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26 脱走兵
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メイドがレイロからの手紙を読んで教えてくれたのは、第3騎兵隊に任務の命令は出ているのに、私が戦地にいないことを気にしているとのことだった。
私が戦場にいることが怖くなって逃げたという噂がまわっているらしい。自分が付いているから、一緒に戦おうとも書いてあったそうだ。
私が逃げただなんて、そんなことを言っている人を目の前に連れてきてほしい。まあ、私を目の前にしたら、絶対にそんなことを言えないんでしょうけど。
お姉様は私の代わりに第3騎兵隊の後方支援に入っているそうだ。
レイロの訴えだけ聞くと、彼女は第二王子との婚約を破棄したいというよりかは、レイロと結婚したかった。だから、一度きりだとか、バレないと言ってレイロを誘惑した。
この時にレイロは、お姉様という妻とは別枠になる性欲処理の相手を見つけた。二人の秘密であれば、私にも第二王子にもバレない。
戦争が終わるまで第二王子とお姉様は結婚しない予定だったし、終わってもエルか私がお姉様の婚約を解消してもらうつもりだったからだ。
お姉様とレイロはこう言い張っているけれど、本当にそうなんだろうか。
レイロは自分の浮気で私を精神的に追い詰めようとした。本人は否定するだろうけれど、これは間違っていないはずだ。
お姉様は性欲処理の相手でも良いと納得してレイロと関係を持ったの?
いや、そうじゃないわよね。だから、妊娠したのよね。
二人とも、自分以外の人の気持ちを考えるつもりはないから余計に腹が立つ。
……人を守りたいと言っておきながら、レイロたちに殺意を覚えるのは良くないわ。他のやり方で復讐させてもらいましょう。
心を鎮めようとした時、頭に浮かんだことがあった。
そうだわ。守るというのは、回復魔法をかけるだけじゃない。
お姉様に痛い目に遭ってもらうために、あの魔法を覚えておいて良かった。あとは実戦のみね。
そう思った時、レイロとお姉様の子供であらミレイの件で話し合いをすると連絡があり、私も同席するために移動した。
******
ミレイをどちらの家で育てるかという話は揉めに揉めた。といっても険悪なものではなく、お互いに引き取りたいというものだった。
経済面でいえば辺境伯家が良いとされ、環境面では私の家にはまだ幼いヨハネスがいるので、兄妹として育てるのも良いのではないかという意見で、答えが出せずにいた。
共通の意見は、ミレイをレイロとお姉様に任せることはできない、だった。
私からお姉様がミレイを投げたという話を聞いた両家の両親は、子育ては無理だと判断したのだ。
それは私も同意見だ。
お姉様たちに育てさせるくらいなら、私が育てたほうがマシだと思う。
……といっても、子育てなんてしたことがないから、色んな人に助けを求めなくちゃいけないとは思う。
確実に言えるのは、お姉様のようにミレイを投げるような真似はしない。
数時間話し合った結果、私の家でミレイを預かることになった。
元々、レイロはミレイは自分の子供ではないと言い続けていたし、生んだのはお姉様なので私の家が優先された。
辺境伯夫妻を見送り、屋敷の中で両親と別れたあと、ミレイの様子を見に行こうとした時だった。
ミレイがいる部屋のほうから悲鳴が聞こえてきた。
「おやめください、エイミー様!」
「この子は私の子なの。お願い。その子を私に渡して! 私が責任を持って夫と一緒に育てるから!」
お姉様の声が聞こえ、すぐにレイロの声も耳に入ってくる。
「エイミー、俺たち二人で子供を育てるなんて無理だ。俺たちは住む家もないんだぞ? 俺が何とかしてアイミーとよりを戻すから俺に任せてくれ!」
どうして二人がここにいるのよ! それにレイロは何をふざけたことを言っているの!
