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こんなことを言ってはいけないのかもしれないけれど、ルイーダ様に精神的に叩きのめされるレンジロード様が見れるのかと思うと、ちょっとワクワクしてしまった。
ルイーダ様は厳しい表情でレンジロード様に告げる。
「本当にあなたは能天気な方ですわね」
「……へ?」
「あなたは自分が誰かに殺されそうになったら、どんな気持ちになるのです?」
「……いや、その愛している人に殺されるなら本望だろうと思うが」
「では、あなたは愛している人に死ねと言われたら死ぬんですのね?」
「私の愛する人は……、そんなことを言う人ではない」
レンジロード様は子供みたいにぶるぶると首を横に振った。
「そうですか。まあ、よっぽどでない限り、人は人に対して死ねなんて言いませんものね」
ルイーダ様は頷くと、笑顔で続ける。
「では、あなたにとってはどうでも良いことでしょうけど、わたくしのあなたへの気持ちを述べさせていただきますわね」
「そ、そんな、待ってくれ! 私も同じ気持ちなんだ!」
ん?
同じ気持ち?
もしかして、レンジロード様は告白されると思っているの!?
聞き返そうとした時、ルイーダ様はレンジロード様の言葉を無視して話し始める。
「あなたのように自分のことしか考えていない人は大嫌いです。もう二度と会わないと思うと清々しますわ」
「……え?」
レンジロード様はぽかんと口を開けてルイーダ様を見つめる。
やっぱり、告白されると思っていたのね。どうしたら、そんな前向きな性格になれるのかしら。
わたしは呆れかえってしまい、レンジロード様に話しかける。
「レンジロード様、同じ気持ちだとおっしゃいましたが、ルイーダ様のことをそんな風に思っていたんですね」
「ち、違う! でも、そんな! どうして!」
ルイーダ様に縋り付こうとしたレンジロード様を、彼の背後で見張っていた看守が取り押さえると、レンジロード様は必死になって手足を動かす。
「放せ! 私はちゃんとミスティック伯爵令嬢と話をしなければならないんだ!」
「あら、わたくしはあなたと話すことなんてありませんわよ。わたくしはあなたのことを思い出したくもないのです。わたくしやリコット様の知らないところで頑張ってくださいませ」
ルイーダ様はひらひらと手を振ると、わたしを促す。
「行きましょう。リコット様」
「はい」
頷いてから、呆然としているレンジロード様に止めを刺しておく。
「レンジロード様、わたしはルイーダ様に何もお願いしていません。さっきの言葉はルイーダ様の本心です。まさか、あなたがルイーダ様の言葉を嘘だなんて思うわけありませんよね?」
「う……、あ……」
レンジロード様は抵抗するのをやめると、膝から崩れ落ちた。すぐに目から涙が溢れ出し、ルイーダ様を見つめて訴える。
「嘘だ。嘘だと言ってくれ!」
「嘘ではありません。……行きましょう、リコット様」
「はい! さようなら、レンジロード様!」
笑顔で手を振ると、レンジロード様は希望がついえたと思ったのか「うう」とうめき声をあげた。そして、わたしがルイーダ様と共に部屋から出ると「うああああああっ」と獣の咆哮のようなレンジロード様の声が聞こえてきたのだった。
その後、聞いた話によると、ルイーダ様に嫌われているとわかったレンジロード様は、罪を償うための施設である就労所に連れていかれても、食事もとらず、牢屋の中で何もせずにぼんやりとしていたらしい。施設の人に無理やり食事をさせられ動くように命令されて、今は施設内での仕事を始めるようになったらしいけれど、ミスという言葉を聞いただけで泣き出すほどに情緒不安定らしい。
そして、「ミスティック伯爵令嬢に会いたい。心を入れ替えるから嫌わないでほしい」と泣き出すのだそうだ。
何もしなければ嫌われることはなかったのに、本当に馬鹿な人だわ。
*******
レンジロード様が捕まってから一年が経った頃には、ピアーナ様が家から出たという話を聞いた。税金を支払う前に使用人に払うお金がなくなったため、家を売らざるを得なくなったのだ。しばらくはお金があるかもしれないけれど、彼女のことだから節約生活などしないので、今度こそ一文無しになる日はそう遠くないと思われる。
レンジロード様は相変わらずで、ルイーダ様に手紙を送り続けているけれど、すべて送り返されている。わたしにも何度か手紙が来たので、『迷惑ですので、もう二度と送らないでください』と返したのだが、何度も送られてくるので、同じく読まずに返している。
現在のわたしは実家に暮らしているのだが、シリュウ兄さまも一緒だ。お父様があまりにも頼りないということで、普通なら亡くなってから爵位を引き継ぐところを、お父様を隠居させる形で継がせることにしたのだ。
しかも、シリュウ兄さまの希望でわたしが彼の婚約者になった。
そうすれば、エルローゼ家の血は繋いでいける。理由がそれだけでも、シリュウ兄さまと結婚することは良いことだと思う。でも、今、わたしが結婚したいと思えるのは、シリュウ兄さまと一緒にいることが楽しいからだ。
「リコットは大変な目にあったんだから、再婚したくない気持ちもわかるし、男性のことだって信用したくないよな。だから、いつまでも待つよ」
ある日の昼下がり、庭園を二人で散歩している時にシリュウ兄さまが言った。
シリュウ兄さまには本当にお世話になった。離婚してからは特に、シリュウ兄さまがいなかったら、わたしは今、こんな風に笑えてなんていない。
「あのですね、シリュウ兄さま」
「ん?」
「わたし、シリュウ兄さまのことが好きです」
「えっ!?」
突然の、わたしからの告白にシリュウ兄さまは驚いたようだったけれど、すぐに笑顔になって言う。
「俺も好きだよ」
レンジロード様に裏切られたとわかってから、恋愛することが怖かった。
だけど、すべての男性があんな人じゃない。
もう、無理に愛なんて求めない。
わたしの運命の人なら、愛を求めなくてもきっと愛を与えてくれるはずだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございました。
以下あとがきになりますので、お付き合いいただけます方はスクロールを!
