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18 悪党は懲りない(ヘーベル公爵家side)
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「くそっ!」
「おかえりなさい! メーゼス、どうだったの? 助けてもらえる事になった?」
「どうもこうもない。王家も他の貴族も腰抜けばかりだ! こうなったら、領民に戦わせるしかない」
本邸が焼かれてしまい、別邸に住まざるを得なくなった、ヘーベル公爵家だったが、公爵というプライドもあり、やられたままではいけないと考えた、ヘーベル公爵は、王城に行き、国王に南の魔道士と戦う為に、力を貸してほしいと頼みに行った。
しかし、国王からは、今回の件は自分のまいた種であろう、と一蹴されてしまい、他の公爵家にも力添えを求めたが、助ける義理はないと断られてしまった。
ヘーベル公爵はその時になって知ったが、この頃には南の三大魔道士の方から、国王に連絡がいっており、レティアを拉致した事から、最近の事まで全て、国王だけでなく、多くの貴族に知れ渡ってしまっていたからだ。
救いは、ヘーベル公爵領に住む平民には、その話が流れていない事だった。
その為、平民達は家を焼かれてしまったヘーベル公爵家の人間を気の毒に思い、力を貸したいというものも、多く現れていた。
「魔道士の非道さを訴えて、平民達に戦争を起こさせるんだ」
別邸に帰ってきたヘーベル公爵は、出迎えた妻、メーナに向かって、怒りに満ちた目で言った。
そんな事をしようとしたなら、他の貴族だけでなく、王家にも止められてしまうのだろうが、頭に血が上り、復讐の事しか頭にないヘーベル公爵は、そうなった時は、王家の命令には従わず、領民を徴兵し、南に向かわせようと思っていた。
そして、勝つ事によって、自分の地位や信用を復活させようと考えていた。
「領民達は私の思い通りに動くんだ。さすがの魔道士も、数が違いすぎて、負けを認めるだろう。何より、兵士といっても一般人だ。あいつらは一般人には手を出さない」
ヘーベル公爵は勘違いしていたが、魔道士側もそこまで優しいわけではなく、兵として南に入ってくる場合に関しては、一般人とは認めず、自分達の敵だとみなす事にしていた。
魔道士側は、わざわざ相手に公言しなくても、戦争とはそういうものだという事を、相手側もわかっているという前提だった。
ここにわかっていない人間が、確実に一人はいるが、そんな事は魔道士側にとってはどうでも良い事だ。
「そうね。もしくは、暗殺者を雇うのはどうかしら?」
「あいつら魔道士は、魔力を感じ取る事が出来るようだから、知らない魔力が近付いてきたら気付いてしまうだろうから無理だろうな。まあ、駄目元で雇ってみてもいいが」
近くにいたメイドに上着を預け、ヘーベル公爵はメーナと自室に向かって歩きながら話をしていたのだが、背後から声を掛けられる。
「父上。おかえりなさい。お願いがあって来たんですが、話をしても良いでしょうか」
「どうした?」
現れたのは、息子のフォーウッドだった。
彼は屋敷が燃えた時、一番、取り乱していた。
大事なものが焼けてしまうから、自分の部屋だけでも燃えないようにしてくれと泣きながら叫んでおり、自分の息子ながら、ヘーベル夫妻もさすがに、彼の行動を不思議に思ったものだった。
丸一日、泣き伏せっていたフォーウッドだったが、冷静さを取り戻した様で、両親がホッとしていると、フォーウッドが口を開く。
「領民の何人かを僕の自由に使わせてもらいたいんです」
「…何に使うつもりだ?」
「今まで、南の魔道士が匿っているのだから、南にレティアがいると思っていましたが、ここまで見つからないとなると、レティアは北にいるのではないかと思うんです」
「どういう事だ? 魔道士側も、まだレティアを見つけられていないという事か?」
「そうかもしれません。もしくは、匿っているのかもしれませんが、北で匿っているのかも」
「私達が先に、南に調べに入ってくると思ったからか? もしくは…、そうか、通行証か…」
ヘーベル公爵は舌打ちをすると、フォーウッドに向かって言う。
「多少、金はかかってもかまわない。レティアを探し出せ。そして、人質につかおう」
「捕まえたら、僕の好きなようにしてもいいんですか?」
「殺すなよ? 生きてないと人質にならないからな」
「もちろんです。僕が彼女を殺すわけがありません。とても可愛がってあげますよ」
