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23 元夫の執念 ⑤
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レンジロード様がどうしてもわたしと二人で話がしたいというので、話の内容は聞こえないけれど、姿は見える範囲で見守ってもらうことになった。
「危険じゃないか?」
「ルイーダ様が見ていますから、わたしに暴力をふるうようなことは絶対にできないと思います」
心配そうにするシリュウ兄さまに笑顔で答え、レンジロード様に話しかける。
「あなたがルイーダ様に想いを寄せていることなんて、多くの人はわかっているんですよ」
「ば、馬鹿な! そんなはずがない!」
「あなたは気づいていないかもしれませんが、ルイーダ様と話をしている時のあなたは、締まりの無い顔をしていて、いつもと全く違いますから」
「し、締まりの無い顔だと……?」
レンジロード様はルイーダ様に目を向けて言った。
レンジロード様への愛が冷めてしまったからわかるようになったけれど、こんなに単純な人だったなんて――
この人をクールだと思っていたわたしって、一体、何を見ていたのかしら。
自分自身に呆れていると、レンジロード様はわたしの表情を見て、レンジロード様に呆れていると思ったのか、怒り顔に変わる。
「私を馬鹿にするな!」
「馬鹿にはしていません」
「リコット、いい加減にしろ。私の気を引きたいのかもしれないが、それでは逆効果だぞ」
「気を引きたくないので逆効果ならそれで良いです」
「強がらなくていい」
レンジロード様はまだわたしが、自分のことを好きだと思っているみたいね。そこまで自分に自信があるのなら、ルイーダ様に告白すれば良いのに。
……と思ったけど、ジリン様との様子を見ていたら、自分がふられるということは理解できているみたいなのよね。
「強がってなんていません。レンジロード様、あなたは勘違いしておられるようですが、わたしはもうあなたに愛を求めていません」
「……どういうことだ?」
「あなたはわたしのことが嫌いでしたよね」
「そ……そんなことは……」
レンジロード様はやはり、ルイーダ様が気になるらしい。この会話が聞こえていないか確認するかのように、ルイーダ様のほうを見た。
賢い人なら、この人を上手く扱えていたのかもしれない。そして、それなりに幸せな夫婦生活を送っていたでしょう。
でも、わたしは違う。
階段から突き落とされた時点で、この人との関係は終わっている。
「わたしとあなたはお互いに嫌いあっているんです。それなのに再婚する理由がありますか?」
「……世間体のことを考えろ。それに、私は二番目に君を愛している」
ルイーダ様に聞こえないようにか、レンジロード様は小さな声で言った。聞こえていたけど、聞こえないふりをする。
「聞こえません。もっと大きな声で言ってもらえますか?」
「だから、世間体を考えろと言っているんだ!」
「あなたにとってわたしは嘘つき女なのでしょう? なら、別れて当然だと思われるのでは?」
「そうじゃないから言っているんだ!」
「どういうことですか?」
「今までは私に同情する声が多かった。それなのに最近は、別れた原因は私にあるのではないかと言われ始めている!」
シリュウ兄さまたちが手を回してくれているらしく、レンジロード様を支持していた人たちも表立って彼を擁護できなくなっているようだった。
「リコット、素直になるんだ」
「素直になっています」
興奮しているからか、肩で息をしているレンジロード様を睨みつけて叫ぶ。
「わたしはレンジロード様に愛なんて求めていません!」
「昔は求めていたではないか!」
「昔の話です! 今は求めていませんから、ご安心いただけますと幸いです!」
「……そんなわけがない」
レンジロード様は呟くと、鋭い眼差しをわたしに向けた。そして、わたしに近づきながらぶつぶつと話し始める。
「リコットが私の言うことを聞かないはずがない! 私への愛を思い出させてやる」
「近づかないでください」
「うるさい。私への愛を思い出させるために、お前を抱きしめてやる。そうすれば、私への愛を思い出すはずだ。そう本に書いてあった」
レンジロード様はそう言ったあと、ルイーダ様に叫ぶ。
「悪いが、向こうを向いていてくれないか」
「……承知いたしました!」
ルイーダ様はシリュウ兄さまとジリン様を見たあとに頷く。自分が見ていなくても、二人に見ておいてね、ということだと思う。
「さあ、リコット。有難く思え」
どんな本を読んだのかわからないけれど、レンジロード様は本気でわたしを抱きしめるつもりなのだとわかった。
気持ち悪い!
