36 / 45
9−2
しおりを挟む
エドはやはり仕事中だったけれど、先に話を聞きたいということで、執務室の中にある応接用のソファーに私とビアラが並んで座り、向かい側にエドが座った。
「魔法使いの存在が感じられなかった?」
「はい。ただ、別邸もあるようですし、そちらにいる可能性がありますけど。ただ、本邸で魔法が使われた痕跡はありました」
「ビアラにはその魔法使いに心当たりがあるのよね?」
「一応ね。だけど、まさか…って感じなんだけど」
ビアラは言葉にする事を躊躇するかのように、膝の上で手を握りしめた。
「私もなんとなく思い出してきたんだけど、学生じゃなかったわよね?」
「…うん」
「私もここまで出てきてるんだけど思い出せなくて…」
そこまで言って、オルザベートと一緒にいた人物の顔が思い浮かんだので口にする。
「もしかして、数学の先生?」
身だしなみにあまり気を使っていなかった先生で、まだ若いのに、とても老けて見えていた事は思い出せた。
顔が思い出せないのは長い茶色の髪に顔がほとんど覆われていて見えなかったから。
「そう。エアリスは知らなかったかもしれないけど、噂にはなってたのよ」
「噂?」
聞き返すと、ビアラは意を決したように私の方を見て話し始める。
「トゥッチさんと数学の先生だったオラエル先生ができてるんじゃないかって」
「そうだったの!?」
「ごめんね。噂が立ち始めた時って、あなたがエドワード様にフラれたという話をしてくれてから、すぐの事だったの。それに、本当に先生とトゥッチさんが付き合ってるなら、あなたは知っているだろう思って言わなかったのよ。何より、私はトゥッチさんに嫌われているのは知ってたから、そんな人の事、どうでも良かったの」
「そうだったのね…。でも、そう言われてみれば、オラエル先生とオルザベートが放課後に一緒にいた所を見た事があるわ。大して気にもしてなかった。あの子、人見知りが激しいし、私以外に友達がいなさそうだったから、先生でもお話出来る人ができて良かったわね、くらいしか…」
我ながら、無関心だったな、と反省して苦笑していると、黙って聞いていたエドが手を挙げた。
「ミゼライト嬢、その、聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「今、僕がエアリスをフッたと言った様な気がしたんだが」
「ああ、そうでしたね。詳しい話はまたさせていただきますが、エドワード様の噂を勝手に作って、エアリスにふき込んだんです。その頃のエアリスは今以上に純粋でしたし、トゥッチさんはエアリスにエドワード様にも、自分の両親にも連絡はするなと言っていたようです。もちろん、あんな話を聞いたあとに、エアリスも何を言われるのか怖くて、エドワード様には直接聞けはしなかったでしょうけど」
「僕の噂っていうのはどんなものだったんだ?」
エドが眉間のシワを深くして、ビアラに尋ねると、遠慮しがちにオルザベー卜と話をした時の内容や、エドを忘れる前の私が話した内容を教えてくれた。
「僕がそんな事するわけないだろう! くそっ」
エドが声を荒らげて、怒りの矛先を探すかのように宙を見上げた。
「そんなことで、この何年も無駄になったなんて…。あの女に、優しい顔をしてやるんじゃなかった」
「私から、エアリスについてご連絡差し上げるべきでした。申し訳ございません」
「いや、君が謝ることじゃない。それを言い出すと、僕がディランに協力を頼めば良かった」
エドの言葉に、私とビアラは顔を見合わせた。
そう言われてみれば、そうかも。
ディラン様はビアラと仲が良かったから、ディラン様からビアラに聞いてもらっていれば、話が違っていたのかも。
って、私がそんな事を言える立場じゃないわね…。
「私こそ、ミーグス公爵令息とエドワード様に交流があるかもしれないという事が、すっかり頭から抜け落ちておりました。申し訳ございません」
ビアラが頭を下げるので、私も頭を下げる。
「私もエドを信じられなくてごめんなさい」
「エアリスもミゼライト嬢も悪くない。僕が悪いんだ。僕に会いたくないと言われるのが怖くて、エアリスに直接、話をしにいかなかったんだから」
3人で謝りあったあと、これからの事を話し合う。
「さっき教えてくれた先生とやらが、今、どうしているか調べさせよう。消息不明なら、イザメルに飼われているのが、その先生だという可能性が高くなる」
「私もまた、トゥッチ嬢の所に行こうと思います。彼女は絶対に何か隠してますから…」
ビアラの言葉を聞いて、私が俯くと、それに気が付いたエドが話しかけてくる。
「どうした、エアリス」
「私、オルザベートと仲が良いだなんて思っていたけれど、彼女の事を何もわかってなかったのね…。本来なら優しくすべきじゃないところを間違って優しくしてしまったのかも」
「それが君だろ?」
エドに言われて苦笑すると、ビアラが私に言う。
「学生時代にそんな難しいことを考えないのは普通じゃない? 大人になってからでしか気付けない事がたくさんあるはずよ」
「…そうね。ありがとう! 前向きにいくわ! このまま、オルザベートだけじゃなく、ロンバート達にも後悔させてやる方法を考えなくちゃ」