にやりと笑みを浮かべた息子に、両親は背筋に何か走るものを感じたが、気付かなかった事にした。
なぜなら、ヘーベル公爵は、フォーウッドに、伝えなければならない事があったからだ。
「それから、フォーウッド。お前の婚約の件だが、先方から婚約破棄の連絡があった」
「……なんですって?」
「南の魔道士達がお前の良くない噂を先方に流したらしい。先方もそれを信じたんだ。だから、お前との婚約は無しにしたいと」
「そうですか」
フォーウッドは少しがっかりした顔をしたが、すぐに笑顔になって言う。
「大丈夫です。僕は結婚しなくても。レティアという人形が手元にあれば、それで幸せです」
「だが、後継ぎの問題はどうする」
「レティアに生ませましょう。世間には僕と愛人の子供という事にしても良い。レティアは僕の妹という事になっているようですが、血は繋がっていないのですから、子供を生ませる事には問題はないはずです」
「それは駄目よ! いくら血が繋がっていないからといっても、世間体に良くないわ。愛人の子供だって聞こえが良くないし」
メーナが首を横に振ると、ヘーベル公爵も頷く。
「レティアを愛人にするのはかまわないが、お前には新しい婚約者を見つけてやる。お前の悪い噂だって近い内に消してやる。だから、そんな馬鹿な考えを持つのは止めるんだ。後継ぎは新しい婚約者との間の子供にしろ」
「……わかりました」
フォーウッドは感情のこもっていない声で頷いた。
ヘーベル公爵夫妻は、息子が納得してくれた事に胸を撫で下ろした後、いつもなら、近くにいるはずの男がいない事に気が付いた。
「そういえば、べーゼフはいないのか?」
「べーゼフ様はしばらくの間、お休みをとられております」
近くにいたメイドが答えると、ヘーベル公爵は眉を寄せた。
「こんな大変な時に休みを取るなんて…。まあいい。フォーウッド、レティアの件はお前に任せたぞ」
「承知しました」
フォーウッドはにたりと笑みを浮かべると、自分の部屋の方角ではなく、エントランスに向かって歩いていった。
「どうして、レティアにあんなにこだわるのかしら。それなら、レティシアの方が可愛いと思わない?」
「レティシアは本当の妹だからだろう。可愛いレティシアに似たレティアに惹かれてもしょうがない事だ」
メーナの言葉にヘーベル公爵は、そう答えると、彼女を促して、自室に戻っていった。
「おかえりなさい! メーゼス、どうだったの? 助けてもらえる事になった?」
「どうもこうもない。王家も他の貴族も腰抜けばかりだ! こうなったら、領民に戦わせるしかない」
本邸が焼かれてしまい、別邸に住まざるを得なくなった、ヘーベル公爵家だったが、公爵というプライドもあり、やられたままではいけないと考えた、ヘーベル公爵は、王城に行き、国王に南の魔道士と戦う為に、力を貸してほしいと頼みに行った。
しかし、国王からは、今回の件は自分のまいた種であろう、と一蹴されてしまい、他の公爵家にも力添えを求めたが、助ける義理はないと断られてしまった。
ヘーベル公爵はその時になって知ったが、この頃には南の三大魔道士の方から、国王に連絡がいっており、レティアを拉致した事から、最近の事まで全て、国王だけでなく、多くの貴族に知れ渡ってしまっていたからだ。
救いは、ヘーベル公爵領に住む平民には、その話が流れていない事だった。
その為、平民達は家を焼かれてしまったヘーベル公爵家の人間を気の毒に思い、力を貸したいというものも、多く現れていた。
「魔道士の非道さを訴えて、平民達に戦争を起こさせるんだ」
別邸に帰ってきたヘーベル公爵は、出迎えた妻、メーナに向かって、怒りに満ちた目で言った。
そんな事をしようとしたなら、他の貴族だけでなく、王家にも止められてしまうのだろうが、頭に血が上り、復讐の事しか頭にないヘーベル公爵は、そうなった時は、王家の命令には従わず、領民を徴兵し、南に向かわせようと思っていた。
そして、勝つ事によって、自分の地位や信用を復活させようと考えていた。
「領民達は私の思い通りに動くんだ。さすがの魔道士も、数が違いすぎて、負けを認めるだろう。何より、兵士といっても一般人だ。あいつらは一般人には手を出さない」
ヘーベル公爵は勘違いしていたが、魔道士側もそこまで優しいわけではなく、兵として南に入ってくる場合に関しては、一般人とは認めず、自分達の敵だとみなす事にしていた。
魔道士側は、わざわざ相手に公言しなくても、戦争とはそういうものだという事を、相手側もわかっているという前提だった。
