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17 絶対に嫌よ
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慌てて部屋に戻り、パーティー会場で浮かない様に派手すぎない色合いのドレスに着替え、身支度を整えてから、リュークと一緒に魔道具を使い、北の辺境伯の屋敷に向かった。
入り口から少し離れた場所に転移して、門番に挨拶すると、私の事を知っている人がいて、元聖女という事で、招待状がなくても通してくれた。
聖女をたたえるパーティーだから、元聖女であろうとも聖女だった事は確かだから、たたえられるべきだと思ってくれたみたい。
こんな甘い警備で大丈夫なのかと心配にはなったけど、リュークと一緒にいたし、リュークの妻だという事で多めに見てくれたのかもしれない。
リュークに連れられて向かった先は、騒がしいパーティー会場と北の辺境伯の邸宅の間にある中庭だった。
人払いをしたみたいで、中庭の中には人の姿は見えず、外灯に照らされた薄暗い石畳の道を歩いていくと、ベンチに座っている奥様と、その横にフランソワ、そして二人から少し離れた場所で立っている、一人の侍女の姿が見えた。
「ミーファ様!」
一人の侍女が私に気付き、笑顔で駆け寄って来る。
「ミーファ様、お久しぶりです。お会いできて嬉しいです」
「私もよ。でも、あなた、ちょっと痩せたんじゃない? 元々、痩せてはいたけど、余計にというか…」
「仕事が忙しかったもので…、ほとんど食事を摂る暇もなかったんです」
「そうだったの…。頑張ってくれてありがとう」
彼女をねぎらった後、奥様の方に行って、頭を下げる。
「奥様、お待たせして申し訳ございません」
「もうミーファったら、いつまでそんなに他人行儀でいるつもり? いつになったら、お義母様って呼んでくれるのかしら」
奥様が面白くなさそうな顔をして、そっぽを向かれるので、可愛らしいなと思って笑ってから、軽く頭を下げる。
「申し訳ございません。そうお呼びできるように努力していくようにしますから」
「しょうがないわね」
奥様は渋々といった感じで頷いた後、横に座って俯いたままのフランソワらしき人物に声を掛ける。
「聖女様、ミーファが参りましたよ」
「……ミーファ?」
ゆっくりとフランソワが顔を上げる。
フランソワはやつれている様子もなく、肌色も健康そうだし、表情が少し疲れているくらいかなといった感じで、いきなり失踪してしまった人間という様には思えなかった。
やっぱり、自分の意思でここに逃げてきたのかしら。
「フランソワ、早く王城に戻った方がいいわよ。何があったかは知らないけれど、聖女の仕事を放棄するのは良くないわ」
「何を言ってるの、ミーファ。放棄したのはあなたじゃないの」
フランソワの言葉にかちんときた私は言い返す。
「私の場合は、国王陛下から追放されたのよ。だから職務放棄にはならない。あなたは別に、国王陛下から追放された訳じゃないんでしょう?」
「似たようなものよ」
フランソワはそう言うと、座ったまま私を見上げて涙を流し始めた。
「あの時、あなたに罪をなすりつけてしまった事、本当に後悔しているわ。謝れと言うなら謝るわ。だからお願い。国王陛下に頭を下げて、あなたが聖女に戻れる様にお願いしてもらえない?」
「は?」
フランソワのお願いに、思わず低い声で聞き返した。
今、なんて言った?
