて知ったらショックを受けるはず。
 とりあえず、この事実だけ伝えておこう。

「あの、実は私、聖女じゃなくなりまして」
「えっ!?」

 落ち着いた物腰のダンディーな支配人が、見た目に反して大きな声を上げて続ける。

「今日の新聞にのっていた、追放された聖女とは、ミーファ様の事だったのですか…」
「…新聞?」
「聖女が追放という見出しで新聞の一面になっていたわ。だけど、そう言われてみれば、聖女様の名前は書かれていなかったわね。今の段階では、国民は、どの聖女様が追放されたかはわからないと思うわ」

 アンナが顎に手を当てて、記事の内容を思い出そうとしてくれながら言った。

 もしかしたら、どの聖女が追放されたか、わざとわからない様に発表したのかもしれない。
 きっと、宰相の指示だろう。
 宰相は最後まで私を引き留めようとしてくれていたし、聖女の実態を知っている。
 国民にも知っている人がいるとわかっているから、あえて追放されたのが誰かわからない様にしたんだわ。

「ミーファ様を追放だなんて…」
「あの、聞こえてしまったんですが、追放された聖女様というのはミーファ様ですの?」

 出入り口付近で話をしていたからか、お店に入ってきた御婦人方に話しかけられ、追放されたのは私だと言うと、皆、驚いてくれた上に、何かあったら力になると言ってくれた。

 今まで頑張ってきた甲斐があって良かった!
 もちろん、追放されて聖女と名乗れなくなったとはいえ、力がなくなった訳ではないから、私の力をあてにしている人もいるだろうけど、善意で言ってくれている人もたくさんいるはず!

 レストランで出会った人達には、しばらくはスコッチ辺境伯の家でお世話になっていると告げ、魔物の気配を感じる事があったら連絡をほしいとお願いした。

 店を出ると、近くに行きたい店があるとアンナが言うので、馬車には乗らずに騎士さん達を連れて歩きながら、話をする。

「ミーファさん、私、昨日も言っていたでしょう? 領民はそこまで馬鹿ではないって」
「うん。でも、中には私の事を良く思わない人もいるだろうし、気を付けないといけないわね!」
「そうね。聖女じゃなくなったと聞いたら、態度を変えてくる人もいるかもしれないし…」
「そうなると迷惑だわ。 かといって、何かあった時に助けない訳にはいかないし」
「ねえ、ミーファさん。お兄様の婚約者になる気はない!? 辺境伯令息の婚約者なら、この領土内でなら、偉そうにする人はいないと思うの」

 アンナが目をキラキラさせて言ってきた。

「ありがたい話ではあるけど、リュークは迷惑だろうし、当主様だって良く思わないんじゃない?」
「そんな事ないわ! ミーファさんがいるから、お父様だってお兄様に婚約者を作らなかったんだから! って、これ、私が言う事ではない気がしてきたわ」
「何を言ってるの?」

 先程までの落ち込んだ様子はどこへやら、元聖女パワーでひとしきり笑ってくれたからか、アンナがいつもの調子に戻ってくれてホッとする。

「ミーファさんは、お兄様の事、嫌いではないわよね?」
「もちろん」
「良かった! ミーファさんの事も好きだけど、私、お兄様を応援してるから」
「う、うん。よくわからないけど、リュークとアンナの仲が良い事はわかるわ」
「ええ! 私にとって自慢のお兄様よ」

 アンナが可愛らしい笑顔を見せて言ってくれたけれど、すぐに真顔になって私に聞いてくる。

「そういえば、ミーファさん。王太子殿下から何か言われた?」
「いつ?」
「昨日かしら」
「本人にではないけど、側近の人からは伝言を聞いたけど、それの事?」
「わからないわ。でも、ミーファさんに話をしているのなら、ミーファさんの事ではないわよね。一体、何だったのかしら?」
「何かあったの?」
「お父様の方に連絡があったみたいだから」

 アンナはけろりとした顔で言うけれど、私は焦って尋ねる。

「当主様にクレームとかじゃないわよね?」
「そういう感じではなかったわ。連絡がきた、というのを執事がお父様に話をしているのを聞いて、手紙を読んでいるお父様を見たけれど、困った顔はされていなかったし、どちらかというと怒ってらしたわね」
「怒ってた?」
「出かける前だったから、詳しくは聞いていないの。もし、ミーファさんに関係ある事だったら、家に帰ったら、お父様から、お話があるかもしれないわね」

 アンナはそう言った後、一軒の店の前で立ち止まった。

「さあ、ミーファさんのお洋服を見るわよ!」
「え? アンナの服は?」
「私はいいの! ミーファさんの服を探しに来たんだから!」

 アンナに腕をつかまれて、店の方に引っ張られる。

 わざと明るくしてくれているのかもしれない。
 そう思うと胸が痛むし、国王陛下にも腹が立つ。

 アンナが大人で、彼女も了承しているならまだしも、子供に自分の亡き妻の代わりをさせようだなんて…!
 