部屋の前まで来たところで、私は冷静になるために足を止めた。
「あなたはアイミーを愛していないんでしょう? それなのによりを戻そうって言うの?」
「アイミーは俺のことが好きなんだから、俺といられるだけで幸せなはずだ! 望むならいくらでも抱いてあげるつもりだ! そうすれば今度こそ、エルファスも諦めるはずだから!」
「あなたは本当に最低ね。だけど、そんなあなただから好きなの」
お姉様の笑い声が聞こえてきた。
二人共、普通じゃない。
レイロは私を愛していなかった。相手が最低野郎だとわかったのに涙が出そうになった。
私は彼に色々な初めてを捧げた。
彼のことが本当に好きだったから。
彼も同じ気持ちだと思っていたから。
悔しい。悔しくてたまらない。
あんな奴にひっかかった私も馬鹿だが、悪いのは悪意を持って私に接したレイロだ。
「そんなことはどうでもいい! 早く戦地に戻らせてくれ! エルファスが危ない!」
「大丈夫よ、レイロ。エルファスなら自分の命くらい自分で守れるわ。私たちはお互いのことだけ考えましょう」
「ちょっと!」
ミレイの部屋に入ると、予想通りお姉様とレイロがいた。驚いた顔をして私を見つめる二人に怒りをぶつける。
「あなたたちは戦地にいたんじゃないの!? どうしてこんな所にいるのよ!」
「アイミー、そんなに怒らないで。転移魔法を使って帰ってきただけよ」
「怒らないほうがおかしいでしょう! どうして帰ってきたんですか!」
お姉様から視線をレイロに移し、彼を睨みつけながら話しかける。
「あなた、私には一緒に戦おうとか言っておいて、どうしてここにいるのよ」
「エイミーに連れてこられたんだ! 頼むよアイミー! 俺を戦地に戻してくれ! エルファスが危ないんだ!」
「エルが危ないってどういうこと?」
聞き返すと、レイロが私の肩に両手を伸ばしてきた。
「触らないで!」
近くのテーブルに置かれていた四角いシルバートレイを手に持ち、レイロの頬を叩いて拒否する。
バインという間抜けな音のわりに威力があったらしく、レイロは頬を押さえてしゃがみ込んだ。
「レイロ! 大丈夫!? アイミー、あなたなんてことをするの!」
「お姉様の大好きなレイロが私に触れようとしたので阻止しただけです。彼をこれ以上痛めつけられたくないなら、私に近寄らせないでください」
冷たい声でお願いすると、お姉様はびくりと体を震わせた。
早く行ってという気持ちを込めて無言でメイドを見ると、察してくれたのか、ミレイを抱いて部屋から出ていった。
すると、お姉様がヒステリックに叫ぶ。
「返してよ! その子は私とレイロの子供よ!」
「お姉様、ミレイを生んだのはあなたですが、彼女を任せることはできません」
「どうして? レイロが私を愛してくれるなら、子供を可愛がれるわ。……って、ミレイという名前をつけたの?」
「名前はお姉様にもお父様から連絡がいったはずですが?」
「……そう言われればそうかもしれないわ。でも、あまり気にしていなかったの。そう。ミレイに決まったの。私とレイロの名前の一部を取ったのね」
お姉様は満足そうに頷いた。
「そんなことはどうでも良い! アイミー、大変なことが起きてるんだ!」
「……何があったの?」
レイロの言うことは聞きたくない。だけど、エルの名前を出していたことが気になって尋ねた。
「魔物が宿営地まで押し寄せてきたんだ。今頃は総力戦になっているはずだ!」
「……何ですって?」
知らなかったとはいえ、時間をかなり無駄にしてしまった。
「エルファスが心配だ! 頼むから俺を戻してくれ!」
「わかったわ。それから、お姉様も戻りますよ」
声を掛けると、お姉様は激しく首を横に振る。
「嫌よ! 私はレイロとミレイと一緒に幸せに暮らすの。だから、レイロも行かせない!」
「幸せに暮らすだなんて、魔物に負ければそんなことは不可能ですよ」
「……それはっ、そうなった時に考えるわ」
「残念ながら、お姉様には一緒に来てもらわないといけないんです」
「嫌よ! どうして私が!」
「少し黙ってもらえますか」
嫌がるお姉様の鼻をシルバートレイの平らな部分で軽く叩くと、「きゃあっ!」と悲鳴を上げて、レイロの隣に座り込んだ。
二人が来てくれたおかげで、私はエルたちの危険を知ることができたし、脱走兵を捕まえたという名目で戦場に行ける。
「お姉様、役に立ってくれてありがとうございます」
お姉様に感謝の言葉を述べてから、二人を連れて宿営地近くの場所に転移した。
※
お詫び。
25話で唐突に『ミレイ』という名を出してしまっておりました。
現在は25話に書き足しておりますが、赤ちゃんの名前はエイミーのミに、レイロのレイで、ミレイになります。
承認不要で教えてくださった方、本当にありがとうございました。
承認不要の誤字脱字の報告も本当に助かっております。
ありがとうございます!