完結までに更新がスピードダウンしてしまい申し訳ございませんでした。
完結してしまうと、このキャラとももう会わないのかもしれないなんて思うと、寂しくなって手が止まってしまうことが多く、今回はストックもなかったためです。
レンジロードはいかがでしたでしょうか。
(いかがも何もないか。実際にいたら、本当に迷惑でしかない奴ですし)
ルイーダに嫌われることがレンジロードにとって一番のざまぁだと思っております。
私の作品はヒーローとの恋愛パートが短いので、現在、連載中の「私のことなど、ご放念くださいませ!」では頑張ろうと思っております。
よろしければ、新作でお会いできますと嬉しいです。
そして、すでに読んでるよという方、本当にありがとうございます!
相変わらずクズ多めですが、動物、そして、恋愛!
で癒しを入れるつもりですので、お付き合いいただけますと嬉しいです。
お気に入り、いいね、しおりをありがとうございました。
少しでも楽しんていただけていたら嬉しいです。
また、違うお話でお会いできますと幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ルイーダ様は厳しい表情でレンジロード様に告げる。
「本当にあなたは能天気な方ですわね」
「……へ?」
「あなたは自分が誰かに殺されそうになったら、どんな気持ちになるのです?」
「……いや、その愛している人に殺されるなら本望だろうと思うが」
「では、あなたは愛している人に死ねと言われたら死ぬんですのね?」
「私の愛する人は……、そんなことを言う人ではない」
レンジロード様は子供みたいにぶるぶると首を横に振った。
「そうですか。まあ、よっぽどでない限り、人は人に対して死ねなんて言いませんものね」
ルイーダ様は頷くと、笑顔で続ける。
「では、あなたにとってはどうでも良いことでしょうけど、わたくしのあなたへの気持ちを述べさせていただきますわね」
「そ、そんな、待ってくれ! 私も同じ気持ちなんだ!」
ん?
同じ気持ち?
もしかして、レンジロード様は告白されると思っているの!?
