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29 元姉の婚約者の嘆き
「ミリエル姉さん、今は母上と顔を合わせないほうが良いんじゃないですか」
背後から声が聞こえて振り返ると、制服姿のソルトが立っていた。
「おかえりなさい。いつの間に帰ってたの?」
「少し前ですよ。着替える前に喉が乾いたから、メイドに何か頼もうと思ったら、レジーノが暴れていて、何人かで必死に押さえつけてくれていたんですよ。話しかけれる雰囲気じゃなかったんで、自分で飲みに行こうかと」
呆れ顔で教えてくれたソルトに聞いてみる。
「あなたが押さえつけたら早いんじゃないの?」
「嫌ですよ。そんなことをしたら痴漢だなんだのと言われかねません。だから、騎士も手が出せないんですよ」
「困った人ね」
お茶は諦めてソルトと部屋に戻ろうとした時には、レジーノ様は部屋に戻らされていたようで、廊下は静かになっていた。
「ソルトは、お母様の話は聞こえていたの?」
「はい。でも、無理でしょうね」
ソルトが言ったとおり、その日の晩には、お母様とレジーノ様のヒステリックな声が静かな屋敷内に響き渡ったのだった。
◇◆◇
結局、テイン様が婿養子になる話も、婚約者を変更する話も白紙どころか、お父様達の口から私に対して何も連絡はなかった。
決まった話であるならば、レジーノ様たちが勝ち誇った顔をして何か言いに来るだろうから、鼻から相手にされなかったのかもしれない。
数日後にカフェで待ち合わせたジェリー様に話を聞いてみると、テイン様がレジーノ様ではなく、私と婚約したがっているという話を聞かされた。
「どうしてそんなことに?」
「レジーノ嬢の性格の悪さに気が付いたんじゃないか? レジーノ嬢だって、テインを自分のものにするために、かなり猫をかぶっていただろうし、本性がわかってきて、さすがのテインも目が覚めたというのもあるだろう。まあ、テイン曰く、レジーノ嬢との婚約が明るみになってから、まったく良いことがないとぼやいていたから、それもあるのかもな」
「自分が悪いことをしたから罰が当たったという感覚はないのでしょうか」
「悪いことをしたなんて思っていない。一日だけでも君に夢を見させてあげたんだからと満足している」
「……ということは、私と婚約したいというのも、その優しさの中の一つ、ということでしょうか」
そこまで馬鹿じゃないですよね、と思いながら言うと、ジェリー様は苦笑する。
「その可能性は高いな」
「……迷惑な話です。あんなことをされて好きでいれる人は、本当にその人しかいない人なんでしょう」
「そうだな。家族や友人もいなくて、その人だけが頼りだったという場合もあるだろう。君の場合はソルトがいたから、冷静でいられたんだろうし、ソルトも君がいたからひねくれずに育ったんだろう。もちろん、周りの助けもあったんだろうが」
「そうですね」
育ての両親は虐待するか無関心だったから、私達の場合はそれが良かったのかもしれない。
ソルトの話が出たので、彼と相談していた話をジェリー様にも伝えてみる。
「レジーノ様の欲しい欲しい病が出てきたので、家を出ようか考えてるんです」
「もう姉妹じゃないとわかったのに欲しがっているのか?」
「はい。今では姉だから、妹だからとか関係なく、私のものを欲しくなってるみたいです」
「ということは、俺もその対象なのか?」
眉を寄せて聞いてくるジェリー様に苦笑してから頷く。
「はい。公爵夫人になりたいとか言い出してますし、テイン様よりもジェリー様と結婚したいのでしょう。それに関しては私も同じです。もうテイン様に会ってもときめくことはないでしょうし、テイン様なんて人間的にもお断りです」
「……ということは僕に会った時はときめいてるのか?」
口元に笑みを浮かべて悪い顔をしているジェリー様を軽く睨んでから素直に答える。
「そうです。惚れっぽい人間だと笑っていただいてかまいません」
「他人は笑うかもしれないが、僕は嬉しいから気にしなくていい。笑顔になってるのは馬鹿にしての笑いじゃなくて嬉しいから笑ってるんだ。相手の僕が幸せなら、それで良いだろう?」
ジェリー様ににこりと微笑まれて、鼓動が早くなる。
顔の良い人の笑顔ってどうして、こんなに破壊力があるの?