「茶化さないでよ、ミーファ。あなたが聖女に戻れないと、私、どうなってしまうかわからないの」
「意味がわからないわ。どうして私が聖女に戻らないと、あなたがどうにかなってしまう訳? どっちにしても、あなたがどうなろうと、私は知ったこっちゃないんだけど」
冷たい言い方かもしれないけれど、これくらい言ってやってもいい様な気がした。
だって、彼女はそれくらいの事を私にしたんだから。
「冷たい事を言わないでちょうだい」
フランソワはベンチからずり落ちると、私のドレスの裾を掴んで続ける。
「ミーファ、このままじゃ私、王太子殿下の妻どころか、誰にも娶ってもらえないわ。一生、この屋敷から出られないかもしれない」
「ねえ、フランソワ。とりあえず、あなたの今の状況を教えてくれない? あと、出来れば、目立たない所で話をしたいんだけど」
この場所に人が絶対に来ないとは言い切れないし、フランソワがいなくなった事を知っている人間が彼女を見つけたら、すぐに騒ぎになってしまう。
そんな事になってたら、彼女から事情を聞き出せなくなる。
「……わかったわ。私の部屋に来てちょうだい」
そう言うと、フランソワは立ち上がり、私達を誘導し始めた。
侍女が長い間、姿を見せないと怪しまれる可能性がある為、侍女には帰ってもらい、もし、リューク達を探している人がいれば、探されても困るので、彼らが帰る所を見たと言ってほしいとお願いした。
フランソワは北の辺境伯の屋敷の向こうにある別邸で、今は暮らしているんだそうだ。
食べ物などは一日三回、決まった時刻に、メイドが持ってきてくれ、フランソワが食べ終わると、その食器を持って、帰っていくらしい。
別邸の中は魔道具の明かりで眩しいくらいに明るかった。
「北の辺境伯から、この屋敷をいただいたの。その代わり、ミーファが聖女に戻るまで、ここから一歩も出るなと言われているけど」
「でもあなた、さっきは中庭にいたわよね」
「いちいちチェックされている訳じゃないわ。見張りもいないの。どうせ、敷地内からは出ないと思われてるんだわ」
フランソワはエントランスホールで立ち止まり、話を続ける。
「本当はお茶を用意したいところだけど、そんな事をメイドに頼んだら、あなた達がこの屋敷に来た事がバレちゃう。それが良い事なのか悪い事なのかはわからないから、バレない方が良いという事にしておくわ」
フランソワは一人で言って一人で満足すると歩き始めた。
奥様と私とリュークは顔を見合わせあった後、何も言わずに、彼女の後をついて歩く。
私達を談話室らしき部屋に案内すると、フランソワは扉を閉めるなり、私の方に向かって来たけれど、リュークが間に入ってくれた。
「聖女様、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんかいられないのよ! ミーファ、あなたが結婚した事は噂で聞いたわ。おめでとう! だけど、結婚したからといって、聖女に復帰できないわけではないわよね!?」
「リュークも言ったでしょ。フランソワ、少し落ち着いてちょうだい」
私もフランソワに言ったけれど、彼女は全く落ち着く様子はない。
「本当に本当に後悔しているのよ、ミーファ。だけど、あの時はああするしかなかったのよ」
「そんな事はもうどうでもいいわ、とりあえず座って!」
ローテーブルをはさんで並べられたソファーの一つを指差すと、フランソワは渋々ながら、私が示した方のソファーに座った。
その向かい側のソファーに私を真ん中にして、リュークと奥様が座った。
本当は奥様には先に帰ってもらっても良いのだけれど、魔道具が高いので節約の為に残ってもらった。
奥様に先に帰ってもらったら、魔道具はニ個必要になるけど、一緒に帰るなら一個で済むから。
奥様とリュークは気にしないようだったけれど、私が気にするので、そうしてもらった。
だって、お金がもったいないもの!
「ミーファ、私の幸せはあなたにかかっているの!」
「そうな話はどうでもいいわ。まず、どうして、あなたがここにいるのか教えてちょうだい? 北の辺境伯の愛人にでもなったの?」
「まだ違うわよ!」
「まだ、って、どういう事よ」
フランソワはすぐには私の質問に答えずに、少し間をおいてから口を開く。
「本当は王太子殿下の妻になりたかった。だけど、このまま、王太子殿下を追いかけていても、選ばれなかった時に困ることに気が付いたの」
いや、普通は最初から気付くでしょ。
と思ったけれど、話の腰を折るわけにもいかないので黙って話を聞く。
「で、たまたま、北の辺境伯からお誘いがかかって、世間的には愛人という形になるけれど、専用の聖女になってもらえないかって。もちろん、聖女の力がなくなっても面倒は見てくれるという条件で…」
「フランソワは誰とも結婚する気はなくなったって事?」
「暮らしに困らないなら、それで良くなったのよ」
「気持ちは分からなくもないけど」
愛人になりたいとは思わなかったけど、私だって暮らしに困らないなら、結婚しなくても良いと思っていた時もあった。
「ミーファがいなくなってからが大変だった。ミーファは一人で頑張ってくれていたのよね? すごいわ。あなたは、聖女に向いてるんだと思う」
「聖女に向いてる向いてないなんてないでしょ。向いてる人が聖女になれるんなら、私なんかよりふさわしい人がたくさんいるわ」
「謙遜しなくていいのよ、ミーファ。あなたは仕事は丁寧ですごいと思う」
持ち上げて、私を聖女に戻らせようとするつもりかしら?
