愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ

文字の大きさ
25 / 31

24  元夫の終わり ①

しおりを挟む
「う、うわあああぁぁっ! 目があああっ!」

 レンジロード様は叫び声を上げると、目が痛むのか両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか?」

 思った以上の反応だったので、不安になって声をかけてしまった。すると、レンジロード様は「大丈夫じゃないに決まっているだろう!」と言い返し、大粒の涙を流しながら、目を瞑ったまま、わたしに掴みかかろうとした。
 目が開けられないから前が見えていない。それに、スプレーの効果なのか、とても息苦しそうだ。
 だから、レンジロード様の動きは遅く、彼の手は私を掴むことはなかった。でも、恐怖を感じたことは確かなので、シルバートレイを手に取って叫ぶ。

「レンジロード様! 次にわたしに触れようとしたら容赦しませんよ!」
「うう、う、うるさい!」

 片手で目を押さえながら立ち上がり、もう片方の手をわたしに伸ばしてきたその時、わたしは声をあげた。

「きゃあああっ! 怖いっ!」

 緊迫感のある悲鳴をあげることはできなかったけれど、大きな声を出すことはできた。

 そして、わたしはレンジロード様の頬をシルバートレイの平らな部分で思い切り叩いた。

「ぐっ!」

 レンジロード様の唸り声、シルバートレイが頬に当たったバインという音と共にカチリという音が微かに聞こえたけれど、その音はレンジロード様の耳には届いていなかった。

「うううううっ」

 立ち上がったのに、またしゃがみ込んで目と頬を押さえ、ボロボロと涙を流すレンジロード様を見下ろして話しかける。

「大丈夫ですか? 人を呼んでほしいですか?」
「い、一体、お前は何を考えているんだ!」
「レンジロード様と縁を切ることばかり考えています」
「私のことばかり考えているのならっ、やっぱり、私のことがっ」

 レンジロード様の話の途中で、シリュウ兄さまがやって来て「借りるよ」と言って、私の手からシルバートレイを受け取ると、シルバートレイの縁でレンジロード様の額を叩いた。

「ぐあっ!」

  シリュウ兄さまのほうが力が強いので、わたしに頬を叩かれた時よりもダメージを食らったらしい。レンジロード様は額を押さえてうずくまった。騒がしくなってきたので振り返ると、わたしたちのいる場所は屋外とはいえど、パーティー会場を出てすぐのところだからか、人が集まり始めているのが見えた。 
 
 わたしのせいとはいえ、これだけ、レンジロード様が騒いでいるのだからしょうがないわよね。とにかく、終わらせてしまいましょう。

「レンジロード様、いい加減に諦めたらどうなんですか」
「……クソっ! こんなことになるのなら殺しておけば良かった!」

 レンジロード様は目が開かない上に痛みでうずくまっているから、シリュウ兄さまが近くにいることに気が付いていない。レンジロード様の本音が出た瞬間、わたしとシリュウ兄さまは顔を見合わせた。そこへ、ルイーダ様とジリン様が近づいてくる。

 ルイーダ様たちにも聞こえていたようで、ルイーダ様は真剣な表情でわたしを見た。

「お願いします」

 小さな声でお願いすると、ルイーダ様は頷き、レンジロード様に尋ねる。

「ブロフコス侯爵、今、なんとおっしゃいました? 殺しておけば良かったと聞こえたのですが」

 ルイーダ様に尋ねられたレンジロード様は、目の痛みなどを忘れたかのように、びくりと体を震わせて、ゆっくりと顔を上げた。

しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

完結  どうぞ、お好きなだけひっつき虫になればよろしくてよ

ポチ
恋愛
お互いを大切にし合えると思っていた 例え私だけが貴方を愛しているとしても

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

完結  やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね

ポチ
恋愛
卒業式も終わり 卒業のお祝い。。 パーティーの時にソレは起こった やっぱり。。そうだったのですね、、 また、愛する人は 離れて行く また?婚約者は、1人目だけど。。。

処理中です...