もしくは、好きな人だから破壊力があるだけなの?
「エルはレジーノ嬢に少しくらいは痛い目にあってほしいか?」
「そうですね。私が感じた痛みくらいは知ってほしいものです」
「……そうか」
ジェリー様は少し考える仕草をしてから、紅茶を一口飲み喉を潤して、私を見る。
「彼女に君と同じ思いをしてもらうための手段はあるが、そうなるとレジーノ嬢と同じレベルになってしまうが、それは良いか?」
「……どういうことでしょうか?」
「あまり気は進まないが……」
そう言って、ジェリー様が話してくれた話は、まさしく、レジーノ様に私と同じ思いを味合わせるものだった。
背後から声が聞こえて振り返ると、制服姿のソルトが立っていた。
「おかえりなさい。いつの間に帰ってたの?」
「少し前ですよ。着替える前に喉が乾いたから、メイドに何か頼もうと思ったら、レジーノが暴れていて、何人かで必死に押さえつけてくれていたんですよ。話しかけれる雰囲気じゃなかったんで、自分で飲みに行こうかと」
呆れ顔で教えてくれたソルトに聞いてみる。
「あなたが押さえつけたら早いんじゃないの?」
「嫌ですよ。そんなことをしたら痴漢だなんだのと言われかねません。だから、騎士も手が出せないんですよ」
「困った人ね」
お茶は諦めてソルトと部屋に戻ろうとした時には、レジーノ様は部屋に戻らされていたようで、廊下は静かになっていた。
「ソルトは、お母様の話は聞こえていたの?」
「はい。でも、無理でしょうね」
ソルトが言ったとおり、その日の晩には、お母様とレジーノ様のヒステリックな声が静かな屋敷内に響き渡ったのだった。
◇◆◇
結局、テイン様が婿養子になる話も、婚約者を変更する話も白紙どころか、お父様達の口から私に対して何も連絡はなかった。
決まった話であるならば、レジーノ様たちが勝ち誇った顔をして何か言いに来るだろうから、鼻から相手にされなかったのかもしれない。
数日後にカフェで待ち合わせたジェリー様に話を聞いてみると、テイン様がレジーノ様ではなく、私と婚約したがっているという話を聞かされた。
「どうしてそんなことに?」
「レジーノ嬢の性格の悪さに気が付いたんじゃないか? レジーノ嬢だって、テインを自分のものにするために、かなり猫をかぶっていただろうし、本性がわかってきて、さすがのテインも目が覚めたというのもあるだろう。まあ、テイン曰く、レジーノ嬢との婚約が明るみになってから、まったく良いことがないとぼやいていたから、それもあるのかもな」
「自分が悪いことをしたから罰が当たったという感覚はないのでしょうか」
「悪いことをしたなんて思っていない。一日だけでも君に夢を見させてあげたんだからと満足している」
「……ということは、私と婚約したいというのも、その優しさの中の一つ、ということでしょうか」
そこまで馬鹿じゃないですよね、と思いながら言うと、ジェリー様は苦笑する。
「その可能性は高いな」
「……迷惑な話です。あんなことをされて好きでいれる人は、本当にその人しかいない人なんでしょう」
「そうだな。家族や友人もいなくて、その人だけが頼りだったという場合もあるだろう。君の場合はソルトがいたから、冷静でいられたんだろうし、ソルトも君がいたからひねくれずに育ったんだろう。もちろん、周りの助けもあったんだろうが」
「そうですね」
育ての両親は虐待するか無関心だったから、私達の場合はそれが良かったのかもしれない。
ソルトの話が出たので、彼と相談していた話をジェリー様にも伝えてみる。
「レジーノ様の欲しい欲しい病が出てきたので、家を出ようか考えてるんです」
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「はい。今では姉だから、妹だからとか関係なく、私のものを欲しくなってるみたいです」
「ということは、俺もその対象なのか?」
眉を寄せて聞いてくるジェリー様に苦笑してから頷く。
「はい。公爵夫人になりたいとか言い出してますし、テイン様よりもジェリー様と結婚したいのでしょう。それに関しては私も同じです。もうテイン様に会ってもときめくことはないでしょうし、テイン様なんて人間的にもお断りです」
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「……そうか」
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「彼女に君と同じ思いをしてもらうための手段はあるが、そうなるとレジーノ嬢と同じレベルになってしまうが、それは良いか?」
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