そんな手には絶対にのらない!
「褒めてくれてありがとう。で、それで、あなたはどうしてここにいるの?」
「……国王陛下のせいよ」
フランソワが呟いた言葉に、私とリュークと奥様は顔を見合わせた。
この先の話を聞いても良いものか迷うけれど、聞かないといけない状況だし、黙って先を促す。
「ある日突然、国王陛下がやって来て、北の辺境の結界を張ったのはミーファじゃないと言い出されたの。どうしてかわからないけれど、ちゃんと調べ直されたみたいだわ」
どうにかして、私を聖女に戻したいから、調べさせたのかもしれない。
「陛下は結界を張った相手が誰だかわかっていると言って、私の名を呼んだの。そして、私は他の聖女達の前で部屋から連れ出されたわ」
それからの話を要約すると、フランソワを自室に連れて行った陛下は、許して欲しければ、聖女やその周りの人間に気付かれない様に姿を隠せと命令されたらしい。
そして、私が聖女に復帰するまでは、どこかにこもって静かにしておけと。
殺されるかもしれないと怯えていたフランソワにしてみれば、その時は命が助かるなら、何でもするつもりになったらしく、北の辺境伯に連絡して事情を話し、契約を早めてもらう事にした様だった。
「この家の中でのんびり暮らせるなら良いじゃない。今日みたいにお客様がいなければ、敷地内をウロウロしても良いんでしょう? まあ、私はあなたに王城に戻ってもらわないと困るけど」
「他人事だからって簡単に言わないで!」
「だって、あなたの自業自得じゃないの」
私が冷たく答えると、フランソワは立ち上がったかと思うと、座り込んで、床に敷かれている赤い絨毯に額を付ける。
「お願いよ、ミーファ。昔の仲間を助けると思って、聖女に復帰してちょうだい! お願いします! 本当に後悔しているんです」
後悔しているとか言うわりに、フランソワは自分の事しか考えていない。
「絶対に嫌よ」
少なくとも、フランソワのお願いをきいて聖女に戻るだなんて、絶対に嫌だった。
入り口から少し離れた場所に転移して、門番に挨拶すると、私の事を知っている人がいて、元聖女という事で、招待状がなくても通してくれた。
聖女をたたえるパーティーだから、元聖女であろうとも聖女だった事は確かだから、たたえられるべきだと思ってくれたみたい。
こんな甘い警備で大丈夫なのかと心配にはなったけど、リュークと一緒にいたし、リュークの妻だという事で多めに見てくれたのかもしれない。
リュークに連れられて向かった先は、騒がしいパーティー会場と北の辺境伯の邸宅の間にある中庭だった。
人払いをしたみたいで、中庭の中には人の姿は見えず、外灯に照らされた薄暗い石畳の道を歩いていくと、ベンチに座っている奥様と、その横にフランソワ、そして二人から少し離れた場所で立っている、一人の侍女の姿が見えた。
「ミーファ様!」
一人の侍女が私に気付き、笑顔で駆け寄って来る。
「ミーファ様、お久しぶりです。お会いできて嬉しいです」
「私もよ。でも、あなた、ちょっと痩せたんじゃない? 元々、痩せてはいたけど、余計にというか…」
「仕事が忙しかったもので…、ほとんど食事を摂る暇もなかったんです」
「そうだったの…。頑張ってくれてありがとう」
彼女をねぎらった後、奥様の方に行って、頭を下げる。
「奥様、お待たせして申し訳ございません」
「もうミーファったら、いつまでそんなに他人行儀でいるつもり? いつになったら、お義母様って呼んでくれるのかしら」
奥様が面白くなさそうな顔をして、そっぽを向かれるので、可愛らしいなと思って笑ってから、軽く頭を下げる。
「申し訳ございません。そうお呼びできるように努力していくようにしますから」
「しょうがないわね」
奥様は渋々といった感じで頷いた後、横に座って俯いたままのフランソワらしき人物に声を掛ける。
「聖女様、ミーファが参りましたよ」
「……ミーファ?」
ゆっくりとフランソワが顔を上げる。
フランソワはやつれている様子もなく、肌色も健康そうだし、表情が少し疲れているくらいかなといった感じで、いきなり失踪してしまった人間という様には思えなかった。
やっぱり、自分の意思でここに逃げてきたのかしら。
「フランソワ、早く王城に戻った方がいいわよ。何があったかは知らないけれど、聖女の仕事を放棄するのは良くないわ」
「何を言ってるの、ミーファ。放棄したのはあなたじゃないの」
フランソワの言葉にかちんときた私は言い返す。
「私の場合は、国王陛下から追放されたのよ。だから職務放棄にはならない。あなたは別に、国王陛下から追放された訳じゃないんでしょう?」
「似たようなものよ」
フランソワはそう言うと、座ったまま私を見上げて涙を流し始めた。
「あの時、あなたに罪をなすりつけてしまった事、本当に後悔しているわ。謝れと言うなら謝るわ。だからお願い。国王陛下に頭を下げて、あなたが聖女に戻れる様にお願いしてもらえない?」
「は?」
フランソワのお願いに、思わず低い声で聞き返した。
今、なんて言った?
