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8−4 ロードウェル伯爵家 6−1(オルザベート視点)
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警察の事情聴取が終わった次の日には、イザメルが本邸にやって来て、ロンバートの看病を始めた。
ロンバートの熱は下がり始めてきていて、普通に会話ができるようになってきていたからだ。
「可哀想なロンバート。どうしてこんな事に…」
「母上…、オルザベートに言われて気付いたんです。エアリスがいたから、僕は健康でいられたのだと…」
「そんな訳ないでしょう!」
イザメルはぼんやりとロンバートのベッドの横に立っているオルザベートを見て叫ぶ。
「嘘の話をこの子に教えないでちょうだい! この子は純粋な子なのよ!」
「そうですね。でも、私の言っている事は嘘ではないと思います。この何日間の内に、使用人たちも体調不良に見舞われているのをご存知ですか? しかも、自分の家にいる間はなんともないんです。この家にいると駄目みたいですよ」
エアリスの祖父母の加護がなくなり、今まで回避されていた、その分の厄が一気にロードウェル伯爵家を蝕んでいた。
さすがのイザメルも、エアリスがいなくなってからだという事に気付いてはいるようだったが、認めたくないようで、オルザベートに答える。
「たまたまに決まっているでしょう。そんなに言うなら、あなたがエアリスを連れ戻して来たらどうなの?」
「良いんですか!?」
「母体に影響がないのならね」
イザメルの言葉に、オルザベートは目を輝かせた。
(影響があるかないのかはわからないけれど、別に、私はお腹の子がどうなったって、エアリスが帰ってくれば別にいいもの。なんて、エアリスが聞いたら怒るわよね。ちゃんとお医者様に確認してから出かけなくちゃ)
上機嫌でオルザベートが寝室から出ていこうとすると、メイドのメアリーがやって来て、彼女に来客を告げた。
「警察の方が、トゥッチ様にお会いしたいとのことです」
「私に?」
「はい。いくつかご質問したい事があるんだそうです」
面倒に感じながらも、さっさと話を終えて、医者から許可がおりたらエアリスに会いにカイジス公爵の家に向かおうと思っていたオルザベートは、応接間に通されていた人物を見て、言葉をなくした。
「あ、あなたは…」
「久しぶりね」
(どうしてこの女が…。そういえば、卒業後に警察に就職するという話を、エアリスから聞いた事があるわ…。だからといって、この女が私に話だなんて…)
オルザベートが部屋の入口で立ち尽くしていると、この国の貴族の女性が着ている姿など、ほとんど見ることがない、黒のパンツスーツ姿の学園時代の同級生は立ち上がって続ける。
「一応、自己紹介しておくけど、ビアラ・ミゼライトよ。あなたが私の事を覚えてくれているみたいで話が早くて助かるわ。あなたは知らないかもしれないけれど、私、警察に就職したの」
「…知ってるわ」
「エアリスに聞いたの?」
「そうよ」
(ああ、せっかく良い気分だったのに、この女のせいで台無しだわ。ただでさえ、エアリスとクラスメイトな上にルームメイトで、私よりもエアリスの一番近くにいた、この女に会うだなんて!)
オルザベートは無意識に爪をかんでいた事に気付き、慌てて手を口から離した。
ビアラはその様子を見て微笑すると口を開く。
「あなたに聞きたい事があるんだけど、仕事の話をする前に、せっかくだからプライベートな話をしてもいい?」
「ちゃんと仕事したらどうなの」
「ごもっともな話だと思うけれど、どうしても聞きたかった、気になっていた事があるの。あなたが答えようとしないのなら、エアリスに私が気になっている事について、何か知っているか聞くけれど、困るのはあなたの方だと思うわよ」
「……どういう事よ」
オルザベートにはビアラの聞きたい事が全く何なのかわからなかった。
「私が聞きたい事は、今はとりあえず3つ。1つ目はエアリスがカイジス公爵を突然忘れた時、あなたは彼女について何も思わなかったの? 2つ目はカイジス公爵の噂をエアリスに流したのはあなただと思うんだけど、その情報はどこから? 3つ目は、部屋に誰もいない時に、寮にあるエアリスの机の引き出しを開けて、あなたが何をしていたのか教えて」
(この女…、私が寮の部屋に入った事をどうして知ってるのよ!?)
オルザベートは心の中でそう叫びつつも、首を横に振る。
「私は何も知らないわ。というか、そんな事覚えてない」
「何一つ?」
「そうよ」
「ああ、そう。ならエアリスに確認するわ」
「待って! 私もエアリスに会いたいの! 一緒に連れて行って」
「あなたと私、別に仲良くもないわよね? なんでそんな事してあげなきゃいけないの? それに、私は仕事中だし、エアリスには帰ってから聞くわ。私、今、カイジス公爵の家で寝泊まりさせてもらってるの」
「…なんですって!?」
オルザベートが声を荒げると、ビアラは満足そうに微笑んで、彼女に尋ねる。
「ねえ。本当に答えなくていいの? エアリスに知られたくない事だってあるんじゃない?」
(こんな女に主導権を握られるなんて!)
