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8 公爵令息に伝えたいこと
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ランフェスが知っている私、ユミリーは死んだことになっています。ここで生きていることがバレてしまったら意味がありません。
「ディリング公爵令息にお会いできて光栄です。申し訳ございませんが、わたくしはユミリーという名前ではございません」
否定してからカーテシーをすると、ランフェスは苦笑します。
「君は平民なんだよな」
「……はい」
馬鹿なことをしてしまったことに気づきました。平民がカーテシーをすることはあっても、ぎこちないものです。先ほどの私は、昔覚えさせられた優雅なカーテシーになっていたでしょう。
お願い、気づかないで。
祈りながら、次のランフェスの言葉を待つと、彼は目を伏せます。
「そうか。そうだよな」
成長したランフェスは美青年になっていて、とても眩しく感じます。見惚れていると、顔を上げた彼の頬が赤いことに気づきました。
「ディリング公爵令息、あの、熱があるのではないですか?」
「大丈夫だ」
そう言ってランフェスは私に背を向けました。
ランフェスが気づいてくれなかったことに安堵する気持ちと、気づいてもらえなかったという寂しい気持ちがあって複雑です。ですが、寂しいと思うことは自分勝手すぎますよね。
「あリがとう、ランフェス」
周りには聞こえないように小さな声で呟くと、私はお医者様から指示を受けて、病人のお世話をすることになったのでした。
******
兵士たちは十日ほど集落で過ごしたあと、重症の人以外は先に旅を再開することになりました。
兄のロトは病気にかかることがなかったため旅立っていきましたが、ランフェスは皆よりも遅れて発症したため、旅から離脱することになりました。
公爵家の嫡男に無理はさせられないと言ったところでしょう。彼とは関わらないようにしようと思っていたのに、そういうわけにもいかなくなり、私は彼が眠っている間だけ、看病をすることになりました。起きている間は、他の人たちが彼と話したがるので、ちょうど良かったです。
ある晩、ランフェスの額に置いている濡れたタオルを交換しに来た時、ランフェスが目を開けて尋ねてきました。
「いつもありがとう」
「あ……、いえ」
「突然の質問で悪いが、君は幸せか?」
「……はい。ですが、ランフェス様が元気になってくだされば、もっと幸せになれると思います」
「……嬉しいことを言ってくれてありがとう」
「お礼を伝えなければいけないのは、こちらのほうです。本当にありがとうございました」
やっと、お礼を言えました。ランフェスはやっぱり、私をユミリーだとわかってくれているようです。そして、それを公にする気持ちもないようで、ランフェスは言います。
「君には幸せになってもらいたいし、できれば、俺が幸せにしたい。でも、俺にはできないんだ。俺が君を呼び寄せれば、トーマス殿下は君だと気づくだろう。君の幸せを壊したくない」
「……そのお気持ちだけで十分です。どうか、私ではない、他の方と幸せになってください」
「君も……幸せになってくれ」
ランフェスと私は見つめ合ったあと、どちらからともなく視線を逸らし、また平民と公爵令息の関係に戻ったのでした。
ランフェスが集落を去っていき、寂しくて悲しいな気持ちを感じつつも、もう心配はなくなったと思い始めた頃、不審な人物が集落の中を歩き始めたのでした。
「ディリング公爵令息にお会いできて光栄です。申し訳ございませんが、わたくしはユミリーという名前ではございません」
否定してからカーテシーをすると、ランフェスは苦笑します。
「君は平民なんだよな」
「……はい」
馬鹿なことをしてしまったことに気づきました。平民がカーテシーをすることはあっても、ぎこちないものです。先ほどの私は、昔覚えさせられた優雅なカーテシーになっていたでしょう。
お願い、気づかないで。
祈りながら、次のランフェスの言葉を待つと、彼は目を伏せます。
「そうか。そうだよな」
成長したランフェスは美青年になっていて、とても眩しく感じます。見惚れていると、顔を上げた彼の頬が赤いことに気づきました。
「ディリング公爵令息、あの、熱があるのではないですか?」
「大丈夫だ」
そう言ってランフェスは私に背を向けました。
ランフェスが気づいてくれなかったことに安堵する気持ちと、気づいてもらえなかったという寂しい気持ちがあって複雑です。ですが、寂しいと思うことは自分勝手すぎますよね。
「あリがとう、ランフェス」
周りには聞こえないように小さな声で呟くと、私はお医者様から指示を受けて、病人のお世話をすることになったのでした。
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兵士たちは十日ほど集落で過ごしたあと、重症の人以外は先に旅を再開することになりました。
兄のロトは病気にかかることがなかったため旅立っていきましたが、ランフェスは皆よりも遅れて発症したため、旅から離脱することになりました。
公爵家の嫡男に無理はさせられないと言ったところでしょう。彼とは関わらないようにしようと思っていたのに、そういうわけにもいかなくなり、私は彼が眠っている間だけ、看病をすることになりました。起きている間は、他の人たちが彼と話したがるので、ちょうど良かったです。
ある晩、ランフェスの額に置いている濡れたタオルを交換しに来た時、ランフェスが目を開けて尋ねてきました。
「いつもありがとう」
「あ……、いえ」
「突然の質問で悪いが、君は幸せか?」
「……はい。ですが、ランフェス様が元気になってくだされば、もっと幸せになれると思います」
「……嬉しいことを言ってくれてありがとう」
「お礼を伝えなければいけないのは、こちらのほうです。本当にありがとうございました」
やっと、お礼を言えました。ランフェスはやっぱり、私をユミリーだとわかってくれているようです。そして、それを公にする気持ちもないようで、ランフェスは言います。
「君には幸せになってもらいたいし、できれば、俺が幸せにしたい。でも、俺にはできないんだ。俺が君を呼び寄せれば、トーマス殿下は君だと気づくだろう。君の幸せを壊したくない」
「……そのお気持ちだけで十分です。どうか、私ではない、他の方と幸せになってください」
「君も……幸せになってくれ」
ランフェスと私は見つめ合ったあと、どちらからともなく視線を逸らし、また平民と公爵令息の関係に戻ったのでした。
ランフェスが集落を去っていき、寂しくて悲しいな気持ちを感じつつも、もう心配はなくなったと思い始めた頃、不審な人物が集落の中を歩き始めたのでした。
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