「茶化さないでよ、ミーファ。あなたが聖女に戻れないと、私、どうなってしまうかわからないの」
「意味がわからないわ。どうして私が聖女に戻らないと、あなたがどうにかなってしまう訳? どっちにしても、あなたがどうなろうと、私は知ったこっちゃないんだけど」
冷たい言い方かもしれないけれど、これくらい言ってやってもいい様な気がした。
だって、彼女はそれくらいの事を私にしたんだから。
「冷たい事を言わないでちょうだい」
フランソワはベンチからずり落ちると、私のドレスの裾を掴んで続ける。
「ミーファ、このままじゃ私、王太子殿下の妻どころか、誰にも娶ってもらえないわ。一生、この屋敷から出られないかもしれない」
「ねえ、フランソワ。とりあえず、あなたの今の状況を教えてくれない? あと、出来れば、目立たない所で話をしたいんだけど」
この場所に人が絶対に来ないとは言い切れないし、フランソワがいなくなった事を知っている人間が彼女を見つけたら、すぐに騒ぎになってしまう。
そんな事になってたら、彼女から事情を聞き出せなくなる。
「……わかったわ。私の部屋に来てちょうだい」
そう言うと、フランソワは立ち上がり、私達を誘導し始めた。
侍女が長い間、姿を見せないと怪しまれる可能性がある為、侍女には帰ってもらい、もし、リューク達を探している人がいれば、探されても困るので、彼らが帰る所を見たと言ってほしいとお願いした。
フランソワは北の辺境伯の屋敷の向こうにある別邸で、今は暮らしているんだそうだ。
食べ物などは一日三回、決まった時刻に、メイドが持ってきてくれ、フランソワが食べ終わると、その食器を持って、帰っていくらしい。
別邸の中は魔道具の明かりで眩しいくらいに明るかった。
「北の辺境伯から、この屋敷をいただいたの。その代わり、ミーファが聖女に戻るまで、ここから一歩も出るなと言われているけど」
「でもあなた、さっきは中庭にいたわよね」
「いちいちチェックされている訳じゃないわ。見張りもいないの。どうせ、敷地内からは出ないと思われてるんだわ」
フランソワはエントランスホールで立ち止まり、話を続ける。
「本当はお茶を用意したいところだけど、そんな事をメイドに頼んだら、あなた達がこの屋敷に来た事がバレちゃう。それが良い事なのか悪い事なのかはわからないから、バレない方が良いという事にしておくわ」
フランソワは一人で言って一人で満足すると歩き始めた。
奥様と私とリュークは顔を見合わせあった後、何も言わずに、彼女の後をついて歩く。
私達を談話室らしき部屋に案内すると、フランソワは扉を閉めるなり、私の方に向かって来たけれど、リュークが間に入ってくれた。
「聖女様、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんかいられないのよ! ミーファ、あなたが結婚した事は噂で聞いたわ。おめでとう! だけど、結婚したからといって、聖女に復帰できないわけではないわよね!?」
「リュークも言ったでしょ。フランソワ、少し落ち着いてちょうだい」
私もフランソワに言ったけれど、彼女は全く落ち着く様子はない。
「本当に本当に後悔しているのよ、ミーファ。だけど、あの時はああするしかなかったのよ」
「そんな事はもうどうでもいいわ、とりあえず座って!」
ローテーブルをはさんで並べられたソファーの一つを指差すと、フランソワは渋々ながら、私が示した方のソファーに座った。
その向かい側のソファーに私を真ん中にして、リュークと奥様が座った。
本当は奥様には先に帰ってもらっても良いのだけれど、魔道具が高いので節約の為に残ってもらった。
奥様に先に帰ってもらったら、魔道具はニ個必要になるけど、一緒に帰るなら一個で済むから。
奥様とリュークは気にしないようだったけれど、私が気にするので、そうしてもらった。
だって、お金がもったいないもの!