ここにわかっていない人間が、確実に一人はいるが、そんな事は魔道士側にとってはどうでも良い事だ。
「そうね。もしくは、暗殺者を雇うのはどうかしら?」
「あいつら魔道士は、魔力を感じ取る事が出来るようだから、知らない魔力が近付いてきたら気付いてしまうだろうから無理だろうな。まあ、駄目元で雇ってみてもいいが」
近くにいたメイドに上着を預け、ヘーベル公爵はメーナと自室に向かって歩きながら話をしていたのだが、背後から声を掛けられる。
「父上。おかえりなさい。お願いがあって来たんですが、話をしても良いでしょうか」
「どうした?」
現れたのは、息子のフォーウッドだった。
彼は屋敷が燃えた時、一番、取り乱していた。
大事なものが焼けてしまうから、自分の部屋だけでも燃えないようにしてくれと泣きながら叫んでおり、自分の息子ながら、ヘーベル夫妻もさすがに、彼の行動を不思議に思ったものだった。
丸一日、泣き伏せっていたフォーウッドだったが、冷静さを取り戻した様で、両親がホッとしていると、フォーウッドが口を開く。
「領民の何人かを僕の自由に使わせてもらいたいんです」
「…何に使うつもりだ?」
「今まで、南の魔道士が匿っているのだから、南にレティアがいると思っていましたが、ここまで見つからないとなると、レティアは北にいるのではないかと思うんです」
「どういう事だ? 魔道士側も、まだレティアを見つけられていないという事か?」
「そうかもしれません。もしくは、匿っているのかもしれませんが、北で匿っているのかも」
「私達が先に、南に調べに入ってくると思ったからか? もしくは…、そうか、通行証か…」
ヘーベル公爵は舌打ちをすると、フォーウッドに向かって言う。
「多少、金はかかってもかまわない。レティアを探し出せ。そして、人質につかおう」
「捕まえたら、僕の好きなようにしてもいいんですか?」
「殺すなよ? 生きてないと人質にならないからな」
「もちろんです。僕が彼女を殺すわけがありません。とても可愛がってあげますよ」
にやりと笑みを浮かべた息子に、両親は背筋に何か走るものを感じたが、気付かなかった事にした。
なぜなら、ヘーベル公爵は、フォーウッドに、伝えなければならない事があったからだ。
「それから、フォーウッド。お前の婚約の件だが、先方から婚約破棄の連絡があった」
「……なんですって?」
「南の魔道士達がお前の良くない噂を先方に流したらしい。先方もそれを信じたんだ。だから、お前との婚約は無しにしたいと」
「そうですか」
フォーウッドは少しがっかりした顔をしたが、すぐに笑顔になって言う。
「大丈夫です。僕は結婚しなくても。レティアという人形が手元にあれば、それで幸せです」
「だが、後継ぎの問題はどうする」
「レティアに生ませましょう。世間には僕と愛人の子供という事にしても良い。レティアは僕の妹という事になっているようですが、血は繋がっていないのですから、子供を生ませる事には問題はないはずです」
「それは駄目よ! いくら血が繋がっていないからといっても、世間体に良くないわ。愛人の子供だって聞こえが良くないし」
メーナが首を横に振ると、ヘーベル公爵も頷く。
「レティアを愛人にするのはかまわないが、お前には新しい婚約者を見つけてやる。お前の悪い噂だって近い内に消してやる。だから、そんな馬鹿な考えを持つのは止めるんだ。後継ぎは新しい婚約者との間の子供にしろ」
「……わかりました」
フォーウッドは感情のこもっていない声で頷いた。
ヘーベル公爵夫妻は、息子が納得してくれた事に胸を撫で下ろした後、いつもなら、近くにいるはずの男がいない事に気が付いた。
「そういえば、べーゼフはいないのか?」
「べーゼフ様はしばらくの間、お休みをとられております」
近くにいたメイドが答えると、ヘーベル公爵は眉を寄せた。
「こんな大変な時に休みを取るなんて…。まあいい。フォーウッド、レティアの件はお前に任せたぞ」
「承知しました」
フォーウッドはにたりと笑みを浮かべると、自分の部屋の方角ではなく、エントランスに向かって歩いていった。
「どうして、レティアにあんなにこだわるのかしら。それなら、レティシアの方が可愛いと思わない?」
「レティシアは本当の妹だからだろう。可愛いレティシアに似たレティアに惹かれてもしょうがない事だ」
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