そう思ったわたしは、近づいてきたレンジロード様に向けて唐辛子スプレーを噴射した。
※
レンジロードの考えについて補足です。
わかりにくいかと思いますが、レンジロードは少女漫画などである「落ち着けよ」的な感じでヒーローがヒロインを抱きしめているシーンを想像しています。それでリコットがときめくと思っているようです。
「危険じゃないか?」
「ルイーダ様が見ていますから、わたしに暴力をふるうようなことは絶対にできないと思います」
心配そうにするシリュウ兄さまに笑顔で答え、レンジロード様に話しかける。
「あなたがルイーダ様に想いを寄せていることなんて、多くの人はわかっているんですよ」
「ば、馬鹿な! そんなはずがない!」
「あなたは気づいていないかもしれませんが、ルイーダ様と話をしている時のあなたは、締まりの無い顔をしていて、いつもと全く違いますから」
「し、締まりの無い顔だと……?」
レンジロード様はルイーダ様に目を向けて言った。
レンジロード様への愛が冷めてしまったからわかるようになったけれど、こんなに単純な人だったなんて――
この人をクールだと思っていたわたしって、一体、何を見ていたのかしら。
自分自身に呆れていると、レンジロード様はわたしの表情を見て、レンジロード様に呆れていると思ったのか、怒り顔に変わる。
「私を馬鹿にするな!」
「馬鹿にはしていません」
「リコット、いい加減にしろ。私の気を引きたいのかもしれないが、それでは逆効果だぞ」
「気を引きたくないので逆効果ならそれで良いです」
「強がらなくていい」
レンジロード様はまだわたしが、自分のことを好きだと思っているみたいね。そこまで自分に自信があるのなら、ルイーダ様に告白すれば良いのに。
……と思ったけど、ジリン様との様子を見ていたら、自分がふられるということは理解できているみたいなのよね。
「強がってなんていません。レンジロード様、あなたは勘違いしておられるようですが、わたしはもうあなたに愛を求めていません」
「……どういうことだ?」
「あなたはわたしのことが嫌いでしたよね」
「そ……そんなことは……」
レンジロード様はやはり、ルイーダ様が気になるらしい。この会話が聞こえていないか確認するかのように、ルイーダ様のほうを見た。
賢い人なら、この人を上手く扱えていたのかもしれない。そして、それなりに幸せな夫婦生活を送っていたでしょう。
でも、わたしは違う。
階段から突き落とされた時点で、この人との関係は終わっている。
「わたしとあなたはお互いに嫌いあっているんです。それなのに再婚する理由がありますか?」
「……世間体のことを考えろ。それに、私は二番目に君を愛している」
ルイーダ様に聞こえないようにか、レンジロード様は小さな声で言った。聞こえていたけど、聞こえないふりをする。
「聞こえません。もっと大きな声で言ってもらえますか?」
「だから、世間体を考えろと言っているんだ!」
「あなたにとってわたしは嘘つき女なのでしょう? なら、別れて当然だと思われるのでは?」
「そうじゃないから言っているんだ!」
「どういうことですか?」
「今までは私に同情する声が多かった。それなのに最近は、別れた原因は私にあるのではないかと言われ始めている!」
シリュウ兄さまたちが手を回してくれているらしく、レンジロード様を支持していた人たちも表立って彼を擁護できなくなっているようだった。
「リコット、素直になるんだ」
「素直になっています」
興奮しているからか、肩で息をしているレンジロード様を睨みつけて叫ぶ。
「わたしはレンジロード様に愛なんて求めていません!」
「昔は求めていたではないか!」
「昔の話です! 今は求めていませんから、ご安心いただけますと幸いです!」
「……そんなわけがない」
レンジロード様は呟くと、鋭い眼差しをわたしに向けた。そして、わたしに近づきながらぶつぶつと話し始める。
「リコットが私の言うことを聞かないはずがない! 私への愛を思い出させてやる」
「近づかないでください」
「うるさい。私への愛を思い出させるために、お前を抱きしめてやる。そうすれば、私への愛を思い出すはずだ。そう本に書いてあった」
レンジロード様はそう言ったあと、ルイーダ様に叫ぶ。
「悪いが、向こうを向いていてくれないか」
「……承知いたしました!」
ルイーダ様はシリュウ兄さまとジリン様を見たあとに頷く。自分が見ていなくても、二人に見ておいてね、ということだと思う。
「さあ、リコット。有難く思え」
どんな本を読んだのかわからないけれど、レンジロード様は本気でわたしを抱きしめるつもりなのだとわかった。
気持ち悪い!
そう思ったわたしは、近づいてきたレンジロード様に向けて唐辛子スプレーを噴射した。
※
レンジロードの考えについて補足です。
わかりにくいかと思いますが、レンジロードは少女漫画などである「落ち着けよ」的な感じでヒーローがヒロインを抱きしめているシーンを想像しています。それでリコットがときめくと思っているようです。
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