聞き返そうとした時、ルイーダ様はレンジロード様の言葉を無視して話し始める。
「あなたのように自分のことしか考えていない人は大嫌いです。もう二度と会わないと思うと清々しますわ」
「……え?」
レンジロード様はぽかんと口を開けてルイーダ様を見つめる。
やっぱり、告白されると思っていたのね。どうしたら、そんな前向きな性格になれるのかしら。
わたしは呆れかえってしまい、レンジロード様に話しかける。
「レンジロード様、同じ気持ちだとおっしゃいましたが、ルイーダ様のことをそんな風に思っていたんですね」
「ち、違う! でも、そんな! どうして!」
ルイーダ様に縋り付こうとしたレンジロード様を、彼の背後で見張っていた看守が取り押さえると、レンジロード様は必死になって手足を動かす。
「放せ! 私はちゃんとミスティック伯爵令嬢と話をしなければならないんだ!」
「あら、わたくしはあなたと話すことなんてありませんわよ。わたくしはあなたのことを思い出したくもないのです。わたくしやリコット様の知らないところで頑張ってくださいませ」
ルイーダ様はひらひらと手を振ると、わたしを促す。
「行きましょう。リコット様」
「はい」
頷いてから、呆然としているレンジロード様に止めを刺しておく。
「レンジロード様、わたしはルイーダ様に何もお願いしていません。さっきの言葉はルイーダ様の本心です。まさか、あなたがルイーダ様の言葉を嘘だなんて思うわけありませんよね?」
「う……、あ……」
レンジロード様は抵抗するのをやめると、膝から崩れ落ちた。すぐに目から涙が溢れ出し、ルイーダ様を見つめて訴える。
「嘘だ。嘘だと言ってくれ!」
「嘘ではありません。……行きましょう、リコット様」
「はい! さようなら、レンジロード様!」
笑顔で手を振ると、レンジロード様は希望がついえたと思ったのか「うう」とうめき声をあげた。そして、わたしがルイーダ様と共に部屋から出ると「うああああああっ」と獣の咆哮のようなレンジロード様の声が聞こえてきたのだった。
その後、聞いた話によると、ルイーダ様に嫌われているとわかったレンジロード様は、罪を償うための施設である就労所に連れていかれても、食事もとらず、牢屋の中で何もせずにぼんやりとしていたらしい。施設の人に無理やり食事をさせられ動くように命令されて、今は施設内での仕事を始めるようになったらしいけれど、ミスという言葉を聞いただけで泣き出すほどに情緒不安定らしい。
そして、「ミスティック伯爵令嬢に会いたい。心を入れ替えるから嫌わないでほしい」と泣き出すのだそうだ。
何もしなければ嫌われることはなかったのに、本当に馬鹿な人だわ。
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レンジロード様が捕まってから一年が経った頃には、ピアーナ様が家から出たという話を聞いた。税金を支払う前に使用人に払うお金がなくなったため、家を売らざるを得なくなったのだ。しばらくはお金があるかもしれないけれど、彼女のことだから節約生活などしないので、今度こそ一文無しになる日はそう遠くないと思われる。
レンジロード様は相変わらずで、ルイーダ様に手紙を送り続けているけれど、すべて送り返されている。わたしにも何度か手紙が来たので、『迷惑ですので、もう二度と送らないでください』と返したのだが、何度も送られてくるので、同じく読まずに返している。
現在のわたしは実家に暮らしているのだが、シリュウ兄さまも一緒だ。お父様があまりにも頼りないということで、普通なら亡くなってから爵位を引き継ぐところを、お父様を隠居させる形で継がせることにしたのだ。
しかも、シリュウ兄さまの希望でわたしが彼の婚約者になった。
そうすれば、エルローゼ家の血は繋いでいける。理由がそれだけでも、シリュウ兄さまと結婚することは良いことだと思う。でも、今、わたしが結婚したいと思えるのは、シリュウ兄さまと一緒にいることが楽しいからだ。
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シリュウ兄さまには本当にお世話になった。離婚してからは特に、シリュウ兄さまがいなかったら、わたしは今、こんな風に笑えてなんていない。
「あのですね、シリュウ兄さま」
「ん?」
「わたし、シリュウ兄さまのことが好きです」
「えっ!?」
突然の、わたしからの告白にシリュウ兄さまは驚いたようだったけれど、すぐに笑顔になって言う。
「俺も好きだよ」
レンジロード様に裏切られたとわかってから、恋愛することが怖かった。
だけど、すべての男性があんな人じゃない。
もう、無理に愛なんて求めない。
わたしの運命の人なら、愛を求めなくてもきっと愛を与えてくれるはずだから。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
以下あとがきになりますので、お付き合いいただけます方はスクロールを!
完結までに更新がスピードダウンしてしまい申し訳ございませんでした。
完結してしまうと、このキャラとももう会わないのかもしれないなんて思うと、寂しくなって手が止まってしまうことが多く、今回はストックもなかったためです。
レンジロードはいかがでしたでしょうか。
(いかがも何もないか。実際にいたら、本当に迷惑でしかない奴ですし)
ルイーダに嫌われることがレンジロードにとって一番のざまぁだと思っております。
私の作品はヒーローとの恋愛パートが短いので、現在、連載中の「私のことなど、ご放念くださいませ!」では頑張ろうと思っております。
よろしければ、新作でお会いできますと嬉しいです。
そして、すでに読んでるよという方、本当にありがとうございます!
相変わらずクズ多めですが、動物、そして、恋愛!
で癒しを入れるつもりですので、お付き合いいただけますと嬉しいです。
お気に入り、いいね、しおりをありがとうございました。
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感想をありがとうございます。
飛び下りる勇気はないでしょうね😢
そういう勇気は違うところで使ってほしいものです。
ヒロインへのお言葉もありがとうございます✨️
最後までお読みいただきありがとうございました✨️
私の性格がヒロインに乗り移ったところがあるのかもしれません😅
本性を気づけなかった云々の話は棚上げ的なところがあって、弱者が我慢しないといけない状況はどうなのって感じですよね😱
最後までお読みいただき、ありがとうございました。