私が戦場にいることが怖くなって逃げたという噂がまわっているらしい。自分が付いているから、一緒に戦おうとも書いてあったそうだ。
私が逃げただなんて、そんなことを言っている人を目の前に連れてきてほしい。まあ、私を目の前にしたら、絶対にそんなことを言えないんでしょうけど。
お姉様は私の代わりに第3騎兵隊の後方支援に入っているそうだ。
レイロの訴えだけ聞くと、彼女は第二王子との婚約を破棄したいというよりかは、レイロと結婚したかった。だから、一度きりだとか、バレないと言ってレイロを誘惑した。
この時にレイロは、お姉様という妻とは別枠になる性欲処理の相手を見つけた。二人の秘密であれば、私にも第二王子にもバレない。
戦争が終わるまで第二王子とお姉様は結婚しない予定だったし、終わってもエルか私がお姉様の婚約を解消してもらうつもりだったからだ。
お姉様とレイロはこう言い張っているけれど、本当にそうなんだろうか。
レイロは自分の浮気で私を精神的に追い詰めようとした。本人は否定するだろうけれど、これは間違っていないはずだ。
お姉様は性欲処理の相手でも良いと納得してレイロと関係を持ったの?
いや、そうじゃないわよね。だから、妊娠したのよね。
二人とも、自分以外の人の気持ちを考えるつもりはないから余計に腹が立つ。
……人を守りたいと言っておきながら、レイロたちに殺意を覚えるのは良くないわ。他のやり方で復讐させてもらいましょう。
心を鎮めようとした時、頭に浮かんだことがあった。
そうだわ。守るというのは、回復魔法をかけるだけじゃない。
お姉様に痛い目に遭ってもらうために、あの魔法を覚えておいて良かった。あとは実戦のみね。
そう思った時、レイロとお姉様の子供であらミレイの件で話し合いをすると連絡があり、私も同席するために移動した。
******
ミレイをどちらの家で育てるかという話は揉めに揉めた。といっても険悪なものではなく、お互いに引き取りたいというものだった。
経済面でいえば辺境伯家が良いとされ、環境面では私の家にはまだ幼いヨハネスがいるので、兄妹として育てるのも良いのではないかという意見で、答えが出せずにいた。
共通の意見は、ミレイをレイロとお姉様に任せることはできない、だった。
私からお姉様がミレイを投げたという話を聞いた両家の両親は、子育ては無理だと判断したのだ。
それは私も同意見だ。
お姉様たちに育てさせるくらいなら、私が育てたほうがマシだと思う。
……といっても、子育てなんてしたことがないから、色んな人に助けを求めなくちゃいけないとは思う。
確実に言えるのは、お姉様のようにミレイを投げるような真似はしない。
数時間話し合った結果、私の家でミレイを預かることになった。
元々、レイロはミレイは自分の子供ではないと言い続けていたし、生んだのはお姉様なので私の家が優先された。
辺境伯夫妻を見送り、屋敷の中で両親と別れたあと、ミレイの様子を見に行こうとした時だった。
ミレイがいる部屋のほうから悲鳴が聞こえてきた。
「おやめください、エイミー様!」
「この子は私の子なの。お願い。その子を私に渡して! 私が責任を持って夫と一緒に育てるから!」
お姉様の声が聞こえ、すぐにレイロの声も耳に入ってくる。
「エイミー、俺たち二人で子供を育てるなんて無理だ。俺たちは住む家もないんだぞ? 俺が何とかしてアイミーとよりを戻すから俺に任せてくれ!」
どうして二人がここにいるのよ! それにレイロは何をふざけたことを言っているの!
