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エドはやはり仕事中だったけれど、先に話を聞きたいということで、執務室の中にある応接用のソファーに私とビアラが並んで座り、向かい側にエドが座った。
「魔法使いの存在が感じられなかった?」
「はい。ただ、別邸もあるようですし、そちらにいる可能性がありますけど。ただ、本邸で魔法が使われた痕跡はありました」
「ビアラにはその魔法使いに心当たりがあるのよね?」
「一応ね。だけど、まさか…って感じなんだけど」
ビアラは言葉にする事を躊躇するかのように、膝の上で手を握りしめた。
「私もなんとなく思い出してきたんだけど、学生じゃなかったわよね?」
「…うん」
「私もここまで出てきてるんだけど思い出せなくて…」
そこまで言って、オルザベートと一緒にいた人物の顔が思い浮かんだので口にする。
「もしかして、数学の先生?」
身だしなみにあまり気を使っていなかった先生で、まだ若いのに、とても老けて見えていた事は思い出せた。
顔が思い出せないのは長い茶色の髪に顔がほとんど覆われていて見えなかったから。
「そう。エアリスは知らなかったかもしれないけど、噂にはなってたのよ」
「噂?」
聞き返すと、ビアラは意を決したように私の方を見て話し始める。
「トゥッチさんと数学の先生だったオラエル先生ができてるんじゃないかって」
「そうだったの!?」
「ごめんね。噂が立ち始めた時って、あなたがエドワード様にフラれたという話をしてくれてから、すぐの事だったの。それに、本当に先生とトゥッチさんが付き合ってるなら、あなたは知っているだろう思って言わなかったのよ。何より、私はトゥッチさんに嫌われているのは知ってたから、そんな人の事、どうでも良かったの」
「そうだったのね…。でも、そう言われてみれば、オラエル先生とオルザベートが放課後に一緒にいた所を見た事があるわ。大して気にもしてなかった。あの子、人見知りが激しいし、私以外に友達がいなさそうだったから、先生でもお話出来る人ができて良かったわね、くらいしか…」
我ながら、無関心だったな、と反省して苦笑していると、黙って聞いていたエドが手を挙げた。
「ミゼライト嬢、その、聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「今、僕がエアリスをフッたと言った様な気がしたんだが」
「ああ、そうでしたね。詳しい話はまたさせていただきますが、エドワード様の噂を勝手に作って、エアリスにふき込んだんです。その頃のエアリスは今以上に純粋でしたし、トゥッチさんはエアリスにエドワード様にも、自分の両親にも連絡はするなと言っていたようです。もちろん、あんな話を聞いたあとに、エアリスも何を言われるのか怖くて、エドワード様には直接聞けはしなかったでしょうけど」
「僕の噂っていうのはどんなものだったんだ?」
エドが眉間のシワを深くして、ビアラに尋ねると、遠慮しがちにオルザベー卜と話をした時の内容や、エドを忘れる前の私が話した内容を教えてくれた。
「僕がそんな事するわけないだろう! くそっ」
エドが声を荒らげて、怒りの矛先を探すかのように宙を見上げた。
「そんなことで、この何年も無駄になったなんて…。あの女に、優しい顔をしてやるんじゃなかった」
「私から、エアリスについてご連絡差し上げるべきでした。申し訳ございません」
「いや、君が謝ることじゃない。それを言い出すと、僕がディランに協力を頼めば良かった」
エドの言葉に、私とビアラは顔を見合わせた。
そう言われてみれば、そうかも。
ディラン様はビアラと仲が良かったから、ディラン様からビアラに聞いてもらっていれば、話が違っていたのかも。
って、私がそんな事を言える立場じゃないわね…。
「私こそ、ミーグス公爵令息とエドワード様に交流があるかもしれないという事が、すっかり頭から抜け落ちておりました。申し訳ございません」
ビアラが頭を下げるので、私も頭を下げる。
「私もエドを信じられなくてごめんなさい」
「エアリスもミゼライト嬢も悪くない。僕が悪いんだ。僕に会いたくないと言われるのが怖くて、エアリスに直接、話をしにいかなかったんだから」
3人で謝りあったあと、これからの事を話し合う。
「さっき教えてくれた先生とやらが、今、どうしているか調べさせよう。消息不明なら、イザメルに飼われているのが、その先生だという可能性が高くなる」
「私もまた、トゥッチ嬢の所に行こうと思います。彼女は絶対に何か隠してますから…」
ビアラの言葉を聞いて、私が俯くと、それに気が付いたエドが話しかけてくる。
「どうした、エアリス」
「私、オルザベートと仲が良いだなんて思っていたけれど、彼女の事を何もわかってなかったのね…。本来なら優しくすべきじゃないところを間違って優しくしてしまったのかも」
「それが君だろ?」
エドに言われて苦笑すると、ビアラが私に言う。
