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24 元夫の終わり ①
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「う、うわあああぁぁっ! 目があああっ!」
レンジロード様は叫び声を上げると、目が痛むのか両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
思った以上の反応だったので、不安になって声をかけてしまった。すると、レンジロード様は「大丈夫じゃないに決まっているだろう!」と言い返し、大粒の涙を流しながら、目を瞑ったまま、わたしに掴みかかろうとした。
目が開けられないから前が見えていない。それに、スプレーの効果なのか、とても息苦しそうだ。
だから、レンジロード様の動きは遅く、彼の手は私を掴むことはなかった。でも、恐怖を感じたことは確かなので、シルバートレイを手に取って叫ぶ。
「レンジロード様! 次にわたしに触れようとしたら容赦しませんよ!」
「うう、う、うるさい!」
片手で目を押さえながら立ち上がり、もう片方の手をわたしに伸ばしてきたその時、わたしは悲鳴のような声をあげた。
「きゃあああっ! 怖いっ!」
緊迫感のある悲鳴をあげることはできなかったけれど、大きな声を出すことはできた。
そして、わたしはレンジロード様の頬をシルバートレイの平らな部分で思い切り叩いた。
「ぐっ!」
レンジロード様の唸り声、シルバートレイが頬に当たったバインという音と共にカチリという音が微かに聞こえたけれど、その音はレンジロード様の耳には届いていなかった。
「うううううっ」
立ち上がったのに、またしゃがみ込んで目と頬を押さえ、ボロボロと涙を流すレンジロード様を見下ろして話しかける。
「大丈夫ですか? 人を呼んでほしいですか?」
「い、一体、お前は何を考えているんだ!」
「レンジロード様と縁を切ることばかり考えています」
「私のことばかり考えているのならっ、やっぱり、私のことがっ」
レンジロード様の話の途中で、シリュウ兄さまがやって来て「借りるよ」と言って、私の手からシルバートレイを受け取ると、シルバートレイの縁でレンジロード様の額を叩いた。
「ぐあっ!」
シリュウ兄さまのほうが力が強いので、わたしに頬を叩かれた時よりもダメージを食らったらしい。レンジロード様は額を押さえてうずくまった。騒がしくなってきたので振り返ると、わたしたちのいる場所は屋外とはいえど、パーティー会場を出てすぐのところだからか、人が集まり始めているのが見えた。
わたしのせいとはいえ、これだけ、レンジロード様が騒いでいるのだからしょうがないわよね。とにかく、終わらせてしまいましょう。
「レンジロード様、いい加減に諦めたらどうなんですか」
「……クソっ! こんなことになるのなら殺しておけば良かった!」
レンジロード様は目が開かない上に痛みでうずくまっているから、シリュウ兄さまが近くにいることに気が付いていない。レンジロード様の本音が出た瞬間、わたしとシリュウ兄さまは顔を見合わせた。そこへ、ルイーダ様とジリン様が近づいてくる。
ルイーダ様たちにも聞こえていたようで、ルイーダ様は真剣な表情でわたしを見た。
「お願いします」
小さな声でお願いすると、ルイーダ様は頷き、レンジロード様に尋ねる。
「ブロフコス侯爵、今、なんとおっしゃいました? 殺しておけば良かったと聞こえたのですが」
ルイーダ様に尋ねられたレンジロード様は、目の痛みなどを忘れたかのように、びくりと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。
レンジロード様は叫び声を上げると、目が痛むのか両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
思った以上の反応だったので、不安になって声をかけてしまった。すると、レンジロード様は「大丈夫じゃないに決まっているだろう!」と言い返し、大粒の涙を流しながら、目を瞑ったまま、わたしに掴みかかろうとした。
目が開けられないから前が見えていない。それに、スプレーの効果なのか、とても息苦しそうだ。
だから、レンジロード様の動きは遅く、彼の手は私を掴むことはなかった。でも、恐怖を感じたことは確かなので、シルバートレイを手に取って叫ぶ。
「レンジロード様! 次にわたしに触れようとしたら容赦しませんよ!」
「うう、う、うるさい!」
片手で目を押さえながら立ち上がり、もう片方の手をわたしに伸ばしてきたその時、わたしは悲鳴のような声をあげた。
「きゃあああっ! 怖いっ!」
緊迫感のある悲鳴をあげることはできなかったけれど、大きな声を出すことはできた。
そして、わたしはレンジロード様の頬をシルバートレイの平らな部分で思い切り叩いた。
「ぐっ!」
レンジロード様の唸り声、シルバートレイが頬に当たったバインという音と共にカチリという音が微かに聞こえたけれど、その音はレンジロード様の耳には届いていなかった。
「うううううっ」
立ち上がったのに、またしゃがみ込んで目と頬を押さえ、ボロボロと涙を流すレンジロード様を見下ろして話しかける。
「大丈夫ですか? 人を呼んでほしいですか?」
「い、一体、お前は何を考えているんだ!」
「レンジロード様と縁を切ることばかり考えています」
「私のことばかり考えているのならっ、やっぱり、私のことがっ」
レンジロード様の話の途中で、シリュウ兄さまがやって来て「借りるよ」と言って、私の手からシルバートレイを受け取ると、シルバートレイの縁でレンジロード様の額を叩いた。
「ぐあっ!」
シリュウ兄さまのほうが力が強いので、わたしに頬を叩かれた時よりもダメージを食らったらしい。レンジロード様は額を押さえてうずくまった。騒がしくなってきたので振り返ると、わたしたちのいる場所は屋外とはいえど、パーティー会場を出てすぐのところだからか、人が集まり始めているのが見えた。
わたしのせいとはいえ、これだけ、レンジロード様が騒いでいるのだからしょうがないわよね。とにかく、終わらせてしまいましょう。
「レンジロード様、いい加減に諦めたらどうなんですか」
「……クソっ! こんなことになるのなら殺しておけば良かった!」
レンジロード様は目が開かない上に痛みでうずくまっているから、シリュウ兄さまが近くにいることに気が付いていない。レンジロード様の本音が出た瞬間、わたしとシリュウ兄さまは顔を見合わせた。そこへ、ルイーダ様とジリン様が近づいてくる。
ルイーダ様たちにも聞こえていたようで、ルイーダ様は真剣な表情でわたしを見た。
「お願いします」
小さな声でお願いすると、ルイーダ様は頷き、レンジロード様に尋ねる。
「ブロフコス侯爵、今、なんとおっしゃいました? 殺しておけば良かったと聞こえたのですが」
ルイーダ様に尋ねられたレンジロード様は、目の痛みなどを忘れたかのように、びくりと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。
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