元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ

文字の大きさ
26 / 29

閑話 元王太子と聖女の企み

しおりを挟む
「どうして、ミーファはリーフ達の味方をするんだ…」

 モーリスは自室で一人、頭を悩ませていた。

 幼い頃から、ちやほやされて育った彼には、自分の事を好きにならない人間がいる事が信じられなかった。
 もちろん、男性は別だ。

 モーリスは自分の容姿が人より優れていると考えていたため、王太子であり、容姿も優れている自分に嫉妬するから、自分を嫌っているし、それはしょうがないとも思っていた。

 もちろん、相手は自分の事を嫌いだと、あからさまな態度を見せるわけではないが、彼は周りのよそよそしさを嫉妬のせいだと思い込んでいた。

 実際は関わりたくないだけ、なのだが。

 自分の弟であるリーフ達も、そう顔は悪くない。
 けれど、自分の方が上だと思っているモーリスは、弟達と仲良くしているミーファの気持ちがわからなかった。

(全てにおいて、この俺が勝っているじゃないか! リュークだってそうだ。そりゃあ、リュークもマシな顔だとは思うが、俺のほうがカッコいい。なのに、なぜ、ミーファは俺から離れていったんだ? あんなにかまってやっていたのに! 裏切り者め!)

 残念ながら、彼の思い込みを間違っていると伝えてくれる人物はいなかった。
 彼が謹慎中の内に、一人、また一人と彼のそばに仕えていた人間がいなくなっている事にも、自分の事しか考えていない彼は気付いていなかった。

 トントン、と扉が叩かれる音がして、ベッドの上に寝転んでいたモーリスは身を起こす。

 許可をすると、キュララと聖女の侍女の一人が部屋に入ってきた。
 侍女はモーリスの分の食事をのせたワゴンから、彼のテーブルに食事を移動させると、無言で一礼して、キュララを残して部屋を出ていく。
 侍女が出て行ってから少し経った後、モーリスは扉の前に立ったままのキュララに話しかける。

「どうした。何か用か?」
「…もしかしたら、ミーファに気付かれてしまったかもしれません」
「どういう事だ?」

 キュララは身を起こしたモーリスの胸に飛び込んでいくと言う。

「私とトリンがわざと手を抜いている事を、ミーファが気付いたかもしれないんです」
「どうしてだ? バレないように上手くやれ、と言っただろう!」
「そうしたつもりです! 北の辺境の結界が破られた時と同じ様に、ミスだと思うと思ったんです!」

 キュララはモーリスの胸に顔を擦り寄せて続ける。

「どうしてミーファが気付いたと思うんだ?」
「侍女達が聖女が城にいる間は、休暇を取りたいと言い始めたんです」
「それで、どうしてミーファにバレたとわかるんだ?」
「今まで、そんな事はなかったからです! 私達が城にいても、侍女達は私達の世話をしてくれていました。ですが、これからは城にいる時にはサポートしないし、出来ないだなんて言い出したんです!」
「何だと!? そんな奴らはクビにしてしまえばいい!」

 モーリスはキュララの肩を抱き寄せて続ける。
 
「そう言われてみれば、ここ最近、俺のメイドも見なくなったな。ちょっと身体を触っただけで、仕事を放棄するとは…。それにしても、新しいメイドも来ないし、一体、どうなってるんだ」
「モーリス様に触れられる事なんて、本当に名誉な事ですのにね」

 キュララはモーリスの胸に頬を寄せたまま、上目遣いで言った。

「お前とトリン以外は俺を捨てて聖女の仕事をしている。信じられん! 国民よりも俺の命の方が大事だろう!」
「モーリス様が国王陛下になれないとわかったから、手のひらを返してしまったんですよ。最低な聖女達ですね」

 最低な聖女の基準がキュララとモーリスは他の人間の考える基準と違う。
 だから、キュララの言葉にモーリスも大きく頷いた。

「本当に酷い女達だ。でもまあ、俺にはお前とトリスがいるからな。国王にはなれないかもしれないが、贅沢はさせてやるぞ。ミーファは後で後悔すればいい」
「本当にそう思います。私達をこんなにも苦しめたんですし、不幸になって、やっぱりモーリス殿下が良かったと後悔すれば良いんです」
「なあ、キュララ。あとどれくらいで、お前達の予想していた事が起こるんだ?」
「数日後には起こると思います。国民はパニックになりますよ。そこで、その原因はミーファだと皆に伝えればいいんです。ミーファが聖女の仕事を放棄したから、こんな事になったのだと。国民に責められるミーファは、どんな顔をするんでしょう? きっと、その発表を訂正する様に、モーリス殿下や国王陛下に助けを求めるのでしょうね」

 キュララはその時が来る事を考えるだけでも楽しいのか、にんまりと笑った。

 キュララとトリンはミーファを恨んでいた。

 ミーファが元聖女になった事により、自分達の仕事量が増えただけでなく、今まで従順だった侍女達が、自分達に意見する様になった。
 侍女達は正しい事を言っているのだが、キュララとトリンは納得いかなかった。
 自分達は聖女であり、崇められなければいけない存在であるのに、どうして、侍女風情に意見されなければならないのか、と。

 休みもとれないし、あんなにちやほやしてくれていた国民達は、ミーファが無料で回復魔法をかけていった事により、お金をとって回復魔法をかける彼女達を非難するようになった。
 
 そんな不満が溜まっていたところに、今度はモーリスの王位継承権の剥奪だった。
 
 自分達が何の為にモーリスに媚びへつらっていたのか。
 これまでの何年間かの努力が、全て水の泡になってしまった。

 王太子でなくなったとしても、王子である事にかわりはない。
 だが、キュララ達は王妃になりたかった。
 
 新しく王太子になったリーフは自分達を良く思っていない事を、キュララ達も自覚していた。
 それも、ミーファが自分達の悪口を彼に言ったからだと思っていた。

 実際は、彼女達の行動を見たリーフ自身が、彼女達を良く思っていないという事を考えようともしなかった。

 キュララとトリンの中では全てミーファが悪かった。

 だから、ミーファを困らせてやろうと思った。

 自分達が真面目に聖女の仕事をしている様に見せかけて、わざと同じ時に結界に穴が開く様に調整し、各地で魔物が同時に入れるようにしようと考えた。

 そして、騒がれたところで、国王から、こんな事になったのはミーファのせいだと国民に発表させる事にした。

 自分の退位を早めたミーファに恨みを持っていた国王は、キュララ達の考えに同意し、この計画を進める事になった。

 けれど、自分の力を過信している彼女達は知らない。

 自分達が上手く調節して、一部分だけ結界を弱くする事など出来ないという事を。
 
 
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ

鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。 平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」 婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。 彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。 二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。 ……はずなのに。 邸内で起きる不可解な襲撃。 操られた侍女が放つ言葉。 浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。 「白の娘よ。いずれ迎えに行く」 影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。 守るために剣を握る公爵。 守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。 契約から始まったはずの二人の関係は、 いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。 「君を奪わせはしない」 「わたくしも……あなたを守りたいのです」 これは―― 白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、 覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。 ---

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...