「ミーファ、私の幸せはあなたにかかっているの!」
「そうな話はどうでもいいわ。まず、どうして、あなたがここにいるのか教えてちょうだい? 北の辺境伯の愛人にでもなったの?」
「まだ違うわよ!」
「まだ、って、どういう事よ」
フランソワはすぐには私の質問に答えずに、少し間をおいてから口を開く。
「本当は王太子殿下の妻になりたかった。だけど、このまま、王太子殿下を追いかけていても、選ばれなかった時に困ることに気が付いたの」
いや、普通は最初から気付くでしょ。
と思ったけれど、話の腰を折るわけにもいかないので黙って話を聞く。
「で、たまたま、北の辺境伯からお誘いがかかって、世間的には愛人という形になるけれど、専用の聖女になってもらえないかって。もちろん、聖女の力がなくなっても面倒は見てくれるという条件で…」
「フランソワは誰とも結婚する気はなくなったって事?」
「暮らしに困らないなら、それで良くなったのよ」
「気持ちは分からなくもないけど」
愛人になりたいとは思わなかったけど、私だって暮らしに困らないなら、結婚しなくても良いと思っていた時もあった。
「ミーファがいなくなってからが大変だった。ミーファは一人で頑張ってくれていたのよね? すごいわ。あなたは、聖女に向いてるんだと思う」
「聖女に向いてる向いてないなんてないでしょ。向いてる人が聖女になれるんなら、私なんかよりふさわしい人がたくさんいるわ」
「謙遜しなくていいのよ、ミーファ。あなたは仕事は丁寧ですごいと思う」
持ち上げて、私を聖女に戻らせようとするつもりかしら?
そんな手には絶対にのらない!
「褒めてくれてありがとう。で、それで、あなたはどうしてここにいるの?」
「……国王陛下のせいよ」
フランソワが呟いた言葉に、私とリュークと奥様は顔を見合わせた。
この先の話を聞いても良いものか迷うけれど、聞かないといけない状況だし、黙って先を促す。
「ある日突然、国王陛下がやって来て、北の辺境の結界を張ったのはミーファじゃないと言い出されたの。どうしてかわからないけれど、ちゃんと調べ直されたみたいだわ」
どうにかして、私を聖女に戻したいから、調べさせたのかもしれない。
「陛下は結界を張った相手が誰だかわかっていると言って、私の名を呼んだの。そして、私は他の聖女達の前で部屋から連れ出されたわ」
それからの話を要約すると、フランソワを自室に連れて行った陛下は、許して欲しければ、聖女やその周りの人間に気付かれない様に姿を隠せと命令されたらしい。
そして、私が聖女に復帰するまでは、どこかにこもって静かにしておけと。
殺されるかもしれないと怯えていたフランソワにしてみれば、その時は命が助かるなら、何でもするつもりになったらしく、北の辺境伯に連絡して事情を話し、契約を早めてもらう事にした様だった。
「この家の中でのんびり暮らせるなら良いじゃない。今日みたいにお客様がいなければ、敷地内をウロウロしても良いんでしょう? まあ、私はあなたに王城に戻ってもらわないと困るけど」
「他人事だからって簡単に言わないで!」
「だって、あなたの自業自得じゃないの」
私が冷たく答えると、フランソワは立ち上がったかと思うと、座り込んで、床に敷かれている赤い絨毯に額を付ける。
「お願いよ、ミーファ。昔の仲間を助けると思って、聖女に復帰してちょうだい! お願いします! 本当に後悔しているんです」
後悔しているとか言うわりに、フランソワは自分の事しか考えていない。
「絶対に嫌よ」
少なくとも、フランソワのお願いをきいて聖女に戻るだなんて、絶対に嫌だった。
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