オルザベートは怒りと悔しさで打ち震えながら、ビアラを睨みつけた。
ロンバートの熱は下がり始めてきていて、普通に会話ができるようになってきていたからだ。
「可哀想なロンバート。どうしてこんな事に…」
「母上…、オルザベートに言われて気付いたんです。エアリスがいたから、僕は健康でいられたのだと…」
「そんな訳ないでしょう!」
イザメルはぼんやりとロンバートのベッドの横に立っているオルザベートを見て叫ぶ。
「嘘の話をこの子に教えないでちょうだい! この子は純粋な子なのよ!」
「そうですね。でも、私の言っている事は嘘ではないと思います。この何日間の内に、使用人たちも体調不良に見舞われているのをご存知ですか? しかも、自分の家にいる間はなんともないんです。この家にいると駄目みたいですよ」
エアリスの祖父母の加護がなくなり、今まで回避されていた、その分の厄が一気にロードウェル伯爵家を蝕んでいた。
さすがのイザメルも、エアリスがいなくなってからだという事に気付いてはいるようだったが、認めたくないようで、オルザベートに答える。
「たまたまに決まっているでしょう。そんなに言うなら、あなたがエアリスを連れ戻して来たらどうなの?」
「良いんですか!?」
「母体に影響がないのならね」
イザメルの言葉に、オルザベートは目を輝かせた。
(影響があるかないのかはわからないけれど、別に、私はお腹の子がどうなったって、エアリスが帰ってくれば別にいいもの。なんて、エアリスが聞いたら怒るわよね。ちゃんとお医者様に確認してから出かけなくちゃ)
上機嫌でオルザベートが寝室から出ていこうとすると、メイドのメアリーがやって来て、彼女に来客を告げた。
「警察の方が、トゥッチ様にお会いしたいとのことです」
「私に?」
「はい。いくつかご質問したい事があるんだそうです」
面倒に感じながらも、さっさと話を終えて、医者から許可がおりたらエアリスに会いにカイジス公爵の家に向かおうと思っていたオルザベートは、応接間に通されていた人物を見て、言葉をなくした。
「あ、あなたは…」
「久しぶりね」
(どうしてこの女が…。そういえば、卒業後に警察に就職するという話を、エアリスから聞いた事があるわ…。だからといって、この女が私に話だなんて…)
オルザベートが部屋の入口で立ち尽くしていると、この国の貴族の女性が着ている姿など、ほとんど見ることがない、黒のパンツスーツ姿の学園時代の同級生は立ち上がって続ける。
「一応、自己紹介しておくけど、ビアラ・ミゼライトよ。あなたが私の事を覚えてくれているみたいで話が早くて助かるわ。あなたは知らないかもしれないけれど、私、警察に就職したの」
「…知ってるわ」
「エアリスに聞いたの?」
「そうよ」
(ああ、せっかく良い気分だったのに、この女のせいで台無しだわ。ただでさえ、エアリスとクラスメイトな上にルームメイトで、私よりもエアリスの一番近くにいた、この女に会うだなんて!)
オルザベートは無意識に爪をかんでいた事に気付き、慌てて手を口から離した。
ビアラはその様子を見て微笑すると口を開く。
「あなたに聞きたい事があるんだけど、仕事の話をする前に、せっかくだからプライベートな話をしてもいい?」
「ちゃんと仕事したらどうなの」
「ごもっともな話だと思うけれど、どうしても聞きたかった、気になっていた事があるの。あなたが答えようとしないのなら、エアリスに私が気になっている事について、何か知っているか聞くけれど、困るのはあなたの方だと思うわよ」
「……どういう事よ」
オルザベートにはビアラの聞きたい事が全く何なのかわからなかった。
「私が聞きたい事は、今はとりあえず3つ。1つ目はエアリスがカイジス公爵を突然忘れた時、あなたは彼女について何も思わなかったの? 2つ目はカイジス公爵の噂をエアリスに流したのはあなただと思うんだけど、その情報はどこから? 3つ目は、部屋に誰もいない時に、寮にあるエアリスの机の引き出しを開けて、あなたが何をしていたのか教えて」
(この女…、私が寮の部屋に入った事をどうして知ってるのよ!?)
オルザベートは心の中でそう叫びつつも、首を横に振る。
「私は何も知らないわ。というか、そんな事覚えてない」
「何一つ?」
「そうよ」
「ああ、そう。ならエアリスに確認するわ」
「待って! 私もエアリスに会いたいの! 一緒に連れて行って」
「あなたと私、別に仲良くもないわよね? なんでそんな事してあげなきゃいけないの? それに、私は仕事中だし、エアリスには帰ってから聞くわ。私、今、カイジス公爵の家で寝泊まりさせてもらってるの」
「…なんですって!?」
オルザベートが声を荒げると、ビアラは満足そうに微笑んで、彼女に尋ねる。
「ねえ。本当に答えなくていいの? エアリスに知られたくない事だってあるんじゃない?」
(こんな女に主導権を握られるなんて!)
オルザベートは怒りと悔しさで打ち震えながら、ビアラを睨みつけた。
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