部屋の前まで来たところで、私は冷静になるために足を止めた。
「あなたはアイミーを愛していないんでしょう? それなのによりを戻そうって言うの?」
「アイミーは俺のことが好きなんだから、俺といられるだけで幸せなはずだ! 望むならいくらでも抱いてあげるつもりだ! そうすれば今度こそ、エルファスも諦めるはずだから!」
「あなたは本当に最低ね。だけど、そんなあなただから好きなの」
お姉様の笑い声が聞こえてきた。
二人共、普通じゃない。
レイロは私を愛していなかった。相手が最低野郎だとわかったのに涙が出そうになった。
私は彼に色々な初めてを捧げた。
彼のことが本当に好きだったから。
彼も同じ気持ちだと思っていたから。
悔しい。悔しくてたまらない。
あんな奴にひっかかった私も馬鹿だが、悪いのは悪意を持って私に接したレイロだ。
「そんなことはどうでもいい! 早く戦地に戻らせてくれ! エルファスが危ない!」
「大丈夫よ、レイロ。エルファスなら自分の命くらい自分で守れるわ。私たちはお互いのことだけ考えましょう」
「ちょっと!」
ミレイの部屋に入ると、予想通りお姉様とレイロがいた。驚いた顔をして私を見つめる二人に怒りをぶつける。
「あなたたちは戦地にいたんじゃないの!? どうしてこんな所にいるのよ!」
「アイミー、そんなに怒らないで。転移魔法を使って帰ってきただけよ」
「怒らないほうがおかしいでしょう! どうして帰ってきたんですか!」
お姉様から視線をレイロに移し、彼を睨みつけながら話しかける。
「あなた、私には一緒に戦おうとか言っておいて、どうしてここにいるのよ」
「エイミーに連れてこられたんだ! 頼むよアイミー! 俺を戦地に戻してくれ! エルファスが危ないんだ!」
「エルが危ないってどういうこと?」
聞き返すと、レイロが私の肩に両手を伸ばしてきた。
「触らないで!」
近くのテーブルに置かれていた四角いシルバートレイを手に持ち、レイロの頬を叩いて拒否する。
バインという間抜けな音のわりに威力があったらしく、レイロは頬を押さえてしゃがみ込んだ。
「レイロ! 大丈夫!? アイミー、あなたなんてことをするの!」
「お姉様の大好きなレイロが私に触れようとしたので阻止しただけです。彼をこれ以上痛めつけられたくないなら、私に近寄らせないでください」
冷たい声でお願いすると、お姉様はびくりと体を震わせた。
早く行ってという気持ちを込めて無言でメイドを見ると、察してくれたのか、ミレイを抱いて部屋から出ていった。
すると、お姉様がヒステリックに叫ぶ。
「返してよ! その子は私とレイロの子供よ!」
「お姉様、ミレイを生んだのはあなたですが、彼女を任せることはできません」
「どうして? レイロが私を愛してくれるなら、子供を可愛がれるわ。……って、ミレイという名前をつけたの?」
「名前はお姉様にもお父様から連絡がいったはずですが?」
「……そう言われればそうかもしれないわ。でも、あまり気にしていなかったの。そう。ミレイに決まったの。私とレイロの名前の一部を取ったのね」
お姉様は満足そうに頷いた。
「そんなことはどうでも良い! アイミー、大変なことが起きてるんだ!」
「……何があったの?」
レイロの言うことは聞きたくない。だけど、エルの名前を出していたことが気になって尋ねた。
「魔物が宿営地まで押し寄せてきたんだ。今頃は総力戦になっているはずだ!」
「……何ですって?」
知らなかったとはいえ、時間をかなり無駄にしてしまった。
「エルファスが心配だ! 頼むから俺を戻してくれ!」
「わかったわ。それから、お姉様も戻りますよ」
声を掛けると、お姉様は激しく首を横に振る。
「嫌よ! 私はレイロとミレイと一緒に幸せに暮らすの。だから、レイロも行かせない!」
「幸せに暮らすだなんて、魔物に負ければそんなことは不可能ですよ」
「……それはっ、そうなった時に考えるわ」
「残念ながら、お姉様には一緒に来てもらわないといけないんです」
「嫌よ! どうして私が!」
「少し黙ってもらえますか」
嫌がるお姉様の鼻をシルバートレイの平らな部分で軽く叩くと、「きゃあっ!」と悲鳴を上げて、レイロの隣に座り込んだ。
二人が来てくれたおかげで、私はエルたちの危険を知ることができたし、脱走兵を捕まえたという名目で戦場に行ける。
「お姉様、役に立ってくれてありがとうございます」
お姉様に感謝の言葉を述べてから、二人を連れて宿営地近くの場所に転移した。
※
お詫び。
25話で唐突に『ミレイ』という名を出してしまっておりました。
現在は25話に書き足しておりますが、赤ちゃんの名前はエイミーのミに、レイロのレイで、ミレイになります。
承認不要で教えてくださった方、本当にありがとうございました。
承認不要の誤字脱字の報告も本当に助かっております。
ありがとうございます!
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