【完結】あなたの愛なんて信じない

風見ゆうみ

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23  ずっと好きだった ②

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 なぜ笑ったのか気にはなるけれど、今はレイロとの話に集中する。

「……さっきの続きだけど、あなたが私よりもエルを優先したとしても、エルが相手だったら許せてた。だけど、あなたはお姉様と浮気をしてた! そんな人の言葉を信じられると思う?」

 話している内に興奮してきて、レイロに掴みかかろうとした私をエルが止める。

「アイミー、怒る気持ちはわかるけど手は出すな」

 怒りで息が荒くなっている私の背中を、エルが落ち着かせるように撫でた。

「だって、許せないんだもの!」
「そうだよな」

 頷いたエルは、私に言い聞かせるように優しい声で続ける。

「エイミーも兄さんも道を踏み外してる。そして、二人共がそのことに気が付いてない。悪いことをしたと自分で気が付くまでは何を言っても無駄だ」
「……じゃあ、どうしたら、レイロとお姉様との縁を断ち切れるの! 私はもう二人には関わりたくないのに!」

 当たり散らすように叫んだあとにエルの顔を見て、私は一瞬で後悔した。
 エルの顔がとても悲しそうだったから。
 私は本当に最低だ。エルに八つ当たりしてしまった

「ごめんなさい、エル。あなたは悪くないのにきつい言葉を吐いてしまって、本当にごめんなさい!」
「……いや、俺が悪いんだ」
「どうして? エルだって被害者でしょう。それに今のは完全に八つ当たりよ」
「ずっと好きだったから」
「え?」

 エルが何を言っているのかわからなくて聞き返した時、レイロが会話に割って入ってきた。

「今はそんな話をしている場合じゃないだろう! 子供の話をするけど、さっきも言ったが認めるよ! あの子は俺の子だ!」

 調子の良い人だわ。赤ちゃんを見て愛おしくなったのね。
 その感情は悪いことじゃない。ただ、赤ちゃんが生まれる前から、自分の子だと認めてほしかった。

 そうだわ。
 レイロに言っておかなければならないことがある。

「レイロ、あなたの子だけど、お姉様はいらないって言ってたわよ」
「は?」

 レイロが大きく口を開けたまま、お姉様を見た。

「だ、だって、レイロが赤ちゃんしか見てないから! 頑張ったのは私なのに、あなたが褒めてくれないのなら、あの子を生んだ意味がないじゃないの!」
「子供ができれば俺が自分のものになるとでも思ってたのか!? そんなわけがないだろう!」
「普通は子供ができれば、責任を取って結婚するのよ! 大体、私とレイロが上手くいっていれば、皆が幸せになれたのよ。それなのにレイロはエルとアイミーを結婚させたくないがために、アイミーと結婚したんじゃない! レイロは自分のことしか考えていないけど、私たちの気持ちはどうなるのよ!? 私はレイロのことがずっと好きだったのに!」

 お姉様は言いたいことを言い終えると、泥だらけになった手で自分の顔を覆った。

 私たちの気持ちというのは、私とお姉様の気持ちということでいいんだろうか。

 その時、殺気を感じてエルと私は前方を見つめた。それと同時に騎士団長がこちらに近づいてきていることに気が付いた。

 騎士団長が私たちに殺気を放つとは思えない。昨日も感じたけれど、憎悪に満ちた殺気は誰に向けられたもので、誰が放ったの?

 このことは後で調べるとして、他の人にこれ以上迷惑はかけられない。

 そう思った私の思いなど関係なく、レイロは訴えかけてくる。

「エルファス、アイミー、聞いてくれ。俺はエルファスのことを弟として、アイミーのことは一人の女性として、本当に愛してるんだよ!」
「それがどうしたんだよ」
「それが何? 愛してくれてありがとうって返してほしいの? 絶対に嫌!」

 エルと私が冷たく返すと、レイロはとんでもないことを口にする。

「エイミーが自分の子をいらないと言うんなら、アイミー、俺の子を俺と一緒に育ててくれないか?」
「「「は?」」」

 レイロ以外の三人の声が揃った。

 レイロってここまで馬鹿な人だったの?
 過去の話とはいえ、本当に好きだった人がこんな人だったなんてショックすぎる。

 すると、お姉様は泥がついた顔をレイロに向けて宣言する。

「ちょっと待って! レイロが育てると言うのなら、私が一緒に育てるわ! だって、あの子は私とレイロの子供なんだもの。本当の両親が付いてあげないと駄目よ」
「いらないなんて言った君に子育てができるわけないだろう!」
「もういい!」

 エルがお姉様とレイロの会話を一喝して遮ると、周りを見回した。

 気が付いた時よりも、多くの人が集まっている。仲間たちは心配そうな顔で見つめていて、私に敵意を持っている人たちはニヤニヤしていた。

「周りを見ろよ! くだらない話をするなら、こんな所で話さずに違う場所で二人で話せ!」

 エルに怒鳴られた二人は、唇を噛んで俯いた。
 エルはお姉様が赤ちゃんを投げたことを知らないから二人に任せていいと思っているのかも。
 でも、あのシーンを見てしまった以上、この二人に子育てなんてさせるわけにはいかない。

 エルか私の家に連れ帰って、ナニーに面倒を見てもらうようにしましょう。
どちらの家に連れ帰っても、孫として愛してくれるはずだわ。

 弟のヨハネスだって良いお兄ちゃんになってくれるはずよ。
 
 騎士団長が私たちの所に来て話しかけてくる。

「エルファス、アイミー、この二人のことは俺に任せてくれ」
「「承知しました」」

 私とエルが頭を下げると、お姉様たちは怯えたような顔をして騎士団長を見つめた。

「アイミー、行こう」
「うん」

 エルに促され、私たちは待ってくれていた仲間の元に急いだ。


******


 二人の顔を見なくて良くなったことだけで、私のイライラはかなりマシになった。
 でも、エルはそうじゃなかった。
 私よりも上手く感情のコントロールができるはずのエルが、ずっと眉間に皺を寄せているのは気になる。

 仲間たちは眠いか、腹が減っているのだろうと決めつけ、少し遅めの昼食を一緒にとることになった。
 長テーブルに私とエルが向かい合って座り、その左右に仲間たちが座った。

「一体、何があったんですか? それに、どうして、エルファス隊長のお兄さんが来ているんです?」
「そうですよ。レイロ様は何をしに来たんです? 子供を迎えに来たんですか? 裏切り者なのに、よくここに来れましたね!」

 仲間たちから質問攻めに合って、食事が進まない。
 気持ちはわかるけど、こんなことをされたら、余計にエルの機嫌が悪くなる気がする。
 私が応対することを決めたはいいが、何から話せば良いのか迷っていると、一人が手を挙げて質問する。

「隊長、ずっと好きだったって言ってましたけど、それって何の話なんです?」

 私も気になっていた、と言おうとしたけど無理だった。なぜかというと、仲間が尋ねた瞬間、エルが飲んでいた水を盛大に噴き出したからだった。

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