「学生時代にそんな難しいことを考えないのは普通じゃない? 大人になってからでしか気付けない事がたくさんあるはずよ」
「…そうね。ありがとう! 前向きにいくわ! このまま、オルザベートだけじゃなく、ロンバート達にも後悔させてやる方法を考えなくちゃ」
両拳を握りしめて言うと、エドとビアラが笑った。
「魔法使いの存在が感じられなかった?」
「はい。ただ、別邸もあるようですし、そちらにいる可能性がありますけど。ただ、本邸で魔法が使われた痕跡はありました」
「ビアラにはその魔法使いに心当たりがあるのよね?」
「一応ね。だけど、まさか…って感じなんだけど」
ビアラは言葉にする事を躊躇するかのように、膝の上で手を握りしめた。
「私もなんとなく思い出してきたんだけど、学生じゃなかったわよね?」
「…うん」
「私もここまで出てきてるんだけど思い出せなくて…」
そこまで言って、オルザベートと一緒にいた人物の顔が思い浮かんだので口にする。
「もしかして、数学の先生?」
身だしなみにあまり気を使っていなかった先生で、まだ若いのに、とても老けて見えていた事は思い出せた。
顔が思い出せないのは長い茶色の髪に顔がほとんど覆われていて見えなかったから。
「そう。エアリスは知らなかったかもしれないけど、噂にはなってたのよ」
「噂?」
聞き返すと、ビアラは意を決したように私の方を見て話し始める。
「トゥッチさんと数学の先生だったオラエル先生ができてるんじゃないかって」
「そうだったの!?」
「ごめんね。噂が立ち始めた時って、あなたがエドワード様にフラれたという話をしてくれてから、すぐの事だったの。それに、本当に先生とトゥッチさんが付き合ってるなら、あなたは知っているだろう思って言わなかったのよ。何より、私はトゥッチさんに嫌われているのは知ってたから、そんな人の事、どうでも良かったの」
「そうだったのね…。でも、そう言われてみれば、オラエル先生とオルザベートが放課後に一緒にいた所を見た事があるわ。大して気にもしてなかった。あの子、人見知りが激しいし、私以外に友達がいなさそうだったから、先生でもお話出来る人ができて良かったわね、くらいしか…」
我ながら、無関心だったな、と反省して苦笑していると、黙って聞いていたエドが手を挙げた。
「ミゼライト嬢、その、聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「今、僕がエアリスをフッたと言った様な気がしたんだが」
「ああ、そうでしたね。詳しい話はまたさせていただきますが、エドワード様の噂を勝手に作って、エアリスにふき込んだんです。その頃のエアリスは今以上に純粋でしたし、トゥッチさんはエアリスにエドワード様にも、自分の両親にも連絡はするなと言っていたようです。もちろん、あんな話を聞いたあとに、エアリスも何を言われるのか怖くて、エドワード様には直接聞けはしなかったでしょうけど」
「僕の噂っていうのはどんなものだったんだ?」
エドが眉間のシワを深くして、ビアラに尋ねると、遠慮しがちにオルザベー卜と話をした時の内容や、エドを忘れる前の私が話した内容を教えてくれた。
「僕がそんな事するわけないだろう! くそっ」
エドが声を荒らげて、怒りの矛先を探すかのように宙を見上げた。
「そんなことで、この何年も無駄になったなんて…。あの女に、優しい顔をしてやるんじゃなかった」
「私から、エアリスについてご連絡差し上げるべきでした。申し訳ございません」
「いや、君が謝ることじゃない。それを言い出すと、僕がディランに協力を頼めば良かった」
エドの言葉に、私とビアラは顔を見合わせた。
そう言われてみれば、そうかも。
ディラン様はビアラと仲が良かったから、ディラン様からビアラに聞いてもらっていれば、話が違っていたのかも。
って、私がそんな事を言える立場じゃないわね…。
「私こそ、ミーグス公爵令息とエドワード様に交流があるかもしれないという事が、すっかり頭から抜け落ちておりました。申し訳ございません」
ビアラが頭を下げるので、私も頭を下げる。
「私もエドを信じられなくてごめんなさい」
「エアリスもミゼライト嬢も悪くない。僕が悪いんだ。僕に会いたくないと言われるのが怖くて、エアリスに直接、話をしにいかなかったんだから」
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「私、オルザベートと仲が良いだなんて思っていたけれど、彼女の事を何もわかってなかったのね…。本来なら優しくすべきじゃないところを間違って優しくしてしまったのかも」
「それが君だろ?」
エドに言われて苦笑すると、ビアラが私に言う。
「学生時代にそんな難しいことを考えないのは普通じゃない? 大人になってからでしか気付けない事がたくさんあるはずよ」
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