両拳を握りしめて言うと、エドとビアラが笑った。
「魔法使いの存在が感じられなかった?」
「はい。ただ、別邸もあるようですし、そちらにいる可能性がありますけど。ただ、本邸で魔法が使われた痕跡はありました」
「ビアラにはその魔法使いに心当たりがあるのよね?」
「一応ね。だけど、まさか…って感じなんだけど」
ビアラは言葉にする事を躊躇するかのように、膝の上で手を握りしめた。
「私もなんとなく思い出してきたんだけど、学生じゃなかったわよね?」
「…うん」
「私もここまで出てきてるんだけど思い出せなくて…」
そこまで言って、オルザベートと一緒にいた人物の顔が思い浮かんだので口にする。
「もしかして、数学の先生?」
身だしなみにあまり気を使っていなかった先生で、まだ若いのに、とても老けて見えていた事は思い出せた。
顔が思い出せないのは長い茶色の髪に顔がほとんど覆われていて見えなかったから。
「そう。エアリスは知らなかったかもしれないけど、噂にはなってたのよ」
「噂?」
聞き返すと、ビアラは意を決したように私の方を見て話し始める。
「トゥッチさんと数学の先生だったオラエル先生ができてるんじゃないかって」
「そうだったの!?」
「ごめんね。噂が立ち始めた時って、あなたがエドワード様にフラれたという話をしてくれてから、すぐの事だったの。それに、本当に先生とトゥッチさんが付き合ってるなら、あなたは知っているだろう思って言わなかったのよ。何より、私はトゥッチさんに嫌われているのは知ってたから、そんな人の事、どうでも良かったの」
「そうだったのね…。でも、そう言われてみれば、オラエル先生とオルザベートが放課後に一緒にいた所を見た事があるわ。大して気にもしてなかった。あの子、人見知りが激しいし、私以外に友達がいなさそうだったから、先生でもお話出来る人ができて良かったわね、くらいしか…」
我ながら、無関心だったな、と反省して苦笑していると、黙って聞いていたエドが手を挙げた。
「ミゼライト嬢、その、聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「今、僕がエアリスをフッたと言った様な気がしたんだが」
「ああ、そうでしたね。詳しい話はまたさせていただきますが、エドワード様の噂を勝手に作って、エアリスにふき込んだんです。その頃のエアリスは今以上に純粋でしたし、トゥッチさんはエアリスにエドワード様にも、自分の両親にも連絡はするなと言っていたようです。もちろん、あんな話を聞いたあとに、エアリスも何を言われるのか怖くて、エドワード様には直接聞けはしなかったでしょうけど」
「僕の噂っていうのはどんなものだったんだ?」
エドが眉間のシワを深くして、ビアラに尋ねると、遠慮しがちにオルザベー卜と話をした時の内容や、エドを忘れる前の私が話した内容を教えてくれた。
「僕がそんな事するわけないだろう! くそっ」
エドが声を荒らげて、怒りの矛先を探すかのように宙を見上げた。
「そんなことで、この何年も無駄になったなんて…。あの女に、優しい顔をしてやるんじゃなかった」
「私から、エアリスについてご連絡差し上げるべきでした。申し訳ございません」
「いや、君が謝ることじゃない。それを言い出すと、僕がディランに協力を頼めば良かった」
エドの言葉に、私とビアラは顔を見合わせた。
そう言われてみれば、そうかも。
ディラン様はビアラと仲が良かったから、ディラン様からビアラに聞いてもらっていれば、話が違っていたのかも。
って、私がそんな事を言える立場じゃないわね…。
「私こそ、ミーグス公爵令息とエドワード様に交流があるかもしれないという事が、すっかり頭から抜け落ちておりました。申し訳ございません」
ビアラが頭を下げるので、私も頭を下げる。
「私もエドを信じられなくてごめんなさい」
「エアリスもミゼライト嬢も悪くない。僕が悪いんだ。僕に会いたくないと言われるのが怖くて、エアリスに直接、話をしにいかなかったんだから」
3人で謝りあったあと、これからの事を話し合う。
「さっき教えてくれた先生とやらが、今、どうしているか調べさせよう。消息不明なら、イザメルに飼われているのが、その先生だという可能性が高くなる」
「私もまた、トゥッチ嬢の所に行こうと思います。彼女は絶対に何か隠してますから…」
ビアラの言葉を聞いて、私が俯くと、それに気が付いたエドが話しかけてくる。
「どうした、エアリス」
「私、オルザベートと仲が良いだなんて思っていたけれど、彼女の事を何もわかってなかったのね…。本来なら優しくすべきじゃないところを間違って優しくしてしまったのかも」
「それが君だろ?」
エドに言われて苦笑すると、ビアラが私に言う。
「学生時代にそんな難しいことを考えないのは普通じゃない? 大人になってからでしか気付けない事がたくさんあるはずよ」
「…そうね。ありがとう! 前向きにいくわ! このまま、オルザベートだけじゃなく、ロンバート達にも後悔させてやる方法を考えなくちゃ」
両拳を握りしめて言うと、エドとビアラが笑った。
96
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる