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29 ご安心いただけますと幸いです ①
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シリュウ兄さまの働き掛けもあり、警察はすぐに動いてくれたので、レンジロード様は、次の日には指名手配された。レンジロード様の件は新聞などを通じて王室に伝わり、ブロフコス侯爵家の爵位のはく奪が決まった。
懸賞金がかけられたこともあり、多くの人がレンジロード様を捕まえようとした。逃げることに疲れたのかもしれないけれど、三日後には好きな人に無様な姿を見せたくないと言って、レンジロード様が自首したため、あっけなく、レンジロード様の逃走劇は終わった。
ブロスコフ侯爵邸は彼の代わりを務める人に引き渡されることになったけれど、ピアーナ様が住んでいる別邸については、彼女にどうしたいか確認をしたところ、ここに住み続けたいと答えたらしい。
王家はそれを認め、ピアーナ様は引き続き、別邸には住めることになった。でも、彼女は知らなかった。
家を持つということは、固定資産に対する税がかかることになるということを――
普通の伯爵夫人ならば知っていて当たり前なのだけど、ピアーナ様は遊ぶことのほうが好きなので、伯爵夫人がしなければならない仕事をしていなかった。だから、税に対する知識や経済観念がなかった。ピアーナ様の住む別邸は一等地にあるため、支払わなければならない税金はかなりの額だと見込まれている。
働かない上に、平民になったピアーナ様が、別邸にそう長く住み続けられるとは思えなかった。
*******
それから三十日以上が過ぎ、レンジロード様が刑務所に収容される日がやって来た。レンジロード様が私とルイーダ様にどうしても話がしたいと言っていると連絡が入り、ルイーダ様たちと相談した結果、彼と二度と会うことはないだろうからということで、最後の情けで留置場まで会いに行くことにした。
久しぶりに会ったレンジロード様は、薄汚れた服を着ていて、頬はこけ目はくぼんでいて、昔の面影は一切見られず、まるで別人のようだった。
レンジロード様はまず、私を見て口を開く。
「リコット、私に言っておきたいことはないか?」
「……はい?」
「もう、私と会えなくなるんだぞ! 言っておきたいことはないのかと言っているんだ!」
声を荒らげるレンジロード様を見て思う。
この人はわたしに謝罪する気は一切ないらしい。逆に、わたしに謝れと言っているようにも思えた。その時、ルイーダ様が口を開く。
「その態度はあまりにも失礼ではありませんか?」
「あ……、いや、でも、さすがのリコットも私への愛を思い出したのかと思ったのだが」
この人は未だにわたしが彼のことを忘れていないと思っているらしい。
「レンジロード様、何度も言わせていただきますが、あなたからの愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!」
「そんなわけがない! リコット! 最後くらい素直になったらどうなんだ」
「素直に気持ちをお伝えしています!」
駄目だわ。この人、話がまったく通じない。少しは改心したかと考えたわたしが本当に馬鹿だった。
苛立ちを覚えた時、ルイーダ様がにこりと微笑んで、レンジロード様に話しかける。
「わたくし、あなたの話を聞いているとイラっとしてしまいます」
「えっ」
レンジロード様は間抜けな声を上げて聞き返した。
懸賞金がかけられたこともあり、多くの人がレンジロード様を捕まえようとした。逃げることに疲れたのかもしれないけれど、三日後には好きな人に無様な姿を見せたくないと言って、レンジロード様が自首したため、あっけなく、レンジロード様の逃走劇は終わった。
ブロスコフ侯爵邸は彼の代わりを務める人に引き渡されることになったけれど、ピアーナ様が住んでいる別邸については、彼女にどうしたいか確認をしたところ、ここに住み続けたいと答えたらしい。
王家はそれを認め、ピアーナ様は引き続き、別邸には住めることになった。でも、彼女は知らなかった。
家を持つということは、固定資産に対する税がかかることになるということを――
普通の伯爵夫人ならば知っていて当たり前なのだけど、ピアーナ様は遊ぶことのほうが好きなので、伯爵夫人がしなければならない仕事をしていなかった。だから、税に対する知識や経済観念がなかった。ピアーナ様の住む別邸は一等地にあるため、支払わなければならない税金はかなりの額だと見込まれている。
働かない上に、平民になったピアーナ様が、別邸にそう長く住み続けられるとは思えなかった。
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それから三十日以上が過ぎ、レンジロード様が刑務所に収容される日がやって来た。レンジロード様が私とルイーダ様にどうしても話がしたいと言っていると連絡が入り、ルイーダ様たちと相談した結果、彼と二度と会うことはないだろうからということで、最後の情けで留置場まで会いに行くことにした。
久しぶりに会ったレンジロード様は、薄汚れた服を着ていて、頬はこけ目はくぼんでいて、昔の面影は一切見られず、まるで別人のようだった。
レンジロード様はまず、私を見て口を開く。
「リコット、私に言っておきたいことはないか?」
「……はい?」
「もう、私と会えなくなるんだぞ! 言っておきたいことはないのかと言っているんだ!」
声を荒らげるレンジロード様を見て思う。
この人はわたしに謝罪する気は一切ないらしい。逆に、わたしに謝れと言っているようにも思えた。その時、ルイーダ様が口を開く。
「その態度はあまりにも失礼ではありませんか?」
「あ……、いや、でも、さすがのリコットも私への愛を思い出したのかと思ったのだが」
この人は未だにわたしが彼のことを忘れていないと思っているらしい。
「レンジロード様、何度も言わせていただきますが、あなたからの愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!」
「そんなわけがない! リコット! 最後くらい素直になったらどうなんだ」
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駄目だわ。この人、話がまったく通じない。少しは改心したかと考えたわたしが本当に馬鹿だった。
苛立ちを覚えた時、ルイーダ様がにこりと微笑んで、レンジロード様に話しかける。
「わたくし、あなたの話を聞いているとイラっとしてしまいます」
「えっ」
レンジロード様は間抜けな声を上げて聞き返した。
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