 王妃様だって、良く思わないんじゃないかしら!

 と、プリプリしていたけれど、アンナに話しかけられ、それどころではなくなってしまった。





 それから、約一ヶ月後、私とリュークはスコッチ領土内にある、魔物達が住む山との境界線付近にある森の中に来ていた。
 確認してみると、結界は弱まってはきているものの、破られる程度のものではなかったので安心した。
 一度、境界線付近を見回った後で、結界を張り直す事に決めた。
 ドーム状の結界はすぐに出来るから、先に張ってしまう。
 ただ、国全体を囲める程の結界はさすがに無理なので、領土内、もしくは隣の領地まで及んでいるかもしれないけれど、人間には迷惑をかけないから、それで良しという事にする。

「お腹へった…」

 ドーム状の結界はすぐに張れるんだけど、範囲が広いため魔力を使うし、一気にお腹が減る。

「大丈夫か?」

 ふらふらした足取りの私を心配して、リュークが身体を支えてくれた後、自分の手をハンカチで拭いてから、持ってくれていたバスケットの中から大きなパンを取り出し、一口サイズにちぎってから、開けた私の口の中に入れてくれた。

「おいしい」
「自分で歩けなくなるくらいの魔力を一気に使うのは危ないだろ」
「でも、少しでも多くの人を助けられるでしょ? 他の聖女達がちゃんと動いていないみたいだし」

 連日の新聞では、各地で魔物や魔族が出現したという記事で埋め尽くされていた。
 今のところ、私が近々に結界を張った、北の辺境伯の領土付近と、私が今いる南の辺境伯であるスコッチ領土内では、その報告はない。

 四人の聖女達が火消しに奔走している様だけれど、腹が立つ事に、魔物達が現れたと報告が入った場所にしか行っていないようだった。

 侍女達から手紙が来て、こんな状態になってしまうと、スケジュール管理どころではなくなってしまったと、どの子も嘆いていて、仕事を辞めたいと書いていたけれど「あなた達のせいではないから、我慢できる間は我慢してほしい」とお願いの手紙を書いた。

 彼女達がいなくなれば、それこそもっと聖女達は結界を張りに行かなくなる。
 そんな事があってはいけない。
 
「ミーファ以外の聖女達は何をしてるんだろうな」
「破られた場所の結界は張っていっているみたいだけど、それじゃあ意味がないわ。先回りして他の所も張っていかないと、このままじゃ同じ事の繰り返しよ。もちろん、全てを張り終えれば、一時期はおさまるでしょうけれど、結界が弱まる時期になったら、また魔物が侵入するわ。しかも、同時期に」

 森の中は歩きにくい上に、まだ昼前だというのに薄暗い場所なので、大きな木にもたれかかって座り、パンを食べながら話す。

「とにかく、スコッチ領土内の結界を張り終えたら、依頼が来ている公爵家の所へ行くつもり」

 公爵家の領土は内地にある事が多いので、魔物の侵入はほとんどない。
 ただ、空を飛ぶ魔物もいるから、絶対とは言い切れないので防衛意識の高い貴族は、定期的に聖女に結界を張るようにお願いをしてきていた。
 今回は、知り合いの公爵から、転移の為の魔道具、滞在費他のお金を払うから、結界を張りに来てほしいと依頼がきた。

 追放された日に何も出来なくて悪かった、と手紙で謝ってくださっていて、公爵家の領土にいる間は、好きなだけお肉を食べさせてくれると書いてあった。
 もちろん、それ以外の用意できる食べ物なら好きなだけ、とも。

 決して、食べ物につられているわけではない。

 公爵にはお世話になっていたし、何より、助けられる命は助けなければいけない!
 お金ももらえるし!
 美味しいものも食べれるし!

「俺も一緒に行くよ」
「何言ってるの、あなた学校があるでしょ」
「魔道具で行くんだろ? 何日くらいかかりそうなんだ?」
「公爵家の領土は広いけど、今回頼まれているのは、住民が多く住んでいる地域だけだから、三日もあれば終わると思うけど」
「じゃあ、一日休むだけだから一緒に行くよ。護衛が必要だろ? もちろん、ミーファが迷惑ならやめるけど」
「ううん。ありがとう! リュークがいてくれると助かる。今日みたいに頑張りすぎるのを止めてくれるでしょ?」

 笑顔で言うと、隣に座るリュークが満面の笑みで頷いた時だった。
 私の膝の上に封筒が落ちてきた。

 魔法で送られてきた手紙で、当主様からだった。

 慌てて食べるのをやめて、封を開け、中身を読んでいく内に、私は思わず声をあげる。

「げっ!」
「どうした?」
「こ、ここ見て!」

 リュークに問題の文章を指で示しながら、手紙を見せると、リュークの表情が一瞬で歪んだ。

 当主様からの手紙には、王太子殿下が私と婚約したがっていると書かれていた。

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