【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

文字の大きさ
19 / 28

18 悪党は懲りない(ヘーベル公爵家side)

しおりを挟む
「くそっ!」
「おかえりなさい! メーゼス、どうだったの? 助けてもらえる事になった?」
「どうもこうもない。王家も他の貴族も腰抜けばかりだ! こうなったら、領民に戦わせるしかない」

 本邸が焼かれてしまい、別邸に住まざるを得なくなった、ヘーベル公爵家だったが、公爵というプライドもあり、やられたままではいけないと考えた、ヘーベル公爵は、王城に行き、国王に南の魔道士と戦う為に、力を貸してほしいと頼みに行った。

 しかし、国王からは、今回の件は自分のまいた種であろう、と一蹴されてしまい、他の公爵家にも力添えを求めたが、助ける義理はないと断られてしまった。

 ヘーベル公爵はその時になって知ったが、この頃には南の三大魔道士の方から、国王に連絡がいっており、レティアを拉致した事から、最近の事まで全て、国王だけでなく、多くの貴族に知れ渡ってしまっていたからだ。

 救いは、ヘーベル公爵領に住む平民には、その話が流れていない事だった。
 その為、平民達は家を焼かれてしまったヘーベル公爵家の人間を気の毒に思い、力を貸したいというものも、多く現れていた。

「魔道士の非道さを訴えて、平民達に戦争を起こさせるんだ」

 別邸に帰ってきたヘーベル公爵は、出迎えた妻、メーナに向かって、怒りに満ちた目で言った。

 そんな事をしようとしたなら、他の貴族だけでなく、王家にも止められてしまうのだろうが、頭に血が上り、復讐の事しか頭にないヘーベル公爵は、そうなった時は、王家の命令には従わず、領民を徴兵し、南に向かわせようと思っていた。

 そして、勝つ事によって、自分の地位や信用を復活させようと考えていた。

「領民達は私の思い通りに動くんだ。さすがの魔道士も、数が違いすぎて、負けを認めるだろう。何より、兵士といっても一般人だ。あいつらは一般人には手を出さない」

 ヘーベル公爵は勘違いしていたが、魔道士側もそこまで優しいわけではなく、兵として南に入ってくる場合に関しては、一般人とは認めず、自分達の敵だとみなす事にしていた。

 魔道士側は、わざわざ相手に公言しなくても、戦争とはそういうものだという事を、相手側もわかっているという前提だった。

 ここにわかっていない人間が、確実に一人はいるが、そんな事は魔道士側にとってはどうでも良い事だ。

「そうね。もしくは、暗殺者を雇うのはどうかしら?」
「あいつら魔道士は、魔力を感じ取る事が出来るようだから、知らない魔力が近付いてきたら気付いてしまうだろうから無理だろうな。まあ、駄目元で雇ってみてもいいが」

 近くにいたメイドに上着を預け、ヘーベル公爵はメーナと自室に向かって歩きながら話をしていたのだが、背後から声を掛けられる。

「父上。おかえりなさい。お願いがあって来たんですが、話をしても良いでしょうか」
「どうした?」

 現れたのは、息子のフォーウッドだった。

 彼は屋敷が燃えた時、一番、取り乱していた。
 大事なものが焼けてしまうから、自分の部屋だけでも燃えないようにしてくれと泣きながら叫んでおり、自分の息子ながら、ヘーベル夫妻もさすがに、彼の行動を不思議に思ったものだった。
 丸一日、泣き伏せっていたフォーウッドだったが、冷静さを取り戻した様で、両親がホッとしていると、フォーウッドが口を開く。

「領民の何人かを僕の自由に使わせてもらいたいんです」
「…何に使うつもりだ?」
「今まで、南の魔道士が匿っているのだから、南にレティアがいると思っていましたが、ここまで見つからないとなると、レティアは北にいるのではないかと思うんです」
「どういう事だ? 魔道士側も、まだレティアを見つけられていないという事か?」
「そうかもしれません。もしくは、匿っているのかもしれませんが、北で匿っているのかも」
「私達が先に、南に調べに入ってくると思ったからか? もしくは…、そうか、通行証か…」

 ヘーベル公爵は舌打ちをすると、フォーウッドに向かって言う。

「多少、金はかかってもかまわない。レティアを探し出せ。そして、人質につかおう」
「捕まえたら、僕の好きなようにしてもいいんですか?」
「殺すなよ? 生きてないと人質にならないからな」
「もちろんです。僕が彼女を殺すわけがありません。とても可愛がってあげますよ」

 にやりと笑みを浮かべた息子に、両親は背筋に何か走るものを感じたが、気付かなかった事にした。
 なぜなら、ヘーベル公爵は、フォーウッドに、伝えなければならない事があったからだ。

「それから、フォーウッド。お前の婚約の件だが、先方から婚約破棄の連絡があった」
「……なんですって?」
「南の魔道士達がお前の良くない噂を先方に流したらしい。先方もそれを信じたんだ。だから、お前との婚約は無しにしたいと」
「そうですか」

 フォーウッドは少しがっかりした顔をしたが、すぐに笑顔になって言う。

「大丈夫です。僕は結婚しなくても。レティアという人形が手元にあれば、それで幸せです」
「だが、後継ぎの問題はどうする」
「レティアに生ませましょう。世間には僕と愛人の子供という事にしても良い。レティアは僕の妹という事になっているようですが、血は繋がっていないのですから、子供を生ませる事には問題はないはずです」
「それは駄目よ! いくら血が繋がっていないからといっても、世間体に良くないわ。愛人の子供だって聞こえが良くないし」

 メーナが首を横に振ると、ヘーベル公爵も頷く。

「レティアを愛人にするのはかまわないが、お前には新しい婚約者を見つけてやる。お前の悪い噂だって近い内に消してやる。だから、そんな馬鹿な考えを持つのは止めるんだ。後継ぎは新しい婚約者との間の子供にしろ」
「……わかりました」

 フォーウッドは感情のこもっていない声で頷いた。
 ヘーベル公爵夫妻は、息子が納得してくれた事に胸を撫で下ろした後、いつもなら、近くにいるはずの男がいない事に気が付いた。

「そういえば、べーゼフはいないのか?」
「べーゼフ様はしばらくの間、お休みをとられております」

 近くにいたメイドが答えると、ヘーベル公爵は眉を寄せた。

「こんな大変な時に休みを取るなんて…。まあいい。フォーウッド、レティアの件はお前に任せたぞ」
「承知しました」

 フォーウッドはにたりと笑みを浮かべると、自分の部屋の方角ではなく、エントランスに向かって歩いていった。

「どうして、レティアにあんなにこだわるのかしら。それなら、レティシアの方が可愛いと思わない?」
「レティシアは本当の妹だからだろう。可愛いレティシアに似たレティアに惹かれてもしょうがない事だ」

 メーナの言葉にヘーベル公爵は、そう答えると、彼女を促して、自室に戻っていった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...